バイトの悪ふざけで倒産した多摩市「泰尚」の慟哭


 「バイトテロ」で企業が倒産に追い込まれる事態がついに発生してしまった。

 東京都多摩市。東京都下の丘陵地帯に造成された多摩ニュータウンにあるそば屋の「泰尚(たいしょう)」。幹線道路沿いの好立地で営業していたにも関わらず今年8月に閉店。東京地裁に破産を申請して、10月9日に破産手続き決定を受けた。

 同社は前社長が亡くなった昨年9月にそれまで3カ所あった店舗を1店に縮小しての再建中だった。その最中、思いもかけない事件が起きた。

 アルバイト店員の男子大学生が店内での悪ふざけ画像をインターネット上に公開したのだ。「洗浄機で洗われてきれいになっちゃった」というコメント付きで洗浄機に横たわったり、顔を突っ込んだりした画像をツイッターで投稿。さらには流し台に足をかけたり、胸をはだけ、店の茶碗をブラジャーのように胸に当てたりした画像など、目覆わんばかりの画像も投稿していた。

 問題行為が発覚して、ネットが「炎上」する騒ぎになったのは8月9日。「不衛生だ」などとクレームの電話が相次ぎ、店は閉店に追い込まれた。そして、その後、営業を再開することなく、破産に至ってしまった。

 いわゆる「バイトテロ」によって倒産にまで発展するケースは稀だ。日経ビジネスでは破産直後から同社の小川純子社長にインタビューを申し込んでいたが、なかなか連絡を頂けなかった。一通のファクスが編集部に届いたのは12月1日。それは小川社長直筆の「慟哭の手紙」だった。


12月1日、小川純子社長から編集部に届いた直筆のファクス

 「私の思いをすべて書きました。日経ビジネスだけにこれを送ります。ぜひ、そのまま掲載してください」。そんな本人の希望通り、全文を原文のまま以下に掲載する。

 突然の出だしで失礼いたします。

 私と主人は共に東京に生まれ、主人の父はサラリーマン、私の父は公務員、双方共に片親に早く死なれ、決して幸福とは言えない環境だったと思います。そして主人は専門学校卒とは言え暴走族のリーダー、私は一流企業に就職しましたが高卒です。

 主人が30才の時に独立、(有)泰尚を始めました。細かい数字は割愛させて頂きますが、大繁盛いたしました。飲食の基本は早い、安い、そして美味しい、とにかくお客様に喜んで頂く事、そしてまた来店して頂き常に笑顔を絶やさず、本当によく働いたと思います。

 ところが時流の波には逆らえず、経営は厳しくなってまいりました。

 とうとう昨年の9月13日(奇しくも義父と同じ命日)に主人は負債を背負いきれず自ら命を絶ちました。葬儀には1000人近い方がみえて下さいました。

 私と娘も覚悟しておりましたので、主人は私達のために犠牲になってくれたと思っております。

 そしてあの事件から早4カ月近く経った今、彼らのやった事は一生許す事はできないし、その子(今ではもう立派な大人です)も憎いですしその親達にさえあきれるばかりです。

 決して世の中の役に立つ人間になれなどとは申しません。でも少なくとも、人には迷惑をかけるな、ありがとうとご免なさいをなぜ言えないのかと。

 やはり今後、裁判になる可能性は高いと思います。そんな中で損害賠償が支払われたとしたら、それはもう私が受け取るべきものではありません。

 そして私は先程の「決して世の中の役に立つ人間になれなどとは申しません。でも少なくとも、人には迷惑をかけるな、ありがとうとご免なさいをなぜ言えないのかと」の言葉通り、さらにつけ加えるなら、人様に借りたものは必ずお返しする。それらができたビジネスウーマンで終えることができます。

 そしていつか死を迎える時は、主人の様に沢山の人達に見送られて旅立てたら、こんなに幸福な事はありません。

 泰尚は1984年創業。多摩市の永山店のほか、一時は町田市にも2店を運営して、2011年5月期の売上高は約1億2000万円(帝国データバンク調べ)だった。前社長の死後、永山店のみを残し営業していたが、力尽きた。負債額は約3300万円。


泰尚永山店は多摩ニュータウンの幹線道路沿いにあった。12月に訪れた時には既に別の飲食店に変わっていた

 同社はアルバイト学生に対し、損害賠償を求める交渉を続けているが示談の成立には至っていない。今後、裁判に発展する可能性は大いにある。

 これまでにもブログやツイッターなどへの投稿が契機となり店舗が閉鎖した事例はあるが、会社が破産にまで追い込まれた事例は珍しい。泰尚の担当弁護士は「閉店に追い込まれたことが倒産につながったことは明らかだ」と主張している。

 ウェブ上の悪ふざけ投稿が倒産にどこまでの影響を及ぼしたのか。泰尚事件における賠償問題の行く末は、小売店や飲食店をはじめとする企業経営者にとっての今後のリスク管理のあり方を左右するだろう。