最強ソフトバンクの王イズム。楽天の勢い、西武の遺伝子

2017/12/27
プロ野球の勝敗を分けるうえでカギとなる5項目から2017年シーズンを読み解き、2018年に各球団が優勝するためのポイントを考える当企画。4日連続掲載の1、2回目は、ソフトバンクを中心に取材するスポーツライターの田尻耕太郎、12球団をバランスよく取材するスポーツジャーナリストの氏原英明、西武を中心に取材するNewsPicks編集部の中島大輔によるパ・リーグ編をお届けする。

ソフトバンクと他球団の差

中島 2017年シーズンのパ・リーグでは優勝候補のソフトバンクに対し、戦力的に劣る楽天が夏場まで互角に戦いました。その後は大きく差が開いてソフトバンクの圧勝に終わりましたが、両チームの差はどこにあったと思いますか。
田尻 一番は選手層ですね。楽天は打線の1番・茂木(栄五郎)、2番・ペゲーロがすごくハマっている気がしていたけど、2人が離脱してその並びが崩れた段階で、チームも終わってしまったように感じました。ペゲーロが夏場に復帰した後は2番ではなく3、4番で使われましたが、梨田(昌孝)監督には茂木、ペゲーロの並びを貫いてほしかった。
中島 2番・ペゲーロは偶然の産物でした。バントをできる選手が見当たらず、シーズン開幕戦で対戦した金子千尋(オリックス)を打たなければ勝てないと梨田監督は見て、攻撃的なオーダーが誕生しました。それがハマって、シーズン終盤まで貫いた。梨田監督は自分の色を出さないのが色で、そこがうまくいったと思います。
氏原 2番・ペゲーロがハマったのと、中継ぎのルーキー3人(高梨雄平、森原康平、菅原秀)からクローザーの松井裕樹までうまくつなぐ形が生きましたね。でも彼らはルーキーなので、シーズンの最後までは続かない。茂木、ペゲーロのコンディショニング不足も含めて、チームとして1年間戦える体力がありませんでした。結局、勢いでしかなかったということですよね。
一方、ソフトバンクはクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージで楽天に2勝された後、プライドを見せました。「こっちには戦力があるんですよ」と惜しげも無くベンチからどんどんいい選手を出して、和田(毅)と則本(昂大)が投げ合った3戦目を勝って、3連勝で日本シリーズ出場を決めました。これがトータル的な差なんだな、と感じましたね。
田尻 楽天とのCS第3戦では2番に城所(龍磨)を起用して、正直、取材陣の誰もがビックリしました(2017年シーズンの出場は2試合)。その城所が打って守って活躍して、影のヒーローになった。
2017年は「えっ?」って思った起用がことごとく当たったんですよね。長谷川(勇也)が4番に入ったらホームランを打ち、江川(智晃)が交流戦の巨人戦で4番に入ってタイムリーを打ちました。工藤(公康)監督の起用もすごいけど、それに応え切るだけの選手がいる。準備して、勝ちたいという思いを出して、ソフトバンクはすごいなと思いました。
中島 チームの選手層と完成度が他球団と違いますよね。失策数を見ると、ソフトバンクは38で、残り5チームはほぼ2倍以上です(西武は88、楽天は74、オリックスは78、日本ハムは86、ロッテは89)。
田尻 選手の意識の高さが違います。2016年には日本ハムに最大11.5ゲーム差をひっくり返されるという無様な負け方をして、チームが一つになっていないことが表に出た。2017年も一つになって戦ったとは思わないけど、勝つというベクトルはみんな一緒でした。
中島 Jリーグで言えば鹿島アントラーズみたいに、ソフトバンクが圧倒的に強いですよね。どうしたらこういうチームが出来上がったのか。おそらく、王(貞治)さんが監督として来たところから始まっているのでしょうが。
田尻 本当にそう。王さんが来て、「勝つためには何が必要なのか」「自分で限界を決めてはダメだ」と始まりました。王さんが以前言っていたのは、「俺にできるなら、お前らにもできるだろう」。
中島 とてつもなくハードルが高い(笑)。
田尻 みんな、「ウソでしょ? 僕らはホームラン王になれません」と言っていました(笑)。でも、王さんはそう言い続けて、そこにいた秋山(幸二)さん、小久保(裕紀)さん、松中(信彦)さんがそういう姿勢を見せて、それに教えられた後輩の一人が松田(宣浩)。チームに王イズムが流れていると感じます。
監督、会長としてソフトバンクをリードする王貞治氏(右)のイズムがソフトバンクに息づく
たとえばシートノックでは、若手が前にいて、ベテランが後ろで「おら」と言っているのではなく、ベテランが「自分が先に受ける。まだまだ俺がやる」と譲らないんですね。そういうチームは、他にはないみたいです。
氏原 イニング間の投球練習でも、キャッチャーが必ずセカンドにしっかり投げますよね。他のチームはそうではありません。若い選手がそうするならわかるけど、高谷(裕亮=36歳)もしっかり投げています。
田尻 2010年ドラフト1位の(山下)斐紹は2軍でそれをやらないで、すごく怒られていました。結果、2017年シーズン終了後にトレードで楽天に出た。「王様になるな」という雰囲気がチームにすごくあるんです。それには2017年まで在籍し、2018年からロッテに行く鳥越(裕介)コーチの存在が大きかった。

