起業家の基盤となる幼少時の経験

筆者は起業家だが、この仕事に就いた原点ともいえる経験がある。たとえば4歳のとき、家々にクッキーを売り歩いたことや近所の新聞配達を担当していたことだ。
思えば、私が初めて手がけた起業家らしい「製品」は、濃縮オレンジジュースの缶で作った鉛筆立てだ。
叔父に切断してもらった缶に合板を糊付けし、アイスキャンディーの棒を貼り付け、上から色を塗って、それを家々に売り歩いた。特注品も請け負った。料金に20セント上乗せで、お客のポラロイド写真を鉛筆立てに貼ってあげるのだ。
そうした経験が、私の基盤となった。たとえば新聞配達の仕事は、責任やお金、人との接し方について、たくさんのことを教えてくれた。
当時12歳だった私は、夜明けとともに起床し、自転車で新聞を配って回った。家々の玄関をノックして集金するのも仕事のひとつだった。このときもらったチップは、私の顧客サービススキルのたまものだ。
集金先には、それこそいろいろなタイプの人がいて、私より20、30、40、あるいはそれ以上も年上のお客ばかり。彼らとの接し方を学ばなくてはならなかった。
こうした仕事が、今はもうほとんどないのが残念だ。学校が子どもたちにそうした教えを授けてくれないことにもがっかりしている。学校では代数は教わっても、お金の管理の仕方は習わない。生物の授業はあっても、自分のアイデアを育てる方法は教えてくれない。
子どもに起業家精神を教えることの重要さを説いた、素晴らしいTEDトークがある。講演者のキャメロン・ヘロルドはやはり起業家で、筆者と同じく、学校教育にありがちな「線からはみ出してはいけない」という指導法が合わない子どもだった。
私は何も、学校など不要だと言いたいわけではない。しかし、2014年の調査報告によると、米国では3割の職を自営業および自営業者が雇った労働者が占めている。その現状を踏まえて、われわれの社会における起業家精神の価値を、教育の早い段階から認めるべきだと私は思う。
それでは、将来の起業に備えて、子どもに早くからどんなことを学ばせるべきだろうか。

1. お金の管理の仕方(たとえ少額でも)

みなさんはどうかわらかないが、私が初めて1ドル稼いだときには心が躍ったものだ。
しかし、ここで重要なのは「稼いだ」という点だ。親が子どもに昼食代として5ドルを渡すのと、そのお金を働いて手に入れる方法を教えるのとでは大きな違いがある。
ヘロルドはTEDトークで、両親から2つの貯金箱をもらったエピソードを明かしている。1つはほしいものを買うお金に回すため、もう1つはお金を貯めるためだ。ヘロルドは1ドルを手に入れると、50セントずつに分けてそれぞれの貯金箱に収めた。
こうした幼いころの習慣はとても重要で、実行するのもさほど難しくない。ただしその場合、親は子どもがしっかりとお金を管理できるよう手助けをしなくてはならない。そうしないと、片方の貯金箱だけが早く一杯になってしまうだろう。

2. 「お手伝い」を通じた責任の大切さ

わが子がまだ小学3年生だからといって、週に数ドルの報酬と引き換えに簡単な家の手伝いを責任を持ってやらせるのに早すぎるということはない。
家の仕事を割り当てるのは、子どもに対して「自由に使えるお金」を与えるためではない。子どもに責任の意味を教えること、自分の時間および労力と引き換えに何か(この場合は金銭)を得るという概念を植えつけることが目的だ。
家の手伝いが宿題と違うのは、宿題では手伝いのような喜びや見返りが得られない点だ。宿題は指示に従うことを子どもに教えてくれるが、自分でお金を稼ぐ方法、そして稼いだお金をまた別の自分の好きなものに使う方法を学ぶことはできない。

3. 顧客サービスの良し悪し

どの親も、レストランで接客係が注文を間違えたり、テーブルを見回りに来なかったりして苛立った経験があるだろう。
しかし、そこでただ苛立ちを表すのではなく、子どもに良い顧客サービスの価値について教える機会だと考えよう。「今のは、お客に対して良いサービスとはいえないね」とでも言えばいい。
反対に、店やレストランなどで気配りのある接客をしてもらったときには、それが良いサービスであることを子どもに教え、なぜそうしたことが重要なのかを説明しよう。
新聞配達の仕事で学んだ顧客サービスのスキルは、起業家の道を歩み出した当時の私にとって、とりわけ貴重な財産となった。結局のところ、ビジネスで成功できるかどうかは、自分が約束したことを責任を持って実行できるどうかが大きなカギになる。

4. 物の交換と、それらが売り買いされる仕組み

こうしたことを、子どもは生まれながらに理解している。学校の昼食時などはそのいい例だ。
ある子どもがポテトチップスを1袋持っていて、別の子どもはボローニャソーセージのサンドイッチを1つ持っている。
そのサンドイッチの価値は、新鮮でおいしそうに見えるか、それとも大きく1口かじった跡があり、しかも上から座ったように潰れているかどうかで決まる。さらには、ポテトチップスを持った子どもが、それを自分のものと交換したいかどうかでも。
子どもは互いの持ち物を交換したり、ゲームを友だちに貸したり、庭に何か作る際に友だちに手伝いを頼んだりする。ただ、われわれは子どものそうした行為を、現実世界の起業と比較して考えることはほとんどない。
最も効果的な学習方法は、新しく得た知識を自分がすでに知っていることに結びつけて考えることだと、私はつねづね考えている。こうした「比喩」は、学習プロセスを迅速化するのに役立つツールになる。

5. 物を売る体験

子どもに新しいおもちゃを買ってやっても、また新しいものを手に入れた途端、放り出してしまうことがよくある。
そこで古いおもちゃを捨てるのは親にとって簡単なことだが、そうした状況を「物を売る技術」を教える機会として活用してみよう。子どもを座らせ、そのおもちゃを買うのに元々いくら払ったか教えるのだ。
さらに、おもちゃの傷み具合や買ってからどのくらい経つか、いくらでほしがる人がいるかといったことに基づいて、今ならどのくらいの値段で売れるか説明しよう。「イーベイ」のようなオークションサイトに古いおもちゃを出品し、売上を子どもが得られるようにしてもいい。
少なくともこうした経験から、子どもは学びを得ることができる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bill Green/Author and CEO, LendingOne、翻訳:高橋朋子/ガリレオ)、写真:ismagilov/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.