ミチオ・カク、ケヴィン・ケリーが語る100年後の未来

2017/12/12
国内外の有識者が集い、今後の技術の発展を踏まえながら「実現すべき未来像」と「解決すべき課題」、そして「その解決方法」を構想する「NEC未来創造会議」の活動報告会が11月10日、有楽町の東京国際フォーラムで開催された。当日は、ニューヨーク市立大学教授で世界的理論物理学者であるミチオ・カク氏と、「WIRED」誌創刊編集長として長年、サイバーカルチャーを最前線で見守ってきたケヴィン・ ケリー氏が基調講演を行い、両氏による未来への提言に多くの聴衆が耳を傾けた。

「次の100年」に備えて〜ミチオ・カク氏

物理学のみならず、未来論の啓蒙活動でも知られるミチオ・カク氏は、「次の100年」と題して講演。AI、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーの革命が、世界にどのようなインパクトをもたらし、生活をどのように変えるのかについて熱く語った。
「次の100年」に世界がどのようになっているのか。私は物理学者で、占い師ではありません。しかし、占い師ではなくとも、科学者が実験室の中で作り出している未来について聞かせてもらうことはできます。私は、世界中の一流科学者300人にインタビューし、ノーベル賞受賞者などに「未来はどうなっているのか」を聞きました。

1900年から見た現代

2100年を理解するためには、今から100年前の1900年を理解しなければいけません。当時の人の寿命はだいたい40歳くらい。ある医師は日記の中で、「薬のうち効果があるのは2つだけだ」と書きました。ひとつは、ノコギリ。病に侵されている腕や足をノコギリで切り落としていたのです。もうひとつは、モルヒネやオピオイドなど、腕や足を切り落とす際に痛みを忘れさせる薬です。1900年は、そんな時代でした。
その頃の人たちが今の私たちの生活を見たら、どう思うでしょうか。まるで私たちを魔術師であるかのように思うでしょう。私たちは人工衛星を宇宙に送り出すことも、インターネットを使って世界中の人と瞬時にコミュニケーションを取ることも、超音波の速度で動くこともできます。
そこに至るまでには、蒸気機関や電気の発明があり、20世紀後半になってコンピューター革命がありました。

第四の革命の波の到来

そして今、第四の波として、AI、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーの革命が起こっています。
まず次の20年に、AIの産業は自動車産業を凌ぐ規模になります。設計や製造、修理、メンテナンス、点検といったロボットの作業が、経済の大部分を占めるようになる。最初の頃は汚くて、つまらなくて、危険な仕事だけをロボットが行いますが、そのうち皆さんが乗っている自動車もロボットになり、命令すれば駐車するようになるはずです。
さらには、人間同士で話している時にも、AIが融合した世界になります。未来の世界では、インターネットをコンタクトレンズの中に仕込んで、瞬きをすればオンラインの中に行けるようになるでしょう。誰かと話す時には、その人のプロフィールと画像が一緒に出てきて、相手が喋る言語も好きな言語に自動的に翻訳してくれます。
これはすでに発表されたことですが、AIを使って脳のスキャン画像を分析し、誰がアルツハイマーになるのか予測できます。加えて今後は、アルツハイマーに誰がなるのか、90%の正確さで予測ができるようにしたいとのことです。
さらに、知能のあるロボットの医者が腕時計の中などにいて、いつでも話すことができるようになります。また、年配の人と若い人の遺伝子を分析することによって、老化や加齢のメカニズムもわかってくるようになるはずです。今後、医療は革命的な変化を遂げるでしょう。

人間がギリシャ神話の神になる

もし、みなさんがご自身の孫に会うことがあったら、その孫のことをどう思うでしょうか。1900年の人たちは私たちのことを魔術師と思いますが、私たちは2100年に生きる孫たちのことを神様のように思うかもしれません。
ギリシャ神話のビーナスは完全な肉体を持っていました。そして、不死身です。医療は今、その方向に進んでいます。すべてではないにしても、ほとんどの病気を治せるようになり、人間は不死身を目指すようになります。加齢のプロセスの裏にある遺伝子についての理解が進むでしょう。
孫たちは永遠に生きることはできないかもしれませんが、もし30歳という年齢が気に入れば、何十年も30歳のままでいられるかもしれません。ビーナスは完璧な肉体を持っていましたが、今や人間も自分の細胞を使って、そこからさまざまな人体のパーツを作ることができます。そうすれば、拒絶反応に悩むこともありません。

