2018年は日本型雇用の大転換期。我々の働き方はどうなる?

2018/1/8

歴史的な大改革に挑戦

「長時間労働の慣行を断ち切ります。ワーク・ライフ・バランスを確保し、誰もが働きやすい環境を整えてまいります。70年に及ぶ労働基準法の歴史において、正に歴史的な大改革に挑戦する。今月召集する通常国会は、働き方改革国会であります」
(写真:つのだよしお/アフロ)
2018年1月4日。安倍晋三総理は、年頭記者会見でそう宣言した。
2017年の未来投資会議では、「生産性革命こそがデフレ脱却への確かな道筋になる」と強調し、3%以上の賃上げをした企業への法人税減税や、生産性を高めるためシステム投資をする中小企業の固定資産税減免なども政策に掲げている。

先進7カ国で最低の生産性

長時間労働の是正と生産性向上をセットで行う──。
その目標は壮大だが、足元、日本の生産性は極めて低い。
2017年12月の日本生産性本部の発表によると、2016年の日本の労働生産性は、時間当たりで46ドル。前年より0.5ドル増えたが、35カ国のOECD諸国の中では20位で、主要先進7カ国でみると最下位の状況が続いている。
マネジメント(経営)がビジネスモデルを変えず「稼ぐ力」が弱い、イノベーションが起きにくいなど、日本の生産性がここまで低い理由は、挙げ連ねればキリがない。
だがその理由の多くは、年功序列、終身雇用に代表される「日本型雇用」に起因するとは、多くの専門家が指摘するところだ。
どれだけ会社で頑張っているかプロセスばかりを見て、アウトプットを評価しない。待遇、出世に年功要素が払拭されないため、モチベーションやエンゲージメント(組織への愛着)が低い。給料に時間給の要素が消えないため、残業前提の働き方が根強く残る……。
また、従業員の解雇がしにくいことから、余剰人材が多く、社内失業者が460万人以上いるとも言われる。
企業年金や退職金の設計などが理由で、転職することへのハードルが高く、転職率が低く、労働市場が流動しない……。
しかし、安倍総理は、「働き方改革実現推進室」の立ち上げの際の「訓示」として、「かつての『モーレツ社員』、そういう考え方自体が否定される。そういう日本にしていきたいと考えている」と声高らかに宣言している。
働き方革命の旗振り役である世耕弘成経済産業大臣もNewsPicksの取材で、「今までの『日本型』のような、大学を出るまでは『学ぶ時期』で、その後は、全員一緒に就職活動をし、その後、ずっと同じ会社にいるという労働慣行は、古くなっている」と語っている。
業務縮小に伴う人材の解雇がしにくい日本型雇用システムが続く限り、衰退産業や事業に人が張り付いたまま、成長産業への人材移動がされにくい。
このままでは、国力の低下に繋がることになりかねず、日本型雇用システムは、否が応でも、変容を余儀なくされるのではないか。
2018年は、明治維新から150年の節目の年だ。武士、農民、町人などの地位や立場に関係なく、志を持った人々が立ち上がったこの革命は、国家建設の原動力となり、日本に近代化をもたらした。
では、それから150年後の組織の姿は、そして個人の働き方はどのように変革するのか?
本特集では、ベストセラー『ライフシフト 100年時代の人生戦略』の著者でロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏ら識者のインタビューや対談を通して、今後、我々はどう働くか?を追求してゆく。
リンダ・グラットン(Lynda Gratton)ロンドン・ビジネススクール教授。(撮影:斎藤久美)

リンダ・グラットンが日本人に問う

特集1回目、2回目はリンダ・グラットン氏が2017年末に来日した際に行った1時間に及ぶ講演を完全収録。
グラットン氏が、リーダーやマネジャー層はもとより、すべての日本人に投げかける「5つの問いかけ」と、その問題解決のヒントを全文掲載する。
これを読めば、自分の仕事の将来について、どう物語を作り上げてゆくか、そのヒントが見つかるはずだ。
特集3回目は、元オラクル幹部で、シリコンバレーに本社を置くリーダー養成会社ワイズマン・グループ社長のリズ・ワイズマン氏の独占インタビューを掲載する。
ワイズマン氏の著書『ルーキースマート』は2017年、日本で発売され話題となったが、同書においても、NewsPicksのインタビューにおいても、変化が激しいこれからの時代は「経験を積んだベテランこそが危険だ」と警告する。
中堅社員が持つ知識や経験の多くは時代遅れで、既に役に立たない。だからこそ、組織はルーキー(新人)を大事にすべきだし、ベテランは「永遠のルーキー」を目指す必要があると言う。それは果たして、どういうことなのか?
ワイズマン・グループ社長のリズ・ワイズマン氏(写真:本人提供)
4回目には、グーグルでアジア・パシフィックの人材開発を手がけてきた人事コンサルタント、ピョートル・フェリークス・グジバチ氏と、「実践マーケティングの巨匠」と呼ばれ米フォーブス誌で全米トップ5のビジネスコーチに選ばれたこともあるジェイ・エイブラハム氏の対談を掲載する。
2人は、転職や副業をすることなど、初職にキャリアを左右されやすい日本人に向けて、「『最初の仕事こそ一生続ける仕事だ』という考えは誤りだ」と断言する。
そうではなく、「あなたが必要とする『燃料』を与えてくれる方向にキャリアを導くのだ」と説く。では、その具体的な手法とは?
ピョートル・フェリークス・グジバチ氏と、ジェイ・エイブラハム氏(撮影:鈴木愛子)
特集5回目、6回目は、2017年、全社員に向けて副業を解禁するなど先進的な人事制度で知られるソフトバンクの人事トップ源田泰之氏と、新卒社長や役員の入れ替え制度など同じく革新的な人事戦略で名を馳せるサイバーエージェントの人事トップ曽山哲人氏の対談を前後編に分けて掲載する。
源田氏は、2018年以降の働き方は、「会社への帰属意識がますます薄れ、1つの会社、1つの仕事にこだわらず、副業なども含めて様々な仕事にチャレンジできる環境に変わっていく」と予測。
一方、曽山氏は「今後は、企業間で発掘した人材の才能を開花させられる環境をいかに整えられるかという“才能開花競争”が勃発する」と占う。
ソフトバンク人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長の源田泰之(げんだ・やすゆき)氏(右)と、サイバーエージェント取締役人事管轄の曽山哲人(そやま・てつひと)氏(左)(撮影:遠藤素子)
その具体的な中身とは何か?
そして特集の最後には、カンボジア、ミャンマー、スリランカの貧困層に小規模の金融サービス(マイクロファイナンス)を提供する信用組合を経営し、『働きながら、社会を変える』などの著書を持つ慎 泰俊(しん・てじゅん)氏が登場。
五常・アンド・カンパニー代表の慎 泰俊(しん・てじゅん)氏(撮影:遠藤素子)
目標を達成するために、慎氏が毎夜行っているという「振り返り」に使う「24のチェックシート」の全文を初めて掲載すると同時に、生きることと働くことは同義だという慎氏の働き方哲学に迫る。
(予告構成:佐藤留美、デザイン:九喜洋介)