年俸最少DeNAを勝たせるラミレスの“我慢”采配。王者広島の偏り

2017/12/29
前回までのパ・リーグ編に続き、セ・リーグ編。DeNAを中心に取材するスポーツライターの石塚隆、12球団をバランスよく取材するスポーツジャーナリストの氏原英明、スポナビライブでDeNA&中日主催試合を中心に担当するフリーアナウンサーのザック生馬による座談会を2日連続で掲載。

前向きに戦うから結果が出る

石塚 2017年のDeNAは3位からクライマックスシリーズ(CS)を勝ち上がり、19年ぶりに日本シリーズに出場しました。レギュラーとバックアップの差を考えると、ひとえにケガ人が出なかったことが一番大きかったと思います。
ザック 僕もそう思います。日本シリーズの後、秋のキャンプでラミレス監督が課題に挙げていたのが「バックアップとレギュラーの差を埋めること」でした。
石塚 ファームではイースタン・リーグ最下位でしたし、レギュラーに取って代わるような選手が少なく層が薄い。純粋に戦力だけを見るとまだ弱くて、日本シリーズまで進んだのはラミレス監督がチームをうまく回したことが一番大きかった。
ザック 2016年は桑原(将志)、2017年は宮崎(敏郎)と毎年ブレークする選手が出ているのは、ラミレス監督がずっと使い続けるからだと思います。技術的なことをそんなに身ぶり手ぶりで教える人ではないですけれど、選手といろいろコミュニケーションをとっています。フィードバックも聞いて、「メンタル的にも技術的にもレギュラーで使えるな」と判断したときは、コロコロ代えないじゃないですか。
ラミレス監督の采配でよく出るキーワードが「我慢」。2017年の桑原は5月に打率2割1分くらいと苦しんでいたけれど、「いずれ2割7分打つから、まったく心配ない」と話していました。まさにその通りで、終わってみれば打率2割6分9厘。
そういうことを外から見ると「我慢」「貫く」となるけど、そもそもラミレス監督が選手を信頼しているから、いずれそういう成績が出る。いつも「It’s not how you start, it’s how you finish」と言っていて、ゴールラインでどうなるかが初めから明確に見えていて、だからこそブレないから選手もやりやすいと思います。
氏原 ラミレス監督は「我慢して起用する選手とそうではない選手の差は何か」と聞かれて、「本人が前を向いているかどうか」と答えていました。とにかく前を向いていたら結果は上向くだろう、と。
それは自分がそこに取り組もうとしているからだし、もともとその能力があると思って監督が起用しているわけじゃないですか。かつコミュニケーションをとっているから、選手も監督を信頼しています。選手が「もっとできるんだ」と思えるから、結果として現実に起きていくんだと思います。
ザック ラミレス監督はデータを信じるから、ブレないのもあると思います。試合数の少ないアメフトならサンプルが少ないから、数字を見て“こうだ”と決めつけたものが突然、“全然違うじゃないか”ということが起きるけれど、試合数の多い野球ではそうならない。ラミレス監督が「この人は2割7分打つ」と思っていて、ずっと使い続ければ最後は2割7分になる。
そういうどっしりしたスタンスは、選手にとってすごくやりやすいと思います。
独立リーグでもプレーしたラミレス監督は日本人の長所と欠点を熟知し、独自の指導スタイルを構築
ある意味、合理的なんですね。変な情もないですから。
例えばキャッチャーの戸柱(恭孝)を「今年はレギュラー」と言っていたけれど、最後は嶺井(博希)をたくさん使いました。練習をいっぱいしているからスタメンで使うとかではなく、試合で結果を出すか、出さないかという世界です。結果ベースで選手は動く。それでもって一回レギュラーになったら4打数無安打が3日続いても外される心配がないから、選手がポジティブにできるのが大きいと思います。

