ビズリーチが11月28日に、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」を正式ローンチした。HRテック(HR×Technology)領域をメインに事業を急成長させてきた同社が、このタイミングで新たに事業承継M&A領域のビジネスに参入した背景を南 壮一郎社長に聞いた
1999年、米・タフツ大学を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。東京支店の投資銀行部でM&Aアドバイザリー業務に従事。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」、求人検索エンジン「スタンバイ」など複数サービスを展開し、インターネットの力で社会課題の解決に取り組む。 

事業承継は日本の大きな課題

経済産業省がまとめた資料によると、日本ではいま中小企業経営者の高齢化が進んでおり、2025年には約245万人の経営者が70歳以上になるといいます。そして約127万社、日本の企業総数の約3割が「後継者が未定」という状況です。
参考:平成29年10月経済産業省発表「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」P.6/平成28年度総務省「個人企業経済調査」、平成28年度(株)帝国データバンクの企業概要ファイルから推計
さらには、2016年の休廃業・解散件数は約3万件となり、その約半数が経常黒字です。黒字廃業がこのまま放置されると、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があります。
価値のある企業を未来につなげていくことは、今後の日本にとっての大きな社会課題の一つとなっていきます。
中小企業庁のデータによれば、30年以上前の事業承継は、同族への承継が9割を超えていました。これが最近では大きく減少し、代わりに役員・従業員や第三者への承継が3分の2近くまで増え、特に第三者への承継は約4割にも上っています。30年間のうちに、同族承継が当たり前の時代から大きな変化が起き、M&Aなどを通じた第三者への承継に活路を見出す企業が増えていることが読み取れます。
参考:平成28年11月経済産業省発表「事業承継に関する現状と課題について」P.4

採用領域における実績と知見を生かす

私どもは新しい事業を創っていく上で「どの課題の解決に取り組むか」という観点を非常に重視しています。「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」という企業理念にも込めておりますが、新しい技術を活用した事業創りを通じて、大きな社会課題の解決を目指すことが、これまでも、これからもビズリーチという会社の目指していく姿であります。
創業事業である、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」は、採用領域における新しい形態のオンラインサービスとなり、企業が主体的・能動的に取り組む採用活動「ダイレクト・リクルーティング」の推進を通じて、サービス開始から9年目で累計7,400社以上の企業の採用をご支援してまいりました。
また、内閣府が推進する地方企業と首都圏のプロフェッショナル人材をマッチングする事業や、経済産業省による福島県の被災地域企業の人材確保支援事業に関わるなど、2017年だけでも、40以上の地方自治体と連携しながら、地方の中小企業の採用を積極的に支援させていただきました。
このように採用支援事業の対象を、地方や中小企業にも広げる中で、われわれはよく企業の「後継者」問題にぶつかってきました。経営者の皆様が、自身で創り上げてきた、また守ってきた事業をどのように未来へつないでいけばよいのか頭を悩まされている姿を見て、これまで提供してきた経営人材の採用支援に加え、事業承継M&Aを経営の選択肢として広げるオンライン・プラットフォームの提供ができないか、半年ほど前に検討を開始しました。
私たちがビズリーチ事業を始めたのは2009年でしたが、当時のビジネスプロフェッショナルの転職を取り巻く環境では、求職者と採用企業がお互いのニーズを直接知り得るオンライン・プラットフォームはなく、求職者も、採用企業も、お互いのニーズを知らないまま、転職や採用活動を進めていました。私が自分自身の転職活動を通じて、手探りの「もったいない」状況を体験し、この非効率を解決しようとしたのが、ビズリーチのはじまりです。
現在の事業承継M&A市場も、当時の採用市場と構造が似ていて、第三者に事業を承継してもよいと思っている企業のニーズと、成長戦略の一部として譲り受けを検討できる企業の双方のニーズが増えているにもかかわらず、お互いのニーズを知り、情報交換するオンライン上の大きな「場」がありませんでした。9年ほど前、採用市場を見て「もったいない」と感じた時と、今回同じ気持ちになったことが自分の背中を大きく押してくれました。

