AIは消費者の味方になりうるか

2017/12/7

価格変動を前提として

今、われわれ消費者の見えないところで進んでいるAI化は「小売価格設定」の分野である。
小売価格が変動するのはアメリカでは当たり前のことになっている。需要によって値段が上下する航空券がいい例だ。同じエコノミー席に座っていても、隣の乗客の航空券が私の2分の1の値段だったなどということもよくある。
首尾よく何カ月も前に購入していれば値段が安いが、バタバタとギリギリになってから買う羽目になれば、残り少ない座席を他の人々と取り合うので、その分高くなってしまう。
同様のことは、ホテルの宿泊料にも言えるし、レンタカーの料金にも見られる。また、スーパーの野菜が季節や収穫量によって上下するのは、日本でも同じ。そして、ガソリンスタンドでの料金が毎日異なっているのも、原油価格の変動に影響を受けた結果だ。
こうした価格変動は、需要や供給量、原価、天候変動などのデータを元に細かく算出されて値段付けされる、「ダイナミック・プライシング」と呼ばれる方法によるものだ。ある意味では、「仕方がない」と納得せざるを得ないものがある。

AI を価格設定に利用

ところが、ここにAIが絡んでくるとことはもっとややこしくなり、場合によってはどうにも納得できないケースも出てくるかもしれないのだ。
AI を価格設定に利用するためのソフトウェアを開発している会社は、アメリカやヨーロッパにすでに何社もあるようだ。
「ダイナミック・プライシング」に代わって、これらのソフトウェアは、「プライス・オプティマイゼーション(価格最適化)」とか「プライス・パーソナライゼーション(価格の個人化)」などと呼ばれる機能に関わっている。
今ひとつその働きに納得がいかない場合は、「プライス・ディスクリミネーション(価格の差別化)」と呼ぶこともある。
価格設定に関わるAIは、これまでにない精度で価格の上下判断を行う。
例えば、コンピューターや大型テレビスクリーンの購入を考えているとしよう。オンラインショップをいろいろ見て回るわけだが、AIにはそこで何をサーチしたかがわかるだろう。
すでに表示価格は、競合ショップよりも同じか安く設定されているとして、AI は、そのユーザーのこれまでの購入履歴を知っているし、購入の際にどんな癖があるのかも知っている。
またビッグデータを利用すれば、このユーザーに似た客層がどのくらいの値段で同じ製品を買ったのかとか、同じ所得層がこの製品にどんな関心を示しているのかといったこともわかるだろう。
人間の手や頭ではとうてい把握することができないそうした無数のデータを学習して、AIはその特定の客に合った価格を表示するのだ。
「ほんの少し安くすれば買いそう」と判断すれば、10%の割引クーポンがメールボックスに送られてくるかもしれない。「買わせる」ためのしくみをより巧みに探るのだ。
こういったディスカウント率も、今後AIが操作することになるのだろうか

プロダクト・バージョニングという機能

安くなればいいが、反対に高くなることもある。オプション機能が付加できるような製品をブラウジングしているとしよう。
財布に余裕のあるユーザーだとわかれば、高いオプションから表示していくといった操作が背後で起こる可能性もある。
これにも専門用語があって、「プロダクト・バージョニング(製品のバージョン分け)」と呼ばれる。
相手によって、同じ製品でもバージョンが異なっているというものだ。ちょっと高くても気にしない客から、高いマージンを取るわけだ。
AIが価格設定にどんどん関わるようになれば、同じ製品が個々人で異なった価格になり、同じ製品のはずがちょっと違った機能を搭載しているといったことが起こる。
困るのは、消費者としてはその理由がよくわからないことである。AIは、「利益の最大化」を目的にし、結果を導き出すための条件も刻々と変えるので捉えようがない。

AIで消費者にも利益を

もっと大きな懸念もある。
競合同士が互いにAIで競い合った結果、客が支払ってもいいと考える価格を予想して、結局値段が上昇したり、自動談合のようなことが起こったりする可能性も指摘されている。
消費者が理由もなく差別されていると感じて、民主主義を疑うようになるといったことも究極的にあり得るだろう。
企業の利益最大化のために邁進(まいしん)するAIは、一消費者にとっては太刀打ちできない相手ではないだろうか。消費者同士で購入価格を公表し合うといったしくみがあれば、対抗できるのだろうか。
何よりも、今は企業向けに偏っているAI開発が、いずれ消費者がパワーを持つためにも起こってほしいと思うのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:SvetaZi/iStock)