SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、年末年始の帰省に伴う人の移動が近年どのように変化しているのか調べてみた。
年末年始といえば、地元への帰省をされる方も多いことと思う。従来は家族や親族と集まって過ごすことが正月の定番ではあったが、近年の帰省事情にはどのような変化が起きているのだろうか。

東京都への人口流入が集中

まず国土交通省の統計より、都市圏別転入超過率をみてみる。東京圏への転入超過率は、1994年を除き長期的にプラスを維持している。
一方で、大阪圏への流入は、一貫してマイナス圏を推移しており、大阪圏への転入者より転出者の方が多い状況が続いていることが分かる。なお、名古屋圏は2012年以降ゼロ近傍で推移しており、大きな人口の増減は起こっていない。
さらに都道府県別の総人口の推移をみると、東京都は総数が多いにも関わらず、その伸び率でも他県を引き離していることが分かる。このため、年末年始は東京圏を起点とした人の移動が従来に比べ増えている可能性が考えられる。

主要な交通機関は乗用車等だが、長距離帯では鉄道、航空

次に、国土交通省の調査より、主要な交通機関別の分担率をみてみる。乗用車等が全体の7割近くを占め、鉄道、航空がこれに続く。
さらに出発地から目的地までの距離帯別にみると、300km未満では自動車が圧倒的に多い。500kmを境に鉄道が主となり、700km以上では航空も選択肢となる。
なお、距離帯の目安として、国土交通省のデータより都道府県庁間の距離を示すと、東京都から約300kmには三重県、福井県、宮城県など、約500kmには鳥取県、徳島県、香川県など、約700kmには広島県、山口県などが挙げられる。なお、北海道は約830km、沖縄県は約1,550kmとなっている。

年末の車移動は低水準

道路での移動状況をみてみよう。国土交通省の調査によると、毎年の年末年始の高速道路渋滞ランキングでは、「東名高速道路」がトップ20区間のほとんどを占めている。東名高速道路はNEXCO中日本の管轄であるが、NEXCO中日本は月次データを公表していないため、参考としてNEXCO東日本の公表データを参照する。
NEXCO東日本管轄の高速道路における2013年4月以降の月別通行台数合計は、基本的に8月が最も高く、各年とも1月は低水準を示す。
なお、高速道路の価格改定は、国土交通省の許認可を必要とするため、季節により変動する性質のものではない。
総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯)」により、家計あたりの有料道路料の支出をみると、12月と1月の水準感はほとんど変わらず、経年ではわずかながら減少傾向にある。現状は、交通分担率の大半を担うのは自動車であるものの、自動車移動自体は徐々に減少していることが窺える。
※以下、家計調査は二人以上の世帯を参照

鉄道による輸送人員数は増加傾向

300km以上の移動で存在感を示す鉄道は、近年輸送人員数が増加傾向にある。また新幹線の需要増加が顕著である。なお、国土交通省によると、2009年度から2016年度において、新幹線の旅客営業キロ(旅客用路線の営業区間の距離)は600km以上伸びている。
これは訪日客の増加による移動数増加の影響が大きいと予想される。そのほか、冒頭でも見た通り、東京圏への流入増による、東京圏から地方への帰省人口も、一定は増加していることが想定される。特に東京圏では、自動車を所有しない世帯も増えたため、帰省にあたっては鉄道を利用する機会も増えている可能性が考えられる。
なお、鉄道は、その他の交通手段にくらべて利用料金の変動幅が一定範囲に収まりやすいことが特徴だが、近年は特にJR在来線を中心に繁忙期の価格上昇が大きい。これは主要な鉄道各社が、指定席特急料金に繁忙期料金を設定していることが要因とみられる。
家計調査をみると、12月は1月にくらべて支出額が高く、繁忙期の移動にあたって消費支出も多くなっているとみられる。

成田経由の国内旅客数は増加傾向

成田国際空港(株)の公表データをみると、成田空港を利用する国内旅客数は、年々増加傾向にあり、帰省を含む12月、1月だけの動きをみても増加している。背景には、2012年頃から国内線の発着回数がそれ以前より増加していることがある。
なお、羽田空港経由の国内旅客数については、2016年4月以降しか月次ベースでの推移を確認できないものの、同期間では成田空港とほぼ同じ推移を示している。
このことから、旅行や帰省などを含む年末年始の移動全般において、航空利用者数は増加している可能性が高い。また、成田空港経由の国内便はLCCであることも多く、移動手段の1つとしてLCCが徐々に浸透していることも推察される。

東京圏における滞留人口が増加か

ここまでで取り上げた交通関連の消費者物価指数(CPI)を改めてまとめると、下記のようになる。交通関連の価格は、消費税増税など一時的な押し上げ要因はあるものの、長期的には横ばいで推移している。
帰省の習慣自体が従来と大きく変わっていなければ、交通支出も一定の水準を維持すると考えられる。
しかし、家計調査をみると、2013年以降の消費支出合計は概ね横ばいの推移となっている一方で、交通費は横ばいから微減で推移しているようだ。
このことから、東京圏に転入してきた人々のうち、年末年始に帰省しないという選択肢をとる人々も増えている可能性が考えられる。

年末年始の国内旅行では帰省と逆に東京への流入も

リクルートライフスタイルは、毎年12月頃に旅行サイト「じゃらんnet」上における年末年始の宿泊予約状況から、国内旅行の人気旅行先ランキングを発表している。下記は2017年12月13日に発表されたものである。
同社の分析によると、都内では例年クリスマスや年末カウントダウンなど多くのイベントが行われるため、イベントを目的に訪れる旅行者が多いと予測している。上位の顔ぶれは2年連続でほぼ変動がなく、安定した人気ぶりがうかがえる。

まとめ

今回は、年末年始の人の移動状況について、家計調査と輸送関連の統計データを基にまとめた。近年の東京圏への人口流入により、年末年始の帰省が必要となる人口も増えていると思われた。しかし実際には、東京圏内から他地方への移動が停滞していることや、逆に東京圏への年末旅行が人気になっているなど、当初の予想と異なる結果が表れたことは興味深い。
なお、今回の家計調査では二人以上の世帯の数値を使用しているが、今後調査手法の改善や、単身世帯を始めより細かい項目でのデータ取得が可能になれば、より実態に近い動向を確認できるようになるだろう。
JR各社のWebサイトをみると、新幹線の12月29日以降の予約状況はほぼ満席となっている。また、全日本空輸、日本航空などの発表でも、国内線の下り便は12月28日から31日までがピークとなるようだ。
気持ちよい新年を迎えるためにも、年末年始は計画的で安全な移動を心がけたいものである。