【J.ミラー】北朝鮮からインド太平洋まで、2018年の東アジアはこう動く
2018/1/7
昨年以上の激震がやって来る?
2017年はトランプ時代の幕開けによって、日本の周辺地域には激震がもたらされた。同時に、それぞれの国にも注目すべき出来事が相次いだ。たとえば朝鮮半島の緊張、韓国のリベラル派大統領の誕生、中国の習近平国家主席の権力基盤強化……。
2018年の東アジアはどうなるのか、年頭に当たって予測してみる。
北朝鮮:武力行使にいっそうの現実味
北朝鮮の金正恩委員長は昨年、核・ミサイル開発を大幅に進めた。なかでも衝撃的だったのが9月に行った水爆実験で、国連による新たな制裁が発動された。
11月にはICBM(大陸間弾道ミサイル)の打ち上げに成功。すでにアメリカ本土全域にミサイルを到達させる力を備えたといわれる。
こうした緊張をさらに高めているのが、あまりに気紛れで矛盾も多い米トランプ政権の対応だ。
北朝鮮のミサイル実験は今のところ収まっているが、私たちは金体制の姿勢を深読みしすぎて、勝手な臆測をしないようにすべきだ。実際、北朝鮮は北米に到達するICBMの抑止力を手にしようと突き進んできた姿勢を変えようとしていない。
北朝鮮は武力行使をちらつかせるトランプ政権の姿勢をはったりと見て、やれるものならやってみろという構えのようだ。しかもミサイルを日本上空に通過させたことで、「ニューノーマル」と呼ぶべき状況をつくったと思っている可能性がある。
2107年末、アメリカ本土を射程に入れたICBM実験の成功を祝う式典。2018年は北朝鮮への武力行使の現実味が高まるか(写真:AP/アフロ)
だが最新のICBM実験はトランプ政権の一部関係者に対し、選択肢が狭まったと思わせた。武力行使には大きなリスクがあるものの、今年のいずれかの時点で現実的な選択肢になる可能性がある。
武力行使の可能性をちらつかせる一方で、アメリカが実際にとりそうな対応は、日本と韓国に抑止力を高めるよう要求することと、北朝鮮に対する制裁強化だろう。
中国に対しては、北朝鮮への影響力強化を求めるだろう。問題は、中国は金正恩への不満を強めているのに、北朝鮮に対する根本的な対応を変える意思がなく、金体制を脅かすような動きにも出ていないことだ。
したがって米中間には、北朝鮮への影響力をめぐる駆け引きが続く。そのゲームの間にも、北朝鮮は核・ミサイル開発をいっそう進め、問題解決の選択肢をさらに狭めていく。
中国:権力盤石な習近平がめざすもの
中国の習近平国家主席にとって、2017年は大きな飛躍の年だった。ここ数十年の中国で最も強固な権力を持つ指導者となったのだ。習は腐敗の根絶とライバルを排除する目的で、共産党内部で大規模な粛清を行った。
今年以降、習の強みのよい面と悪い面があらわになりそうだ。よい面としては、習への権力集中が安定につながり、彼が中国経済の安定の維持に力を注ぐことだ。
悪い面は、習にはナショナリスティックな性格が強く、軍事力の増強には引き続き積極的で、係争中の領土問題でも妥協しないと思われる点だ。
一強体制を築いた習近平(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
東シナ海と南シナ海では偶発的な衝突や誤算が緊張激化につながらないかぎり、大きな変化はないだろう。
しかし中国はこの2つの海域で細かいが確実な動きを続け、紛争とアメリカの介入を避けながら利益を勝ち取ろうとする。こうしてプレゼンスをいっそう強固なものにするつもりだ。
日中間の緊張は緩和に向かうとも一部でささやかれているが、中国が日本に再び関与するまでには時間がかかる。短期間での関係改善は期待できない。
韓国:文大統領が抱える不安材料
昨年は韓国にとって、激動の1年だった。朴槿恵・前大統領のスキャンダルによる弾劾に加えて、北朝鮮が強める挑発と、米トランプ政権の不確実性に対処しなくてはならなかった(昨年5月に大統領に就任した文在寅はトランプと相性が悪いとみられる)。
