労働時間は不問。時代は、強みを活かす「スマートキャリア」へ

2017/12/14
働き方改革でよく話題に上る「残業時間削減」だが、それでは本質的な改革につながらない。一人ひとりが自由度高く、ライフステージに合った働き方で、より強みを発揮するにはどうすれば良いのか。最先端の人事改革で、「強みを活かす」働き方を実現させているサイバーエージェント取締役・人事統括の曽山哲人氏と、短時間勤務のハイキャリア派遣を中心に、働き方の新しいスタンダードを提供するビースタイル会長の三原邦彦氏が働き方改革の本質について語る。
顧客理解と知性が質の高い仕事につながる
──「残業を減らす」などの施策にとどまり、言葉だけが先行している感のある「働き方改革」ですが、本質的な改革を進めている好事例を教えてください。
曽山:最近、労働の質を高めるために、企業の経営者が率先して「捨てる」を選択する傾向が多くあり、とてもいいと思っています。
サイバーエージェントでも「捨てる会議」で、今まではうまくいっていたけど時間が経って効果が薄くなった制度や取り組みをいったんやめて、何が本当に必要かを議論しています。
もうひとつ、社員が困っている業務、たとえば「この仕事の待ち時間が長くて無駄」などを紙に書き出し、上司と一緒に不要なものを捨てていく「棚卸し会議」も年に2回実施しています。
三原:成果が出る仕事は何かを常に考えて、質を高めていくのが重要な時代ですよね。
曽山:そうなんです。この会議でよく聞こえてくるのが、「え!? そんなことやっていたの?」と驚く上司の声。会議後にアンケートを取ると、9割が「業務改善できた」「業務改善できそうだ」と回答します。無駄な仕事が減るぶん、社員の表情はイキイキとしますね。
また、裁量権を若手に渡すのも、働き方改革のひとつの形だと思います。
たとえば、スマホ領域で新規事業を立ち上げる場合、40代の経営陣が社長になっても、20代の社会人1年目が社長になっても、素人であることは変わりません。それなら、より利用している若手に任せたほうがいい。サイバーエージェントはそういう考えなので、子会社の社長は若手ばかりです。
三原:本人がユーザーなら、事業が成功する可能性は高まりますよね。
「顧客理解」という点では、先日、ヤフーの人事部門へお伺いしたとき「社員全員の『普段の生活』を良くしたい」と発言されていました。日常生活での疑問がそのままサービスにつながるのに、仕事ばかりだと普段の生活ができない、と。
単純に残業時間を減らすことだけにフォーカスされがちですが、普段の生活を良くして、残業していた時間を勉強に充て、人に会うことで、知性が磨かれ顧客理解につながります。
だから弊社では、社員に本をたくさん読んでもらうために、読み終わった本は定価の8割で買い取り、社内に設けた図書館に置いて貸し出しています。同じベストセラー本があふれることもありますが(笑)。
GEPPOと社内転職で、精神的な働き方改革
──サイバーエージェントでは、社員の「強みを活かす」マネジメントを行っているそうですね。働き方についての具体的な取り組みを教えてください。
曽山:キーワードは「自然体で働いてもらう」ことです。たとえば、ある女性執行役員は、サービス企画やプロデューサーとしての能力は抜群に高いヒットメーカーだけど、メンバーの評価や面談は大の苦手。そこで、評価や面談を手伝うマネジャーをつけたところ、彼女のプロデューサーとしてのパフォーマンスがさらに向上したのです。
三原:個別性をとても大切にしているんですね。
曽山:その通りです。これを全員に適用するために、月に1回、全社アンケート「GEPPO」を実施しています。これは、3つの質問に答える5分程度のアンケートで、回答は役員と社内ヘッドハンターしか見られません。
1問目は、「先月の成果」について。晴れから雨までの5段階で評価してもらうのですが、2013年から実施しているので、個人の才能の発揮度合いの推移は一目瞭然です。
2問目は、「過重の労働がないか」。フリースペースに業務負荷の状況を数字で表現してもらうのですが、面白いことに100点満点とは言っていないのに、大半の人が70と書くんですよね。でも、重要なのは70のマジョリティ以外で、2や1500と書く人。
理由を聞きにいくと、2と書いた人は「プロジェクトが終わって、すごくヒマです」と言い、1500と書いた人は「人が抜けてしまって、尋常じゃないくらい大変です」と言う。自由な数字を書いてもらうことで、一人ひとりのアラートがわかりやすくなりました。
3問目は、相談があれば書いてもらうフリースペース。毎月、約3000人分のデータに私と社内ヘッドハンターで目を通し、気になる人にはメッセージを送ってアプローチしています。
三原:それはすごい。ストレスを軽減した状態で仕事に挑んでもらうのは重要ですし、メンバーの状況が会社にちゃんと上がってくる仕組みを作られていることが素晴らしいです。
曽山:ありがとうございます。
