IT×小売で「食」の課題を解決する

2017/10/31
インターネットを通じて安心安全な食材を届けるという新しいビジネスモデルを作ってきたオイシックス。2017年10月に、日本初の有機農産物の宅配システムを作った「大地を守る会」と経営統合し、「オイシックスドット大地」として生まれ変わった。
東京大学大学院を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てオイシックスを創業した高島氏。インターネットの黎明期だった2000年に、ITを使って「食」の課題を解決しようと志した。
そこには、同じく外資コンサルや大手グローバル企業などを経た仲間が続々と集まっている。2011年には、日本の危機的状況を解決すべく、外務省・マッキンゼーを経て、震災後に立ち上がった「東の食の会」にも参画していた高橋大就氏もジョイン。
その後も、ドクターシーラボで長らくEC事業を含めたネットマーケティング戦略を担当・統括してきた西井敏恭氏や、良品計画でネットと店舗をつなぐスマホアプリ「MUJIパスポート」を立ち上げた奥谷孝司氏も参画。業界をリードしている。
Amazonも生鮮食品を配送するサービスを始めるなど、盛り上がりを見せる「食」のEC市場において、創業時から無農薬・無化学薬品の食材や、有機野菜にこだわってきたオイシックスドット大地の事業作りの強さとは。
全社員がファウンダー(創業者)として、常に新しい事業の立案が求められる中、サービスを生み出し進化させるためには何が必要なのか。
20分以内に2品作れるレシピ付き献立キット「KitOisix(キットオイシックス)」の開発を手がけた執行役員の菅美沙季氏と、入社4年目でOisixEC事業本部の副本部長として活躍する白石夏輝氏に、話を伺った。

問題の本質を客観的に分析する

弊社が大事にしているのは、お客様のリアルな声をいかに商品やサービスに反映させていくか。毎日のようにインタビューを実施し、会社に来ていただくこともあれば、ご自宅に訪問してヒアリングすることもあります。
ただ、それをやみくもに反映させるのではなく、お客様がOisixで購買に至るまでの数字データと紐づけ、全体を俯瞰(ふかん)して、商品やサービスの戦略を考えるのが弊社の特長。
お客様のリアルな声と、数字データをバランスよく見ながら、問題の本質を客観的に分析する力が必要です。
社長が外資系コンサルティング企業出身ということもあり、業務上の課題を構造的にとらえ、目的に向かってやるべきことの優先順位づけを、ロジカルに構築していく思考は、入社後研修の機会などでも全社員に叩き込まれていますね。

「KitOisix」がヒットした理由

私が今携わっているのは、「KitOisix(キットオイシックス)」事業の開発です。2013年7月の発売開始以来、累計販売数600万(2017年6月末時点)を超えるヒット商品へと育ててきました。
20分で2品できるKitOisix。丁寧に書かれたレシピと一緒に、必要な分量の野菜や肉が入っている。
これは、2人分の分量で野菜や肉・魚などの食材、調味料を揃え、写真で分かりやすく説明したレシピをセットにした「ミールキット」です。発案のきっかけは、「世の中はどんどん忙しくなっているのに、食事面のソリューションが少ない」と感じていたから。
当時は「帰宅後に夕ご飯を作るのが大変」なら、外食か、総菜を買うか、レトルトやインスタント食品の活用か、しか選択肢がなかったのです。
その選択肢に必ずしも満足していない人たちへ「安心食材で簡単に作れる」キットを届ければ喜ぶのではないかと考え、商品開発に着手。しかし、当時は「ミールキット」自体が世の中になかった時代。「これはなに?」がお客様の反応で、ほとんど売れませんでした。

