お互いの違いが組織を強くする。「塾友」ふたりの経営論

2017/11/2
ビジネスパーソンの運命の転機には、必ず「人と人との出会い」がある。出会いは人を成長させるだけでなく、キャリアの転換点にもなる。各界で活躍するビジネスパーソンが、自らの転機となった運命の人物と、思い出のレストランで和やかに語り合う「会食対談」シリーズ連載。(全3回)
本音では、事業に誘いたくなかった
──お二人は医療系スタートアップ「メドレー社」の共同経営者ですが、出会いはかなりさかのぼるそうですね。
瀧口:最初の出会いは小学生なんです。中学受験のために通っていた塾が同じで、夏期講習なんかで年に数回会う仲でした。クラスは違いましたが、その後進んだ中学も同じです。
僕はその頃、かなり自分に自信がある子どもだったんですが、はじめて会った自分より賢い人間が豊田で(笑)。だから印象に残っています。
豊田:瀧口は当時からやんちゃなオーラがあって。スポーツもできたし、体格もいいのでクラスでも目立っていました。あまり話したことはなかったけど、僕のほうも印象に残っていますね。
瀧口:で、僕は中学1年の2学期で、入った私立中学を自主退学することになったと(笑)。興味の持てない教科を大量に暗記させられるのが嫌だったんです。
その後は公立中学に入り直し、高校では部活中心の生活でした。そのまま大学に行くつもりでしたが、高校2年のとき、海外の大学など進路を考えているプロセスでビジネスに出会い、市場調査をメインとした米国法人の事業を立ち上げたのが最初の起業です。
実は、このときも気の合う同級生と創業したんですよ。
でも、「気が合う」というのと「仕事のパートナーとしてうまくいく」というのとは違うんですよね。何の目的もないのに一緒にいて楽しいのだから、目的が一致していれば絶対うまくいくだろうと思ったのに、そうじゃなかった。この事業は、責任を持って区切りをつけたのちに譲渡しました。
だから、最初は豊田を誘うのは嫌だったんです。
豊田:そうやって瀧口が起業している間、僕のほうは医学部に入り、卒業後は脳神経外科医として総合病院に勤務して、手術や救急外来での業務などに明け暮れました。充実した日々でしたが、このままでは日本の医療は崩壊してしまうな、とも思ったんです。
医療費を使う人は今後どんどん増えていくのに、支払う人は減り続けていく。保険料の負担は今後ますます増加していきます。そして、人員不足を補うため、現場では医師が自己犠牲の精神で、休日返上して働くのが当たり前になっているという現実。
これから、人もお金も足りなくなるのに、なぜもっと業界の構造が変化し、効率化していく方向に向かわないのか。いろいろな先輩医師とも話して、みんなが同じ問題意識を抱えていることはわかったものの、解決に向けた答えは見つからないままでした。
その後、アメリカの病院に留学して、小児脳の手術に関連した神経生理学の研究を行いましたが、やはり危機感は拭えなくて。
日本に帰ってきてからは、「一度、病院の外から医療界を見てみたい」という思いもあって、マッキンゼー・アンド・カンパニーにヘルスケアのコンサルタントとして転身しました。
患者と医師の立場から、医療業界の問題を共有
──大人になるまで、まったく違う世界で活躍していたお二人が一緒に事業をすることになったのは、どういう経緯があったのでしょうか。
瀧口:Facebookで再会して、豊田がアメリカにいる頃から連絡は取り合っていたんです。
その頃、僕の祖父が胃がんになり、胃を全摘出した数カ月後に亡くなりました。でも、果たしてその決断が正しかったのか、祖父を看取ったあとも後悔の念が残り、患者やその家族が「治療の選択に必要な情報」を見つけ出せるプロセスがないという問題を痛感させられました。
それで、「医療×IT」で本人や家族が「納得できる医療」を実現するためにメドレーを立ち上げたんです。だから、豊田には医師として事業の相談に乗ってもらうこともありました。
悔しい思いを打ち明けたこともあったよね。
うしごろの看板メニュー、ザブトンのすき焼き。たまごと一口ごはんでいただく
豊田:瀧口は、きちんと納得できる選択をできなかった自分が悔しい、と言っていました。
彼は患者としての立場、僕は医師の立場だったんですが、「このままじゃいけない」という医療業界に対する問題意識はその頃から共通していましたね。
瀧口:まぁ、豊田が日本に戻ってからリアルに再会して、普段はただの飲み友達でしたけど(笑)。
豊田:あの頃は毎月のように飲んでいたかも(苦笑)。お互い肉が好きなので、当時は「うしごろ」も含めて焼き肉や鉄板焼き屋にばかり行っていました。
そういう楽しい場も共有しつつ、瀧口と何度も話すうちに、「日本に住む人たちがもっと医療のことを知れれば、多くの問題がポジティブな方向に動き出す」という結論が一致して。瀧口に誘われる形で、メドレーに参画しました。
僕自身が起業したり、NPOを立ち上げたり、ということも考えたんですが、瀧口に話したら「1人でやるなんて遠回りだ」と言われて。
たしかに、マッキンゼーに入るまで、医師というある種特殊な仕事しかしたことがなかったので、エンジニアをどう集めるのか、プロダクトをどうつくるか、何もわからないんですよね。
瀧口:僕が豊田を口説いている最後の1〜2カ月はすごかったですよ。メドレーに参画することが豊田にとってどんなメリットとデメリットがあるのか、電話でやり取りしているうちに「会って話したい!」となって、夜中の2時半に車を飛ばして豊田の家に行ったり。
豊田:それを僕はコーヒーを入れて待ったりして(笑)。