デジタルな不死身への可能性

さらに、ビーナスと違って、我々はデジタルな不死身になることも可能かもしれない。すでに人についてのあらゆる情報をデジタル化することができます。ビデオやウェブサイト、クレジットカードの情報など、その人に関する情報をデジタル化し、その人物を表したホログラムを作ることができるようになるでしょう。
そこに、人間の脳をマッピングしたものを繋ぐことができれば、デジタルの複製が不死身の存在になります。それが、未来の図書館、魂の図書館になる。そうした未来の図書館に我々はチャーチルの本を読みに行くのではなく、チャーチルと話をしにいくことになるでしょう。
未来の私たちは、人間の脳をコンピューターに繋ぐことができるので、テレパシーで会話ができるようになると思います。未来のインターネットはブレインネットです。ブレインネットを経由して、感情や気持ち、五感の感覚を送ることができます。
アーティストであれば、デザインや建築物を思い浮かべるだけで、3Dのプリンタを通して実際のプロダクトが作られるようになります。デザインの過程が劇的に変化するのです。ゼウスのように、あらゆる願いを叶えることができるようになるかもしれません。
輸送の革命が起こり、超音速輸送機ができれば、12時間かかっていた東京からニューヨークまでの道程を、3時間で行き来ができるようになります。さらに、いずれ人類は火星に行くことになるでしょう。すでにいくつかのグループが関心を寄せています。

ソロモンの知恵で神の力を使いこなす

この先、何十年もロボットは新しい富をもたらしてくれます。しかし、今世紀の終わりには、心配するべき事態が起こるかもしれません。ロボットが自意識を持つようになるかもしれないのです。そうなったら危険です。ロボットが危険な思想を持つようになったら、シャットダウンできるようにしなければいけない。
私たちは神のような力を持つようになりつつありますが、欠けているものもある。私たちが神のような力を持つのであれば、聖書に出てくるソロモンのような知恵を持たなければいけません。
その知恵は、民主的な議論から生まれるものです。神のような力を持つ技術を人類のために使われるようにし、そして我々が公平に繁栄を享受できるように、あらゆる発明がよりよい社会のために使われるようにしなければいけません。平等でチャンスと繁栄をもたらす社会にしなければいけません。
以上です。ありがとうございました。

没入型コンピューターの時代〜ケヴィン・ケリー氏

続いて、日本でもベストセラーになった『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』の著者でもあるケヴィン・ ケリー氏が講演した。30年以上にわたってサイバーカルチャーの論客として活躍するケリー氏が見据える未来とは?

10〜20年後のプラットフォームの姿

「次」はどうなるかということを、皆さんは知りたいと思っていることでしょう。私がこれから話す世界は、100年先ではなく、10年か20年くらい先のことです。
我々は新しいプラットフォームを作り、そのうえで人生を経験していくことになります。そのプラットフォームとは、主に電子的なものになると思っています。この新しいプラットフォームは、コンピューターの3つめの段階だと言えるでしょう。
まずは1950年代からデスクトップ型のコンピューターが出てきました。そうしたコンピューターがお互い接続され、ウェブの時代となります。今もなおその時代が続いていますね。
しかしこの先は、没入型コンピューターの時代となります。常に周りでコンピューターの演算処理が行われ、私たちがコンピューターの中にいる状態になるでしょう。私たちの暮らしはAIやコンピューター処理に囲まれ、環境がよりスマートなものになる。この世界では、私たちはすべてのものに繋がります。
「クラウド」と言えば、デジタルサーバーが設置される大きな施設を想像するかもしれません。しかし、未来のクラウドは、皆さんの携帯電話だけではなく、周りにあるものまですべてがクラウド環境の一部になります。中央ではなく、辺境のエッジの部分で作業が行われます。IoTと非常に似ている発想です。
すべてのものに認知能力があって、命を持っているというようなイメージです。その中には自動車も含まれています。街の中を動く交通や自動車もまた、この環境の一員になるのです。

未来の覇者になる企業は?

こういった没入型のコンピューターのプラットフォームには、7つのポイントがあります。
一つめのポイントは、「スケール」。今までのコンピューターの接続や計算、コラボレーションといった規模感がまったく違う次元になります。どれほどの情報量になるのかは、今はまだ単位さえない状態です。
これだけビットの世界が巨大になると、いろいろな新しいものを生む可能性が出てきます。我々が持っているデバイスに搭載されたすべてのトランジスタやチップが繋がっていることを想像してください。世界的な巨大コンピューターのようなものが、誕生することでしょう。100万人の人が、巨大なコンピューターで一つのプロジェクトに従事することが可能になります。
二つめは、「トラッキング」、つまり追跡です。新しい世界では、多くの追跡がなされます。私たち自身、あるいは友人を追跡することもありますし、会社にトラッキングされることもあるでしょう。我々のすべての動作や感情がアバターに入力されます。
そうした世界では、VRの企業が最大の企業になると予想します。なぜなら、彼らが豊富にデータを持っているからです。私たちの時代のはデータになります。

