相手との絆を深めるおもてなしの会食とは?

2017/11/13
テクノロジーを活用し、いかに効率的に働くかを追求する現代における「会食」の場の意義とは? 共に食の場を囲むことで生み出されるコミュニケーション、新たなビジネスチャンス、ネットワークなど、今の時代だからこそ、求められる自由で新しい「会食論」を語り合う。
接待は必要なのか?
横石:今日のテーマは「新会食論」。会食とは“人が集まって一緒に食事をする”というのが定義とされています。
経費が厳しいという声も聞きますが、最近の接待費のデータを見てみると、意外にも4年連続増加しています。大企業の景気回復傾向や2013年、14年の税制改革で交際費が奨励されるようになったのも大きいようです。
では、実際に会食や接待のニーズについて、ビジネスパーソンがどう思っているかという意識調査を見てみると、約8割が後ろ向き、半数以上が接待は不要と考えているというデータもあるようです。会食や接待離れが進んでいるのかもしれません。
出典:リサーチプラス
星野リゾート代表の星野佳路さんのように、「ムダな接待はやらない」ということをモットーにしているビジネスパーソンもいます。星野さんは今日のパネラーの井手さんとも関わりが深いですよね。
井手:実は、「よなよなエール」をつくっている我々ヤッホーブルーイングの創業者が、星野なんです。星野は「3ない主義」といって、出たくない会議には出ない、会いたくない人には会わない、出たくない会食には出ない。その信念は徹底していて、会食に出ることはほとんどありません。
横石: 会食や接待というと、ステレオタイプかもしれませんが料亭のようなところでビジネスの商談をする、というようなイメージが浮かびますが、そもそも、みなさんはいつもどんな「会食」をしているのでしょうか?
岩田:私は、ビジネス上の何かを決める場として会食を開くことはありませんね。それよりも、長い期間をかけて何度も一緒に食事をしながら意見交換する、というのが私にとっての会食です。
私が社長を務める三星グループは本社が岐阜にあるのですが、先日、ある勉強会で仲良くなったメンバーが、わざわざ岐阜まで訪ねてきてくれました。そのきっかけとなったのが、予約の取れないことで有名な店にみんなで食べに行こうということでした。もちろん、その際にはうちの本社や工場も見学してくれました。
わざわざ東京から岐阜まで足を運ぶ──食にはそんな力があります。
接待ではなく、割り勘の懇親会で
井手:僕の場合は個人的な主義もあって、接待をしないし、されない。料亭も行ったことがありません。堅苦しいのが嫌いだし、接待となった時点で利害関係が絡んでしまうのがイヤなんです。社員にも、接待なんかしなくていいと伝えています。
その代わり、割り勘の懇親会はよくやります。都内には「YONA YONA BEER WORKS」という、よなよなエールの公式ビアレストランアンテナショップが6店舗あります。そこで親交を深めたい方や仕事関係の人と一緒にワイワイガヤガヤやるのが、僕ら流のコミュニケーション。仕事を円滑に進める手段としては、気楽な懇親会で十分だと思います。
横石:そのような懇親会では、どんなふうに人との距離を縮めていくのですか?
井手:例えば、僕らとまだコミュニケーション濃度が薄く、弊社の魅力を十分に伝えられていないと感じているパートナーの方などです。
懇親会と言っても、いわゆる飲み会のノリ。その方と僕自身の人となりや会社のことを腹を割って語り合ううちに、どんどん距離が近くなっていった。最終的には、肩を組みながら飲み明かすほど、自然に仲良くなってチームメイトになれました。
会食での仕事の話は2分未満
横石:清原さんはやはり会食をする機会が多いのでしょうか? 国内にとどまらず、海外の方とのやり取りも多いと聞いていますが。
清原:平均すると、月に2回くらい社外の方と、同じく月2回ほど国内外問わず社内のメンバーとの会食があります。ただ、料亭のような場所にはもう随分と行っていないですね。 
私が会食の時に心がけているのは、2時間半食事をするとしても、仕事の話は2分未満で終わらせるということです。仕事の話が5分こえた時点で、その場が接待モードになってしまうんです。
自分が誘われたときのことを考えても、仕事の話はほんの少しで終わらせて、あとはほとんど別の話をするというような会食のほうが、圧倒的に心地よい。
機会的に年に何回とか、プロジェクト終了の節目に会食を設けるということもあると思いますが、それよりは「好きなレストランがとれたから」とか、そういう個人的なネタをフックにしてお誘いするほうが印象に残りやすいと思います。
会食を成功させる店選び
横石:「どんな店にいくか」も、会食をうまくいかせるためには重要でしょうか?
