AIに子育ては代替できるのか?

2017/11/23
「AIネイティブ」世代の誕生
「デジタルネイティブ」ということばは、今ではよく理解されているし、実際にデジタルネイティブが周りに増えたため、どんな世代なのかが具体的にわかるようになった。
彼らは、ダイヤル式の電話など見たこともなく、予定を書き込む手帳も使ったことがなく、ひょっとすると手紙を書いたこともなければ、スマートフォンの画面を見ずに1日を過ごしたこともないかもしれない。
このデジタルネイティブ世代の次に「AIネイティブ」が出てくるとすれば、彼らはどんな人間なのだろうか。ひょっとすると、われわれが想像もつかないような世界観や社会観を持っている可能性もある。そうした世代が、今やまさに生まれようとしているのだ。
働き者の「AIベビーシッター」
今年1月、おもちゃ会社大手のマテルがある製品を発表した。それは、子ども用のAIデバイスだ。「アリストテレス」というこの製品は、赤ちゃんから幼い子どもまで使えるもので、ちょうどアマゾン・エコーをちょっときゃしゃにしたような外見だった。付属でモニターカメラが付いている。
アリストテレスは「AIベビーシッター」というのが売りで、子どものナニーであり、友達でもあり、先生にもなるという機能性を備えていた。赤ちゃんが泣けば、好きな音楽をかけたり、光をキラキラさせて面白がらせたりする。
ちょっと成長した子どもが相手ならば、エコーのアレクサやグーグル・ホームと同様、質問に答えたり、外国語を教えたりする。子どもが質問をする際には、「プリーズ」とつけることも課して、まるでしつけまでやってくれるようなデバイスとして構想されていたのである。
諸刃の剣、アリストテレス
子どもを落ち着かせ、楽しませ、学習するコンパニオンにもなるというアリストテレスは、価格が350ドルと高く、アマゾン・エコーやグーグル・ホームとは格段に違った存在感をアピールしていたのだが、今年秋に製造計画が中止された。
この製品に反対する人々の署名が1万7000人分も集まった上、連邦議員が同社に質問状を出すにまで至ったからである。
反対派の理由は、主にカメラを通したプライバシー問題だったが、中にAIによる子育てを懸念する人々が少なからずいた。
子どもの世話や相手をし、また子どもの状態を見分けることを、AIによる偽の子育てで置き換える上、企業のブランドの餌食にさせる、というのがその理由だ。
社会性が阻害される懸念も?
しゃれたデザインのアリストテレスは、こうして日の目を見ることがなかったのだが、これで一件落着などでは決してないだろう。幼い子どもたちがアレクサやグーグル・ホームと仲良くするあまりに、妙な傾向を示すようになっていることが、すでに数々伝えられているからだ。
2歳にもならないある男児は、アマゾン・エコーが大好きなのだが、他の円柱型のものにもやたら話しかけるようになったという。エコーと同じ円柱型ならば、おしゃべりの相手になってくれると勘違いしているのだ。
アマゾン・エコー(写真:アマゾンジャパン)
これはまだ笑い話で済ませられるが、ちょっと眉をしかめるのは次のような例だ。
例えば、話し方がぞんざいになる。アレクサやシリ、グーグル・ホームは、ことばさえ通じれば返事をしてくれる。
人間を相手にする時の丁寧さは無用。命令口調でAIを言いなりにさせることに慣れてしまい、人を相手にしてもその癖が出てしまうという。
社会性を育むという点では、ちょっと気にした方がいいかもしれない。
また、難しい言い回しをAIが理解しないため、ごく簡単な単語と表現で済ませようとする。言語を発達させるもっとも重要な時期に、AIデバイスとばかりしゃべっていると、取り返しのつかないことになるという懸念も出てくる。
あるいは、かつてなら親に尋ねていたことをアレクサに聞くようになってしまい、家庭で親子の接触が少なくなる。親よりもAIの方が物知りかもしれないから、そちらに聞いた方がてっとり早い。宿題をやる際にそうした傾向が強まっているらしい。
「AIネイティブ」はいい子に育つのか?
こうしたことがどんどん進むと、AIネイティブは調べ物をするのに、百科事典が使えないばかりか、ウィキペディアやインターネットの使い方もわからなくなったりしないだろうか。あるいは、解答とはすぐ出るものだと誤解して、現実の人生問題や社会問題に対してイライラ感が増したりするのではないだろうか。
今年、MITメディアラボの研究者らが3〜10歳の子どもを対象にして行ったAIエージェントに関する実験によると、子どもたちはおおむねこうしたAIエージェントがフレンドリーだと感じているという。
6〜10歳児になるとAIエージェントは本当のことを言っていると信じる率が高くなり、アレクサやグーグル・ホームは自分より賢いとも感じた。子どものAIに対する信頼感は高いと理解できるだろう。
AIが当たり前になる時代には、人間も変化するだろう。けれども、未来のAIが予測できないのと同じように、AIネイティブの姿もまだうまく見えない。より良い人間になることをサポートするには、どんなAIがふさわしいのか。そんなことを考えてしまう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:CreativaImages/iStock)