スキル、チーム、働き方…。コンサルの「変化と不変」のヒストリー

2017/11/29
アクセンチュア、IBMと外資系大手 IT/コンサルファームで要職を務め、現在は信州大学で教鞭をとる牧田幸裕氏。NewsPicksでは歯に衣着せぬストレートなコメントで人気を集めるピッカーだ。そんな牧田氏はアクセンチュアをどう評価しているのか。牧田氏と同じ新卒でアクセンチュアに入社、それ以降18年アクセンチュアに籍を置く原仁志氏とアクセンチュアの過去と今、そして未来を語った。

かつてのアクセンチュアは「カオス」

──牧田さんは以前、アクセンチュアに在籍しコンサルタントとして活動していました。その頃のアクセンチュアを教えてください。
牧田:私がアクセンチュアに籍を置いていたのは20年ほど前、社員が今の9分の1程度の1000人くらいの時でした。
私は新卒入社し、立ち上がったばかりの戦略コンサルティング部門に所属しました。今でこそアクセンチュアの戦略コンサル部門はスマートなイメージがあるかもしれませんが、その当時はベンチャーのようでカオス……。
戦略コンサルティングプロジェクトでは、仮説検証を繰り返し真の問題を明らかにし、そこに解決策を提示するのですが、仮説検証の精度が低い。プロジェクトマネジメント能力も高くない。だから、生産性が低く、労働時間は非常に長くなる。
仮説検証能力の低さを体力でなんとかカバーする日々……。
ただ、今振り返ると、この経験は私の財産です。自ら考え、トライ・アンド・エラーを繰り返してきたからこそ、コンサルタントとしての地力や、やり切る粘り強さを身につけることができたと思っています。
もう一回あの環境に戻れと言われたら、断固拒否しますけれどね。それほど毎日しんどかった(笑)。
原:私もプロパーで入社して今年で18年目になります。エンジニアからスタートしていて、同じ経験を味わってきました。シニア・マネジャーぐらいまでは、本当に死ぬほど働いていました。
寝る時間がもったいなかった、というよりもありませんでした(笑)。でも、地力がついたというのは本当にそう思います。今はそんな状況では決してないですが(笑)、自ら切り開くようなDNAは残っています。

「個」に依存しない組織づくり

──働きづめの過去とは違い、今のアクセンチュアは「ホワイト」というか働きやすい企業として注目を集めています。
牧田:私がいた頃には考えられない評価ですね(笑)。
原:メンバーが大幅に増えてチームとして働くようになっていき、多様な人材を生かすことで、効率良く適正な時間で仕事するスタイルに変わってきたことが評価の理由の一つとしてあると思います。「個の頑張り」に頼るのではなく、「組織」で挑むかたちをつくっているんです。
牧田:「組織で挑む」とは具体的にどのようなものですか。
原:個の強みをうまく組み合わせるということです。かつての戦略コンサルティング部門では、何でもできる一騎当千の個のケイパビリティが高い人材をとにかく多く育成することに力を注いできたかもしれません。
ただ、お客さまの要求レベルが高まり、スピードが求められる今、そんなスーパーマンのようなコンサルタントを何百人もそろえるのは難しい。だから、各コンサルタントの強みを磨き、お客さまの課題解決にどの組み合わせがいちばんいいのかを考えてチームをつくり、それを組み合わせて高いクオリティを出すようにしているんです。
人材が多様化することによって、以前はできなかった仕事ができるようにもなっていて、例えば、コンサル業界未経験でも保険会社で経営、業務の中枢に関わっていた人材ならではの、保険業界への強い問題意識・深い知見と、既存のメンバーのコンサルティングケイパビリティをコラボレーションさせることで、保険会社のビジネスの根幹に関わるようなプロジェクトで大きな成果を出しています。
牧田:これが実現できるのはマネジャーの質がかなり向上している証しだと思います。個々の能力を把握して、アウトプットを出せているか常に細かく見ていないといけませんから。
私がいた頃も、人材育成や人材評価にかける時間は尋常じゃありませんでしたから、相変わらず人が財産という意識が根付いていて、かつ仕組みが進化しているんですね。

「意味のある無駄」を与える風土

原:ただ、私個人としては、こうした組織での仕事では、個人のコンサルタントとしての地力が低下するのではないかとも思っています。
本来なら経験させるべき「無駄の機会」を取り上げてしまっているのではないか、と。組織として結果は出せていても、一人のコンサルタントとして外に出たときに、しっかりと結果を出せる人材になっているのか、と。
新しいこと、難しいことは、失敗を経験しないとできないものです。責任を持って育てる立場として、その経験を十分に与えたいとも思っています。だから、徹底した効率化でつくり出した余力の時間で、意味のある無駄を経験させたいと考えています。

