【正能茉優×横山由依】人生の主人公は自分。「生き方」は自分で決める

2017/12/30
【正能茉優×横山由依】「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」の生き方
一緒のステージに立つ仲間
──正能さんはご自身の強みを生かしていると感じますが、横山さんは自分の強みを認識していますか。それとも、周りから言われて気づくことが多いですか。
正能 横山さんは、周りからどういうふうに褒められることが多いですか?
横山 よくも悪くも、普通だと言われます。
正能 なるほど!普通であることって、多くの人の感覚に近いということだから、強みですよね。とくにAKBはメンバーの年齢幅も広いし、個性もいろいろ。色んなタイプの人と接する必要がありますよね。
横山 私は「総監督だから」とか、相手が先輩だから後輩だからではなく、メンバーを「一人の人」として見ますね。だから先輩も後輩も、みんなと話せるのはあるかもしれません。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に。
正能 それは経営者に近い感覚かも。ソニー社員とハピキラ社長の両方をしているとよく感じるのが、会社員と経営者では、会える人とその会い方が全然違うということです。
会社員の場合、会社や部署があって、その中に自分の立場があります。つまり「立場と立場」で人に会うことが多い。
けれどハピキラは私が代表なので、正能茉優として前に出ていく。基本的に「人と人」のやりとりになります。だから、「ハピキラの正能」では「ソニーの正能」では決して会えないような、人と会うことができるんです。
「人と人」としてコミュニケーションをしている横山さんは、経営者の感覚に近い。もしかしたら経営者に向いてるかもしれませんね。
横山 経営者に向いていると言われたのは初めてですが、正能さんがおっしゃることには共感します。
正能 ところで、AKB48という組織は、上下概念のある組織なんですか?
横山 上下関係はそんなに厳しくないですが、グループに入った順が早いほうが先輩です。だから年下の先輩ももちろんいるし、その人には敬語を使います。
ただ、先輩・後輩があるとはいえ「一緒のステージに立つ仲間として」という意識が強いので、先輩が言うことに意見できない、とかはないです。
正能 私も、ハピキラを一緒に立ち上げた相方は大学の先輩なので、年齢は年上でした。だから、初めの数カ月は敬語を使っていたんです。でもやっているうちに同じ舞台で戦っている感覚が強くなって、いつのまにか「仲間」になった感じがします。
横山 まさにそういう感覚です。私は今、総監督をしていますが、もちろんメンバーには自分より先輩もいます。リーダーになるだけなら肩書さえもらえばいいけれど、リーダーとしてグループを回していくためには、周りの協力がないとできません。そういう意味でも、先輩たちが自分をここまで導いてくれたと思います。
正能 社長も同じです。社長という肩書は、会社を登記しちゃえば簡単に手に入る。
けれど会社の代表として、世の中で何かを実現・実行するためには、一緒に仕事をしてくれる人たちの存在があってこそ、本当の意味で社長になれるのだと思います。
AKBは世の中の縮図
横山 正能さんはハピキラで社長をしている経験から、「ソニーの正能さん」のときに上司を支えたいという気持ちになったりしますか。
正能 もちろん、なります。ハピキラの経験から、ソニーの上司が何に困っているのかを察することもありますし、上司が困っている時に「ハピキラの正能」として上司を助けられることもある。
横山 どんなふうにですか。
正能 例えば、ソニーで商品を企画する際、その商品に入れるコンテンツを入手したいと仮定します。通常、お付き合いのない企業さんの新規開拓は、お問い合わせ窓口から連絡することが多いのですが、その企業さんとハピキラがすでにお付き合いがあった場合「私、その会社の社長、LINE知ってます」みたいに最短経路で最初の一歩を踏み出すことができたり。
正能 茉優(しょうの・まゆ)
ハピキラFACTORY代表取締役・SONY勤務の「副業女子」。1991年生まれ25歳。 慶應義塾大学在学中の2012年、地方にある商材をプロデュース・発信するハピキラFACTORYを起業。大学卒業後は大手広告会社に就職し、現在はSONYに勤務しながら自社の経営も行っている。 経産省の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」委員。
横山 仕事が進みやすくなるんですね。
正能 そんなふうに会社の役に立てることがあると嬉しいですね。「ハピキラのおかげで、会社員をしているだけでは会えない人と会っているんだ」と実感しますし、ソニーで役に立ててよかったなと嬉しくなります。
横山 逆に、社長をしているからこそ、ソニー社員のときに思い通りにならなくてストレスがたまることはありませんか。
正能 それもあります(笑)。でも最近、「それも正解なのかな」と思うようになりました。
自分が社長だと、正解も、成功の定義も自分で決めなければいけません。私がいいと思ったものがゴールなので、それ以上世界は広がらない。
けれど会社員だと、自分の思いと全然違う方向にものごとが進むことが多々あります。こういうときに「違うんじゃない? でもやってみるか」と思いながらも事を進めると、自分が知っている正解とはまた違う正解が見えたりもします。
