ピラミッドかホラクラシーか。目指すべき「最強の組織」とは

2017/11/30
これからの時代に成長する企業は、どんな組織モデルを作るべきか? Googleで人材育成やリーダーシップ開発に携わってきたピョートル氏と、日本における組織論のオーソリティーである経営学者の野田稔氏、そしてアトラエ代表取締役CEOの新居佳英氏の3人が語る、新時代の組織論。
なぜ“ピラミッド型組織”は時代遅れか
ピョートル:従来の組織と新しい組織、という二項対立で考える際、「ピラミッド型組織」か、「ホラクラシー型組織」のどちらが正解かということが、よく議論されます。
前者は階層構造で、メンバー間に上下関係があり、命令系統がある。いわゆる“上意下達”のトップダウンで意思決定と実行が行われる組織モデルです。
後者は21世紀に入り、先進的な企業が採用し始めたことで注目されたモデルで、階層構造がなくメンバー間の関係はフラット。組織全体に権限が分散され、それぞれのチームや個人が意思決定と実行を担います。
Googleには7万人規模の従業員がいますが、ピラミッドとホラクラシーの中間のような組織形態が採られています。一応階層(グレード)はありますが、すべての業務はプロジェクトで動き、メンバー間の関係性はフラットです。
新居:一部のスタートアップを除き、日本ではほぼすべての企業がピラミッド型の階層構造を採用しています。いわば高度経済成長期に確立された働き方や組織のあり方をいまも引きずっている。
それに対するアンチテーゼの意味もあり、アトラエでは創業以来、ホラクラシー型の組織を採用してきました。
組織に階層を作り、トップダウンで意思決定を行う「ピラミッド型」に対して、最低限のポリシーやミッションを共有した上で現場のチームに権限を委譲するのが「ホラクラシー型」のモデル。
組織モデルの選択について、野田先生はどうお考えですか?
野田:まずわかっておくべきなのは、組織モデルというのは、しょせん「道具」でしかないということです。大切なのは、使い勝手のいい道具を、いいタイミングで使うこと。
従来のピラミッド型組織は、昨今は「企業の硬直化を招く、イノベーションを潰す」と悪者にされがちですが、一方で大きなメリットがあるからこそ、昭和以前からの長い期間、多くの企業が採用してきた経緯があります。
例えば、その一つが製鉄業です。何千人もの人員が一丸となって一つの高炉を動かす。一人ひとりはパーツであり、決められたことを間違いなくやることで収益が上がる。こうした資本集約型の産業には、上意下達型のピラミッド型組織ほど最適なモデルはないです。
20世紀、こうした業種が特に高い付加価値を出してきた結果として、それが世界的なデファクトスタンダードになりました。しかし、それがすべての業種にとっての正解かといえば、当然違うわけです。
“個人の生産性”を最大化する組織
野田:これからの組織モデルを考える大前提として、それぞれの業種における「生産性の源泉」は何かを考える必要があります。
産業革命以降、「資本は集約した方が利得は高くなる」という考えが広まるにつれ、資本家が持つ生産手段を労働者が使うことで、生産できる構造を作り出しました。
ところが21世紀に入ると、インターネットの登場によって再び個人でビジネスができるようになった。ITサービス業を筆頭に、産業のデジタル化によって起こった最大の変化は、生産手段が何百年ぶりかで“個人”の手元に戻ってきたということです。
最適な組織モデルは業種によって異なります。ピラミッド型で成果が上がる業種・組織なら、それでいい。しかし、個人の生産性を高めることを目指すなら、違うモデルが必要になるというのが今の潮流です。
新居:個人の生産性を高めることが付加価値を生み、企業全体の生産性をもっとも高めることにつながる。
ただ、生産性を上げることはもちろん大事ですが、僕はこれからの組織に必要なのは、“働く人が幸せになれる環境”を提供することだと思うんですよ。
経営者の大事な役割の一つに、「個人が能力を発揮するための環境づくり」が明確にあるべきですが、そこを無視して事業戦略ばかりやっている経営者がすごく多いですよね。
