【豊田剛一郎×横山由依】「医療リテラシー」の向上に必要なこと

2017/12/28
【豊田剛一郎×横山由依】日本の医療・介護の問題はどこにあるのか
医療を学校の授業に
横山 先ほど、私が皮膚科に行ったときの経験を話しましたけど、お医者さんに任せっきりじゃダメで、患者のほうからもお医者さんとの距離を縮めていかなければいけないんですね。
豊田 そうです、それを「医療リテラシー」と呼んでいます。リテラシーというのは、知識や理解はもちろんのこと、その分野に対する明るさや心構えのようなものです。
私たちの会社「メドレー」は、患者さんの医療リテラシーを高めることが「納得できる医療」の実現につながると考えて、先ほどのオンライン医療事典などのサービスを展開しています。
今はまだ「医者が言ったとおりにやります」みたいなケースが多いですが、医療リテラシーが高い状態になると、横山さんの件でもピーリングをなぜやるのか、やるとどうなるのかと、もう一歩踏みこんで聞けるようになります。
医者を疑うわけではなく、聞いたうえで「それなら人前に立つ仕事なのでやりません、薬だけください」と判断できるようになるといいですね。
横山 患者も医療のことを、もっとよく知るのが大事なんですね。
豊田 そうですね、勉強というと堅苦しいですが、患者さんがあと一段でも、二段でも高いところで医者と話せるようになると、診察室での会話はずいぶん変わります。
これはどういう状況なのか、ここは医者に聞いておかないといけないぞ、といったポイントが掴めるようになると、選択を間違って後悔することが減ると思います。
豊田剛一郎(とよだ・ごういちろう)
1984年生まれ。株式会社メドレー代表取締役 医師。東京大学医学部卒業後に脳神経外科医として勤務。その後、米国医師免許取得し、米国での病院勤務を経験。医療現場を経験する中で生まれた、「日本の医療はこのままでは潰れてしまう」「もっと患者にも医師にも日本にとってもできることがあるはず」という思いから医療現場を離れ、マッキンゼー&カンパニーでコンサルティング業務に従事。主にヘルスケア領域のマーケティング戦略やオペレーション改善のプロジェクトを経験。2015年2月より株式会社メドレーに共同代表として参加。オンライン医療事典「MEDLEY」やオンライン診療アプリ「CLINICS」など、医療領域に踏み込んだC向けサービスを展開している。 
そういうふうに、みんなが医療・介護にちょっと関心がある状態を作りたいと思って、メドレーでは医療事典やオンライン診療などの事業を展開しています。困った時にどうすべきかわかっているだけでも、安心感は全然違います。
とはいえ、医療・介護は基本的につまらない分野なので、どうしたら皆さんに興味をもってもらえるのかが悩みどころです。
──病気を治すというより、健康な体を維持する、スマートな生き方をするという切り口で訴求するのはどうでしょうか。例えばメドレーは、ヘルスケア分野には参入しないのですか?
豊田 病気にならないように予防するのも理想的で重要ですが、ヘルスケアの部分と医療は、まだちょっと離れていると感じています。我々は、まず急ぐべき医療の課題から解決していき、ゆくゆくヘルスケアや予防医療の分野にまで広げていきたいと思っています。
しかも医療をビジネスにするのは難しい。美容は別ですが、健康な人に医療ビジネスを展開するなんて、イヌイットに氷を売るようなものです。健康という、失って初めてわかるものの価値を前もって伝えるのは至難の業ですから。
横山さんは、どういうものがあったら医療に興味をもちますか。
横山 やっぱり気軽で楽しいと興味をもつので、クイズやゲーム形式にするとか。今、みんなスマートフォンを持っているので、医療をテーマにしたアプリがあればいいんじゃないかな。豊田さんの会社にはそのようなアプリはあるんですか。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に。
豊田 スマートフォンで、テレビ電話越しに医師の診療を受けられる「CLINICS(クリニクス)」というサービスを提供していますが、これはアプリです。しかし、先ほど話した医療事典「MEDLEY」はまだなくて、今いろいろと考えている最中です。
横山 やっぱりアプリのほうが、私たちの世代にはとっつきやすいと思います。あと私、NewsPicksもそうですけど、ニュースサイトをよく見ます。
その中で自分の好きなジャンルを選ぶ機能があったりしますけど、医療をもうちょっとやわらかくして、読みやすいジャンルを作れば、親しんでもらえるんじゃないかと思います。
