【AKB48・横山由依】9人のプロピッカーとの対談から学んだこと

2017/12/26
AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんが、NewsPicksのプロピッカーと対談する「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンはどんな活動をしているのか? 横山さんがピッカーの皆さんと一緒に学んでいく企画だ。
2016年に好評を博した本連載が、約1年のブランクを経て年末に特別再開。今回は特別編として、横山さんの単独インタビューをお届けする。過去の対談を振り返りながら、横山さんの気づきや変化について聞いた。
田原さん、楠木さんとの対談
──連載は、ジャーナリストの田原総一朗さんとの対談からスタートしました。「悩んだときはどうすればいいか」という横山さんの質問に対して、田原さんは「悩んでも仕方ないから、新しいチャレンジをしたほうがいい」と答えていましたね。
【田原総一朗×横山由依】カリスマ性なきリーダーだからできること
横山 本来、私は「先のことを考えるより、目の前のことを一つずつ積み重ねていけば道ができる」と思うタイプです。当時は総監督を引き継いで相当悩んでいた時期だったので、そんな質問をしたんだと思います。
質問には、その時々の自分が表れるのだなと感じます(笑)。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に。
──今なら、何を聞きたいですか。
横山 田原さんの趣味や、仕事以外で何を楽しみにしているかを聞きたいです。私は今の仕事が好きで、楽しいこともたくさんさせてもらっていますが、プライベートも含めて、興味の幅が狭いと感じます。
いつか一人で活動する時のためにも、好きなことを増やして自分の幅を広げるのが大切だと思っているんです。
──「好きなこと」といえば、楠木建(一橋大学教授)さんとは、「好き嫌い」の話をしましたね。
【楠木建×横山由依】仕事の場面でこそ「好き嫌い」を聞くべき
横山 楠木先生は、「好き嫌い」と「良し悪し」の違いや、「好き嫌い」に立ち入ったほうが、相手との関係やマネジメントがうまくいくと教えてくれました。
「好きなことをしたほうがいい」とは今まで何度も耳にしてきた言葉ですが、この対談のおかげで、その意味がようやく腑に落ちました。
私は京都出身ということもあり「和風」のものが好きなのですが、自分のインスタグラムには、着物や浴衣を着た時の写真や飼っている猫の写真など、好きなものだけを載せる空間にしています。
私は「京都やましろ観光大使」を務めているので、いろんな京都に触れる機会があります。
例えば、着物や和小物に使われる色や柄は、洋服では考えられないような組み合わせでも、見事に合うことに気づきます。
そういうこと一つひとつを興味深く感じるだけでなく、「好きなものを見つけて発信したい」と思うようになったのは、ここ一年の変化ですね。
青木さん、軍地さんとの対談
──楠木さんと同じ時期に対談した、格闘家の青木真也さんとは、個性を確立する大切さの話になりました。「空気を読まない」「人には合わせない」と公言する青木さんに対して、横山さんは周りとコミュニケーションを取って和を重んじるタイプですが、その中でも自分を主張することを意識しますか。
【青木真也×横山由依】負けを価値に変える、それが腕の見せ所だ
横山 そうですね。AKB48では「リクエストアワー」という企画があって、ファンが投票した楽曲ベスト100をライブで歌います。2017年のリクエストアワーでは、卒業したたかみな(高橋みなみ)さんがソロで歌っていた『愛しさのアクセル』を私がカバーすることになりました。
たかみなさんがこの曲を歌う時は、黒いハード系の衣装で、ライトセイバー(光る剣)を振り回して歌っていたんです。でも、私はタイプが違うし、同じことをしてもたかみなさんを超えられない。
その時ちょうど、以前、自分用に作った和風の衣装があることを思い出しました。それを着たいとスタッフに提案し、扇子の小道具を使って、私なりの『愛しさのアクセル』を歌うことができました。
そんな主張、今までならできなかっただろうし、そもそも、たかみなさんの衣装を借りて同じようにするのが当然だと思っていたはずです。
