なぜエンジン屋のBMWが本気でEVに挑むのか。

2017/12/22
現在の企業経営において、「Sustainability(サスティナビリティ)=持続可能性」は大きな意味を持つ。しかしそれは、製品やサービスの提供によって利益を上げ続けるといった、企業側の論理からなる「サスティナビリティ」ではない。
重要視されているのは、企業がいかに環境や経済の問題に取り組み、持続可能な社会の構築へと貢献するかといった「サスティナビリティ」だ。
いち早くその重要性に気付き、活動を続けてきた企業がある。ドイツのプレミアム自動車メーカー、BMW社だ。そして、その哲学が具現化された一台がEVの『BMW i3』である。
今回は、再生可能エネルギー事業を手掛ける企業「レノバ」のCFO(最高財務責任者)でNewsPicksプロピッカーの森暁彦(Aki Mori)氏が、BMW JAPAN BMWiマーケティングマネージャーの秋友博道氏と対談。
『i3』を例に、BMWが掲げるサスティナビリティの理念や戦略について語ってもらった。
EVの普及は加速度的か
EVの『BMW i3』
──EVの普及についてお伺いします。
秋友:1903年のシカゴ、ほとんどが馬車です。実は1台だけ自動車が走っているんです。次にこの写真、1913年の同じ場所です。
■持続可能なモビリティに向けて
森:へー、逆になってますね。馬車は1台だけでしょうか。
秋友:たった10年間でこれだけの激変があったことをふまえれば、進化のスピードが速い現代なら、EVの普及も意外に早いのではないかと思ってしまいます。私どもは、2025年までに25車種の電動車両を投入します、そのうちEVは12車種の予定です。
しかし、BMWとしては全てがEVになるとも思っていません。残りの13車種は、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)を考えています。またBMW i3オンラインストアでの販売も来店時に発生するCO2削減につながる一つの取り組みですかね(笑)。
持続可能なモビリティに向けて
──BMWがサスティナビリティへと積極的に舵を切ったきっかけから教えていただけますか。
秋友:BMWは以前からサスティナビリティに積極的な会社でしたが、明文化したのは2007年に出した「Strategy Number ONE」という経営戦略にさかのぼります。自動車は誕生以来、大気汚染の一因になってきました。
いかに排ガスを少なくできるかという闘いの連続。その結果、「Strategy Number ONE」では、売り上げの話だけでなく、未来に向けた自動車メーカーの社会的責任や新しい市場の創造、そしてカスタマーのエクスペクテーション(期待)にどう応えるかが中心に。
そして、「Strategy Number ONE」を具現化する新モデルとして『i』シリーズの開発が始まりました。「地球温暖化などの環境の変化」「都市への人口集中」「米国カリフォルニア州や欧州などに代表される自動車政策の変化と規制」「化石燃料枯渇への懸念」「消費者の期待の変化」「サスティナビリティ」を開発背景としています。
森:2007年の段階でEVに踏み込んだのは、成熟した欧州ならではの観点だと感じます。いくつかの欧米諸国では2000年ごろには再生可能エネルギーの重要性がうたわれており、その土壌があったから、EVへのシフトも早かったのでしょう。
ドイツは電気の3割を再生可能エネルギーが賄っています。その国のカーメーカーがEVへ舵を切るのは自然だと思います。
「ウェルトゥホイール」の重要性
──現在、EVへのシフトは欧米だけに限らず、中国やインドも積極的です。この背景を教えてください。
森:各国が持つ思惑や狙いは微妙に異なっています。インドなどでは排ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)による大気汚染を解決する狙いがあるのでしょう。
また、強い自動車メーカーの無い中国は、内燃機関からモーターへと移行する自動車業界のパラダイムシフトを捉えて、優位な立場に立ちたいと思っています。北米はカリフォルニア州のZEV規制があるし、欧州各国はパリ協定を見ている。
ガソリンを使わないという意味では、EVはCO2削減において非常に有効です。ただし、EVを動かす電力が何で作られているかは重要なポイント。専門用語で「ウェルトゥホイール(Well to Wheel)」という言葉があります。