文が日本に対して現実的な対応をとるという望みは残っている。しかし彼が最初にやろうとしているのは、日本との関係修復より反感を買うことのようだ。
文はトランプが訪韓した際に、大人げない行為をした。晩餐会に元慰安婦を招いたうえ、日本と領有権を争っている独島(日本名・竹島)の近海で捕れたというエビを供したのだ。日本との関係改善を進めるつもりはないと受け取られても仕方ない。
同様に、北朝鮮を抑えるための2国間、あるいはアメリカを加えた3カ国の協調を文が模索するかどうかにも懸念がある。トランプがアジアを歴訪していた間に、文は韓米日3カ国の合同軍事訓練実施を拒否した。
2018年の韓国は、日本との軍事協力でこうした限定的なアプローチをとるだろう。しかも韓国が中国に対し、THAAD(高高度防衛ミサイル)を追加配備しないと合意したことは懸念材料だ。とりわけ中国側はこの合意を、韓国のミサイル防衛強化と米日との3カ国軍事協力に歯止めをかけるものとみている。
その優柔不断さから、韓国政府は日米陣営と中国の間を揺れ動くことになるだろう。韓国は東アジアの地政学において不確定要因になる。
日米陣営と中国の間に揺れ動く文在寅は東アジアの不安要因?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ASEAN/インド太平洋:新たな枠組み
南シナ海の領海問題が、驚くほど静かになった。
米トランプ政権は、中国が造成した人工島の付近に米軍艦船を進入させ過剰な海洋権益の主張を否定する「航行の自由作戦」を、オバマ前政権の最後の任期中よりも多く実施している。だが、これだけでは南シナ海での中国の野心を抑え込む効果はほとんどない。
ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海に人工島を造成して軍事拠点化を進める中国の行為が国際法に反するとの裁定を示したが、中国はこれを完全に無視しており、ASEAN諸国をはじめとする周辺国はほとんど何も言えなくなっている。
中国はわざわざ宣言をしなくとも、南シナ海の人工島を維持しつづけ、事実上の防空識別圏(領空の外側に設けられ、この範囲に外国の航空機が進入した場合には戦闘機がスクランブルをかける)を設定するだろう。
主にアメリカと日本が引き出すプラスの側面もある。第一に、アメリカ、日本、インド、オーストラリアの4カ国会合が、昨年開かれた東アジアサミットの副産物として、2007年以来初めて開催された。この会合は今年も続き、地域の安全保障に対するインドの役割が強まることだろう。
第二に、アメリカは「インド太平洋」という概念を完全に受け入れたようにみえる。トランプがアジア歴訪の際、この言葉を繰り返し口にした。
中国は南シナ海で人工島の軍事拠点化を着々と進めている(写真:AP/アフロ)
問題は、米日印豪の4カ国間あるいは「インド太平洋」という枠組みが経済面でも安全保障面でも、この地域に関する中国の計算とビジョンを大きく変えることはないという点だ。
中国は総じて、南シナ海での拡張政策と、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を通じたインド洋地域の開発に力を入れつづけるだろう。さらに中国は、「インド太平洋」と米日印豪4カ国の枠組みが自国の利益と対立するとみているが、しばらくは大きな力を持たないとも考えている。
ジョナサン・バークシャー・ミラー
日本国際問題研究所 客員シニアフェロー、およびアジアフォーラム・ジャパン(AFJ)シニアフェロー。専門は東アジア外交・安全保障・インテリジェンス。米外交問題評議会シニアフェローやCSISパシフィック・フォーラムフェロー、イースト・ウェスト研究所東アジアシニアフェローを歴任。
(執筆:J・バークシャー・ミラー、翻訳:森田浩之、デザイン:星野美緒、バナー写真:Barcroft Media/アフロ)