上場記録から6年。村上太一が次に仕掛けるリアルデータエンジニアリング

2017/12/25
25歳で東証一部上場を果たし、「最年少上場社長」として知られるリブセンスの村上太一氏。「ただ稼ぐためだけに存在する事業には興味がない」と言い切り、慣習や歴史から生じた社会の「歪み」を最適化すべく、テクノロジーや時代の変化にあわせた、新しいサービスを創出し続けている。
あの最年少上場社長は、どのような理想を持ち、これからの10年でどのように会社を、サービスを育てていくのか。NP読者から集まった質問にも答える。

「あたりまえ」のためにまだまだ挑戦したい

私は小学生の頃から「起業したい」という気持ちを持っていました。
祖父はふたりとも経営者で、子ども心にかっこいいと感じていましたし、経営者は世の中に良い影響を与える存在だとも思っていました。また、幼い頃から周りの人に喜んでもらうことが好きだったので、人の役に立つ仕事がしたかった。
単に起業したい、収益性がほしい、ではなく、自分が理想とする新たな価値を世の中に提供したい。それはどんな事業なのか。そんな思いはずっと頭の中にありました。
そうやって考え出したアイディアで、早大のビジネスプランコンテストで優勝。設立したのがリブセンスです。
「リブセンス(生きる意味)」という社名は、「生きる意味=幸せになること」という考えにもとづきます。私たちは、サービスを利用したユーザーが幸せになることで、提供する私たち自身も幸せになることを目指しています。
リブセンスのコーポレートビジョンは「あたりまえを、発明しよう。」です。
起業当初から、世の中に大きなインパクトを与えるサービスを作りたいという考えは変わっていません。これまでになかったサービスを世に送り出し、その存在が多くの人にとってあたりまえになる。
それは市場の本質的な課題解決に繋がり、世の中の前進に寄与することにもなります。そうすれば、私が生きる意味や、リブセンスが存在する意義も感じられる。
私たちが最初に手掛けたバイト求人サイト「ジョブセンス」(現:マッハバイト)は、「成果報酬型」「祝い金」という、それまでバイト市場になかったビジネスモデルを「あたりまえ」にしました。
特に、掛け捨てリスクを背負えない中小企業や、少しでもお金が必要な若者にとって、大きな力になったと自負しています。でも、それに満足せず、求職者がもっと「あたりまえ」に使うサービスに育てたい。
「それなりに成功しているなら、いいんじゃないの」と思う人もいるかもしれませんが、私は「何か足りない」と考えてしまう性質なのです。理想としているサービス像とはまだ乖離があるし、もっと求職者のニーズを満たすサービスにしていける確信がある。
だから、これからの10年もやっぱり挑戦し続けたいんです。

蓄積された行動データでユーザー体験を向上

今、リブセンスとして注力したいのは「リアルデータエンジニアリング」です。これは私が作った造語で、「これまで手に入れることができなかったデータや、活用しきれていないデータを、革新的なユーザー体験に落とし込む」という意味。
ここでいう「リアル」には、「より正しい」「ネット上にはない」など、いくつかの意味が込められています。
ユーザーのリアルなデータを把握し、それをサービスに反映することは、今まで以上に重要になっていくでしょう。
たとえば、検索エンジンを実際に作ることは、それほど難しくはありません。ウェブサイトをクローリングして、アルゴリズムを作れば完成です。
ですが、「グーグルのようなサービスを作ろう」というのは不可能に近い。
グーグルはユーザーの動向を長年データとして蓄積しています。「このページを何秒見た」「このページのどこをクリックした」という情報を蓄積し、サービスに反映させることで、グーグルのサービス品質は他者とは比べ物にならないレベルへと高められているのです。
求人サイトでも同じことが言えます。営業の仕事を探している人が、検索ボックスに「営業」と入力した場合、次に「業界」で絞ってもらうのがいいのか、「地域」で絞ってもらうのがいいのか。どちらを表示するかで、ユーザー体験は変わります。
あるいは、その人の属性や過去の職歴から、「こんな仕事はどうですか」とレコメンドする機能が強化されれば、わざわざ検索をする手間がなくなるかもしれない。
一般的な求人サイトは掲載課金なので、採用まで追うことができませんが、私たちは成功報酬型ビジネスモデルだからこそ、ユーザーの求人検索から、採用決定までのすべてのプロセスを行動ログとして蓄積できます。
そのデータを活用すれば、オンラインの行動やユーザーの希望だけでなく、社会の実際のニーズやマッチングに基づいた、より本質的でリアルな最適化が可能となります。
「誰が調べていても、表示される情報は同じ」という求人サイトから脱却し、圧倒的なユーザー体験で優位性を築きたいのです。

必要とする人に、必要な情報を

「世の中には情報があふれている」と言われることがありますが、本当に役に立つ情報であふれているかというと、そうではない。
実際には「同じような情報がいっぱいある」という状況で、もっと質の高い自身のニーズに合った情報がほしいと感じている人は多いはずです。
たとえば、私たちが運営する不動産情報サイト「イエシル」では、ビッグデータと機械学習を利用したリアルタイム査定により、適正価格を判断し難い不動産業界で、中古マンションの部屋別の理論価格を提供しています。
さらに今年9月にリリースした不動産業者専用営業支援ツール「イエシルコネクト」は、「アジア航測」という航空測量事業を展開する企業と提携し、物件ごとに地震・洪水などの災害リスクを公開しています。
地盤情報のように、まだきちんとデータ化し活用されていない情報や、オンラインにない情報はたくさんあります。求人でいえば、クチコミなどはその代表格でしょう。
私は「ネットとリアルの分断を超える」と表現していますが、デジタルデータだけではない、自社だからこそ収集できるリアルデータをどうやってプロダクトに反映させていくかが、今後のリブセンスの突破口だと考えます。
創業から11年、東証一部への市場変更から5年が経ちますが、リブセンスが世の中に与えているインパクトはまだまだ小さいです。
今後、さらに「あたりまえ」を発明していくためには、「社会のこういう部分は間違ってる」とか「本当はこうあるべきじゃないか」と世の中に疑念を抱き、自らの手で改革したいという強い意思を持つ、新しい仲間も必要になります。
私たちが大事にしたいのは「周りの人が喜んでくれたときに喜びを感じる」ということ。それが新しいあたりまえを生み出す原動力になります。
テクノロジーの発達により、私たちのサービスはさらに面白く、便利で、多くの人に喜んでもらえるものになるはず。そんなサービスを一緒に作り、喜びを分かち合える仲間が増えてくれたらと思います。
(編集:大高志帆 構成:唐仁原俊博 撮影:加藤ゆき)