これは、井戸から車輪までという意味で、化石燃料を採掘してガソリンへと精製、給油して走行するといった一連の流れで発生するCO2を指しています。EVの場合、発電に火力発電など化石燃料を使っていたら、本質的なCO2削減にはなりません。
EVがCO2の観点からエコかどうかは、そこを見極める必要がある。例えば、フランスは原発、ノルウェーは水力発電、ドイツは風力・太陽光が中心の発電なので、EVの普及でCO2の削減が見込めるでしょう。
森:私は以前、 BMW の1シリーズに乗っていました。コンパクトカーながら、運転していてとても楽しいクルマでした。その時の印象から、BMWはエンジンにこだわりのあるメーカーだと強く感じていました。だからこそ、EVに踏み込むのは勇気が必要だったのではないですか。
秋友:エンジニア集団のBMWが電気自動車を手掛けることには、かなりの摩擦があったようです。市販化されたのは、開発から6年が経過した2013年でした。熟考を重ねただけあり『i』は非常に面白いブランドになったと思っています。
単にEVを作るわけではない
──『i3』は全くのゼロから作り上げたEVです。どういった特徴があるのでしょうか。
秋友:随所に「サスティナビリティ」の観点がちりばめられています。クルマの骨格にCFRP(カーボンファイバー強化樹脂)を使用し軽量化。車重約1300kgで燃費ならぬ高い電費を実現しています。
化石燃料を使って発電された電気を使う場合、電費がよいほうが環境には優しいです。内装では石油由来の繊維ではなく、麻の一種で栽培範囲が広くて短期間で収穫できるケナフの繊維やペットボトルから再生したプラスチックを使っています。
また、パネルには森林管理協議会認証の森の成長が早いユーカリ木材を使用。シートのレザーは廃棄物になるオリーブ葉から抽出したオイルでなめしています。最大95%がリサイクル可能な素材です。
CFRP軽量フレームは1300Kgで軽量
森:日本では、「エコ=クールじゃない」という感覚を持っている人がまだいます。本当はカッコいいんですけれども…。しかし、プレミアムブランドであるBMWが再生材などを使うことで、そのイメージを変えることができるかもしれない。BMWがサスティナビリティを打ち出したEVを手掛ける意味は大いにあると感じます。
内装にはケナフの繊維やペットボトルから再生したプラスチックを使用
──『i3』がサスティナビリティを意識して作られたということは、素材からもよく分かりました。製造する工場にもそのこだわりがあるのでしょうか?
秋友:そうですね、カーボンファイバー強化樹脂(CFRP)はアメリカで生産しています。シアトルの約300km東にあるモーゼスレイクの世界最大規模の水力発電所からの電力供給で、100%再生可能エネルギーを使って形成しています。
また、車体を組み立てるドイツ、ライプツィヒの工場でも風力発電の電力を使用しています。
森:工場での取り組みは成熟した欧米の思想と思います。すでにGoogleやゴールドマン・サックスなどは、自らが使う電気は100%再生可能エネルギーにしていくことをコミットしています。
グローバルのリーディング企業は、先進的できわめて高い社会性を意識して企業活動を行っています。BMWの取り組みも同じ思想を感じてリスペクトします。
ちなみに、風力発電は発電量をコントロールできずムラが生じます。工場での取り扱いは難しい部分もありそうですが、どういった工夫がされているのでしょうか。
秋友:ドイツの工場は風力発電で発電力が一定ではありません。そこで『i3』の車両での使用が終わったバッテリーを再利用し、蓄電をしておいて発電量が足りなくなったら工場へ給電するシステムになっています。
森:素晴らしいですね。再生可能エネルギーは、自然の力が源。使用電力や発電量の予測はできても、発電量を人類が完全にコントロールすることはできません。発電量のばらつきをEVで吸収するのは大きなテーマだと思います。
例えば将来、都市部に多数のEVが配備されることは、膨大な移動式の蓄電池が導入されることに等しい。住宅にはソーラーパネルが積まれていて、EVに電気をためる。必要があればEVから住宅に電気を戻す考え方ですね。
移動式の蓄電池が配備されると、未来のエネルギー問題が大きく解決するような気がします。
秋友:実は、一番電気代が安い時間帯に自動でEVの充電池を充電する「スマート・チャージング」システムを今開発中です。一斉充電を避けることで、供給過多を避ける仕組みです。