このGEPPOの結果は「インターナルレイバーマーケット」にも使われています。これは、「部署資産」になりがちな人材を「全社資産化」する取り組み。サイバーエージェントにはグループ会社が約100社あり、事業もたくさんありますが、これによって部門を超えた年間200件ほどの転職が成立しています。
自然体で働いてもらうための、いわば「精神的な働き方改革」も、非常に重要だと考えています。
年間1万6000人、共働きママの雇用を創出
──ビースタイルは、女性活躍推進が叫ばれる10年以上前から、「働きたいけど働く場がないママ」が短時間・短日数で働ける場をつくり、企業へ派遣・紹介してきました。企業側の考え方に変化を感じますか。
三原:創業時から、働く意欲の高いママは多くいました。この数年で、企業側も大手や外資、中小ベンチャーまで「時短で働く優秀な女性を活用すべき」と考え方が変わってきたと思います。
現在、女性のシングルワーカー(独身者)は全体の27%ですが、今後、その多くに結婚や出産、介護など、生活スタイルの変化が発生することを考えれば、働き方も変わるのは必然です。
これから先、全国で若年労働者が減るのも周知の事実。2026年には65歳以上の割合が3人に1人になりますし、3年後の2020年には、女性の2人に1人が50歳以上になる。
しかも、今後10年間で雇用総数が増えるのは、45歳から55歳の女性のみ。男性の雇用総数は全年齢で減り、女性もそれ以外の年齢層は減ると言われています。
企業は、幅広い年代の女性を活用しないと絶対に生き残れないんですよね。
曽山:その数字のインパクトは大きいですね。今、ビースタイルではどれくらいの雇用を生み出しているのですか?
三原:年間で約1万6000人、その95%が共働きのママたちです。
曽山:それはすごいですね! 実は弊社にもママ社員が150人いて、そのうち120人が産休・育休後に復帰済みで、30人が現在、産休・育休中です。復帰率は96%です。
その人がママであるというのは論点ではなくて、「この人がいないと困る」と思われる能力があるから、産休前には「絶対に戻ってきて!」と事業部長から懇願されるんです。もちろん、戻ったら大歓迎されています。
三原:ママかどうかではなく、一人のビジネスパーソンとしてのキャリアを重視する。その当たり前の考え方がもっと浸透するといいですね。
「スマートキャリア」という新しい概念を浸透させたい
──お二人は、本質的な働き方改革によって、どのような組織・社会を目指していくのでしょうか。
三原:男性も女性もワークとライフのバランスを保ちながら、ライフスタイルに応じた賢い働き方ができる社会をつくりたいです。これを「スマートキャリア」という言葉にして提唱したい。
今の世の中は、出産や介護のために短時間勤務や残業なしで働くことに対して、ネガティブな印象があります。たとえば、企業側はよかれと思ってアシスタント的なポジションを用意したり、責任の軽い仕事を渡したりしますが、働く側にとってそれはうれしいことではありません。周りの同僚が気を使ってしまうケースもあるでしょう。
本来、仕事は労働時間ではなく成果で評価すべきだと思うのです。
曽山:おっしゃる通りです。短時間勤務は「フルタイムじゃないから異質だ」と思われがちですが、「スマートだ」「イケてる働き方だ」と、定義を変えられれば、世の中も変わりますね。
三原:残業はせず、働く時間も短いのに成果が積み上がるとしたら、それは会社にとっても本人にとっても良いことでしかありません。そもそも、スキルや経験を持つ人を、時間に制約があるだけで、アシスタントとして限定することがおかしいんです。
曽山:サイバーエージェントは、10人いる執行役員のうち3人が女性で、1人は時短役員です。こういう事例が増えるといいですよね。
今後弊社は、ベンチャーキャピタルの人材版「タレントキャピタル」という仕組みづくりに取り組んでいきたいと考えています。才能をみつけて、それを一番発揮できる場所に配置する。採用と配置後の断絶をなくすことで、これから多くの企業ではじまるであろう「人材の才能開花競争」を勝ち抜いていきたいですね。
三原:それはいいですね。時間的制約のある人にとって、A社ではアシスタントのような仕事、B社なら第一線で実力を発揮できる仕事となれば、B社に集まるのは必然。企業は戦略に応じて必要な人材を採用し、働き手の経験やスキルという資産を活かすことが大切です。
ビースタイルはスマートキャリアを通じて、横にキャリアステップできるようなマーケットをつくり、働き方はフレキシブルにしていきたいと考えています。
そうすれば、会社の中で出世する「縦型」のキャリアを進まなくても収入を増やせるようになる。専門スキルを伸ばし、複数の会社で活躍したい人も増えていますから。
より自分らしく、幸せに生きられる社会になれば、こんなに素晴らしいことはないと思っています。
(取材・文:田村朋美、撮影:岡村大輔、編集:大高志帆)