ソフトバンク包囲網

中島 2017年の球団別対戦成績でいうと、ソフトバンクに対して唯一互角に戦ったのが楽天で、12勝13敗でした(西武は9勝16敗、オリックスとロッテは7勝18敗、日本ハムは8勝17敗)。
田尻 楽天で大きかったのは細川亨の存在です(2011年から2016年までソフトバンクに在籍し、2017年楽天に移籍した捕手)。試合前、ベンチ裏でキャッチャーの嶋(基宏)がすごく話を聞いている場面をカメラマンが通路から見ていたそうです。細川が行ったのが大きいんだな、と。
今度は鶴岡(慎也=捕手)が日本ハムに行くし、2018年はソフトバンク包囲網ができます。楽天に佐藤義則さん、ロッテに鳥越さんとコーチも流出しました。戦力的に見れば2018年もソフトバンクが強いんだろうけど、どうかな。ちゃんとした補強もしていませんし。
氏原 でも、パ・リーグは他の球団の戦力がいまひとつです。既存戦力が100%活躍して、ソフトバンクとやっと同等くらいのレベル。対抗がいない……。
田尻 僕はソフトバンクに限らず、リリーフの強いチームが勝つという考え方です。キーマンは岩嵜(翔)。2017年には72試合に投げて40ホールド、防御率1.99でしたが、その代わりを作っていないので、2018年に岩嵜がどれくらいの数字を残すのか。
この選手が出てくればというのが、2016年ドラフト1位の田中正義。「リリーフで使うのでは」という話が福岡ではされています。
氏原 僕は石川(柊太)の使い方だと思っています。先発ローテーションに入れる力はあると思うので、そうなるとチームとしてさらに厚みが増します。年齢的に和田(毅=36歳)やバンデンハーク(32歳)がそろそろ……という先発陣に石川が入ってくると、手をつけられないぞ、と。
クローザーのサファテは36歳なので、あと2、3年でいなくなることを想定すると、田中正義か誰か後ろを一人見つけないといけませんね。そうすれば、ソフトバンク時代がまだまだ続いていくと思います。それで高橋純平や古谷(優人)、松本裕樹など、高卒の選手が出てきたら理想ですね。

楽天は若手にポテンシャル

中島 ソフトバンクに対抗できるとしたら、楽天だと思います。
田尻 楽天が優勝するためには、茂木がケガせず1年間出てくれることです。
氏原 でも、主力が左打者に偏りすぎですよ。岡島(豪)、島内(宏明)、銀次、茂木とタイプの似た選手が4人いて、そこにペゲーロですよ。ソフトバンクも右バッターが出てきてほしいけど、楽天はそれ以上です。
田尻 右で期待されてきた中川(大志)は戦力外となり、DeNAに行きましたね。
氏原 オコエ(瑠偉)と、ドラフト2位の岩見(雅紀)がキーだと思います。
中島 11月に侍ジャパンの合宿を見ていて、オコエは周りと比べて振る力がすごかったです。ただ、メイクアップ(メジャーリーグのスカウティングにおける評価指標の一つで、自分を向上させていく精神力)がどうなのか。氏原さんが書いた記事(「ベースボールチャンネル」参照)を見ると思考内容は素晴らしいけど、「フライデー」に夜遊びしている姿が載ったし、いろいろうわさも入ってきます。でも、野球選手としてのすごさの片鱗は見せていますよね。
氏原 2017年8月31日の西武戦で、菊池雄星から先頭打者で初球をホームランにしました。菊池は2試合前に二段モーションを取られて、次の試合でソフトバンクに負けて、「次はどうか」というのがその楽天戦。そこで初球から思い切り立ち向かっていけるオコエはすごいなと思いました。
田尻 2018年から佐藤義則さんがコーチで楽天に行きます。ダルビッシュ有(ドジャース)や田中将大(ヤンキース)など、右ピッチャーをたくさん育ててきた人です。ソフトバンクでは千賀(滉大)と武田(翔太)。楽天には安樂(智大)や藤平(尚真)、釜田(佳直)というポテンシャルの高い右ピッチャーがいるので、佐藤コーチの下でどう育っていくかが楽しみです。