トップが徹底的にやりあうことが組織を強くする
──先ほど、瀧口さんは「友達」とビジネスをするのは嫌だったと言っていましたが、その点はどうクリアされたのですか。
瀧口:患者さんを向いた、より医療に踏み込んだサービスを提供していくにあたり、優秀で、僕と思想を共にしてくれる医師のパートナーが必須だと考え、探し続けていました。
「友達だから」ではなく、豊田がそういう医師だからメドレーに来てほしいと思った。そこが一番の違いだと思います。
豊田:僕たちは「仲良くなったから仕事をした」というよりも、ほどよい距離感で仕事関係をスタートさせて、仕事を通して信頼感を増していきました。
共同創業ではないので、自分の会社に僕を誘うにあたって、瀧口もいろいろ考えたと思います。他のメンバーとのコミュニケーションを気遣ってもらう場面もあって、一緒に仕事をしはじめてから、その決意や覚悟がいかに大きいかを感じましたね。
とはいえ、僕たちの関係にはある程度の歴史があり、お互いのベースに信頼感があるので、何でも言い合えるというのはメリットです。
真剣に会社のことを考えているからこそ、意見が食い違うこともありますが、合わないところが逆に会社のためになっているんじゃないかと思いますよ。
瀧口:たしかに。1人の経営者のほうが、その人のエッセンスが会社の隅々にまで行き渡るけど、それって結局その経営者の働きやすい環境を作っているだけなんじゃないかと思うんです。
比較的速いスピードで成長しているのに、メドレーという組織が壊れないのは、トップ2人が徹底的にやりあっているおかげかもしれないね。はたから見たらちょっと辛辣に見えるやり取りもしている気がする。
豊田:僕がちょっと瀧口に切り込むくらいがちょうどいいバランスなんですよ。創業社長で、頭が良くて、こんなガタイの瀧口を相手にしたら、言いたいことが言えない社員もいますから(笑)。
会食の「場」そのものがメッセージになる
──共同代表お二人の、役割分担のようなものはあるのでしょうか。
瀧口:形式っぽくなりすぎても窮屈だから、あまり決め事はしていないんです。でも、今のタイミングでは、社長は僕、社外向けの渉外は豊田という感じで分担していますね。だから、豊田は外部の人との会食が多くて、僕は社内の人間との飲みが多いです。
そういうときは、やっぱり焼き肉。この店には最近も10人くらいで来ました。同じ卓で肉を焼いて分け合って食べるって、結束を強めるにはぴったりなんですよ。
豊田:僕もそういう会に急に呼ばれて参加することが月2〜3回はあります。
焼き肉って、糖質オフダイエットをしている人も参加できるし、たとえば僕が会食帰りでおなかがすいていなくても、お酒とちょっとしたつまみだけで自然に参加できる。使い勝手もいいんですよ。
でも、カジュアルになりすぎてしまうので、会食では焼き肉には行きません。きっと会食が多いであろう相手にも優しい、和食が多いです。年配の方と飲むことも多いですしね。
たとえばフランス料理で、しかもコースだったりすると、量が多くても残せずお互いにつらいですから。
会食の店って、ゼロから探しはじめるとすぐに1時間くらいたってしまうので、数十軒リスト化しています。
瀧口:そういうところ、豊田は「効率男」なんです。
だけど、会食の場ってすごく大事ですよね。僕も、クラシックが流れるようなすごいレストランに招かれて緊張したことがあるんですが、それってよく知らない相手に対して「自分はこういう人間だから、こんなふうに接してくれよ」っていうプレゼンなんですよ。
──会食の場自体がメッセージになるということですね。最後に、お二人にとって会食という場を共有する意味とは。
瀧口:メドレーでは、内定を決める採用面接でよく居酒屋に行きます。
以前はカッコいいお店で面接をしていた時期もありましたが、ムードが出るかわりに失っているものもあるなと。どんな店が好きかは人によって違うけど、居酒屋で話しづらいと感じる人はいないので。
「素が出ちゃう」のが一緒に食事をすることのメリットだと思っています。
豊田:ついつい仕事の話をしちゃって、「この人、本当に仕事が好きなんだな」と感じたりね。
一緒に食事をすると、どんな人でも少しプライベートな部分を開示してくれる。どんな関係値でも、「半分プライベート」な気持ちになるのが一緒に食事をすることのメリットですよね。
僕も、新入社員とは全員ランチをする仕組みにしているんですが、やはり会議室でミーティングをするのとは違う話が聞ける。会議室で家族の話は出ないけど、どんなに会社の近所でも、食事中には家族の話が聞けたりします。
瀧口:僕たちも、最近は二人きりで飲みに行くような時間が取れませんが、「これは社内じゃないな」という話題があればカフェに行ったりします。場を変えることで話しやすくなることがあるんです。
最近ロンドンに行って、パブ文化を目の当たりにしてからは、パブにもよく行きます。前払いでサクッと飲めるから、「効率男」の豊田にもいいんです。
豊田:お互いの悪口を陰で言わないようにして、お互いへの理解と尊敬という軸さえブレなければ、これからもうまくやっていけると思いますよ。
瀧口:まとめるね(笑)。ドラッカーの『経営者の条件』にもありましたが、組織にいるならどんな立場でも相手を「使う」感覚を持たなきゃいけない。
最初の半年は僕が豊田を「使う」ことが多かったけど、最近では豊田が僕を「使う」ことが多くなっています。会社の規模もフェーズも変わっていくだろうけど、これからもお互いにうまく使い合っていこう。
(取材・文:大高志帆 撮影:岡村大輔)