SFの世界から現実の社会へ

人工知能(AI)はついこの間まで、SFの世界のものと一般に思われていた──。
AIが初めて世間の注目を浴びるようになったのは1997年。IBMのスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー(Deep Blue)」が、チェスのグランドマスターであるガルリ・カスパロフに2勝1敗3引き分けで勝利したときだ。
そして2016年、AIはチェスよりも歴史が古くて難しい囲碁など考えられるほぼすべての試合で名人を打ち負かした。ゲームのマスターから人生の意味の熟考まで、AIは近年、大きく前進してきた。
そこで、このテーマにスポットライトが当たることを期待して、2018年に注目すべきAIの5つのトレンドを列挙していこう。

1. 特殊なコマンドではなく、自然言語が使えるようになる

AIやコンピュータの世界をたえず悩ましている主要な問題の1つは、自然言語の使用だ。
音声操作で電話を利用したり、コンピュータプログラムを作成しようとしたりしたことがあれば、私が何を言おうとしているのかわかるはずだ。コンピュータは非常に特殊なコマンドを用いた指示を受け入れ、口調や「比喩表現」のような微妙さはまったく理解しない。
顧客サービスなどの業務にチャットボットを利用するのが一般的になるにつれ、人間の話し言葉のちょっとしたニュアンスを認識する能力が、ますます重要になりつつある。
グーグルはこれまで、会話中に人間と見分けがつかないAIを目指して前進するリーディングカンパニーだった。同社のチャットボットは2015年、人生の意味をめぐって有意義な議論を行うことに成功した。
10年後か20年後には、デバイスが人間に対して何をしようとしているのかを自ら質問できるようになり、キーボードは廃れているかもしれない。

2. 感情認識によって、ロボットと人間の関係がいっそう強化される

皮肉やシャレ、ニュアンス以外で、AIが直面している他の大きな問題は、人の感情を認識する能力だ。
人が苛立っている時にそれを認識し、状況に応じて作戦変更できるチャットボットなら、顧客窓口を改善するのにおおいに役立つだろう。だが、こうした突破口が開ける可能性は、ビジネスの世界にとどまらない。
精神医療の世界では10年ほど前から、カウンセラーの役割を果たせるチャットボットの開発が目指されてきた。それまでに行ったすべてのやりとりをひとつ残らず記憶し、感情バイアスがないチャットボットを開発しようとしてきたのだ。
そうした取り組みの結果、2014年にX2AIという企業が創設され、心理セラピー用チャットボット「カリム(Karim)」が登場した。カリムはすでに、とくに心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ患者の治療に用いられている。
カウンセラーロボットの開発が本格化すれば、多くの精神疾患患者にとって治療を受ける妨げとなっている「コスト面での障害」を軽減するのにおおいに役立つだろう。

3. AIにより、ビッグデータの分析が一般市民の手に

ビッグデータはこの数年間、AIと並んで最も大げさに騒がれながら、ほとんど理解されていない用語の1つだった。
ビッグデータ分析に内在するビジネス可能性は非常に大きいが、そういったデータを正確に分析し、適切な結論を引き出すのは、同じくらい大きな課題だ。AIと機械学習の技術が発展するなかで、ビッグデータとの関わり方は完全に根底から変わっていくだろう。

4. 倫理に関する論争は激化する一方に

AIが進歩し、任される仕事の重要性が高まっていることから、業界の人々の心にはAIの信頼性に関する問題が重くのしかかっている。AIが犯罪を犯した場合、誰に責任があるのか、購入した企業か、それとも開発した企業(または個人)か──。
何より興味深いのは、AI自体が責任を負うのかという問題だ。ここでは少し時間をとって、このテーマに集中してみよう。
AIが犯罪の責任を負う場合、どうやってAIを罰するのだろうか。ほとんどの人は、破壊するという結論をすぐに下すだろう。簡単な話だ。
だが、AIが高度化したために、自らの行動に対して責任を負い、罰せられる可能性があるのであれば、基本的な権利も与えられるに値するのではないか。
米国など多くの国で、企業は権利と責任を完全に伴う独自の法人組織と見なされている。その論理で言えば、ある時点でAIボットに対して同じ規制を整備する必要が生じると思われる。
法的に人と同等と見なせるボットが現れるのはまだ何年も先の話だが、現時点で論争が起きつつある。何を基準にボットを人間扱いするかを決めるまで、論争は続くだろう。

5. 「誇大宣伝」は徐々に減り始める

この数年間、AIに関する記事を読むのに多くの時間をかけていれば、今後10年間にボットが世界を乗っ取る、あるいは人間の問題をすべて解決するような気がしても、責めることはできない。
単調な仕事はすべて消え去り、人類は映画『ウォーリー』のワンシーンのように、すべてをロボット任せにするだろうと思われることだろう。
だが、事実はそれよりもはるかに退屈だ。この10年間にAI分野で大きな前進が見られたのは事実だが、業界はまだ、ごく黎明期にある。
ボットがさらに多くの仕事を代行することはないと言っているのではない。ボットがいつか「世界を支配する」可能性があることも否定はしない。
だが、私たちが生きている間にボットが世界を乗っ取ったり、世界のすべての問題を解決したりする可能性は、馬鹿ばかしいほどわずかだ。
私たちがAIとのやりとりに慣れて理解を深めるうちに「誇大宣伝」は徐々に減り始めるだろう。そして、ロボットが世界を乗っ取るといったヒステリックな戯言ではなく、信頼性のような真の問題に人々の話題は移るだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:James Paine/Founder, West Realty Advisors@JamesCPaine、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:JIRAROJ PRADITCHAROENKUL/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.