自分が想定している形じゃない正解や成功があることを知ることができて、視野を広げてもらったのは間違いないので、私は会社にも所属するという働き方をして本当によかったです。
横山 よくわかります。私もいろいろな先輩やキャプテンを見てきて、「リーダーって、こうあるべきという決まりはないんだ」とわかりました。
口に出していろいろ指示するタイプの人もいれば、背中で引っ張るタイプの先輩もいました。
「いろんなタイプがあっていいんだ」「その人らしければいいんだ」と気づいたからこそ、自分がリーダーを任されたときに「自分のやり方を見つければいいんだ」「不得意なところはあの人に任せよう」となれたんだと思います。
正能 「いろんなタイプがあっていいんだ」「その人らしければいいんだ」という感覚は、昨今の働き方改革にも近いかもしれません。働き方改革の良いところは、「それもあり」という感覚が広がって、みんなの人生の選択肢が増えることだと思うんです。
例えば「サラリーマン」という働き方は、これまでは、昇進を目指しながら、一つの会社で定年まで勤める、というのが一般的でした。
でも、これからは、複数のお仕事を同時にしてもいい。転職ももっとしてもいいかもしれないし、必ずしも昇進を目指さなくてもいいかもしれない。
そういう「ザ・サラリーマン」とか「ザ・経営者」、横山さんでいえば「ザ・アイドル」の像が、いい意味で崩れていくのがこれからの時代だと思います。
「人生の主人公は自分なのだから、自分が決めるんだ」という感覚をみんなが持てるようになったら、「それもあり」な幸せな世の中になると思います。その感覚が少しずつ浸透する時代がくるんじゃないかな。
横山 AKBにもそれは当てはまります。王道アイドルタイプの子もいれば、全然アイドルっぽくなくて奇抜な髪形の子もいるし、ぶっ飛んだ発言をする子もいる。
でもそういう、色んな子がいるところがAKBの良さだと思いますし、これからの世の中と似ているかもしれません。
そうやって色んな人がいて色んな情報がある中で、私は自分が信じることをコツコツやってきたから、振り返って「これでよかった」と思えています。
正能 そう思うと、AKBは世の中の縮図みたいですね。横山さんみたいに、自分の人生に納得できる人が増えたら、人の人生に文句を言うこともなくなるのにな。
横山 そうですね。自分が満足いく生き方をできていないかもしれないと思うから、人のことが気になっちゃうんですかね。
自分が幸せな働き方をやってみよう
──いろんなタイプのリーダー像があるとのことですが、横山さんはどんなタイプのリーダーなんですか。
横山 私はカリスマではなく、背中でぐいぐい引っ張れるタイプでもないので、メンバーとできるだけコミュニケーションを取りたいタイプです。
一緒に汗をかいてもがきながら、同じ景色や気持ちを味わえればいいなと思っています。
困っている後輩がいたら「私もそういうことあったよ」と言ったら、その子がちょっとでも救われるようだったらいいなと思います。
AKBは約300人いるので全員とは難しいんですけど、私に近い存在が何人かいて、自分を木の幹に例えるなら枝が広がるように、その子たちが周りを見てくれるようなグループでありたいと思います。
正能 今、それは何パーセントくらい実現できています?
横山 この考えに至ったのがやっと最近です。以前は、グループの少しのずれも直そうと思っていました。でも、ここを直したらまた別のところがずれて……となってしまいました。
そこで、秋元先生に相談したら「全員をどうこうするより、自分がちゃんとしていたら、それについてきてくれる子ができて、それが少しずつ増えることで大きな塊になるんじゃないか」と言われました。
だから今は、自分をちゃんと確立しようという意識でやっています。
正能 それは、副業・兼業に対する私の考え方と似ているかも。いくら「好きなように働ける世の中を作りましょう」といっても、そう簡単にはできない。現状、ほとんどの人は、そのような働き方をしていませんからね。
でも、自分の意思とモチベーションとちょっぴりの能力で「こういう働き方をするんだ」という私みたいな人が、世の中に何十人、何百人かはいる。
それを見た人が応援してくれたり真似をしてくれたりして、フォロワーのような存在になっていく。「それもあり」なんだって思ってくれる人が増えるのがまず一歩。
そのフォロワーたちが行動すれば仲間になり、その塊がある程度の大きさになって初めて、制度や仕組みを動かすことができるんです。
だから「みんなが幸せな働き方って何だろう」と考えるよりも、「自分が幸せな働き方はきっとこうだ、まずやってみよう」と取り組んでいくほうが、始めやすいし、世の中も動くはずだと、私は考えています。
横山 それに賛同した人が、枝葉が伸びるように広がって、みんながハッピーに働けるようになるといいですね。
AKBのメンバーは仲間でありライバル
──経営者である正能さんは、横山さんのリーダー像を聞いて、ご自身と近いと思いますか。
正能 AKBは全体で約300人もいると伺いました。私はそこまで大きな規模のものに責任が持てないかな。私が幸せと思える規模感って、もう少し小さいんです。
ハピキラを2人でやっているのも、自分たちの手と目の届く範囲が好きだから。
規模は小さいですが、大きな会社と組んだり大きなお店で売らせてもらったりして、ちっぽけなものを誇り高いものに格上げしようという戦略でここまでやってきました。
だから横山さんのお話を聞くと、見ている世界のサイズが違ってすごいなと正直感じます。どうして、ほとんど話したことのない300人目にまで興味が持てるんですか?
