ベンチャー投資の「掛け算」。VCとエンジェルの違いとは

2017/12/27
日本全体でスタートアップへの投資が増えるなか、「エンジェル投資家」の存在感が増してきている。メルカリ社長でエンジェル投資家の小泉文明氏と、GMO VenturePartners 取締役パートナーの宮坂友大氏に、それぞれの立場から投資の在り方を聞いた。

こうなってほしい未来、事業、に投資

──小泉さんは、メルカリの社長でありつつ、エンジェル投資家でもあります。エンジェルとして投資を始めた理由について教えてください。
小泉:私は10年以上スタートアップ界隈に身を置いていますが、10年前のITベンチャーには今のような資金調達の環境が整っていなくて、起業のハードルが高かったんですよね。お金の面で起業を諦める人が周りに結構いました。
だから、もし自分が投資できるような立場になったら、積極的に応援したいとは昔から思っていたんです。
宮坂:投資先は、どうやって決めています?
小泉:現在は、20社近くのスタートアップに投資していて、ほとんどがシード期から関わっています。投資先を選ぶ基準は、自分が「こうなってほしい」と思う未来、新しい社会を作ってくれそうな事業を展開していることですね。
本当なら自分でやりたいけど、私も本業があるので(笑)、自分が動くことはできません。だから起業家に託す、という感覚です。
逆に、ビジネス的には儲かりそうでも、自分がやりたいくらい興味を持てない事業には投資しないスタンスです。
──小泉さんも含め、日本のエンジェル投資家はここ数年の間に増えていると感じます。
小泉:そうですね、昔にさかのぼると2000年ごろに創業した起業家たちが、一回転したタイミングからだと思います。あとはここ数年はM&Aで売却した起業家も多いですね。
起業して、事業の成長に集中しているとなかなか自社以外のことに意識を割く余裕はないですが、IPOやM&Aなどでお金と時間ができると、ほかの人たちが何をやってるのかいろいろ見えてくる。そこで起業家とエンジェル投資家がオーバーラップしてきたような状況ですね。
宮坂:そうですね。最近だとスタートアップのイグジットが増え始めたのが、感覚的には大体3~4年前くらい。
その頃から、元起業家のエンジェルや、金額の大小はありますが現在も事業を持ちながらエンジェル投資をする人の人数が増えてきました。かつての投資先の経営陣が投資を始めたというのも最近ではよくあります。
個人投資家によるベンチャー投資を促進する税制上の優遇措置「エンジェル税制」を利用した投資額は25年度から大幅に増加。
以前は、スタートアップ側も資金調達を考える際に、エンジェルを探すという選択肢はほとんどなかったのが、ここ数年では資金調達の選択肢のひとつとして検討されるケースが明らかに増えています。
小泉:確かに、ここ3~4年ほどの大きな変化かもしれません。

エンジェル投資家、3つのタイプ

──「金を出すが口も出す」タイプや、「金は出すが口は出さない」タイプなど、投資家にもいろいろなスタンスがあります。
小泉:私の場合、自分からは何も言わないですね。その事業に誰よりも情熱を持ってコミットしているのは投資先の経営者です。彼らをリスペクトしているので、口は出さないようにしています。
ただ、どの会社でも起こり得るような問題、たとえば組織が拡大するにつれて起こる問題や、人材採用に関しては、アドバイスをすることはありますね。
──ほかにはどんな関わり方がありますか。
小泉:エンジェル投資家は、3つのタイプに分かれると思います。1つは、経営のお目付け役のシニアの方。人脈がとても広いタイプです。2つ目は、プロダクトへのアドバイスが詳しい方。突出したスキルを持つタイプです。最後は、人やお金など、普遍的な会社運営が得意なタイプです。
宮坂:おっしゃる通り、VCから見てもエンジェル投資家はその3タイプだと思います。ネットワーク型の方、組織・マーケ・開発・会計や法律など突出したスキルを持つ方、それから、ご自身の経営経験から普遍的な経営アドバイスをされる方。
たとえば、上場企業の役員で、管掌していた業界構造や人物マップを理解しており、国内外で多くのキーマンを紹介できる、という方は、ネットワーク型ですね。
それぞれに得意分野が違うので、起業家は単に投資してもらおうではなく、相性と自分たちに必要な要素を見極めて「この人にお願いしたい」と意思を持って、コミュニケーションすることが必要だと思います。

