経営者の悩み。IT人材不足を解消するには

2017/12/20
日本のあらゆる業界でエンジニアをはじめとしたIT人材の確保の難しさが問題になっている。一方、優秀なIT人材は起業やフリーランスの道を選択するケースが増えているが、ビジネスが軌道に乗るまでの資金繰りには課題を抱えている。その両者にとってメリットがあるマッチングを行い、急成長しているのがITプロパートナーズだ。
ITプロパートナーズのビジネスモデルによって、個人の働き方がいかに自由になり、成長ベンチャーがいかにスケールするか。現場の声から浮き彫りにしていく。

優秀なIT人材はどこにいるのか

日本のあらゆる業界で、エンジニアをはじめとしたIT人材の確保が課題になっている。
そもそも、エンジニアそのものの絶対数が足りない現状では、採用活動も激しい競争にならざるをえない。
経済産業省が2016年に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は現在約92万人で、約17万人が不足。今後はさらにエンジニアの需要が膨らみ、2020年には約37万人、2030年には約79万人が不足するとされている。
成長企業と優秀なIT人材、双方のニーズを解決するマッチングサービスを提供するITプロパートナーズ・木村直人社長は、IT・Web業界の求人メディア「Green」を主力とするアトラエの出身だ。
創業期から営業を担当し、数千社を回るなかで感じたのは、企業がいかに優秀な人材を求めているか、ということ。成長ベンチャー企業は、常に人材の募集をかけているが、それでも人は集まらない。
「優秀な人材は、大きく分けると3つの動き方をしています。
1つ目は、自分の周りの信頼できる人から声をかけられて転職するケース。この人たちは転職マーケットに出てきません。
2つ目は転職媒体や人材紹介、ヘッドハンティングなど通常の転職活動を行うケース。多くの企業がここで求人活動を行っていますが、採用の難易度は非常に高いです。
そして3つ目が、起業やフリーランスの道を選択するケース。この3つ目の人材が私の周りに増えてきていたこともあり、専門特化してこの人材を集めたらサービスになると思いました」(木村氏)
木村直人 ITプロパートナーズ代表取締役
早稲田大学卒業後、大手損害保険会社を経て、I&G Partners(現アトラエ)入社。成功報酬型求人サイト「Green」の立ち上げから関わり、仕組みを作る。その後人材系のベンチャー企業に参画し、取締役COOに就任。新規事業としてIT分野のプロフェッショナル人材を活用する「ITプロ事業」を立ち上げる。2015年4月から「ITプロ事業」を業務移管させる形で株式会社ITプロパートナーズを創業、代表取締役に就任。
恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を運営する株式会社エウレカも、創業期には人材の悩みを抱えていた。Pairsのリリースは2012年の後半だが、2013年のはじめにはITプロパートナーズを活用しはじめた。
創業者の赤坂優氏は、ITプロ(=ITプロパートナーズのIT人材)導入当時を振り返ってこう語る。
「その頃のエウレカは従業員数が30名ほど。ただし、受託開発に25名、Pairsチームは5名だけという状況でした。
Pairsのリリース後、日に日にユーザーが増えていく一方で、社内はインターンとして入社した若手メンバーばかりで、チームでの開発や大規模サービスの運営経験がまったくなかった。大手での経験があるITプロの方たちが入ってくれたおかげで、グッと安定感が出ましたよ」
赤坂優 エウレカ創業者、起業家、エンジェル投資家
イマージュ・ネットに入社後、ECサイトのメディア収益化、新規事業、アライアンスに従事。2009年10月にエウレカを設立し、代表取締役CEOに就任。12年、恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」をリリース。14年、カップル向けコミュニケーションアプリ「Couples」をリリース。16年9月、同社取締役顧問に就任。17年10月、同社取締役顧問を退任。現在、エンジェル投資家として国内外のスタートアップを支援・サポートしている。
ITプロの場合、人手が必要になってから、実際に作業に来てもらうまでの期間が短いことも魅力的だった。「金曜日に面接して、翌週の月曜日から勤務いただいたこともあります」とは、2013年にエウレカに入社し、CTOを経て、現在は代表取締役CEOを務める石橋準也氏だ。
ベンチャーには教育をする暇も余裕もない。だから、入社後すぐにパフォーマンスを出せる人がほしい。しかし、IT人材の採用市場が過熱する中、採用したいと思える優秀な人材に巡り合えるのには時間がかかるし、いざ入社が決まったとしても、入社まで数カ月かかってしまうことがほとんど。
ITプロパートナーズのマッチングサービスは、確実にベンチャー経営者の悩みを解決しているのだ。

