ついに始まった、「ZOZO 対 ユニクロ」というアパレル頂上決戦

2017/12/4

「カウントダウン」が始まった

2017年12月は、日本のファッション業界の大きな転換点として、のちに記憶されるかもしれない。
「今、前澤さんが狙っていることはただ一つ。アパレル業界の王者であるユニクロの市場を奪うことです」(アパレル業界関係者)
ファッションECサイトの「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するスタートトゥデイが、ついにプライベートブランド(PB)を立ち上げる。
ブランド名は「ZOZO」。個人の体のサイズにカスタムされた、シャツ、Tシャツ、ジーンズなどを皮切りに、多くの人が日常的に使うベーシック衣料の分野で、これから大勝負に打って出るのだ。
すでに前澤友作社長は、SNSのツイッターでしきりに、PBに関する投稿をしており、アパレル業界の注目を集めている。
その全貌はまだ明らかにされていないが、多くのアパレル関係者がこの「謎解き」に奔走しているのには理由がある。
それは前澤が、独特の感性と経営スタイルによって、これまでアパレル業界の常識をひっくり返してきた人物だからだ。
スタートトゥデイは2017年11月末ごろに新ブランドのサービスを開始するとしていたが、まだ内容は明らかになっていない(写真:遠藤素子)

ユニクロ市場を「狙い撃ち」

スタートトゥデイは1998年、ミュージシャンだった前澤が、海外の音楽CDやレコードを販売したことから始まった。その延長上で2004年、オンラインで洋服を売る「ゾゾタウン」が誕生した。
当時のアパレル界では、「服はネットで売れない」というのが常識だった。
わずか3つのブランドで始まったゾゾタウンだったが、徹底したサイトの作り込みや、ユーザー体験の向上を続けて、今や6000を超えるブランドが集まる一大プラットフォームになっている。
「ゾゾタウンの営業マンは、ブランドごとに細かな販売戦略まで提案してくれます。多くのブランドは気づけば頼りっぱなしで、もう何も言えないくらいの影響力を持っています」(大手セレクトショップ幹部)
2017年8月には時価総額で1兆円の大台を突破し、前澤はまさにスター経営者としての名を欲しいままにしてきた。
そんな同社が新しいターゲットに定めているのが、ファーストリテイリングが運営する、日本最大のファストファッションブランド「ユニクロ」だ。
新しいプライベートブランドは、ユニクロのベーシック衣料に勝負をかける(写真:Bloomberg via Getty Images)

高まる「両雄」の緊張感

「数年前から、前澤さんはどこか退屈そうだった」
会社は右肩上がりの成長を続けており、ゾゾタウンのサイト上で販売される、洋服やアクセサリーなどの商品総取扱高も2700億円(2017年度計画値)を見込む。
しかし事情を良く知る関係者たちは、前澤がどこか、現状に満足をしていない様子だったと証言する。
すでに国内のファッションECとしては独走状態にあるものの、本当はもっとグローバルに兆円単位のビジネスを展開して、その名を世界に刻みたい──。
もしかしたら前澤が唯一尊敬している経営者だと公言する、ソフトバンク創業者の孫正義の活躍にも、影響を受けているのかもしれない。
より大きな野望を達成するには、ファッション業界では格上の大物を、革新的なやり方で“食っていく”ことが必要だと判断したのだろう。
その目標になったのが、売上高にして1兆8600億円を超えるファストリテイリングと柳井正会長だった。
ある投資家によれば「前澤さんからの電話に、柳井さんが出なくなったようだ」という情報もあり、目には見えない緊張関係は徐々に高まっているようだ。

「秘密工場」をスクープ

まもなく明らかになるZOZOブランドの挑戦。NewsPicks編集部は、この新しいチャレンジにどのくらい大きな可能性があるのか、ファッション業界のキーマンたちへの取材を重ねた。
そこではZOZOの新しいプライベートブランドの生産を支える、秘密工場の一つを探り当てることにも成功した。ユーザーごとにカスタムされた洋服は、どのような仕組みによって作られるのか。
スクープ記事として、その先端工場についてレポートする。
【スクープ】これがユニクロに挑む、ZOZOの「秘密工場」の仕組みだ
ZOZOの新ブランドに大きな注目が集まっている理由は、ユーザーがすっぽり身にまとうことで、体のサイズを採寸してくれる「ZOZO SUIT(ゾゾスーツ)」のインパクトも大きい。
多数の伸縮センサーが内蔵されたゾゾスーツのおかげで、自分の体にぴったりとフィットするように生産された洋服を、届けてもらうことができるからだ。
そんなゾゾスーツを開発にかかわったニュージーランドのベンチャー企業に、国内メディアとして初めてとなる単独インタビューに成功。未来感あふれるウェアラブルデバイスの開発秘話を、余すことなく語ってもらった。
【直撃】ついに口を開いた、「ZOZOスーツ」を支える男の全証言
第3話では、アパレル業界を読み解くための重要データを参考にしながら、「ZOZO VS ユニクロ」の構図に至った理由を読み解いていく。
流通業界の表と裏を尽くした気鋭のアナリストは、スタートトゥデイの挑戦をどのように分析しているのか。そして、その勝算と課題をどのように見ているのか。
独自の視点で寄稿してもらった。
【分析】重要データで読む、ZOZOがユニクロに挑む理由
また、ユニクロに挑むスタートトゥデイは、これまで常識破りのサービスをたくさん提供してきた。
数々の失敗を繰り返しながら、彼らはファッション業界でどんなイノベーションを起こして来たのか。創業者である前澤の半生を辿りながら、スタートトゥデイの歴史をわかりやすいスライドストーリーで解説していく。
【3分解説】なぜゾゾタウンは、ファッション界の「常識」を破壊できたのか?
特集の後半では、スタートトゥデイを経営する前澤の横顔についても、貴重なインタビューをお届けする。2017年11月に現金化アプリ「CASH」を70億円でDMM.comに売却したバンクのCEO、光本勇介氏がその語り部だ。
実は光本は、かつてスタートトゥデイに会社を売却したことがあり、前澤の下で3年間にわたって働いたことがある。そこで見た、ありのままの経営者・前澤友作について紹介する。
【証言】CASH光本が語る「前澤友作」と働いた3年間
ZOZOブランドの洋服がアパレル業界にどのような影響を与えるのか、その答えはまだ誰にも分からない。
しかし、一つだけ確かなことがある。
個々人のデータを集めて、そのサイズや嗜好に合わせた洋服を生産するという「マスカスタマイゼーション」の波が、ファッション業界にいよいよ本格的に押し寄せてくるということだ。
規格化された「S」「M」「L」のサイズに閉じ込められていた洋服たちが、データとテクノロジーによって、無数のカスタム製品に化ける。それはアパレルが古い製造業から、情報産業に脱皮することを意味するのだろう。
ZOZOとユニクロの戦いは、そうしたアパレルの未来を占う、大きな前哨戦になりそうだ。
(取材:泉秀一、編集:後藤直義、デザイン:星野美緒)