かつての企業には、従業員に「飯を食わせてやっている」という感覚があったと思いますが、それはもう通用しない。個人で稼げる人材に対して、チームとして一致団結して仕事を成し遂げる面白さや、持続的な価値をしっかり提供できること。それが企業の存在意義に変わってきている。
ピョートル:その場の持つ可能性にひかれて人が集まるということですね。Googleでは「心理的安全性」と表現していますが、チーム内で気兼ねなく発言ができる、自分をさらけ出せる環境を作ることは、生産性を高める条件です。
そういう場を作ることが経営の役割、ひいては組織の意義になっているというのは、私も同意見です。
Googleが2012年から4年以上かけて実施した大規模労働改革プロジェクトにおいて、「心理的安全性」はチームの生産性に大きく影響する要素であることが発表された。
野田:私は、これからの組織はますます「ミッションオリエンテッド」になるし、「仲間オリエンテッド」になっていくと思っています。
仕事内容、ミッション、仲間に共鳴した人々が自由に組み合わさって、その瞬間に最大のパフォーマンスを上げる。それを連続させていくことで、新しく大きな仕事ができていく。そんな事業の進み方が、これからは当たり前になっていくはずです。
“時間”より“エネルギー”を管理する
新居:ヒエラルキーを作らず個人に裁量を渡すというと、「それでは管理ができない、評価ができない」という話に必ずなります。
でも、去年、カルフォルニアのGoogle本社に行きましたが、社員はみんな本当に自由に振る舞っていました。ビーチバレーをやっている人もいれば、トレッドミルにPCを置いて走りながら仕事をしている人もいる。許容度の高さがすごい。
ピョートル:なぜ自由を許容するかというと、Googleのオフィスは、「時間を管理するのではなく、エネルギーを管理することが大事」という観点で設計されているからです。
エンジニアをはじめとした、ゼロイチの価値を生み出すクリエイティブな仕事では、時間を区切って働くことではなく、自分にエネルギーがあるときに、いかに集中して仕事ができるかが重要です。
フロー理論の研究では、一般的なホワイトカラーワーカーは、8時間労働のなかで、30分しかフロー状態(時間を忘れて没頭する状態)に入れないといわれています。
そして、フローに入る時間を3倍の90分にできれば、生産性は2倍になる。いかにフロー状態を引き出す場を作るかが重要なのです。
チャレンジとスキルの相関関係と高低が生む効果について、心理学者のチクセントミハイ博士が提唱した「フロー理論」。フローは、人にとって最も生産性が高く、幸福感に満ちた状態だといわれる。
集中すべき時間に最大のパフォーマンスが出せるよう、エネルギーを管理できるオフィス設計こそ生産性を高めるというのが、Googleの思想ですね。
野田:長時間労働がいかにムダかという話でもありますね。エンジニアに限らず、個人のクリエイティビティを求められる職種は、みな同じです。
ピョートル:1日に8時間働くとして、そのアウトプットは客観的に見れば4時間で出している。だから生産性を高めて、4時間で価値を出せば、その後は自由にしていい。でも、その姿を同僚たちに見せることが大事ですね。
「いま暇そうだから、声をかけてもよさそう」と思ってもらう。そうしてメンバー間のコミュニケーションが生まれることで、つながりが深まり、そこから新しいプロジェクトの種が出てくるのです。
エンゲージメントを高める評価制度
新居:「自由と責任」を個人に委ねるためには、高いエンゲージメントを持ってもらい、なおかつ個人を適切に評価する仕組みがなければ成り立ちません。「働き方改革」で多くの企業が組織を変えようとしていますが、どこも評価制度の設計で苦労しているのではないでしょうか。
ピョートル:Googleでは、複数のメンバーによる360度評価の内容を、マネジャー同士がすり合わせて評価を決めています。数年ごとにいろんな評価制度を試しては不採用にするという試行錯誤の末、現在のものにたどり着きました。
評価基準は様々です。パフォーマンスはもちろん、会社にどれだけ貢献したかを全方位的に測りますが、ひとつには“fail-fast forward”(失敗してもすばやく立ち直れ)という考え方があります。
