【サッシャ×寺岡歩美】ラジオは、脳と真実に迫るメディア

2017/12/3
【サッシャ×寺岡歩美】半年間の“PICK ONE”で得た気づき
【サッシャ×寺岡歩美】印象に残った教育、激論、ホリエモン

聴覚の力はすごい

──最後はメディアとしての「ラジオ」という媒体について伺います。サッシャさんは15年以上ラジオDJをやってこられて、声や音で伝えるメディアであるラジオは、どういう特徴や可能性があると思っていますか。
サッシャ ラジオは、脳に迫るメディアだと思います。
どういうことかというと、耳って、体からぴょんと飛び出していますけど、音を聞く鼓膜は体の輪郭より内側にあるでしょう。
これは鼻も同じで、匂いを感じるのは鼻の穴のもっと奥の部分です。
ある音楽を聞くと、それが流行っていた頃の出来事を思い出したり、ある香りを嗅ぐと、昔付き合っていた彼女を思い出したりする。
聴覚や嗅覚って視覚以上に記憶と密接につながっていて、脳に近いのかもしれません。
でも日ごろ僕たちは、五感のなかでも情報収集のほとんどを視覚に頼っています。
だけどそれは、視覚が強くて他の感覚が弱いのではなく、本当は5つの感覚は同等のポテンシャルを持っていると僕は思います。
それが一番よくわかるのは、夜寝るとき。電気を消して辺りが静かになると、さっきまで聞こえなかった虫の音や、犬の鳴き声、近所の誰かが帰ってきてドアを開ける音が聞こえたりするでしょう。
それらの音は、視覚がめいっぱい活動しているときは、聞こえているんだけど脳がシャットアウトしているだけだと思います。
だから電気が消えて視覚が休んだときに、聴覚がフルに力を発揮しだす。聴覚の力はすごいんです。
サッシャ
ドイツ共和国連邦・ヘッセン州生まれ。獨協大学外国語学部卒。ドイツ人の父、日本人の母の間に生まれ、10歳で日本へ移住。ドイツ語、日本語、英語を自在に操る国際派ナビゲーター。ファンクやロックなど、ジャンルを問わず大の音楽好きが高じ、エンターテインメントの世界へ。ライブやコンサートなどの司会からスポーツの実況まで活動は幅広い。
寺岡 あっ、本当ですね!
サッシャ J-WAVEでDJを始めてまだ2年目くらいの頃に、こんなことがありました。
当時、僕は日曜の朝の番組を担当していたのですが、本番前日の土曜の夜に、当時付き合っていた彼女に振られたんです。
本番前日に振ってくれるなって感じですけどね(笑)。すごく凹んだのですが、やっぱりプロとして番組に影響させちゃいけないと思って、翌日の放送ではいつも以上にテンションを上げて元気な声を出したんです。
すると、いつも聞いてくれているリスナーから「サッシャさん、どうしたんですか。今日は元気ないですね」とFAXがきました。
僕としてはすごく頑張って失意を隠したつもりだったのに、声には出ていたんですね。
寺岡 わかるんだ……。
サッシャ この対談の初回で寺岡さんが「文字ではわからない、ゲストの方の人となりが見える」って言ったのがまさにそれで、声にも表情というものがあります。
だからラジオの食レポって難しいんです。テレビなど視覚のメディアでは、顔の表情さえ作ればごまかせるけど、ラジオでは「おいしいですね」と言っても、本当にそう思っていなければ結構ばれちゃいます。
寺岡 私、食レポもしてるから、気をつけよう(笑)。
寺岡歩美(てらおか・あゆみ)
sugar meとして音楽活動を行うアーティスト。英語・日本語・フランス語を歌い分け、ポップでアコースティックなサウンドと自在に変化する澄んだヴォーカルが各方面から好評を得ている。自身のライブ活動や楽曲制作の他、コンピレーションアルバムへの参加、CMソング、映画出演など、各方面から高い評価と話題を集めている。
サッシャ その意味でラジオは、脳にも真実にも迫るメディアです。だからラジオが好きな人はずっと聞き続けてくれるし、聞いている人も「これは真実かどうか」「それは自分に必要か」と自分のフィルターを通して無意識に仕分けをしていると思います。
だからPICK ONEでも、ゲストや僕たちの発言が「本当にそう思ってる?」ということを、リスナーにはしっかりと聞かれていると思っています。
──ラジオは、より感覚にストレートに働きかけるメディアということですね。寺岡さんは、ふだんから音楽という音と声で伝える活動をされていますが、そんな寺岡さんはラジオをどう見ていますか。
寺岡 ふだん音楽活動をしている私からすると、音と声で伝えるという面で、ラジオはとても親密なメディアです。
さっきサッシャさんがお話ししていた五感の話に近いのですが、視覚に関しては、見たくないと思ったら目を閉じることができます。
でも、耳や鼻はできません。それだけ、聴覚や嗅覚は支配力が大きいと思うんです。
サッシャ そう言われてみれば確かにそうだね。
寺岡 音楽を聴くとき、大きなスピーカーで音に入り込むように聴くことって少ないと思うし、カフェで流れているBGMだって曲を自分で選べない。
私たちは意識している以上に、音や声に何気なく触れている時間が長いんです。
その何気なく流れている中に時々、ハッとさせられるような曲やフレーズがあったりしますよね。
聞いている人の好みや思考とリンクして、何らかの引っかかりが生まれる。これってとても素敵なことだと思います。
だから私はラジオでも、リスナーのみなさんが「ハッとする瞬間」を提供できればいいなと思っています。それは流れている曲かもしれないし、サッシャさんのひと言かもしれない。
私はリスナーのみなさんが一日に一度あるかどうかの一瞬のために、毎日4時間、全力で番組に向き合っています。
ラジオのキャリアは始まったばかりで、まだ足りないところは多々ありますが、その気持ちだけはずっと持っていたいです。