アクセンチュアは「予備校の先生」ではない

──牧田さんは、今は大学で教鞭をとる立場になりましたが、改めて、アクセンチュアの強みとは何だと思いますか。
牧田:誤解を恐れずに言えば、戦略コンサルティングファームは「結果にコミットしない」んです。いわば、予備校の先生。勉強を教えても、合格するかどうかまでは責任を持たない。
アクセンチュアはそうじゃない。例えるなら、ライザップ。戦略を描くし、その戦略を実現するためのオペレーション改革もやるし、それを下支えするシステム構築も引き受ける。時にはアウトソーサーとして、業務プロセスを自分たちで請け負う。結果が出るまでやりきるし、その基盤を社内にそろえているんです。
それをグローバルマーケットで提供できるのは、世界で見てもアクセンチュアとIBMぐらいでしょう。
原:ありがたい言葉です。一つ加えるとすれば、アクセンチュアは変わることを恐れない組織だと思います。変革をお手伝いする立場ですから、当然と言えば当然ですが、時代の変化、マーケットの流れを先読みして、自分たちが変わり続ける。組織の再編は頻繁に行いますし、業容も惜しげもなく変えていく。この変わる文化がアクセンチュアの良さだと思っています。

アクセンチュアの敵はアクセンチュア

牧田:そういう「現状に満足しない」価値観がアクセンチュアのいいところですね。「まだやれる」「もっと良くなる」と常に考えている。それは私がいた頃も同じでした。
私がアクセンチュアにいた時、多くのマネジャーやパートナーはクライアント先に出かける1分前まで会議室で提案資料を修正していました。当時は時間ギリギリに行くのが嫌で、早く行きましょうって言っていましたが、今思うとあの執念は尊敬に値しますし、それを学べた私は幸せでした。
おそらく今の経営陣にもそれがあるはず。今は2016年の結果に満足してないだろうし、2018年になれば2017年にも満足しないでしょう。
原:牧田さんに言っていただいた通り、競合他社と戦おうとしていなくて、常に過去のアクセンチュアと戦っています。去年を超える、先月を超える、そして昨日の自分を超えるというマインドをみんなが持っている点はアクセンチュアを下支えしていると私も思っています。

金融機関が力を借りる理由

牧田:原さん、実はあまり金融サービス部門のことを知りません。今やっていることを教えてもらえませんか。
原:金融サービス本部では、銀行、証券、生保・損保など国内の金融系のお客さま、それも各業界を代表するようなお客さまを中心に、デジタル、イノベーション、グローバル、規制対応などをテーマにご支援しています。
最近ご依頼を受けることが多いテーマは、リテールの富裕層向け戦略や営業改革支援、グローバルオペレーション戦略立案支援、海外拠点の業務改革、企業グループ全体でのリスク管理高度化といった、経営の中枢に関わるものです。
牧田:私がいた頃より、経営の根幹をなす領域に関わるチャンスが増えている印象を受けます。
あの時代にもトップティア企業とのお付き合いはありましたが、確か、あの頃の金融向けコンサルティングは、基幹業務とは少し離れた情報システムや、コールセンターなど、支援活動の領域にとどまっていた。
まだアクセンチュアの戦略部門は歴史が浅かったので、戦略専門の競合コンサルティング会社と戦うのは大変でした。一方で、システム系コンサルティングでは、主要銀行のバックグラウンドである財閥とのつながりが強い総研系コンサルティング会社が優位でした。
なぜその領域の仕事ができるようになったのか。どのような経緯で仕事の中身が変わってきたのかに興味があります。
原:金融機関が抱える経営課題、その課題を解決する手段や力がアクセンチュアの強みと合致しているからです。
それはITやデジタルの知見、グローバル展開の知見です。テクノロジーの活用を本当の意味で支援できるかとなると、30年間積み重ねてきた実績がある私たちに声がかかりやすい。
それからグローバル戦略支援を支援できるコンサルティングファームは、それほどない。アクセンチュアの場合は自らがグローバルでオペレーションを行ってきた先駆者としての知見がベースにあるため、絵に描いた餅にはなりません。
ありがたいことに、依頼はどんどん増える一方で、期待に応えられるだけの人員を確保することが私たちの重要課題になっています。トップティアのお客さまの大々的刷新となると、数百人必要になります。現在の金融サービス本部のコンサルタントだけでは全然足りません。だから、私たちは今過去にない大規模な採用を行っているのです。
──どんな人を求めていますか。
原:物事を変えたいと思っている方、金融サービスへの問題意識を持っている方には、ぜひ興味を持ってもらいたいです。
事業会社で問題意識を持ちながら働いていて、変えられる環境ではなくてもどかしい気持ちを持った方とも一緒に仕事をしたいです。
戦略系コンサルティングファームに勤めている方で、プランで終わるコンサルから、お客さまの変わりたい気持ちにコミットして、変えきるところまでを体感したい人も活躍の場があります。
システムインテグレーターなら、決められたものを導入するのではなくてお客さまの戦略から入ったうえでテクノロジーソリューションを提案したい人にはアクセンチュアという選択肢を知ってもらいたいですね。
牧田:コンサルタントの魅力は、未来を想像、創造しながら仕事ができることです。自分がコンサルタントとして活躍の場を広げられたのは、2000年前後のITバブルの時代。インターネットで何ができるか、みんな新たなビジネス、変化する未来を想像、創造していました。
ただの想像ではなくて、テクノロジーの裏付けがあって、ロジカルな想像、そして創造ができる人がアクセンチュアには多いから、未来を考えてもリアリティがあります。未来の創造を担える数少ない企業ですから、チャレンジする価値は十分あると思います。
(取材・編集:木村剛士、文:加藤学宏、写真:北山宏一)