フォードとテスラの違いは何か

端的な例を一つ紹介します。フォードは1億台の自動車を作り、時価総額は44億ドルです。一方、テスラは18万 6000台しか作っていませんが、時価総額は51億ドルになります。なぜ、そうなったのでしょうか。
フォードはたくさんの自動車を作ってきましたが、個々人のドライバーがどのように使っているのかなどの情報は、ほとんど持っていません。ところが、テスラは、13億マイルほどのデータを持っています。つまり、テスラの自動車は車輪のついたコンピューターなのです。
データを他のデータに繋げると、ネットワーク的な効果が見られ、加速度的にその価値が上がります。AIにも同じような効果が期待できます。使う人が増えれば、より性能が上がり、そうなればユーザーがますます増えるというサイクルが動くでしょう。
三つめが、「アクセス」です。私は、もう映画や音楽を買うのをやめました。好きな時に、好きな映画を見たりできるので、買う必要はないからです。「所有」するのではなく、「アクセス可能」にするということが、デジタルだけではなく、リアルの世界にも起こっています。
ウーバーなどもそうですし、ドローンで欲しいものがすぐに手に入るということになれば、あえて「所有」にこだわる必要はないわけです。さらに欲しいものを、すぐに3Dプリンタで製造できるようになるかもしれない。

ビジュアルが重視される時代へ

四つめは、「ビジュアル」です。私たちは、本を読む人々だったわけですが、今ではスクリーンを眺める人々になりました。スクリーンがすべての文化の中心にあります。そして、すでにウェブへのトラフィックの75%は、ビジュアル的なものです。
しかし、ビジュアルのサーチはまだ完璧ではありません。例えば、映画の中の場面をサーチすることはできませんし、ハイパーリンクもありません。サマリーを作ることも難しい。本やテキストなどのツールが生まれてきましたが、そのビジュアル版はまだないわけです。
ですが、新しいプラットフォームではそれが大切になってきます。グーテンベルクが文章を印刷機にかけたように、今度は新しいプラットフォームの中でビジュアル的なものにそれに当たるツールを作らなければいけません。また、ビジュアルなものとも、体を使ったインタラクションが可能になるでしょう。

体験の価値が高い「体験経済」へシフト

五つめは、「エクスペリエンス」です。今、体験に大きなシフトが起こっています。私たちがVRのゴーグルをつけて機械の中に入ると、実際にその世界に没入することができます。VRは、私たちにとって「見た」という記憶ではなく、「体験した」という気持ちになるわけです。
つまり、インターネットは情報の場ではなく、体験の場になってきます。体験をダウンロードして、共有するということになります。
例えば、コーヒー豆はコモディティでした。それがコーヒー飲料という商品になり、お店で飲むというサービスになり、そして今度は体験ということになります。コーヒーを作っているプランテーションも体験できるようになるかもしれません。
体験そのものが、一番価格が高くなっていきます。経済は「体験経済」へとシフトしていきます。そして究極的な体験は、ほかの人たちと関わることです。ですから、VRはソーシャルメディアのなかで、最も社交的な場になると、私は予想しています。
六つめは、「ピアーズ」。仲間たちです。通信塔などを通さず、携帯電話同士のピアツーピアのやり取りが活発になるでしょう。となると、どうセキュリティを確保するのか。どこかで権威者が確保するのでなければ、どのようにすればいいのか。
また、分散型のネットワークでアイデンティティをどのように確保するのか。政府などが、あなたがあなたであると確認してくれないとしたら、どのようにすればいいのか。あるいは、ブロックチェーンのように権威や信頼そのものも分散型にできるでしょうか。新しいプラットフォームのなかで、それらが形作られていくはずです。

2017年の今、スタートを切ろう

そして最後は、「コンバージェンス」。収束です。これは文化的な側面です。マズローは欲求5段階説を唱えました。食べ物、水、住居などを求める生理的欲求から始まり、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求とだんだんと高次の欲求が出てきます。私は、この欲求ピラミッドの下層に、Wi-Fiの階層が必要だと考えています。
欲求の低い段階では、これからコンバージェンスが進むでしょう。つまり、みんなが同じものに向かい、同じものを欲するようになる。一方、高次のレベルでは、ダイバージェンスが起こっています。求めるものが違ってきているのです。
私たちが願うこと、それがどんどん分かれていきます。しかし、基本的なニーズの部分では収束し、世界中で同じようなものが求められていく流れが、これから進むでしょう。
25年後に、今を振り返ったらどう思うでしょうか。きっと、「あそこからスタートしたんだ」と思うことでしょう。
2017年は、とても画期的な年だったと思うはずです。今が絶好のチャンスなんです。今こそ、何かを始めるのにはベストなタイミングです。後れをとっているわけではありません。本日はありがとうございました。
(文:宮崎智之 撮影:小沢朋範  編集:久川桃子、工藤千秋)