VCとエンジェルは組み合わせが効く

──VCとエンジェル投資家の役割の違いについて教えてください。
宮坂:エンジェル投資家は、私たちが提供できない明確な強みをもっていることが多いです。たとえば、VCはファンド事業は運営していますが、小泉さんのようにインターネットビジネスの経営者ではありません。
しかし、我々は資本市場や調達環境が良い時も悪い時も10 年以上にわたって、たくさんの会社の成長と失敗を見てきた知見があるので、エンジェル投資家と良い協力関係を築けると思っています。
たとえば、シード期でも単独で出資することももちろんありますが、分野によってはプロダクトが存在しない段階では、私たちのみでは手を出しづらいというケースもあります。
そういう時に、その分野に知見があるエンジェル投資家とご一緒に投資することで、エンジェル投資家の得意分野のノウハウと、私たちの資金や幅広い領域の知見をご提供することで、最初からよい形で事業を伸ばすお手伝いをすることもあります。
具体的な事例では、小泉さんにお声掛けしてご出資いただいた、製造業に特化したプラットフォームを作っているアペルザがそうです。
私たちはスタートアップを評価する際に、「市場」「ビジネスモデル」「マネジメントチーム」の3つの軸で見ていますが、アペルザは3軸の全てにおいて高い評価でした。
ただ製造業という専門領域であったため、市場を理解する上での本質的な知見が必要だったことと、同時にB2Bがゆえに採用の課題が多く、優秀な人材をどう集め継続的に組織拡大を図るかなどの経験を必要としていました。
そのため、小泉さんにお力添えをいただきましたが、これは実際に非常にワークしています。
これまで我々のチームが関与した先で時価総額1000億円を超えた会社は5社ありますが、アペルザなら、そうなってくれると信じています。
小泉:アペルザはビジョンと事業に将来性を感じて、私もエンジェル投資家として入り、経営顧問になりました。
VCはファイナンシャルのプロとしてコミットするので、ファンドの出資者に説明責任があるし、リターンの責任もあります。そこでいうとエンジェル投資家は説明責任がないので、「この夢に一緒に乗りたい」「この起業家が好き」など、いろんな動機で投資先を決める人が多いと思うんです。
まだプロダクトが存在していない時期はエンジェル投資家が支えて、形ができてからVCにバトンタッチするでもいいし、その先も一緒にやるでもいい。うまく組み合わせるといいですよね。
ニュース上で観測されるベンチャーへの投資件数、社数でもエンジェルの割合は増加している。上図における「エンジェル」の定義は、個人投資家・元ベンチャー経営者・複数企業への投資者・エンジェルと名乗っている・シード前の企業に対して投資している個人。
※出所:entrepedia (2017年10月11日基準)を元に著者作成
※2017年は上半期のデータ

個人的には、もっとメーカーなど伝統的な産業で活躍している人がエンジェル投資家になれば、たとえばIoTなどの起業家支援が生まれると思うんです。
今はネット界隈の人が圧倒的に多いですが、今後はもっといろんな業種のエンジェル投資家が出てきてほしいですね。
宮坂:同意です。私たちは既存産業のIT化を促す領域には積極的に投資していきたいので、もっといろいろな産業の出身者がエンジェル投資家になってほしいですね。
数年前からエンジェル投資家が増え、優秀な起業家は実績あるエンジェルを求める傾向にあります。応援団が増えれば事業の成功確率は上がるので、我々もいろんな領域のエンジェル投資家とご一緒したいですね。