市場そのものを大きく成長させていきたい

私たちが起こしたいムーブメントは、とてもシンプルなものです。
「ビズリーチ」では、創業以来、ビジネスプロフェッショナルの皆様に自身の「市場価値」を知り、キャリアの「選択肢や可能性」を広げていただくオンライン・プラットフォームを志してきました。自身の職務経歴書やニーズを匿名でオンライン・プラットフォームに掲載することで、採用を検討している企業やヘッドハンターからメッセージが届き、自分だけでは想像もできなかったキャリアの選択肢や可能性が広がる効率的な仕組みです。
周囲からは「ビズリーチは、人材紹介会社ですよね?」と誤解されがちですが、われわれは採用や転職の仲介業務はやっておらず、採用企業にも人材紹介会社にもオープンにご利用いただいているインターネット上のプラットフォームを運営しています。シンプルに例えると、小売業界における卸問屋等の企業と、Eコマースのオンライン・プラットフォームとの関係性と似ています。
そして今回、事業承継M&Aの領域でも同じように、経営者の皆様に自社の「市場価値」を知り、経営の「選択肢」を広げられるオンライン・プラットフォームを創り出し、会社経営の世界に新たな価値観を生み出したいと考えています。
事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」では、事業の譲り受けを考えている企業のニーズを、成長戦略の一部としてM&Aを検討している企業が探すことできます。また、すでに第三者への譲渡を積極的に考えていて、M&Aのアドバイザリー企業に依頼をしている企業については、アドバイザリー企業が代理でサービスを利用して、譲渡先を探すことも可能です。
採用領域同様、事業承継M&Aの領域においても、われわれだけで新しいオンライン・プラットフォームをつくることはできません。ここ数年における、事業承継M&Aの市場の急成長は、経営者の皆様に寄り沿った真摯なご支援をされてきたアドバイザリー企業や、その動きを支援してきた商工会議所や自治体の皆様の力が大きかったと考えております。
ありがたいことに、私どもは採用市場において、採用企業、人材紹介会社、そして自治体等のパートナーと連携しながら、一緒に新しい形態のオンライン・プラットフォームを興してきました。だからこそ、事業承継M&Aの世界でも、その実績や知見を活かしながら、譲渡企業、譲り受け企業、M&Aアドバイザリー会社、自治体の皆様と連携しながら、新しいオンライン上の仕組みを創っていきたいと考えています。
「価値ある事業を未来につなげていく」ことは、日本全体、また地域経済の発展にとって有意義なことだからこそ、市場が急成長を遂げているのだと思いますし、またその結果、これまでの事業承継の在り方に加え、インターネットを通じた新たな情報交換のチャネルが成り立つのだと感じています。
私どもは、われわれらしいオンライン・プラットフォーム運営を通じて、さまざまなパートナーとともに、国家レベルの社会課題である事業承継の解決につながる動きをしていき、市場を大きく成長させていきたいと考えています。

”価値ある事業を未来につなげる”創業メンバーを募集

事業承継M&Aの市場は、今は黎明期であり、これから本格的に市場が成長していくと考えています。われわれがこの成長に対して貢献できる役割としては、事業承継を検討している企業とM&Aを成長戦略の一部として検討している企業の双方ニーズをオンライン・プラットフォーム上に可視化していくことであります。国や自治体も巻き込みながら、事業承継M&Aの大きな「うねり」を起こしていくための大事な一歩です。
9年ほど前にビズリーチを立ち上げた際、サービスに掲載いただけた求人案件は数百件、登録者してくださった求職者も数百人というスタートでした。会社の仲間たちとともに地道に求人案件数、そして求職者数を増やしながら、着実に採用や転職の実績をつくってきた結果、ありがたいことに、今や登録会員数は105万人を超え、導入企業も累計で7,400社を超え、利用ヘッドハンター数も1,900人となるプラットフォームに成長させていただきました。
この度、2017年11月下旬より事業承継M&A領域の新たなオンライン・プラットフォーム創りに取り組んでいますが、市場の動きや直面する課題は、まさにビズリーチを成長させてきた過程と似ています。
よく質問を受けますが、特に奇策や成長の近道はございません。価値があることを正しくやり続けることです。ビズリーチで歩んできた道と同じように、誰でも簡単に利用できるオンライン・プラットフォームを創ること、そして多くの企業様がサービスを利用する状態にするための地道な営業活動を展開することです。
この度、私たちは、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」の創業メンバーを募集することになりました。
新しい事業というものは、得てしてほとんどの方々から「NO」を突き付けられるものですし、そのような状況において事業をゼロから成長させていく上で大切なのは、一緒に志を抱く仲間の存在です。
価値ある事業が新しい事業承継M&Aという形で未来につながっていくことが、日本社会や経済全体にとって有意義であることだと共感いただける方、また走りながら考え、考えながら走れるような方、ぜひビズリーチ・サクシードの創業期を一緒に走り抜けましょう。
(写真:竹下アキコ)