日本企業のグローバル化が叫ばれて久しいが、日本から世界を制するビッグビジネスが生まれづらい環境にあるようにも思える。そんな状況を打開するカギとして注目を集めるのが、株式会社ドリームインキュベータ(以下DI)が提唱する「ビジネスプロデュース」という方法論だ。同社はBCG元代表の堀紘一氏が創業した戦略コンサルティングファームだ。“日本、更には世界を元気にする”という理念を掲げ、数百億、数千億円規模の事業創出をサポートしている。この「ビジネスプロデュース」というコンセプトを正しく理解するために、執行役員である三宅孝之氏をインタビュー。同コンセプト誕生の背景や事例など織り交ぜながら、その本質をひも解いてみたい。

技術と政策とビジネスを融合させる

――「ビジネスプロデュース」とは、どのような概念なのでしょうか。
簡単に申し上げると、戦略コンサルティングを通じて大きな事業創造をする、そのやり方を「ビジネスプロデュース」と呼んでいます。10億円、100億円規模の新規事業ではなく、1000億円から3000億円、あるいは1兆円規模の市場そのものを創出するというコンセプトです。
例えば、今から10年前、日本企業は画期的な技術と製品を持っているにも関わらず、ある省エネ機器の市場は存在していませんでした。このまま技術開発を継続すれば、ものすごくインパクトのある技術であることは、実はまことしやかにわかっていました。そうであれば“市場自体を作ってもいいのではないか?”という発想が生まれます。ただし普及させるには、革新的な技術だけではなく、仕組みの設計が必要不可欠だったのです。
そこで私たちは、まず関連省庁に働きかけて、主に海外の低品質/粗悪品を排除する仕組みを整えるために複数の法令を変えてもらい、日本の製品を評価し普及させるために高品質製品のみへの補助金を取り付けました。加えて、自治体の調達基準を全国で変えてもらうなど、日本企業が高品質製品を開発しやすい環境を整えました。さらに経済産業省と組んで国際標準を制定し、世界に提案できるような仕組みそのものを作ってしまいました。その結果、当時100億未満だった機器の市場は、今では日本だけで5000億円を超えています。
要するに、コアケイパビリティである戦略に加え、技術と政策とビジネス、この三つを融合させることで、大きな市場を創造し、それを世界に発信していこうというのが、このビジネスプロデュースの基本的な考え方なのです。肝は「社会的課題を取り込み、それを解決する形での業界を超えた構想を描き、その実現に向けた仲間づくりをして連携していく」ということに集約されます。
三宅孝之 執行役員(統括)
京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T. カーニー株式会社を経てDIに参加。DIでは、環境エネルギー、まちづくり、ライフサイエンスなどを始めとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びビジネスプロデュースに広く関わる。著作に、『3000億円の事業を生み出すビジネスプロデュース戦略』、『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュ―ス」成功への道』(PHP研究所)がある。
―どのような企業に対して、「ビジネスプロデュース」のコンサルティングを提供することが多いのでしょうか?
ビジネス創造がベースなので基本は大企業です。一方で、ビジネスプロデュースの真髄はビジネスを通じた“社会的課題の解決”にあるので、クライアントが複数社になることもあります。クライアントが業界ナンバーワンの企業だとしたら、その市場が拡大することで大きなメリットを得ることになるのは確かですし、それ以外であっても、私たちと一緒に“世の中を変えていこう”という意識が強く働いている企業であれば誰でもクライアントになってくださる可能性があるというわけです。
世の中にはたくさんの問題があって、それを解決するには高い視座での発想、多様なステイクホルダーの巻き込みや、場合によっては政策連携など、複合的手段が必要になります。一筋縄ではいきませんが、世の中を変えていく過程では、大きなビジネスが多数生まれますし、さらに社会的課題が解決できれば国民にもメリットが生まれますし、国も企業もみんなWIN-WINの関係になり得ると思っています。

ビジネスをやりたいという思い

――「ビジネスプロデュース」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?誕生ストーリーをお聞かせください。
それを語るには、これまでの私のキャリアからお伝えする必要があります。私は、学生の頃から、最終的にはビジネスに関わりたい、また、自らが一つに集中してリーダーをやるのではなく、支援する側にまわることで、できるだけ多くのビジネスに携わりたいと考えていました。
そういった観点から、当時からコンサルタントという職業に興味を持っていましたが、その前に、まずは勉強しよう、世の中を知ろうと、当時の通商産業省(現在の経済産業省)に入省。「一番忙しい部署にいきたい」と希望を出したところ、産業政策局産業資金課という部門に配属されました。
中央官庁における花形の仕事は法律改正と言われていますが、それは10年に一度まわってくる程度です。ところがその部署は2年間で5本の法律を変えるという大変ハードな状況にある課でした。そのおかげで私はたった2年で、法令、予算、税制、財政投融資、組織改革など、いわゆる国の政策ツールをすべて2回転ずつ経験したのです。その後、資源エネルギー庁の国際資源課に異動。そこでもちょうどAPECエネルギー大臣会合が日本で開催されるという当たり年で眠れぬ日々を過ごしました。その次は、さらに大臣官房総務課という省内で常に最も忙しいとされる部署に配属となり、行政改革やリサイクル元年、ベンチャー第三次ブーム、地方分権に関わる法律改正などを担当するなど、本当に忙しい日々を過ごしました。
最後の2年間で、経済産業省だけでなく政府全体の仕組みであったり、国会や各省庁とのやりとりであったりを学び、6年余が経過した後に経産省を辞して、ビジネスの世界へと足を踏み入れたのです。
――その時点では、なにをすべきか明確に見えていたのですか。
正直言って、そのときはよくわからなかったのです。中小企業を支援したいとは漠然と考えていたのですが、まだ勉強が必要だろうと考え、大企業向けの外資コンサルティング会社のA.T. カーニーに入社しました。実はここでビジネスプロデュースの萌芽があったのです。
コンサルティングを通じて、クライアントの課題についてお聞きしていると、法解釈の誤解がボトルネックになっていたり、逆に法令を変えれば、もっと事業がスムーズに進めやすくなるのではないかと感じる点があったりしました。実際、その問題意識を丁寧に古巣の経産省の同期などに話すと、逆に感謝されるといった体験もするようになっていました。“もしかしたら国に働きかけて枠組みから考え直すと、大きなビジネスチャンスを生みだせるのではないか”と考えるようになっていたのです。

