【岡部恭英】2018年は日本のスポーツビジネス大転換期

2018/1/4
新年の恒例となってきましたが、今回で3度目の「新年大予測」となります!
浦和レッズがアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で優勝して日本のサッカークラブとしてなんと約10年ぶりのアジア制覇、サッカー日本代表が2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)本大会出場決定、猛威をふるっていたチャイナマネーの「爆買い」海外投資の失速などいろいろあった2017年ですが、新年2018年は、スポーツビジネスの分野では下記がホットなトピックになると思います。

中国の「爆買い」急失速

2016年と2017年の自らの「大予測」記事を改めて見直して驚きましたが、ちょうどこの大予測の原稿を書いている師走中頃の時期に、一昨年、昨年同様にまた今年も中国にいるのです……。
毎年のように書いておりますが、我々欧州サッカー業界に携わるものにとって、中国の戦略的重要性は日に日に増しています。もちろん、世界最大の市場を背景に超大国になった中国ですので、これは何もスポーツやサッカー界に限った話ではありません。ゆえに、ここ何年もそうですが、2017年も頻繁に中国を訪問していたのです。
ただ2017年は「爆買い」失速があり、過去数年とはかなり異なる体感でした。
ことの始まりは、NPの他の記事でも何回か言及しましたが、2016年末に中国政府によって締め付けが始められた「海外投資規制強化」です。
2014年末に、「2025年までに、スポーツ産業を約80兆円(何と2012年度実績の約16倍!)にまで成長させる」という大目標を中国政府が設定して以来、スポーツ、特にサッカーにおけるすさまじいまでの「爆買い」が進んでいました。2014年政府ガイドライン発表まではほとんど存在しなかった中国資本の欧州サッカークラブですが、その後のたった2年で激増しました(下記の図をご参照ください)。
しかし、2016年末に始まった「海外投資規制強化」以降、中国資本による欧州サッカークラブ「爆買い」は、急失速したのです。
筆者が覚えている限りでは、2017年に入ってからのメジャーな買収は、イギリスのサウサンプトンとイタリアのパルマくらいだと思います(これらの買収も、中国の会社としての買収が当局に認められず、海外にある個人資産を使用せざるを得なかったようです……)。
この「海外投資規制強化」の背景には、急速な経済成長を遂げる中国の会社や個人による海外投資が激増して、世界最大規模を誇る中国の米ドル外貨準備高(約340兆円以上)が急速に減ったことがあります。「規制強化」前のたった2年で、なんと約115兆円もの米ドルが海外に出ていってしまったと言われています。
外貨準備高を元のレベルに戻すこと以外にも、当局が問題視したのは、中国企業による巨大な銀行借り入れです。コンプライアンスの進んだ欧米や日本と違い、中国の巨大企業ともなると幾多もある国内の銀行から、容易にお金が借りられるのが実情(これが、中国企業の海外市場におけるアンフェアで圧倒的な競争力を生んでいる理由でもあります……)です。もともとギャンブル大好きで投機的な投資を好む国民性もあり、海外投資が激増した結果、銀行に巨額な借金を抱える企業があふれ出たわけです。
一党独裁から生じる様々な不都合や国民の間での不満を、急速な経済成長に伴う「チャイナドリーム」の夢を売ってしのいでいる中国政府にとって、経済の不安定化ほど恐れるものはなく、迅速に「規制強化」に踏み切ったようです。世界市場を様々な分野における「爆買い」で席巻してきた中国を代表する大企業であるワンダ、HNA、Anbang、Fosunなどにも、公に行政指導が入りました。
上記の理由で、中国企業によるスポーツ業界における「爆買い」は、しばらく落ち着くかと思います。しかしながら、2017年10月に行われた共産党大会で、自身の政治的基盤を盤石なものにして、強力なリーダーシップを誇る習近平国家主席が、スポーツやサッカーを重点産業として位置付けていることもあり、長期的には「爆買い」がなくなることはないかと思います。
日本ではあまり報じられませんでしたが、上記の2017年10月の党大会直前に発行された「The Economist」(長年、欧米のエリートが愛読してきた雑誌)で、習近平国家主席が「The world’s most powerful man(世界で最も力を持つ男)」として、表紙を飾りました。
日本にいるとあまり感じないかもしれませんが、中国は世界最大の市場パワーを背景に、政治・経済・軍事力でもアメリカと並ぶ事実上の超大国として、すでに欧米においては認識されています。巨大な大国となった隣国のスポーツビジネスからも、ますます目が離せません。