野球少年激減。プロ野球ビジネスが成立しなくなる日

2017/11/6
2017年のプロ野球は史上最多の観客動員2513万9463人を記録、高校野球では早稲田実業の清宮幸太郎や広陵の中村奨成が大きな注目を浴びるなど、野球人気はうなぎのぼりだ。
それだけに、遠くない将来の野球界を揺るがす地盤沈下はほとんど目を向けられずにいる。
北海道日本ハムファイターズの大渕隆スカウトディレクターは金の卵を探して日本全国を巡る中、野球人口減少の惨状を見聞きしてきた。
「時代の流れとして、野球は淘汰されるんだなと感じています。ダイバーシティと言われる中、競技も多様化されて当然。それなのに、野球界では『巨人、大鵬、卵焼き』の流れがまだあると思っている人がいます。日本に野球があって当たり前だと思う感覚を早く捨て去らないといけない」
過去10年間のデータを見ると、小・中学生の野球離れは著しい。
2007年と2016年の人数を比較すると、小学生は19%、中学生は32.7%の減少だ。子どもの総数自体が減っているとはいえ、その減少幅は7.7%だから、少子化だけが野球離れの原因ではない。加えて言えば、サッカーの小・中学生年代にあたる第3・4種人口は同時期に6%増えている。
とりわけ深刻なのが地方だ。伝統的に野球の盛んな青森県弘前市では、スポーツ少年団に登録する小学生の数が2006年の1113人から2016年には343人に減った(弘前市役所文化スポーツ振興課調べ)。
首都圏にとっても他人事ではない。神奈川県の少年野球チームは2010年に2000あったものの、2017年には800まで減っている(慶応高校野球部の上田誠前監督による調査)。
坊主頭にするのが嫌で野球をやらない子どももいる
「高校野球の部員数だけは減っていない」
野球関係者の間でそう不思議がられてきたように、上の図を見ても2007年と2016年の高校野球部員数はほぼ変わらない。しかし、いよいよ影響が出始めてきたという声もある。
千葉県柏市を中心にスポーツトレーナーとして活動する鶴岡大氏によれば、「今年、千葉では1年生の部員数が激減しています。柏市では(部員数が)15人を切っている公立高校も多いみたいです」
一方、青森県高校野球連盟の高橋聡理事長が現状を説明する。
「五所川原では5校連合にしないとチームが成立しないほどです。来年夏の100回大会に向けて、春にならないと出場校すら確定できない。これまではそういう学校が1つ、2つでしたが、今はそういうレベルではありません。子どの数がどんどん減っている影響です」
青森県の年少人口(0〜14歳)が1975年の38万218人から2015年に15万493人と半減する中、野球少年は大幅に減少している。
時代の波に取り残される野球界
30〜40年前まで国民的スポーツだった野球には、“時代を映す鏡”という側面があった。例えば巨人のV9は高度経済成長時代と重ねて見られ、2000年代に入るとソフトバンク、楽天、DeNAというIT系企業が球界参入を果たした。
ここ10年の野球人口減少は、まさに現在の日本を象徴しているように見える。
最たるものが、「少子高齢化」だ。
これまでいくつかのメディアが少子化と野球人口減少を絡めて記事にしてきた一方、高齢化の問題はまるで指摘されていない。日本高校野球連盟や、学童野球を取り仕切る全日本軟式野球連盟の理事には70〜80 代のシルバー世代が中心に座り続けるため、時代に沿った新たな方法や考え方が導入されにくい。温暖化の影響で30度を超える日が続くようになった夏場、高校生から小学生まで大量の汗を流しながらプレーし続けているのが象徴的だろう。
審判の高齢化も深刻だ。このままの運営体制が続けば、群馬県軟式野球連盟の高地康男理事長は「10年先も心配だけど、20年先は本当にどうなるかわからない」と将来の存続を憂いている(特集2回に関連記事)。
大人の指導者たちは目の前の結果ばかりにこだわり、小学校のグラウンドで怒号罵声を浴びせる。日本社会で長時間労働が見直される中、グローブをはめた小学生たちは長時間練習を強いられている。試合での酷使は無くならず、7割の少年が野球肘を抱えていると指摘する医師もいる。
小学生時代の嫌な思いから野球に嫌気がさし、中学から他の競技を始める者も少なくない。そんな要因も絡み、中学生の野球人口は2007年からの10年間で32.7%減った。この裏には、「部活動」の問題もある(特集3回に関連記事)。
「子どもたちが野球をやることで、人生にとってプラスに働くような指導ができているのか。そうでなければ、野球人口を増やす必要はない」
勝利至上主義がはびこる野球界に疑問を投げかけるのは、堺ビッグボーイズで小・中学生を指導する阪長友仁コーチだ。グローバルなAI時代に向けてどういった人材を育てていくべきか、「教育」界はもちろん、上意下達に終始してきた野球指導者たちも見直す必要がある(特集4、5回に関連記事)。