横山 それは私が、AKB48というグループが好きだからです。AKBが自分を変えてくれて、見たこともない景色を見せてくれたから、そのAKBに入ってくるメンバーは年齢や距離が離れていても好きでいられるのだと思います。
たしかに、話したことがない子もいっぱいいます。でもそれじゃダメだなと思って、今、メンバー全員と2ショット写真を撮る企画を進めています。
その中で今まで話したことのなかった子とちょっとでも会話をすると、すごく親しみが湧きました。
小学生や中学生の子が「活動、楽しいです」というのを聞くと、この子たちがずっと楽しく活動を続けられるように、代表してメディアに出ている私たちが後輩につなげないといけないな、とAKBへの愛が深まりますしね。
正能 あー、わかります! そのグループや組織に対して愛があると、中にいる人はみんなフラットに思えるし、何か困ったら助けてあげようと思う「謎の仲間感」がありますよね。
横山 ありますね。ただAKBは総選挙もあるので、難しいところもあります。やっぱり去年より上の順位にいきたいと思います。
年じゅう総選挙のことを考えているわけではなく、その時期だけですが、AKBのメンバーは仲間でありライバルという感じです。
正能 就活がそうだったかも。友達と励まし合ってお互いに頑張るんだけど、相手よりいい会社に行けたらな、みたいな(笑)。
フォトーリージェニック
──話は変わりますが、正能さんは、これからのコンテンツは「フォトーリージェニックなものが流行る」と言っていました、これはどういうことでしょうか。
正能 今年の流行語大賞にもなりましたが、「インスタ映え」とか「フォトジェニック」といわれる、SNSの投稿で写真がパッと目を引くものが流行っているじゃないですか。
もちろんそれはそれで大切な要素なんですけど、これからはただのフォトジェニックじゃ埋もれてしまうんです。あまりにフォトジェニックなものが多すぎて。だからこそ、フォトジェニックにストーリー性が合わさったものが流行るんじゃないか、と考えています。
それが「フォトジェニック×ストーリー」で「フォトーリージェニック」です。
横山 具体的に、どんなものですか。
正能 例えば、おしゃれな外資系ホテルのスイートルームで女子会をしたとして、その写真をSNSにアップすると「いいね」が付きますよね。でも、そういった投稿が多くなった今、既視感も強くなってしまっているんです。そこで例えば、あえて旅館のいいお部屋にみんなで泊まって、お揃いのお部屋用の浴衣を着て「大正〇〇年創業で、有名な〇〇さんも泊まった貴賓室」と紹介するほうが、フォトジェニックでありながらも、よりストーリー性があって他の投稿に埋もれないですよね。これがフォトーリージェニックです。
横山さんがメンバーと写真を撮る企画も、写真だけだと無名なメンバーとの2ショットには「いいね」が集まらないかもしれません。
でもそこに、横山さんが「総監督として、みんなと話してみたいという思いで企画した」というストーリーがあれば、まだ名前が知られていないメンバーとの写真も価値が増すと思います。
横山 すごくわかります。写真だけじゃなくて、全てがそうですよね。
正能 もう世の中にフォトジェニックなものが溢れすぎて、「あれ? パンケーキにこんなに生クリーム山盛りなのが本当に美味しいんだっけ?」というところまで、みんなたどり着いちゃった。
だからフォトジェニックとは違うポイントで差別化しようとすると、深いほうにいくわけです。
横山 なるほど! SNSの話でいうと、自分でYouTubeに動画を投稿するメンバーが、「草むらで5分間撮影しただけでこんなに刺された」と蚊に刺された足の写真をツイッターに載せたことがありました。
最初は「なんだそれ」と思ったのですが、その写真には「いいね」が2万もついてびっくりしました。
正能 蚊に刺された足の写真単独ではフォトジェニックではないけれど、「そんなに刺されてまで撮影を頑張ったんだ」というストーリーと見た目のインパクトが合わさって、いいねが集まったんでしょうね。
横山 そういう意味では、自分らしさも大切なんですね。
正能 そうですね、見た目とかフォトジェニックが大前提の世の中になってきたからこそ、みんなの感性が中身やストーリーのほうへ原点回帰しているのかもしれません。その最たるものが、自分らしさなんですかね。
私たちも、これからも自分らしくありたいですね。
横山 はい! 今日はありがとうございました。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)