豊田 たしかに雑誌などで医療に関する特集記事や広告を読むことが、中には怪しい情報もあるとはいえ、多くの人の医療リテラシーを上げることに通じているのかもしれません。インターネットの普及で、昔より今の方がリテラシーは上がりやすくなっていますしね。
今は「何かあった時に支える」タイプのサービスから展開していますが、私の夢は、医療が学校の授業になることです。別に病気のことを逐一勉強するのではなく、高校で病院見学をしてもいいですし、医療との向き合い方を学べるような機会を作りたいです。
人生を送るうえで医療との付き合いは欠かせないので、どこかで知るタイミングがあったほうがいい。
横山 学校の授業に取り入れるのはよさそうですね。病院って、行かない人は本当に行かないですもんね。
豊田 そうなんです。自営業で健康診断がない人だと、医療に一切ふれないまま何年も過ごすことがざらです。その時は元気だからいいのですが、何かあった時に「ちゃんと健診に行っていればよかった」と後悔しても遅いので、ちょっとでも日常的な意識を高めてもらいたいと思って事業をしています。
体に気を使う年代
豊田 ところで、横山さんは今、おいくつですか。
横山 24歳です。
豊田 お仕事は体が資本だと思いますけど、どれくらい寝ているんですか。
横山 私は睡眠がいちばん大事なタイプなので、わりと寝ているほうだと思います。日によっても違うんですけど、昨日は6時間くらいかな。
豊田 なるほど。
横山 6時間寝て、今日は対談前にジムに行ってきました。昨日は酵素風呂に行ってから仕事に行きました。わりと汗をかくのが好きなんです。
豊田 まだ何をしても大丈夫な年齢ですけど、けっこう気を使っているんですね。24歳ということは、ご両親は50代でしょうか。
横山 はい、55歳くらいです。
豊田 ということは、ご両親はあと10年くらいしたら気をつけたほうがいいです。脅かすわけではなくて、60代や70代って、元気な人もいますけど色んな病気が出やすい年代なので、人間ドックに行ったり食事に気を使ったりして、あとで悔やまないように今から準備することをおすすめします。
横山 そうですね。親も今、食事にすごく気を使っています。
「医療を救う医者になってくれ」
──豊田さんは、医師、ビジネスマンを経て会社経営という異色の経歴の持ち主です。医療界の課題解決を、一人の医者としてではなく、経営者としてやりたいと思ったのはなぜですか。
豊田 一人の医者として働いていると、患者さんに貢献することはできても、社会全体に対して何かを起こすことが難しいと実感したからです。物理的に、年間340日働いていましたし(笑)。
横山 そうですよね。
豊田 今はメドレーの事業に専念していて、医者として患者さんを診る仕事はまったくしていません。医者を辞めるのは珍しくて周りからも驚かれるんですけど、医者が病院で働かなければいけないルールもありませんし。
病気や医療で困っている人を、診察や手術でない形でもサポートすることはできると思って辞めました。
横山 でも、お医者さんになりたくてなったんですよね。
豊田 ええ、脳外科医としてやる気満々でしたね。
横山 じゃあ、お医者さんを辞めて新しいことを始める時に、迷いませんでしたか。
豊田 さすがに考えました。でも、こちらのほうをやりたくなっちゃったんだから仕方ないですよね(笑)。あと、当時の同僚や上司、医学部の同級生が応援してくれたことも大きかったです。
最後の一押しは、勤務医時代の上司が「患者を救うのは俺たちがやるから、お前は医療を救う医者になってくれ」と言ってくれたことです。いま振り返ってみても名言ですよね。
横山 めちゃくちゃかっこいいですね。
豊田 でもその上司に最近会ったら、言ったことを忘れていたんですよ。「俺、そんなこと言ったっけ?」って。こっちはその言葉で辞める決心を固めたのに(笑)。
──豊田さんのキャリアをアイドルに当てはめると、横山さんがアイドルを辞めて、アイドル業界の課題を解決する会社を経営する、みたいな感じでしょうか。
横山 すごい例えですね(笑)。
豊田 実際に、アイドルを辞めて課題解決に回りたいと思うことはありますか。
横山 それはないですね。ただ、AKB48グループの総監督になって、前よりは運営サイドのことが見られるようになったと思います。
メンバーからの意見を聞いてスタッフに伝えたり、その逆もあったり。以前なら口を挟めなかったことなので、経営ではありませんが、立場が変わって「こうやったほうがうまくいくんじゃないか」などと考えるようになりました。
豊田 おっしゃる通りで、医者として見ていたものと、医者を辞めて外から医療を見たときでは景色がまったく変わりました。医者のままだったら変えられなかったこともありますし、立場が変わらないと見えないものはたくさんあると気づきました。