社会的課題の研究から始まった

入社当時(2004年)のDIは、ベンチャーを上場企業に育てあげるというビジネスを中心に展開していました。ところが2006年頃からマザーズの上場基準が厳しくなって、それまで年間100件くらい上場していたベンチャーが数件にまで落ち込んでしまいました。おまけにリーマンショックの影響もあり、ビジネスモデルの転換が迫られました。
戦略コンサルティングの世界では、大手企業向けのコスト削減、組織や業務改革、マーケティングといった既存事業のやり方を見直しサポートする仕事が多いというのが業界の実情です。但し、そういった一般的なテーマではなく、せっかくDIに所属しているのだから、他ファームが取り組めていない新規事業のコンサルティングにチャレンジしてみたらどうだろうかという思いが自分の中で高まりました。
当時は、予算もついていなければ、エース級人材が充てられることも少ない新規事業において、コンサルティングのニーズがあるかどうか?という議論もあったのですが、これこそが“DIらしい仕事”ではないかと思った訳です。結果的にその思いはビジネスプロデュースが生まれる大きな原動力になっていきました。
そんなタイミングで経産省のかつての先輩や同期から、今後の政策で何を打ち出していくべきだろうか、経産省は今後どうあるべきだろうかという相談が少しずつ来るようになっていました。せっかくだから、どういう分野で何をしたらいいかを考えてみようと、1年ほどかけて徹底的に研究してみると、やるべきことが数多く見つかりました。
その中の一例ですが、日本の環境エネルギーには、関連する技術の優位点やボトルネックも含めて、全方位的に状況を理解して、政策を動かせば解決できる点が多々あることも見えてきました。R&D(注:社会的課題・テーマを研究し、それを解決できるソリューションを開発・検討すること)を続けていくと、実に様々なテーマが出てきます。このテーマについてはこの会社に提案しようという発想も生まれていきました。これこそがビジネスプロデュースのスタートです。
今から10年前、私たちのクライアントで1兆円を超える大企業は確か2~3社しかなかったのですが、このテーマで提案していけば、それが10社にできるのではないか?と思うようになりました。まさに夢を見ているような状態でしたね。ちなみに今は優に20社を超えている気がします。
ビジネスプロデュースをコンサルティングのメニューに盛り込んで提案すると、あっという間にいくつもの日本有数の大企業が賛同してくださって、信じられないようなポートフォリオが出来上がりました。そうなってくると、複数の企業と国を繋げながら、ネットワーク状に仕事が増えていきますし、提案の幅も一気に広がっていきました。
その後もR&Dを続けていき、農業や医療、まちづくりなど様々な分野における社会的課題を次から次へと掘っていきました。経産省だけでなく、国交省、厚労省など、様々な省庁に持ち込んでいくと、抱えている課題のレベル感が同じなので、強く共感してくれました。
最近は「R&Dから一緒にやりましょう」といってくださるクライアントも出てきています。企業からすると、“政策は国から降りてくるもの”だと思っている部分はあったと思うのですよね。まさか一緒に政策を作れるとは考えたこともなかったでしょうから、そういった意味でも、このビジネスプロデュースは画期的なものとして映ったのだと思います。

ビジネスプロデュースに必要なチカラ

――大変、魅力的な仕事ですね。貴社の独自性はどのような部分に象徴されるのでしょうか?
ビジネスプロデュースの取り組みは他の戦略コンサルティングファームではなかなか手を出しづらい領域なのだと思います。私たちは、R&D機能を持って、社会的課題を掘っていくという、余分な寄り道がとても大事だと思っていますし、本気で世の中を変えるのだという使命感を持ちながら取り組んでいます。
解決すべき社会的課題もニーズもあり、各方面から声もかかってくるのですが、有難いことに多々ご依頼をいただきますので、全て受けることがなかなか難しい状況です。そういった意味でも、一緒にビジネスプロデュースに取り組んでくれる人材を強烈に欲しています。
――ビジネスプロデュースに取り組むための人材要件とは、どのようなものでしょうか。
我々が以前から求めていた「人間力」「戦略構築力」という二つの要件に加え、さらにビジネスプロデュースには「構想する力」「社内外ドライブ力」が必要になると思っています。
コンサルティングの前段として、大きな社会的課題に対して視座高く受けとめながら構想をして、さらに社内外の関係者とWIN-WINを作りながら進めていく力を鍛えていくことを期待しています。この力を身につけるためには一定の時間を要しますが、決して一人で仕事を進めるわけではありません。チームで取り組みますし、私を含め役員が責任をもってサポートします。
常に新しく、規模の大きな仕事に取り組むことができる、非常に魅力的な事業であることは間違いありません。社会的課題を解決しながらも、世の中を変えていきたいと考えている、そんな人材に期待したいですね。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)