【夏野×塩野】EV化でクルマがもっと自由になるためには

2017/11/7
テクノロジーとの融合が進む自動車業界。メルセデス・ベンツが中長期戦略として「CASE戦略」を発表するなど、クルマが「スマートフォン」や「AI」とつながることで新たなビジネスチャンスが広がっている。今回は、今後の自動車業界の変化とそれに伴う課題、新たな自動車ビジネスのあり方をテーマに、夏野剛氏と塩野誠氏がMercedes me Tokyo(東京・六本木)でトークショーを開催。NewsPicks読者の前で、これからのクルマの未来について語り合った。
急速なEV化の中でどう生き残るか
──今日はこれからの自動車業界がどうなっていくのかをテーマに対談していただきます。お二人は、今後の自動車業界で最も変化するポイントは何だとお考えですか?
夏野:今の日本の自動車業界の状況は携帯電話がスマートフォンに取って代わられる直前にとてもよく似ていると思っています。携帯電話はスマホの登場から10年でプレーヤーが全て入れ替わってしまった。
EV化の急速な波の中で、10年、20年後に生き残っていくために、何ができるかを今から考えていかないといけないと思います。
塩野:私が自動車業界のコンサルティングをしていた15年前、まだEVが登場し始めた頃に比べても、今の自動車業界の変化は著しいものがあります。ここまでEV化が進むとは正直予見できていませんでした。想像以上に各国が規制をEVシフトしたことが、EVの普及を後押ししています。
クルマの自動化については、車庫入れや駐車、高速道路の運転など定型的な操作は、かなり技術的に進化しています。今後さらに自動化への進化が加速するでしょう。
自動化にまつわる変化として見逃せないのが、クルマの電動化は使用する部品を4分の3から3分の2ほどに減らしてしまうということ。自動車業界は多くの関連企業があるだけに、大幅な部品の減少は業界地図を大きく変えることになるでしょうね。
全く未知のユーザー体験こそが魅力
夏野:僕は、今、起きているのは、EVとかそういう技術的なことよりも、「新しいユーザーエクスペリエンスの到来」だと思っています。
僕は、メルセデス・ベンツとテスラユーザーなのですが、テスラに関してはEVだから乗っているのではなく、自動運転の全く新しいドライビング感覚が体験できるから乗っています。高速では自動運転で全く手がかからないし、スマホのOS感覚で随時最新のテスラにアップデート。
これらはこれまでのクルマにはなかった体験です。それが広く認知されるようになったときが、日本の自動車メーカーにとって試金石となるでしょう。
その点、海外メーカーは走りへの美学を持ちながら、EVの波にすぐに乗って戦略化するスピード感があります。メルセデス・ベンツの「CASE戦略」なんて、まさにそのものです。日本のメーカーはどうしても周りの様子をうかがいながら、ゆっくりと進んでいる感じです。
自動車メーカーの定義が変わる
夏野:今後の戦略をすすめていくうえで、日本の自動運転へのレギュレーションをどこまで厳しくするか、というのも課題になってきます。海外では規制と安全性のバランスを考えながら、できるだけイノベーションが起きやすい環境を重視しています。
日本はどうしても安全性重視なので、そのあたりのグローバル基準との差が、今後の展開に影響していくことが考えられます。規制とイノベーションのバランスは非常に難しい問題ですが、その中でどうやってイノベーションが起こせるかが鍵になってきます。
塩野:今後、自動車メーカーそのものの定義も変わってきそうです。クルマをつくるというより、モビリティエクスペリエンスを設計する会社が自動車メーカーの定義となっていくと思います。
安全重視とイノベーションのバランス
夏野:テクノロジー的視点から、自動運転の本命は安全度が高いレベル3〜4といわれています。特に日本の自動車業界ではそれが定説です。
しかし、ユーザーインターフェイス的には、レベル3〜4よりもレベル2くらいのほうが、現実的に便利さを実感できるのではないかと感じています。