「コミュニケーションが薄くなって関係がよくなることは絶対にない。」
豊田 横山さんは、いちメンバーから総監督になって、具体的にどういうところが変わりましたか。
横山 総監督になる前は、自分が楽しくできればいいなという感じでした。私たちの活動って、総選挙とかチーム替えとか、サプライズで発表されることが多いんです。以前はそれを「なんで急にこんなこと言うんだろう」と驚くだけでしたが、総監督になって運営サイドが見えるようになると、それにはちゃんと意図があって、色んなことが考えられた結果だとわかりました。
でもそうなると、運営のことがわかりすぎちゃって、メンバーとしての気持ちを忘れそうになることもありました。最近やっと、メンバーであることと総監督であることのバランスが取れるようになってきました。
豊田 総監督の任期はないんですか。
横山 ないですね。前任のたかみな(高橋みなみ)さんはAKBを10年やっていて、総監督という肩書がついていたのは2年ですけど、私も今年の12月で就任して2年になります。
今はAKBとして東京ドームコンサートが大きな目標ですが、それを達成したら、次はどうするんだろう……。私はまだ卒業を考えたことはありませんが、一生AKBでいることはないだろうし、卒業で悩む日がくるのかなとか、次は誰にだったら任せられるんだろうとか、色々考えますね。
豊田 卒業せずに他の人が総監督になって、いちメンバーに戻るとか。
横山 可能性としてはありますね。総監督はたかみなさんと私しかしていないので、道筋が決まっているわけではないですから。
──プレイヤーからリーダーになった先輩として、豊田さんから横山さんにアドバイスはありますか。
豊田 私は医療界のリーダーになったわけではありませんし、私より横山さんのほうがよほど大変な環境にいると思いますが(笑)。
運営スタッフの気持ちがわかりすぎるとおっしゃっていましたよね。それって、すごく強みだと思います。私が取り組んでいる仕事も、うちの会社だけでできることは一つもありません。医者や看護師の協力も仰がなければいけないし、他にも国や企業、色々な関係者みんなを巻き込まないと医療界は良くなりません。
医療界はすごく大きくて古いので、なかなか物事が動かないのですが、「俺はこんなに頑張っているのになんで動かないんだ」と思うと余計にダメです。
そこでふと立ち止まって「じゃあ、一緒に医療界を動かす人って、どんな人たちなんだっけ?」「その人たちは、何を思ってやっているんだっけ?」と考える。私たちが進めようとすることに反対しているなら「どうして反対するのだろう?」と一つずつ丁寧に思いを巡らせる。
そうすれば、「じゃあ、こういうふうに言えばわかってもらえるな」と道が開けます。こうして周りに寄り添うプロセスが大切だな、と日々実感しながら仕事をしています。
横山 さっきの医者と患者の話もそうでしたけど、うまくいかない時って結局、コミュニケーションが取れていない時ですよね。
豊田 ええ、そうだと思います。
横山 自分がいっぱいいっぱいだと、人の話に耳が傾けられないし。適度に周りが見えていつつ、自分も一生懸命やっている時が、ものごとが一番前に進むのかなと思います。
豊田 これは業界を問わず全てにいえることですが、コミュニケーションと関係性は比例します。関係が悪くなると、互いにその人の話を聞かなくなるんですよね。医者だって、患者さんにも看護師にもきちんと話さないと何も伝わりません。
コミュニケーションが薄くなって関係がよくなることは絶対にない。悪循環しか生まれません。何かあって関係が悪くなりかけた時も、一歩踏み出してこちらから働きかける姿勢も大事でしょうね。とくに自分より若い人に対しては。
AKBだと、一番若い人はどれくらいですか?
横山 いちばん若い子は小学生ですね。
豊田 小学生か……姪っ子の世代だ(笑)。
横山 伝え方も、先輩に伝える時と、後輩に伝える時と、本当に小さい子に伝える時で変えないといけないし。私たちの世代だと当たり前のことが、ちょっと下の世代の子には当たり前じゃないこともあります。話さないと、わかっているかどうかもわかりませんしね。
豊田 すごい世界だな、24歳でもうジェネレーションギャップを感じるんだ。横山さんにアドバイスをするというより、一緒に頑張りましょうという感じです。今日はありがとうございました。
横山 ありがとうございました。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)
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