でも最近はそこから一歩進んで、「自分にしかできないことは何だろう」と考えるようになりました。
以前から、先輩たちに「由依はもっと自分を大事にしたほうがいいよ」と言われていましたが、当時は、自分が我慢して周りがうまく回るならそれでいいと思っていたし、それが苦じゃなかったので「別にいいかな」という感じでした。
でもそれだと、自分はもちろん、グループのためにもならないと気づいたんです。
以前、ファッションディレクターの軍地(彩弓)さんが、ファッション誌を作る女性たちをまとめるのに苦労したとおっしゃっていましたよね。
【横山×軍地】リーダーとして“天狗になっていた”私の転機
AKB48も女の子の集まりなのでよくわかるのですが、今の私は一番悩んでいた時期を抜けたので、少し余裕が出たのか、前よりも周りがよく見えるようになりました。
たぶん、それまで自分に向けていた意識を、周りを見ることに充てられるようになったからだと思います。
結局、自分を大切にすることが、周りのためにもなる。先輩たちに言われたことが、今ようやく身に染みてわかるようになりました。
大室さん、小林さんとの対談
──産業医の大室正志さんには、「メンタル健康優良児」と言われましたね。今もメンタル面は安定していますか。
【横山由依×大室正志】人間関係が、生産性を左右する
横山 そうですね、安定しています。大室先生との対談のときは「落ち込んだら2日間寝込んでしまう」と言っていましたが、今はそれもないので安心してください(笑)。
それに嫌なことや悩みがあったら、前よりもっと人に話すようになりました。ものごとのジャンルによって「これはこの人に、あれはあの人に」と自分の中で相談する人をだいたい決めています。
例えば、AKB48のことならマネージャーさんや卒業した先輩に相談し、プライベートのことなら一緒に住む姉に、という具合です。
──横山さんは自分で考えるより、人に聞くタイプですか。
横山 青木(真也)さんは、人に聞くことについて「自分の中で答えは出ていて、相談相手には背中を押してほしいだけ」と言っていましたし、実際に一人で解決する人も多いと思います。
でも、私は自分をちっぽけだと思っているから、人に聞いて新しい意見を取り入れ、考えの幅を広めないと前に進めないんです。色んな視点の考え方を知った上で判断します。
人に相談する以外にインターネットで調べることもありますし、少しずつ悩みの切り抜け方がわかってきたように思います。
──衆議院議員の小林史明さんとの対談では、スピーチのコツを教えてもらいましたね。あのときのアドバイスはその後、役立っていますか?
【小林×横山】スピーチは、説明ではなく人の気持ちを動かすこと
横山 めちゃくちゃ役立っています。私はスピーチに苦手意識があって、一字一句全部考えてしまうタイプだったんですけど、小林さんは「スピーチは説明じゃなくて、人の気持ちをA地点からB地点まで動かすこと」「一つのスピーチで言えることは一つだけ」と教えてくれました。
それ以来、「今回はこれを伝えよう」と一つに絞って考えるようになって、すごく楽になりました。
ちょうど2016年から『アッパレ横山!任せてください』という10分間のラジオ番組を担当しているのですが、その放送作家の方も「話の着地点があればいいから」と言ってくれるので、小林さんのアドバイスと同じだなと納得しました。
実を言うと、総監督になったばかりの頃は、私の発言が何にでも取り上げられると構えてしまい、「いいことしか言っちゃいけないんじゃないか」と思っていました。そのため、言ったことと現実のギャップに悩んでいました。
それに「リーダーだからAKB48全体のことを話さないと」という思いが強すぎて、逆に話の内容が薄くなることもありました。
でも、いくら代表とはいえ、やっぱり自分ごととして話さないと、意味がないんですよね。小林さんのアドバイスやラジオの経験から、言葉は長くても短くても、拙くても、「気持ちが入っていれば伝わるんだ」と気づくことができました。
だから前よりも、自分の思いや感情に対して素直に生きられるようになったと思います。
──ということは、もうスピーチに苦手意識はないんですか。
横山 今も苦手ですよ(笑)。でも、うまく話せなくてもいいやと思えるようになりました。構えなくなったんでしょうね。