常勝・西武の戦い方

中島 西武は辻発彦監督が就任し、4年ぶりのAクラスに入りました。監督が代わることで、こんなにチームが変わるのかと改めて驚きました。
氏原 打つだけの野球ではなくなりましたよね。それは単純に、盗塁の数が増えたという話ではありません(チーム盗塁数は2016年が97、2017年が129)。
キャッチャーの炭谷銀仁朗がよく言っていたのは、「ソフトバンクは走るでしょ? 走るとは盗塁というだけの意味ではないですよ。こっちが“走ってくるかもしれない”と考えるから、配球が偏ってくる」と。たとえば1塁に足の速いランナーがいたらバッテリーは「走るかもしれない」と考え、盗塁を防ぐためにアウトコースにストレートを投げる回数が増えれば、バッターはそれを読んで打てるじゃないですか。そういうことが2017年、西武ではすごく多かった。
無死1塁で送りバントをするにしても、何でもかんでも送るわけではありません。ランナーの足が遅くて、バッターの足が速かったら打たせるんです。たとえば無死1塁で足の遅いランナーがいて、足の速い源田(壮亮)がバッターだとします。バントせずに打ちにいって、内野ゴロでセカンドフォースアウトになっても、源田が1塁に残れば次のバッターのときに盗塁できるという発想です。逆にランナーの足が速くて、バッターの足が遅い場合は送りバント。ランナーの足が速いから、送りバントをするとセーフになる確率が高いからです。
辻監督の下でそういう野球をやり始めて、西武の選手はかなり野球を考えるようになったと思います。2016年まではただ振り回して、自分たちのバッティングをいかにできるかというのが選手たちのプライドだったと思うけど、2017年はいかに点をとっていくか、いかに塁を進めていくかという野球を知り始めた。
田尻 ソフトバンクの工藤監督も西武ライオンズ出身です。昔の西武の野球って、相手が嫌がることをやるんですよね。広岡(達朗)さんも森(祗晶)さんもそう。2017年の西武では、その遺伝子が発揮されていたように思います。
氏原 炭谷が、「打てる選手が3人、つなげる選手が3人、走れる選手が3人いれば、西武は強いと言われてきた」という話をしていました。いままでは打つ選手が6人、つなげる選手が1人、走れる選手が1人、という感じでした。一方、ソフトバンクは全部できる選手が8人くらいいるから強い。
中島 西武はチームとしていい方向に行っているけど、このオフに野上(亮磨)がFAで巨人に出ていきました。2017年には144イニングを投げて11勝、ともに菊池に次ぐ成績だっただけに痛いです。とにかくピッチャーが足りません。
氏原 FAで主力が出ていくなら選手の循環をよくするとか、もっと考えないといけないですよね。でも、球団としてそこを考えているようには思えない。
中島 毎年のようにFAで主力が流出し、「選手は残留したかったのに、フロントの心ない言葉のせいで出ていった」という話を聞きます。
田尻 牧田(和久)もポスティングでメジャーリーグに行くかもしれないし、セットアッパーだったシュリッターもあっさり出しましたね。
中島 過去5年くらい外国人の補強は失敗も多かったので、”シュリッター以上の選手を本当にとれるのだろうか”と感じました。西武が優勝できるとしたら、髙橋光成、多和田(真三郎)、十亀(剣)がみんな2桁くらい勝つという、かなり難しい計算をしなければいけません。
氏原 先発ローテは菊池、ウルフ、十亀……あとは2軍までオール横一線なんです。順序的には髙橋光成と多和田が頑張らないといけない。2人はドラフト1位ですし、それだけの期待で獲ったのだから、ちゃんと育て上げないと。それが無理なら、野上を引き留められるように交渉しないといけない。
2017年には菊池が16勝しましたけど、こんなに勝つとは誰も思っていませんでした。本人すら「2桁勝ったらいいかな」くらいでしたし、楽天が菊池に極度に弱かったのもあります(対戦成績は菊池の8戦8勝)。チームとして育成したのではなくて、菊池の成長は偶然に近いというか、個人の努力によるものです。
中島 西武は2017年、ソフトバンクとのビジターで1勝12敗でした。福岡での勝敗を何とかしないと優勝は無理です。2017年シーズン後半、菊池の登板日をずらしてソフトバンク戦から回避させましたが、2018年シーズンの前半に本拠地のメットライフドームでもいいので、ソフトバンク戦で菊池に1勝させなければ厳しいと思います。
氏原 僕が挙げたポイントは、先発ローテーションの枚数をそろえること、セットアッパー、菊池雄星のソフトバンク戦。全部ピッチャーですからね。
(デザイン:福田滉平、写真:田村翔/アフロスポーツ)
*明日掲載のパ・リーグ後編に続きます。