20年ぶり日本一への課題

石塚 2018年に向けた話をすると、ポイントは投手力だと思います。防御率はリーグ4位でした。2017年には60試合以上を投げたリリーフ投手が5人いて、その代償が出てくる気がします。
氏原 僕は井納(翔一)が中継ぎに行くべきだと思います。2017年の井納は先発として1年間フルに頑張ったのは素晴らしいけど、6勝10敗でした。ペナントレースと日本シリーズで中継ぎを経験しましたし、彼のフォークは後ろで生きる気もします。いまの問題とされる中継ぎの疲労度を考えたら、井納を後ろに持っていくのが一番いい。
中継ぎが降格とか、短絡的に考えているわけではなく、井納は5回くらいから球が浮いてきて打たれるんです。序盤は「なんでこのピッチャーが6勝しかしていないんだ?」っていう球を投げているけど、5、6回になると「なるほどな」と。特に腕を振れていないといけないタイプで、振りが緩んできたときにフォークが落ちません。
石塚 ラミレス監督も「一番代えるタイミングが読みづらいピッチャー」と言っています。
氏原 なおさら、ショートイニングで。しかも精神的に強いので、8回を任せられるピッチャーだと思います。
ザック 2018年シーズンにまた日本シリーズに行けると考えて、ヤフオクドームでの試合で指名打者は誰なのかというとき、層の薄さを感じました。ラミレス監督は秋のキャンプで、「細川(成也)にライトの座を競わせる」と言ったんですね。レギュラーの梶谷(隆幸)が2017年に21本塁打、21盗塁という成績を残したにもかかわらず、ドラフト2位の神里(和毅)の名前も出しました。細川、神里は右と左で、打てる外野手が控えにいたとしたら、誰か1人が“9人目の野手”という感覚で少し厚みが出ると思います。
氏原 2017年の梶谷は打率2割4分3厘でしたし、取って代わる人が出てこないといけません。2018年に30歳になっていくとき、もう一踏ん張りするのか、下ってくるのかわからないので、乙坂(智)などがスタメンに入ってこないとDeNAは苦しいと思います。
石塚 2018年もラミレス監督のハンドリングが大きな鍵になってくると思います。2017年はバントと盗塁数がリーグ最下位でしたけど、ラミレス監督は“スモールベースボールをやるときはやりたい”という意思がすごく強いので。
ザック そのための大和獲得ですよね。
石塚 ただ、大和はバントはあまり上手ではない。あとは外野手4番手を争う、足のある神里。この辺りを鑑み、スモールベースボールをいかにやり切れるかがDeNAの鍵になるでしょうね。

最強カープはなぜDeNAに負けたか

氏原 セ・リーグで戦力的に抜けているのは広島ですが、スカウティング的に偏っています。2017年シーズン終盤に鈴木誠也が故障で離脱した途端、「あれ、右バッターがいない?」となりました。
でも鈴木って長年いるわけではなく、まだ活躍して2年目。彼が抜けただけで、右バッターがエルドレッドと新井(貴浩)しかいないんです。
そうした戦力的な偏りを2018年は突いてこられると思います。その証拠に、左腕投手が多くいるDeNAがドラフト1位で左腕の東(克樹)を指名しました。左を投げさせたら、と思われているから。
石塚 DeNAはセ・リーグ各球団を想定して考えていますからね。
氏原 カープの次世代で出てきそうなバッターは西川龍馬、野間峻祥など、みんな左。ひょっとしたら、ここがウイークポイントになりかねない。さらに、これから菊池(涼介)、丸(佳浩)がFA(フリーエージェント)になる年齢を迎えるんですよね。残留すればいいけど、ソフトバンクのように資金力がないので抱えられない。この辺のアンバランスをどううまく変えていけるか。
緒方(孝市)監督は若手の起用に関して、我慢強いと思います。必ず使いますし、ピッチャーなら必ず3試合くらい投げさせます。だから期待感はあるけど、いまいる選手が左バッターばかりなので……。
石塚 1番から4番の田中(広輔)、菊池、丸、鈴木が万全であれば、大崩れすることはありません。みんな、1人で80〜100得点するわけですから。でも、他の部分での戦略をどうするのか。そこが浮き彫りになったのが2017年のCSでした。
氏原 広島はなぜDeNAに負けたのか。DeNA打線を抑えるには、一つの手として筒香(嘉智)を抑えないといけない。そのためには左ピッチャーなんです。ところが、広島には左がいません。CS ファイナルステージでは左の中継ぎが一人もベンチ入りしませんでした。
CSで負ける伏線となったのが、8月4日のDeNA戦。緒方監督は左の高橋樹也を先発させて、CSに向けて戦力になるかを見極めたかったと思います。それまで筒香を3打数無安打くらいに抑えていて、ここで結果を残せばDeNAにとって厄介な存在になるだろう、と。
でも結果は4回8失点で、試合後、ラミレス監督に「ここで彼を打つと打たないでは大きな違いですね。立ち上がりが悪いから、そこで打ってしまえば相手は手がなくなる」と質問しました。「NO。相手は所詮トライアウトだ」と言われましたが(笑)。でも、あそこで左の高橋が使えないとなったから、カープはCSで苦しんだと思います。
CSで広島がDeNAに負けたとき、黒田(博樹)さんが新聞で「中継ぎの左がいないから負けた」と書いていましたが、広島には明確なウイークポイントがあるんです。そういうことを他球団も意識し始めたら、広島との差は埋まっていくはずです。
ザック 筒香の打率は対右投手が2割8分9厘、左投手が2割7分3厘で、梶谷も左を打てません。カープは左の床田(寛樹)あたりがシーズンを通して頑張っていれば、CSの結果も違っていたかもしれませんね。
氏原 昔は左ピッチャー王国でしたけど、いまはほとんど育っていません。使えない左より、普通にやる右という発想です。でも左の高橋樹也と戸田隆矢が戦力になったら、ピッチャー的には完璧です。
ザック 2018年の見どころとして、攻撃面で2017年と同じようなアプローチを徹底できるかという点もあります。ヤクルトに移る石井琢朗打撃コーチの影響が大きくて、選手によってアプローチがカスタマイズされていました。長打を期待したいバティスタなら「低めは全部見逃し三振でもいい」とか、1番の田中広輔は「とにかく粘って出塁率を高くしよう。追い込まれて三振してもいい」と。それを2018年も継続できるかですよね。
石塚 そういう意味でも、緒方監督はこれまで以上に真価を問われるシーズンになる気がします。
ザック でも、戦力的にはダントツですね。2017年シーズン終盤に鈴木誠也が離脱していなければ、カープは絶対CSを突破していたと思います。