例えば、ライブのMCで曲タイトルを言い間違えることがまれにあります。以前ならこの世の終わりというくらい落ち込んだのですが、「間違えました、すみません」と素直に謝って必要以上に気にしないようにしたら、周りも「また間違えてるよ~」と、一つのキャラとしていじってくれるようになって。
失敗や弱みを見せることで、自分も周りも、少しずつ良いほうに変わってきたかもしれませんね。
金泉さん、崔さんとの対談
──『週刊SPA!』編集長の金泉俊輔さんとの対談では、「失敗してもバッターボックスに立ち続け、伝統を大切にしながらも新しいチャレンジをする」という話になりました。AKB48も先輩たちが築いたものを大切にしながら、何か新しいことに挑戦していますか。
【金泉×横山】ヒットの鉄則はバッターボックスに立ち続けること
AKB48が創設期から行っている握手会は、なくしてはいけない伝統です。でもずっと同じ形で続けているので、何か工夫したいと思っていました。
そこで、握手会以外のイベントができないかとスタッフに提案しました。そうしたらバレンタインの時期に、3本ある赤い糸をファンの方とメンバーが両端から引っ張って、同じ糸を引けばサインがもらえるイベントを考えてくれたんです。
また最近は、メンバー個人の仕事が忙しくてコンサートツアーがなかなかできないので、全国握手会の際にミニライブを加えたこともあります。同じ握手会にしても、5カ所あったら5通りの特色を出して、1回でも行けないと後悔してもらえるような握手会にしようと言っています。
こうして新しいアイデアを出し合うので、今まであまり接することのなかったスタッフとコミュニケーションが生まれるようになりました。それも嬉しい変化です。
──なるほど。金泉さんとは有料コンテンツと無料コンテンツの使い分けにも、話が及びましたね。
横山 はい。当初は、無料で見てもらえるツイッターやインスタグラムと、有料でお届けしている「AKB48mail」の内容を分ける必要性が、恥ずかしながらわかっていませんでした。
その違いがわかり始めた頃に金泉さんとお話ししたので、有料コンテンツの価値を高める大切さを、いっそう認識しました。
さきほど、全国握手会にミニライブを加える話をしましたが、一時期、そのミニライブの曲数をもっと増やそうという意見が出ました。でも、それだとお金を払ってコンサートに来てくれているファンの方に申し訳ないし、あくまでもメインは握手会でライブはプラスアルファです。
イベントごとに目的や趣旨が違うから、私たちができるからといって、たくさんやることが必ずしも良いわけではないことにも、試行錯誤しながら気づきました。
──お金の話といえば、マクロエコノミストの崔真淑さんとも対談しました。経済にはお金はもちろん、人が動くことが重要という内容でしたが、AKB48にはたくさんのファンがいるので、人が動く重要性を実感するのではないですか。
【横山由依×崔真淑】AKB48から“経済効果”の本質を読み解く
横山 はい、感じますね。以前、私の誕生日にAKB劇場で生誕祭をやってもらったのですが、その時にあるファンから手紙をもらいました。秋葉原には、メンバーがメニューを考案した「AKBカフェ」があるのですが、手紙の主はそのカフェで働く女の子でした。
その手紙には「自分はAKB48のメンバーにはなれないけど、カフェで働くことで、その良さを色んな人に伝えたい。AKB48を盛り上げたい気持ちは一緒です」と書いてあって、読んでハッとしました。
握手会やコンサートに来てくれる人、CDを買ってくれる人……みんな様々な形でAKB48のために行動を起こしてくれているんだと。
そしてファンだけでなく、スタッフはもちろん、仕事として関わってくれている人など、AKB48一つをとっても、こんなにたくさんの人が色んな方面や立場で動いているんだと、改めて気づきました。
──CDの売り上げも、ミリオンヒットを出し続けていますね。
横山 本当にありがたいですし、100万枚という数字は大切にしたいのですが、握手会で「私たちの歌がこういう人たちに届いているんだ」と、数字以上に「人の動き」で喜びとありがたさを感じています。
麻野さんとの対談
──リンクアンドモチベーションの麻野耕司さんは、選挙で順位を決めたりメンバーが入れ替わったりするAKB48を、特殊な組織だと話していました。横山さんが総監督としてAKB48を見て、「こんな組織になったら面白いな」「メンバーがこうなればもっと盛り上がるのでは」という思いはありますか。