独立したIT人材が最初に突き当たる「お金」という壁

サービスを開始すると、企業からだけでなく、個人の応募も殺到した。確実にニーズがあると考えていた木村氏も、その反響の大きさには驚いたという。
企業の反応は想定通りだが、なぜ「引く手あまた」なはずの優秀なIT人材がITプロパートナーズに集まったのだろうか。
「独立した多くの人が、自分たちでWebサービスを立ち上げたいと思っています。ただし、Webサービスは開発に時間とコストがかかる。
資金調達をするケースを除けば、実現したいサービスの開発にフルコミットすると、自分の貯金がなくなるまでが勝負。貯金が尽きたらゲームオーバーです。
優秀なIT人材がそんな『賭け』をしなくてすむよう、彼らのやりたいことと、生きていくために必要な資金を稼ぐことのバランスをとれるようにしたいんです。
そのために、『ITプロ』として彼らを企業に送り込み、週のうち2〜3日は『お金を稼ぐために』企業で働き、残りの日を自分のやりたいことに費やしてもらう。企業だけでなく、独立直後のIT人材の課題も解決するのがITプロパートナーズのビジネスモデルです」(木村氏)
石橋準也 エウレカ代表取締役CEO
東京理科大学入学と同時に、Webシステムの受託開発会社に入社。学部2年時に当時専攻していた建築よりもITの方が面白いと考え、大学を中退。以降エンジニアリングに専念し業務を行うかたわら、個人でもWebシステムの開発案件を請け負う。2013年、エウレカ入社。2014年7月、執行役員CTOに就任。2016年3月、取締役COO兼CTO就任。2016年9月、代表取締役CEOに就任。
従来の人材派遣と比べると、「ITプロ」の報酬は高額だ。しかし、起業や独立を志した以上、当然ながら彼らの能力は高い。
週2〜3日でも、能力の高い人材を集めたい企業側と、一般的な会社勤めでは不可能な時間の確保を優先したい「ITプロ」のニーズが一致した結果と言えるだろう。
とはいえ、特にスタートアップで働くには、何よりコミットメントが欠かせない。導入前には「外部の人が入ってきても大丈夫なのか」と若干の抵抗もあったと赤坂氏は語る。しかし、その不安はすぐに払拭されたという。
「起業の準備フェーズの方もいるので、技術力だけでなく、視座も高いんです。ベンチャーでは、昨日言ったことが、今日変わることも日常茶飯事。それでも戦略の方向性にどんどんアダプトしてもらえる。
そういったマインドを最初から持っていることが、ITプロと一般的な派遣の方の大きく異なる部分ですね」(石橋氏)

「成長ベンチャー」での経験が個人を成長させる

双方にとってより良い結果を出すためには、企業の従業員と「ITプロ」がどのようにかかわるかということも重要だ。
サイバーエージェントを経て独立し、スタートアップのCTO退任後、ITプロとしても活動する染谷洋平さんは、企業の受け入れ体制や従業員の姿勢がモチベーションに影響を及ぼしたと話す。
染谷洋平
東京大学獣医学課程を卒業後、株式会社サイバーエージェントでインターネット広告事業に携わる。入社3年目にして「自らの手でものづくりをしたい」という思いが強まり、エンジニアに転向。2015年には、シェアリングエコノミー関連の新しいサービスにチャレンジするベンチャー企業にCTOとして参画した。現在は別サービスの新規立ち上げの傍ら、ITプロとして週3日ほど勤務している。
「いくらスポットで入るといっても、『これだけお願い!』と作業を依頼されるだけだと、お互いうまくいかないでしょうね。
僕が働いた環境では、チームのほかの人たちと密なコミュニケーションが取れたし、一緒にサービスを作っていくという感触がありました。だから、収入面はもちろんのこと、楽しみながら仕事ができたんです」(染谷氏)
赤坂氏は、スタートアップでの経験がITプロにとってもメリットがあるのではないかと分析する。
「社員のモチベーションや働き方を見ることで、伸びるサービスがどんな環境で作られているかがわかる。僕たちは社員とITプロとの間に垣根を作らず、全社会や打ち上げなどの社内行事にも参加してもらいます。
そういった場を通して、組織の勢いや空気を肌で感じることも、これから自分でサービスを立ち上げようとする人にとって、とても有意義なのではないでしょうか」

従来とは違う働き方で新しい仕事文化をつくる

さまざまな企業サイトのUI/UX改善を手がける株式会社Kaizen PlatformもITプロを活用している。代表取締役の須藤憲司氏は、その魅力をこう語る。
「Kaizen Platformは『21世紀の新しい働き方と雇用の創出』というビジョンを掲げ、さまざまな働き方を受容し、協働していくスタイル。ビジョンに共感して、一緒に最高のパフォーマンスをあげてもらえれば、契約形態や働き方、働く場所は問わないので、最初からITプロを受け入れることに抵抗はありませんでした。
彼らの参画後、すぐにプロダクト開発が前進し、現在このように事業が成長しているという実績が、ITプロ活用のメリットを表していると思います。
また、稼働時間が比較的柔軟な方など、事前に当社との相性を加味してもらえるのも、ITプロパートナーズの魅力。
ここには、忙しい中でも自立的・自発的に業務に当たれる人材がいる。働くスタイルや雇用契約における制限をなくして、こういったサービスはどんどん活用するべきだと思います」
須藤憲司 Kaizen Platform CEO
早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げ、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。現在はサンフランシスコと東京の2拠点で事業を展開。すでに大手企業250社、40カ国3000アカウントの利用がある。

このように、企業からもITプロからも支持されるITプロパートナーズは、「自立した人材を増やし、新しい仕事文化をつくる」という大きなビジョンを掲げている。
企業側のニーズを満たすことはもちろんだが、フォーカスしているのは、あくまでも将来の個人の在り方や、社会の在り方だ。
「ITプロパートナーズには、毎月500人以上の応募があります。それだけ多くの人が、従来とは違う働き方を模索しているということです。
自立した優秀な人材が増えれば、より幸せに生きられる人が増える。グンと成長したいタイミングで優秀な人材がほしいという企業と、自立したい人材のマッチングによって、よりよい仕事文化をつくり上げていきたいですね」(木村氏)
(編集:大高志帆 構成:唐仁原俊博 撮影:小池彩子、加藤ゆき)