レベル2の自動運転車が増えることで、高速道路での追突事故は確実に解消されます。そういう社会的利益をユーザー目線でもっと考えてもらいたいですね。
塩野:日本は毎年交通事故で3900人、1日にすると約10人が亡くなっています。レベル2の自動運転なら、この死亡事故を減らせるという絶対的な大義が成立します。
夏野:大事なのは何を重視して社会を進化させるかという目標設定。全体最適と個別最適のバランスはもう少し議論すべきでしょう。
塩野:例えば、もし、今の世の中にバイクが存在しなかったとして、これから作りたいと思っても多分難しい。タイヤが2つしかないなんて、危なすぎるということになるでしょう。
夏野:特区制度のようなものをもっとうまく活用する方法もあると思うんです。北海道のようにクルマが少ない地域で、自動運転をどんどん実証実験していくと、また違う展開が開けるのではないでしょうか。
塩野:海外ではカリフォルニアが自動運転車の有人走行試験を認めて、自動運転のショーケースというブランドを確立しましたね。
マクロで考えると、最初にデータをたくさん蓄積できたものが勝ち組として、ルール設定できるというのも利点です。ゼロエミッションの排出枠(クレジット)取引のルールもそうだし、テスラのように自動運転の実証実験データを最初により多く貯めたところがルールにも影響できる。
夏野:20年後、日本の自動車メーカーが生き残るには、世界中の自動車メーカーが日本で実証実験することで技術が躍進する、というような未来を垣間見られる土壌をつくっていくべきですね。
新しいビジネスモデルも誕生
──シェアリングサービスについては、どのようにお考えですか?
夏野:日本は自動車メーカーの系列レンタカー会社が主流でしたが、タイムズが参入して、シェアリングや駐車場でレンタカーを借りるというイノベーティブを巻き起こした。これからは、それがますます当たり前になってくるでしょう。
販売モデルの革新も始まりつつあります。月額会費を払ってクルマを所有せずに使う方法もニーズが広がりそうです。
──ソフトウェアのオープン化についてはどうでしょうか? オープン化を進めるべきか、自社開発にこだわるべきかという選択があります。
塩野:クルマにとってソフトウェアはコアになるもの。そこは自社でコントロールしていかないと、いつの間にか外側だけつくっていた、ということになりかねません。
また、ソフトウェアのオープン化には、セキュリティの問題もつきものです。ハッキングして自動運転車を走らせる、ということも現実におきています。
自動運転が進化すると、クルマの中で楽しむエンターテインメント系のソフトウェアも出てくるでしょう。そういう付加価値的なソフトウェアも、自動車メーカーにとっては大事なことになってくるかもしれません。
夏野:確かにクルマをコントロールするハードと一体化したソフトウェアは自動車メーカーの領域。でもそれ以外はオープン化を前提にして、それが得意な企業にまかせていくほうがよりおもしろいものができると思います。
塩野:ジョージ・ホッツという天才ハッカーが、1000ドルの自動運転キットをつくっているのですが、それを自分の車につけると自動運転が可能になります。
そういうおもしろい、変わったプレーヤーも出てくるでしょうし、ソフトウェアはまだまだ思いがけないユニークな形で発展していくのではないでしょうか。
異業種、スタートアップとのコラボ
──自動車メーカーとスタートアップのような新しいプレーヤーとのコラボレーションも増えています。このような動きは今後ますます盛んになるでしょう。
夏野:欧米の自動車メーカーでは、異業種出身者が多く活躍しています。メルセデス・ベンツでも、古くからデザイナーとのコラボモデルをつくっていますよね。いろいろなところと組んで刺激を受けることが、ユーザーの喜ぶクルマ作りにつながっていく。
スタートアップとの提携は、その手始め。ユーザーインターフェイスを専門とする会社やアプリ制作会社など、有望な提携先があると思います。
トークショーの後は、夏野、塩野両氏と参加者が語り合う懇親会も開催された/Mercedes me Tokyo(東京・六本木)