『STEP ONE』やPICK ONEの大命題

──サッシャさんは、いまのお話を聞いてどう思われましたか。
サッシャ ラジオって、耳に直接入ってくると同時に、何かをしながら聞いている人が多いメディアですよね。
とくに『STEP ONE』の放送時間は午前9時から午後1時。家事・子育て、仕事や営業車の運転……とにかくみんな、何かをしている時間帯です。ラジオに集中している人のほうがマイノリティかもしれない。
だから僕はラジオに脳を100%使わせないこと。何かをしながらでも聞いて楽しい番組を意識しています。
寺岡 難しい話題やものすごいインパクトの音楽をお届けしたら、疲れちゃって聞きたくなくなりますもんね。
サッシャ そうです。だから聞きやすい音楽や楽しい話題を心がけるし、伝え方も簡潔にまとめたり、途中でブレークを入れたりしています。
PICK ONEでも、聞いている人の「?」があまりに多くなると、「結局なんだったんだ?」という10分間になるので、そうならないように気をつけています。
かといって導入部分の解説で終わると意味がないし、この対談の初回にも話したように、「わかりやすさ」と「どこまで深掘りするか」のバランスが本当に難しい。
車を運転しながらでも理解できて、ちょっと疑問に思って考えることができる。記憶に残って後で誰かと話すことができる。話題も毎日違いますし、その絶妙な着地点を日々探しています。
これからもその手探りは続くでしょうが、何かをしながらでも楽しめて、ちょっとした笑いとエンターテインメント性がある番組をお届けすること。
これが『STEP ONE』やPICK ONEの大命題です。

公開収録もやりたい

──寺岡さんは、今後のPICK ONEについて何か意気込みはありますか。
寺岡 プロピッカーが記事をピックして、それをラジオでお話しして、それがまた記事媒体に戻る。NewsPicksとこうしたコラボレーションをしているのは、斬新な取り組みだと思います。
PICK ONEのコーナーがきっかけになって、NewsPicksを読んでいる人がラジオを聞いてくれたり、ラジオのリスナーが「へえ、こんなメディアがあるんだ」と知ったりして、相乗効果が出るのがいいと思っています。
この組み合わせは、ラジオがこれから他の色々なメディアや企画とコラボレーションする可能性を示す好事例だと思うので、それに携わっている自覚を持ち続けていたいです。
サッシャ 動画配信を取り入れるのもいいですよね。PICK ONEのコーナーだけでもライブ配信をしたいと、前から思っています。
──いいですね。ぜひ前向きに検討したいです。
サッシャ おっ、お願いしますね。取り上げる話題が最先端だから、コーナーのあり方や配信の仕方も最先端でありたいです。
寺岡 「やっちゃおう」という精神で、どんどん挑戦したいですね。
サッシャ カメラを出演者ごとに設置して、切り替えて色んな方向から見られるとかね。
でもそうすると寺岡さんばかりが見られて、「僕の声は聞こえているけど見えない」みたいな(笑)。方向別視聴率を比べたらおもしろそうです。
寺岡 それは冗談としても(笑)、いろんな可能性が考えられますね。
サッシャ あと、公開収録などのイベントをやりたいですね。とくにラジオは、ふだん顔が見えないぶん、イベントで出演者を見るとイメージが変わったり親しみが湧いたりするんですよ。
──いいですね。公開イベントもぜひ実現したいです。
寺岡 イベントも一度やったら、また次につながりますしね。
サッシャ PICK ONEはこれから、ラジオとウェブとに次ぐ「第3のメディア」へと、さらに展開したいですね。それはイベントのような「リアルな場」でもいいし、他のアプリでもいい。
リソースを持っているプロピッカーの皆さんに協力してもらえたら、可能性がどんどん広がりそうです。いやあ、今後がますます楽しみになってきました。今日はありがとうございました。
寺岡 ありがとうございました。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子、バナーデザイン:砂田優花)