【麻野耕司×横山由依】仕事ができるだけではリーダーになれない
横山 メンバー一人ひとりが個性を磨き、自分ができることを突き詰めれば、グループとしての強みがもっと増すんじゃないかと思います。
例えば、NMB48の吉田朱里は、ユーチューバーとして自分のメイクや髪形の動画をアップしています。彼女は個性を磨くことで、自分でランキングを上げたんです。きっと他のメンバーの刺激になっていると思います。
軍地(彩弓)さんが「ブームは、バラバラに存在しているものが雪だるま式に大きくなって生まれる」とおっしゃっていましたが、各自の個性や特技が連鎖して大きなうねりになれば、初期の先輩が作ったAKB48とはまた別のAKB48として、もう一度全盛期を作れるんじゃないかと考えています。
──組織の新陳代謝という意味では、AKBも1期生は峯岸(みなみ)さんだけとなりました。渡辺麻友さんも2017年いっぱいで卒業です。今は16期生も入り、AKBが創設期から盛り上がって大ブームを迎えた頃を知るメンバーがどんどんいなくなりますが、そのことに不安を感じませんか。
横山 たしかに、前田(敦子)さんが卒業したときは、私のような後輩でも「AKB48はもう終わりなんじゃないか」と危機感を抱いたのは事実です。でも、いざそうなってみると、(大島)優子さんやたかみな(高橋みなみ)さんが引っ張ってくれたり、指原(莉乃)さんが総選挙で1位を取ったりして、みんながそれぞれの役割を果たすようになりました。
だから最近は先輩の卒業に対して、いい意味で慣れてきました。卒業した先輩は外で活躍してくれるし、抜けた穴は誰かが埋めて、新しい形になりますから。
先輩が卒業するのはもちろん寂しいですけど、残ったメンバーで頑張れると思えるので、不安よりも「これからどういうAKB48になるんだろう」というワクワクのほうが大きいかもしれません。
今後、対談してみたい相手
──AKB48の公式ライバルグループ、乃木坂46と欅坂46については、どう見ていますか。
横山 乃木坂46、欅坂46の勢いはすごく感じていて、メンバーの中でも「ヤバいな」と危機感はあります。ただ、危機感をもつことは、刺激になるので大切だと思います。それに私たちはAKB48に自信と誇りを持っているので、「AKB48にしかできないことをやろう」と逆に結束しています。
AKB48は、「アイドルがここまでするか?」ということに挑戦するのが特徴であり良さだと思うんです。
私は最近、メンバーに「もっと汗をかくグループになろう」と言っています。これは物理的な汗だけじゃなくて、悩んだり行動を起こしたりする意味も含めてです。秋元(康)さんも、がむしゃらに動くAKB48の象徴として、『豆腐プロレス』(テレビ朝日系連続ドラマ)をさせたはずです。
たぶん、乃木坂46や欅坂46には、プロレスをやらせないと思うんですよ。私の勝手な想像ですけど(笑)。
その上で、言われたことをやるだけじゃなくて、個人個人が考え、スタッフとコミュニケーションを取りながら、文句ではなく意見を出して、動く。そんなふうに、これからもっと泥くさく汗をかけるグループにしていきたいですね。
──最後に、NewsPicksについてお聞きします。2016年に「教えて!プロピッカー」を連載して、色々な反響があったと思いますが、どのように感じましたか。
横山 私、皆さんのコメントを読むのが大好きなんです。たくさんの人が書いてくれると嬉しくて。
AKB48や私のSNSだと、おもにファンの方がコメントしてくれますけど、NewsPicksはそうじゃないコミュニティなので、いつもと違う視点のコメントが見られて興味深いです。たまに厳しい意見もありますが、それも含めて勉強になります。
──今後、対談してみたい相手はいますか。
横山 ふだん接しないような、かけ離れたジャンルの方とお話ししてみたいです。これから再び、いろんな方とお話しできるのを楽しみにしています。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)
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