「幼児教育」が進み、低年齢から習いごとを始める家庭が増えた。ラテン語で“気晴らし”や“遊び”という語源を持つスポーツは“習いごと”化し、未就学児への普及に手が及ばない野球界が、競技者を伸ばせないのは当然の帰結と言える(特集6回に関連記事)。
プロ野球の「最悪のシナリオ」
多様化する社会の波に乗れず、旧態依然とした野球界がこのまま歳を重ねたとき、果たしてどんな末路を辿るのか。その可能性は大きく2つ考えられる。
1つは、野球は「やるスポーツ」から「見るスポーツ」に完全転換して生き残る道だ。仮にこのまま競技人口が減り続けたとしても、ある程度のところで踏みとどまれば、「競技レベルは変わらない」と日本ハムの大渕スカウトディレクターは見ている。
「今までの野球界はピラミッド型で、最後に残った人がプロ野球選手になりました。このまま競技者が減っていけば、“選ばれた人”ではなく“選んだ人”たちが切磋琢磨していくことになる。自分で選択している限り、野球をするという前提の家庭であるから、時間的な余裕、経済的な余裕、親の興味がすべてそろっているので、非常に確率のいい形で伸びていくという感覚はあります」
極端に言えば、青森県の高校が減り続けても、大阪桐蔭や横浜など名門校は生き残れるだろう。私学ばかりが甲子園で勝ち上がる高校野球では、すでに二極化が激しくなりつつある。
2013年夏に甲子園に初出場した弘前聖愛高校では野球部員の数が増えているという
ただし、そうした形で日本の野球界が生きながらえるのは、現在のプロ野球人気が続いていくことが前提条件だ。
高額の年俸を稼げ、華やかなスポットライトを浴びられるからこそ、少年たちはプロ野球の世界に憧れていく。それがかなわなくなった場合、魅力は競技の面白さくらいしか残らないのではないだろうか。
このまま競技人口が下降し、野球に興味を示すファンが少なくなっていった場合、プロ野球が現在のようなビジネスを維持できなくなる可能性もある。数こそ少ないが、そう危惧するプロ野球関係者も確かにいるのだ。
「他のスポーツと比べて野球の競技人口減少スピードが速くなっているのは、球団経営という観点からも非常に危機意識があります」
横浜DeNAベイスターズの岡村信悟社長は、未就学児への普及振興プロジェクトの会見でそう語った。
ベイスターズは野球人口減少に危機感を膨らませ、未就学児への普及振興プロジェクトを開始。岡村信悟社長(右後ろ)と三浦大輔元投手(左後ろ)が子どもたちに野球の楽しさを伝えた
さらに、埼玉西武ライオンズ事業部の市川徹次長は最悪のシナリオを描いている。
「(競技者減少でプロ野球の)レベルが下がることによってチケットが売れなくなる、グッズが売れなくなる、放映権が売れなくなるというのが最終的にあると思っています。もちろん、球場に見にくる人もいなくなるのでは、と。つまり、プロ野球が商売として成り立たなくなるという状況に、将来的に陥ってしまうのではと感じています」
2017年のプロ野球は、多くのスタジアムが活気にあふれていた。選手たちが高いパフォーマンスを披露し、ビジネスサイドが魅力ある仕掛けを施し、魅了されたファンが足繁く通う。それが現在のプロ野球の姿だ。
しかし、現状が「未来のバロメーターにはならない」と市川次長は警鐘を鳴らす。
「観客動員が増えたからといって、野球人気があるとは思っていないです。球場に来るファンの延べ人数は増えているけれど、実人数が増えていないことはわかっています」
少なくとも西武では、リピーターに支えられる一方、新規ファンは思うように伸びていない。すでにプロ野球のファン層が固定されてきたとすれば、今後新しいマーケットを開拓できなければ先細りとなる。小・中学生の野球少年は10年後に重要な顧客となる可能性が高く、ここの人数が減っているのは極めて重大な問題だ。
多くのプロ野球関係者やメディアは野球人口減少の事実に気づいていないか、それが意味するものをわかっていないか、将来的なダメージを見て見ぬふりだが、このまま放っておけば、遠くない将来に“野球消滅”につながっても決して不思議ではない。
その予兆と言えるものこそ、日本全国の町や村で行われてきた少年野球の競技人口減少だ。地域の子どもたちとその家族、そして熱心なおじさんコーチたちが地元でコミュニティを形成してきたが、旧来的なあり方は限界を露呈しつつある。だからこそ、日本全国で野球人口は減り続けている。
さらに言えば、全日本軟式野球連盟は重要な事実を公表していない。冒頭に掲載した小学生野球人口の数は、まったくのデタラメなのである。
*第1回に続きます。
(デザイン:九喜洋介、バナー写真:iStock/briancweed、文中写真:中島大輔)