中日の鍵はエース候補

氏原 広島が戦力的に抜けているとはいえ、セ・リーグは混戦だと思います。ヤクルトを除いて、団子状態じゃないですか。中日も外国人の活躍とか何かプラス要素は必要ですけど、3位以内に入れないことはないです。
石塚 打線は亀澤(恭平)、平田(良介)あたりが元気にやってくれれば、大島(洋平)、福田(永将)もいて、戦力的に悪くないんです。
氏原 2017年シーズン、5位に終わったのは大野(雄大)が期待を裏切ったのが大きいです。大卒のドラフト1位ですし、菊池雄星(西武)くらいの成績を残さないといけない立ち位置だと思います。
ザック 大野はいいピッチャーだと思いますけれど、本当にエース級のピッチャーでしょうか。以前から球速はそんなに出ていなかったですが、ここ2年はさらに出ていない気がして心配です。
氏原 現役時代にバッテリーを組んでいた谷繁(元信)前監督にインタビューしたら、「ツーシームで楽を覚えた」と言っていました。「あいつの持ち味はストレートとスライダーなのに、そっちにばかり走った。シーズン終盤にちょっとわかってきたかなというのが出始めたから、来年かな」と。
ザック ストレートがいいとはいえ150キロをバンバン出すタイプではないから、現実的にはローテーションの2番手くらいを任せられればいいと思います。
エースとして期待したいのは又吉(克樹)。2017年は先発でスタートして、森(繁和)監督が6月にセットアッパーに戻しました。又吉はあまりにもチームにとって大事な存在だから、先発で週1回の登板ではなくセットアッパーとして勝てるゲームに使おうとなったのはわかるんですけど、安定していたし、ペース配分も結構できると思います。エースになれるようなピッチャーなので、先発に固定してほしいですね。
石塚 又吉が後ろで使われるとしたら、エース候補は小笠原(慎之介)ですね。
ザック 小笠原の活躍は絶対ですよね。2017年の最後、6試合続けてクオリティスタートでした。カーブでカウントをとれるようになり、緩急を使えるようになりました。あの馬力はいいなと思います。
氏原 左手の血行障害を解消するための手術を受けた岡田俊哉が帰ってくれば、中継ぎも安定するだろうし。ドラフト1位の鈴木博志は後ろでも絶対使えると思います。155キロのストレートと145キロのカットボールですよ。打てないです。
ザック 本人が「後ろをやりたい」と言っていましたね。クレイグ・キンブレル(レッドソックスのクローザー)がアイドルで、46番です。ただ要注意なのは、高卒の社会人だからまだ20歳。シーズンを通しての活躍とは言えないかもしれません。
石塚 あとは外国人ですよね。ゲレーロが巨人に行って、バルデスもやめて、森監督の中南米ネットワークが次はどうなるか。
氏原 外国人も含めて、DeNAと中日はもう少し選手にカネを出していいのではと思いますが、出せないんですよね。
「費用対効果」って、確かに年俸総額約22億円で3位に入ったDeNAや、2016年の日本ハムみたいに約25億円で優勝すれば認められるんですけど、カネをかけずに5位だったら、単にやる気がないようにしか思えない。
石塚 おカネをかけても勝ちさえすればいいんですよ。単純に総年俸を勝利数で割って1勝がいくらなのかを計算してみたら、広島が約2700万円、阪神が約4200万円、DeNAが約3000万円、巨人が約6100万円、中日が約3900万円。驚くべきはヤクルトで、約6600万円と一番高いんです。とにかく勝ちが少ないのはあるけど、1勝における費用対効果に温度差があります。
こう見ると、カープは予算の中でよくやっていますよね。年俸6億円だった黒田が抜けたのは大きいですけど。
ザック カープのスモールマーケットスタイルの運営は絶対ブレてほしくないです。フリーエージェントになった選手は“どうぞ、出ていってください”というくらいで、とにかく生え抜きにこだわる部分を絶対変えてほしくない。
NPBだけではなくMLB、NFLなどを見てもそうですが、一番宝が見つかるのはドラフトです。そこに徹底するというポジティブなスタイルが続いているから、とにかく5年先をずっと考え続けてほしいですね。
*明日掲載の後編に続きます。
(構成:中島大輔、デザイン:福田滉平、写真:アフロ)