日本では未導入ですが、ドイツでは始まっていますね。また、森さんがおっしゃったように、蓄電池から住宅に電力を供給する実験も進んでいます。
プレミアム価値としてのEV
──多くの自動車メーカーがあるなか、BMWがサステイナブルなクルマ作りをやる意義をどのようにお考えですか。
森:EVを推進するために各国とも税金優遇などを行っています。今後10〜15年で新車販売の1〜2割をEVに置き換える国は増えると思います。そのときに、率先して購入するのはアーリーアダプターや環境への意識が高いアッパー層。
彼らは、サスティナブルな世の中を作っていきたいという気持ちを持っています。EVという新しい技術にお金を払うことは、よりよい新しい世界を作る参加費だと思っているのかもしれません。
プレミアムブランドであるBMWがEVを販売すれば、広範なアッパー層にアプローチできます。彼らに受け入れてもらうことで販売台数が増え、そして徐々に製造コストや価格が下がれば、より普及するでしょう。BMWの高いブランドイメージから「サスティナブルなEV=カッコイイ」という認識も生まれるのではないでしょうか。
秋友:ありがとうございます。去る12月5日の記者会見でBMW AG取締役会会長である、ハラルド・クルーガーはこう語っています。
「BMW i のストーリーは次のステージに入ります。今後は電気駆動を採用した全てのBMWモデルが、BMW i ブランドの下に置かれます。EVは、新たな顧客を引き付け『BMW i3』と『BMW i8』は新規のお客様が全体の8割を超えています。
興味深いことに一度でも電気駆動モデルを購入すると、そのモデルをリピート購入されます。我々は、『一度、電気駆動モデルにしてみる』ことをお客様に納得していただくことを目指します」
おかげさまで、今年は世界で10万台の電気駆動モデルの販売を目指し、達成することができました。現在、当社の電動駆動モデルが世界中で20万台走行しています。そのうち9万台以上はピュアEVの『i3』なのです。
そして、私が考えるBMWの意義は、自動車メーカーらしいEVをつくることです。BMWの創業は1916年。自動車メーカーとして100年の歴史があります。
実は、EVに関しても1976年のミュンヘンで、『1602 エレクトロ』でマラソンを伴走しています。その後も、1991年に『E1コンセプト』も手掛けている。当時から、社会や環境、安全に対しての責任を持っていました。
継承されるべきもの
──BMWらしさといえば、キャッチコピーにもなっている「駆けぬける歓び」に表れています。EVとはいえ、そこは譲れないということですか。
秋友:『i3』も「駆けぬける歓び」にあふれたクルマです。森さんには先ほど試乗していただいたのですが、いかがでしたか。
森:駐車場から公道に出るとき急な坂があったのですが、とにかくトルクがあって瞬発力もいい。少し踏み込むとGを感じるほど加速します。この加速感はスポーツカーにも劣らないと感じました。足回り、ハンドルが硬めなのもいいです。『i3』はEV ながらBMWらしさが出ています。
──『i3』には「ワンペダル・フィーリング」という革新的な走行体験があります。
秋友:『i3』は走行時にアクセルペダルから足を離すと強い回生ブレーキがかかるように設計されています。アクセルペダルの踏み込み量の調整で加速、停止ができるようにするためです。
アクセルペダルとブレーキペダルを踏み替える必要がなくなるので、運転時の疲労が格段に軽減されます。強力なエンジンブレーキといったところでしょうか。慣れれば、ブレーキを使わずに走行することができます。一定の減速があるとブレーキランプも点灯するので安心です。
森:「ワンペダル・フィーリング」は新感覚でした。最初は慣れませんでしたが、使いこなせれば運転しやすくて面白そう。ストップ・アンド・ゴーが多い都市部では、回生ブレーキによるエネルギーの回収をゲームのように楽しめそうです(笑)。
あと、都市部で多い車線変更も加速がいいのでスムーズ。サイズ的には都市にぴったりのクルマです。デザインも近未来的。エコだけどカッコイイというのが、都市部のアーリーアダプターやアッパー層に刺さりますね。
秋友:『 i3』では人口が集中していく都市の環境に配慮しました。都市部にぴったりだと感じてもらえて、うれしいです。
(取材・文:笹林 司 撮影:キムラ ミハル 編集:岩本 孝治郎)