塩野:自動車メーカーは、経営の体力がある今のうちに、いろいろなスタートアップへの出資や提携をしていくべきでしょうね。スタートアップだから潰れてもいい、というくらいの姿勢で積極的に動いてほしい。
自動車メーカーの元エンジニアが集まって自分たちのつくりたいクルマをつくる京都のGLMという会社があります。そこでは超高級EVをつくっていて、そういう夢を追いかけているスタートアップと組むことで、触発される点も多いと思います。
求められる自由な発想の顧客体験
──自動化やEV化が進んでいく中で、生活の中でクルマの役割やあり方は、これからどう変わっていくのでしょう。
夏野:乗用車よりバスやタクシーなどの公共性の高い乗り物、商業車から新しいクルマの変化が進んでいくと思います。トラックなんかは、自動運転のほうが断然効率的でドライバーの負担も軽減できる。
トラック、バス、タクシーなどの慢性的な人手不足解消にもなります。社会効用的にも、商業車にはどんどん自動運転を取り入れていくべきです。
塩野:Google HomeやAmazon Echoなど、音声入力・音声認識ができるスマートスピーカーが登場していますが、これこそ自動車メーカーがほかに先駆けて車内向けに開発できたのではないかという気がします。
そういう自由な発想を顧客体験として持っていることが、日本の自動車メーカーの将来を決めていくことになるのではないでしょうか。
また、自動運転フレンドリーを目指したインフラ整備など、そろそろ全体をシステムとして設計したほうがいい。自動運転で走りやすいようにタグを埋め込んだり、白線を引いたり。将来的には走りながら非接触で充電できる高速道路などもシステム化するべきですね。
夏野:20年後には自分で運転するクルマを所有するのは、ぜいたくなことになっているかもしれません。自動運転のシェアカーやタクシーが今の倍の数になったら、クルマを所有する必然性も少なくなります。
エンターテインメントのためのクルマと、移動のための実用性の高いクルマ。未来のクルマはそんなふうに、完全に二極化していくだろうと思っています。
メルセデス・ベンツ「CASE戦略」が描く未来のクルマ
CASEの4つの要素について解説するメルセデス・ベンツ マーケティング・コミュニケーション部 部長 禰冝田謙一氏
トークショーに先立ち、メルセデス・ベンツが中長期戦略として打ち出す「CASE(ケース)戦略」についての解説が行われた。
「メルセデス・ベンツは世界で初めてクルマを発明した会社であるという自負のもと、責任を持って安全性、快適性の追求を進めています。その未来への戦略がCASEです。
また、ダイムラーにはパーソナルモビリティのみならず、トラックやバス、バンなどの商用車、公共交通や物流においても長い歴史と経験があります。これらの領域においてもCASE戦略の具体的なVisionを掲げて製品開発を進めていることは、大きなアドバンテージになっています」(メルセデス・ベンツ マーケティング・コミュニケーション部 部長 禰冝田謙一氏)
Connectedではスマートフォンで駐車操作できる「リモートパーキング・アシスト」などを実現、将来的にはドライバーにセンサーをつけることで体調に合わせた快適な運転環境を目指す。
Autonomousでは、すでに市販車に部分自動運転を搭載しているが、今後その機能をさらにアップさせていく。
海外で普及している乗り捨て型のカーシェアサービスを追求するのが、Shared&Servicesだ。グローバル展開している乗り捨て型カーシェアサービス「car2go」では、すでに会員が200万人に達するなどシェアを伸ばしている。クルマのキーはスマートフォンアプリで対応し、鍵の受け渡しなどが不要となる。
そして最後がElectricの電動化。2025年までには10車種導入する予定で、非接触型充電などの開発も進められている。
この4つの戦略こそが、これからのクルマのあり方や概念を打ち破り、より自由に進化した未来のクルマへのロードマップとなっていく。
(構成:工藤千秋 撮影:北山宏一)