岩田:有名店ではないのですが、私がよく行く店に東京の寿司屋が1軒あります。そこに通っているお客さんの1人が、元ヨージ・ヤマモト ヨーロッパ社長だった斎藤統さん。
たまたまヨーロッパで斎藤さんと知り合う機会があり、その寿司屋の話で意気投合して仲良くなりました。そういうのって、食べものや好きな店への「感性が一緒」という安心感やうれしさがあります。
会食を最高のものにするためには、好きな食べ物や店というのは重要な要素だと思います。
横石:最高の会食にするための工夫やポイントがあれば教えてほしいです。手の内を明かしてもらってもいいでしょうか? 
清原:最高の会食というのは、いろいろ極端な条件が揃って実現することで、何度も繰り返せるような再現性はあまりないんですよね。
ただ、異文化の人間同士が会食する場合、やはりそれぞれの文化に根付くソウルフードが一番だと思います。例えば、私がインドネシア駐在中、現地の食事をお世辞ではなく本当においしいと思って食べられたときがそうです。現地の社員と心から打ち解けて意気投合できたのを実感しました。
その国や地方で、一緒に食べる食事を心からおいしいと思えるということは、心が通じ合ったということ。それがビジネスに直結する、しないは、あまり関係ありません。
距離を近づけるにはカウンターを選ぶ
横石:店選びで心がけていることはありますか?
清原:会食や接待に限らず、人との距離を縮めるにはカウンターがおすすめです。カウンターの中にいる店主との三角形の関係でやり取りができるし、何より店主が目配りしてくれるというサービスへの安心感がある。
ただ、個性的な店主も多いので、波長が合う、合わないはあるかもしれません。そこはハイリスク・ハイリターンですが、相手に気に入ってもらえた時には、とてもいい時間が過ごせるはずです。
岩田:横に並んで同じ食べ物を見ながら座るというのも、カウンターのよさ。カウンターでなくても、鍋や囲炉裏などを囲んで同じ方向を見ながら、ワクワクと料理ができあがるのを待つ時間もいいですよね。
横石:カウンターで三角形のコミュニケーションを意識したり、同じ食べ物をみんなで囲んだりというような仕掛けが、人と人を結び付きやすくするということですね。
食をフックにしたおもてなし
横石:相手との関係を深めるためのおもてなしとしては、どんなポイントを意識していますか? 
岩田:私の場合、相手がわざわざ遠方から岐阜に来てくれるケースが多いので、旅を楽しんでもらう感覚で過ごしてもらいたいと思っています。店選びでは、何かサプライズがあることを大事にして、基本的にはごちそうさせていただくようにしていますね。
わが家にそのまま泊まっていただくこともあります。家族ぐるみの付き合いができるようになるほど関係を深めて、この先も長く付き合っていきたい。それはプライベートに限らず、ビジネスミーティングでも同じで、泊まっていきますか?と聞いたりします。
小さい会社だけに、経営者である私のキャラクターを知ってもらうには、いい機会ですから。
横石:旅する感覚で多面的に会社や経営者のことを見てもらえる。会食がさまざまなチャンスをもたらしてくれているということですね。
会食に「戦略」はあるのか
横石:今回のテーマである「新・会食論」を深めるにあたって、事業ミッションやブランドイメージ、コミュニケーション戦略づくりに会食が果たしている役割も考えてみたいと思います。会食に戦略というものはあるのでしょうか。
岩田:アパレルは感性の部分が大きいので、商品そのものや、それを生み出す土地を体感してもらうことは、企業戦略としてとても大事にしています。そういう機会に会食というフックは欠かせないですね。
井手:戦略というと少し仰々しいですが、苦手な分野は捨てると割り切ることも大切。それが僕にとっては、相手との距離を縮めづらい雰囲気がある高級料亭での接待です。
そもそも接待の目的は、相手の人と仲良くなりじっくり知ること。その人と信頼を築いた向こうに会社というビジネスがある。