わかりやすい例では、友人のエンジニアのひとりが、開発していたサービスが大失敗になったにもかかわらず、その直後に出世しました。その大失敗が、Google全社にとって学びが非常に大きく、組織に貢献したという理由からでした。
野田:失敗そのものを評価する。立ち直ったことを評価する。それができるのは、会社にとって何がコントリビューション(貢献)なのかをしっかり定義できているからですね。
とある企業の経営者の方に、従業員の評価基準について尋ねた際、「成果だけじゃなくて、挑戦も見ているし、ヘルプも見ている、グロースも見ている」という答えが返ってきたことがあります。
それを全部並べていき、その全体を「コントリビューション」と定義して、その企業では今はそれを測る方法を検討されているそうです。
日本の大企業では、人事制度を外部のコンサルタントと一緒に作るケースが多くありますが、画一的な評価指標のパッケージを入れても絶対にうまくいきません。
なぜかというと、その会社にとっての「いい仕事」や「貢献」とは何か、その価値観は企業によって異なり、実際に働いている人たちが議論を深めることでしか、実態を反映した指標は作れないからです。そして、その評価制度が、その企業の社風・文化を形成します。
ピョートル:その通り。人事制度や組織モデルの設計は、本来とてもクリエイティブなものです。なのに、日本の人事部の多くが教条主義的で、経産省が作成した「人事制度モデル」の中身をよく検証せずに入れている会社がたくさんあります。それはうまくいきません。
大切なことは、自分たちの組織が目指すもの、ミッションとビジョンを評価の仕組みに反映させることです。
新居:評価はエンゲージメントを高める方向でやらなければ意味がないというのは、非常に感じますね。
「いい仕事って何だっけ?」という議論は何度でも繰り返す必要があって、それを評価に反映させると、みんながいい仕事を目指してやるようになる。それが会社をよりよくする。それが組織文化ですね。
自分たちの力で組織を作っていく重要性
野田:だから、最初から完璧な評価制度が設計できることは絶対にありえないんですね。トライ&エラーで実験するしかないんですよ。やってみて、うまくいかないところは改善する。PDCAサイクルを回さなければよくなりません。
新居:自分たちの会社でも実感していますが、組織は常に変化しています。働き方であれ、評価制度であれ、実際に働くメンバーで議論を重ねて、変わり続けることが必要だと思います。
そして、社員のエンゲージメントやロイヤリティ、モチベーションなど、自分たちがやったことがきちんと成果として出ているかを客観的に測定しないといけません。
Googleは、ほかでもなく自分たち自身で組織を作り、より良いものにしようと改善を重ね続けている。同じことはどんな会社でもできるはずです。
そこにいる社員一人ひとりが自ら組織と向き合って、自分たちの力で組織を作っていくこと。それが一番大事なんだと思います。
ピョートル:その通りですね。ピーター・ドラッカーの言葉に、“Culture eats strategy for breakfast.”(文化が戦略を食う)があります。戦略より、社員が何を信じどのような価値観を持っているかが大事だということ。
これからの組織をマネジメントする上では、何よりも社員が何を大切にして働いているのか、何を信じているのか、それをキャッチし続けることが必要ですね。
野田:企業や組織のあり方に絶対の正解はなく、それぞれに文化や美学に裏打ちされた仕組みを作っていくべきです。そのためには、自分たちの組織状態を常に測定することは大切ですね。
これからの社会を動かしていくのは、既存の枠からはみ出した新たな成功者とチャレンジャーです。
彼らが、面白そうに、かつ高い利潤を得て成功しているのを見れば、硬直化した大きな組織にいる人たちも「なんだか、あっちの方がよさそうだぞ」と動いていく。今も、少しずつではありますが、その非連続的な変化は起きていると感じています。
(編集:呉琢磨、構成:田中瑠子、撮影:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)