投資家をもっと巻き込んでいい

──起業家は、どういう視点でエンジェル投資家を選ぶべきでしょうか。
小泉:エンジェル投資家も人なので、起業家と合う・合わないはあると思います。だから、直接話して違和感を持ったら起業家はストップすべき。違和感があるのに投資してもらっても、資本政策は後戻りできません。
それから、エンジェル投資家のキャラクターは、メディアで見ているものとは違うこともあります。本当はどんな人なのか、周囲に聞くのもおすすめです。起業家と投資家は対等な関係であることを、忘れないでほしいですね。
宮坂:最近、「この方はどうですか? 僕たちに合いますか? 悪いところも教えてください」と、起業家からエンジェルについて聞かれることが増えてきました。この傾向はとてもいいと思うので、どんどん聞いてほしいですね。
──多様性があるがゆえに、慎重に考えるべきなのですね。起業家にはエンジェル投資家をどう活用してほしいとお考えでしょうか。
小泉:投資先の若い起業家の中には、なにか悩みにぶつかっていても、「お忙しいと思って連絡しませんでした」と気を使って相談してこないケースがあります。でも、気を使ったために、時すでに遅し状態になってしまっては本末転倒です。
投資している以上、本気で成功してほしいと思っているのだから、うまく巻き込んでほしいですね。
宮坂:そうですね。エンジェル投資家は、得意分野でベストプラクティスを確立されている場合が多いので、悩んで勉強するより、聞けば圧倒的に早く、多くのヒントを得られます。
小泉:フェイスブックグループを作ってコミュニケーションを取る起業家もいます。僕らも、対面の時間を設定するより、オンラインの方が速いスピードで、カジュアルにアドバイスしたり、人を紹介したりできています。

エンジェルと出会うきっかけは

──小泉さんは若い起業家と、どこで出会うことが多いですか?
小泉:出会いはカンファレンス、VCからの紹介、もともとのつながり、この3パターンが多いです。なかでも知り合い経由が一番多いかもしれません。エンジェル投資家間での紹介もありますね。
ただ、もっと若手の経営者と知り合いたいので、カンファレンスで見かけたら突撃してきてほしいんです(笑)。
私は基本的にシャイなので、久しぶりに会う仲良いおじさんたちがいたら、その人たちと話してしまう。それが近寄りがたくしてしまっているのなら、気にせず声を掛けてほしいです。
それから、カンファレンス後によく聞くのは「誰がエンジェルかわからない」という声。いまエンジェル投資家じゃなくても、やりたいと思っている人は結構います。1、2分でいいので、どんどん突撃すべきだと思います。
宮坂:実は、僕らもエンジェル投資家たちともっと触れ合いたいんですよね。素晴らしい能力を持つ人がたくさんいらっしゃるので、多くの方と一緒にスタートアップを支援したいと思っています。
小泉:宮坂さんのいらっしゃるGMOグループは、多様性に富んだサービス、事業ドメインがありますよね。持っているソリューションが多いし、それぞれに違うスキルを持った人の集合体だから、エンジェル投資家としても組まない理由がありません。
宮坂:ありがとうございます。弊社とそれぞれに違うエンジェル投資家の強みを掛け算したいですね。私がカンファレンスで突撃したほうがいいですね(笑)。

エンジェルの増加が日本を変える

小泉:最近は、多様なビジネスで起業される方が多く、なかでもVCが入りにくい社会性の強いビジネスは、エンジェル投資家が向いていると思っています。たとえば、私は農業が好きなので農業系のベンチャーに投資していますが、VCは難しいですよね。
宮坂:そうなんです。エンジェル投資家は一人で判断し、時間軸はあまり気にする必要がないですが、VCの場合は、基本的には10年の満期でリターンを最大化します。
投資した時点から10年というわけではなく、4年経過していて残り6年や7年だったりもするので、あまりに先が読みにくい事業や、内容は素晴らしいけど事業の規模感が目線に合わない場合は判断がしにくいですね。
小泉:だからこそ、個人裁量で自由に投資できるエンジェルが増えたらいいなと思います。それも、いろんな領域で強みを持つ人が。
メルカリは会長の山田(進太郎)や役員にもエンジェル投資家がいます。お互いに情報交換をするから、投資家としても成長できるんですよね。それは、最短距離で走れるスタートアップを生むことにつながるはず。
今後は、マーケティング責任者や人事責任者がエンジェルになると、日本はすごく面白くなると思っています。
宮坂:VCにも何のバリューが出せるのかが求められています。本当に資金力のあるVCなのか、何かしら突出した強みを持つVCなのか。我々も意識的に事業経験や組織課題の解決に強みをもつチーム作りをしています。
小泉:起業家も、投資家を選ぶ理由が欲しいですからね。
宮坂:日本は、起業家にとっていい方向に変わっていると思います。
(編集:呉琢磨、構成:田村朋美、撮影:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)