仕事を取ろうというような気持ちはとりあえず抜き。まずは自分たちを理解してもらい、相手を理解するために、自分たちの得意な土俵で、僕ら流のスタイルでおもてなしをできればいい。結果として、仕事上でもパートナーになれたら、なお良しという感覚です。
清原:私は「会食に戦略はない」と思っています。ビジネス上の良好な関係を築こうと会食をセッティングしたところで、なかなかうまくいかないものです。
あえて戦略をあげるなら、相手と友だちになること。仕事を目的に会っても友だちにはなれませんが、一緒に食べたり飲んだりしていれば最後の店では個人的な友情が芽生えているということはよくあります。
直接、会って話すコミュニケーションの優位性
横石:今はメールやSNSで繋がって仕事ができてしまうので、飲み会をして仲を深めるという機会も減ってきています。
井手:もちろん、仕事ではメールやSNSは最適なツールですが、人間関係を構築するにはそれだけでは難しいですよね。
フランクな雰囲気の中、意気投合して会話が弾むパネラーの3氏
僕が社長になってからの8年間、「いい会社をつくるにはコミュニケーションが一番大事だ」と思ってここまでやってきた。人は感情の生き物ですから、課題が山積していても、会って話すことでいろんなことが解決していきます。
岩田:私の場合、岐阜からのやり取りが多いので、東京のお客様や取引先とはどうしてもメールやSNSなどがビジネス・コミュニケーションの中心になってしまいます。
効率や合理性からいえば、それだけで仕事を終えることもできますが、やはりもっとリアルに体感してもらいたい。生地を触ったり、その生地が生まれる土地の背景を肌で感じることで、理解してもらえることがたくさんある。
食は、遠方からくるお客様にそういう体験をしてもらう大きなきっかけになるものです。だから、スマホに地元のおいしいものや店を集めた写真フォルダーを作っておいて、会議が終わった後などに岐阜に行きたくなるようにアピールしたりします。
トークセッション終了後は、さまざまな料理を手に取りながらパネラーや参加者たちが懇親を深めた
もうひとつ、うちの会社のように24時間三交代制の工場があると、社員全員が一同に会するのは、なかなか難しい。そこで年末に、社内イベントとして「持ちつ持たれつ餅つき大会」というイベントを実施しています。一緒に餅をついたり、食べたりするという共通体験があるだけで、自然とつながりが深まるんです。
同じ会社の人間が集まる、ということもすごく大事だと思っています。
清原:会社というのは、知らず知らずのうちに緊張を強いる場所です。その緊張をゆるめてくれるひとつが、食の場です。私は年間40日ほど、社員とラウンドテーブルランチをしています。会議室でお弁当を囲みながら、ゆったりと雑談を楽しむ。そんな時間も必要だと思います。
ちなみに、先月、社内のカフェテリアで日本開業100周年を祝うささやかなパーティをしたのですが、その時は私自身もバーテンダーとして社員にお酒を振る舞いました。そんなふうに仲間同士が気を許して楽しめるのも、食の場の力です。
東京の夜景が広がる会場で、乾杯の音頭をとる清原氏
新しい会食のスタイルとは?
横石:最後にみなさんにとって、会食とはどんなものかお聞かせください。
井手:人と人との距離を縮めて、円滑な関係をつくっていくための機会。それに尽きると思います。
岩田:「食」という字は人が良くなると書きます。つまり、会食は会うことでその人との関係が良くなるという、とてもいい言葉。会食の場を、これからもっといい機会にしていきたいですね。
清原:少し大げさに聞こえるかもしれませんが、会食は人類にとっての不必要な緊張を取り払い、本来の人と人との自然な関係に近づける「舞台装置」のようなものではないでしょうか。
横石:形式にこだわらず、自分自身のフィールドで、自分なりのおもてなしをデザインできる場、それがこれからの新しい会食のかたちになっていくのかもしれません。
(取材・文:工藤千秋 写真:稲垣純也)