泥臭く一次情報を得る

そこで、Oisix恵比寿三越店をはじめとしたリアル店舗に足を運び、店頭に商品を広げて、お客様には商品のどういうところが魅力として刺さるのか、検証を繰り返すことに。
「20分で2品できるキットですよ」「食材を余らすことなく簡単に作れますよ」など、いろいろな言葉でお客様に話しかけ、どんなメリットを伝えると反応してもらえるのかを検証しました。
開発時点では、短時間で作れることが最大のアピールポイントだと考えていましたが、この活動によって気付かされたのは、多くの人がもっとも大変に感じていたのは「忙しいのに毎日の献立を考える」ことだったのです。
そこで、商品のPR内容を大きく変え、献立に悩まずにすぐ作り始められることを強く打ち出し、レシピの数も大幅に増やし、Web上に反映。
店頭でのやり取りから、何が入っているのか分かりやすいように透明のパッケージにするなど、集めた大量の声から最適解を求めてサービスを進化させていったのです。

新規事業は、社長直下

商品の開発、改善は現場に裁量があり、かなりスピーディに進められます。これは、新規事業が社長直下の組織で行われ、社長が同席する会議が週に1~2日あることも大きな理由だと思います。
会議では、社長以外にも商品開発やEC部門などそれぞれの責任者が集まり、「じゃあ、来週までにここを変えよう」とその場で意志決定。チャレンジに対して寛容で、失敗を許容する社風が、スピード感のある事業開発につながっているのだと思います。
こうして、発売当初はあまり売れていなかった「KitOisix(キットオイシックス)」は、無謀とも思えるような「年内にお客様を1万人まで増やす」と掲げた目標をクリア。これからも10万人、100万人と、大きな目標を掲げて動いていきます。
「KitOisix(キットオイシックス)」の今があるのは、丁寧で徹底したお客様理解と、ロジカルに俯瞰して戦略を練る思考、そしてそれらを重視する社風があるからこそ。今後も、この視点をもって、新しい価値を提供できる事業作りに挑戦したいと思っています。

リアルな声にこそ、事業開発のヒントがある

私のミッションは、サイト上でのサービス体験をより良くすること。お客様が商品を検討する際のわかりやすさ、購入方法、キャンセルする際の進め方など、いかに使いやすいサービスにするか、定量と定性の両面で分析を行い、改善を進めています。
このサイト改善・Webプロモーションを行うにあたって役に立っているのが、約4年前に立ち上げた、リアルプロモーション事業です。
先輩と2人で物販イベントを企画し、大手家電量販店や書店の前など、さまざまな場所に問い合わせるところから始めました。ブース設置の許可を得たら、手作りのパネルや申込用紙、商品を車に詰め込んで現地に行き、物販イベントを実施。
通りかかる人に声をかけて商品を説明・販売するという、とても泥臭い活動でしたが(笑)、何を魅力に感じてもらえるのか、あるいは何がネックとなり入会いただけないのかを、何百人、何千人から直接聞いた経験は、今につながる非常に大きな糧になりました。

コンバージョン率の高いWeb施策を実現

現在は、売り上げ状況などを数字で捉えながら、プロモーション施策を考えていますが、数字の先にいるお客様一人ひとりをしっかりとイメージした、コンバージョン率の高い施策を実現できているのも、この経験があったからこそ。
数字やWeb上では分からない、リアルな場で知ったことにヒントがある、という思いには確信があり、実際にリアルプロモーション後はFacebook広告経由での新規会員登録数は10倍になりました。
社内にも「大切なのはお客様目線」という考え方が浸透しています。事業アイデアが採用される際は、年齢やキャリアに関係なく、お客様の方を向き、そこから得た情報に基づいているかどうかを重視。
お客様理解のためにかける時間をみんなが尊重し、非常に本質的な議論ができる社風ですね。

オイシックスドット大地は第二創業期

「KitOisix(キットオイシックス)」をはじめ、食のサポートの幅が広がっている今、もっと食卓が明るくなるサービスを展開できるのではないかと考えています。
たとえば、インスタグラムを意識したテーブルコーディネートの提案や、食卓で会話が弾むよう新しい気づきを提案するコンテンツの発信など、「食」から広がる世界には可能性が多い。
それに、大地を守る会との経営統合によって、その可能性はより良い形で実現できると感じています。これまでの弊社にはなかった視点や考え方などが入ってきた今、「第二創業期」として、より価値ある事業を生み出せるフェーズにあるのです。
毎日のように行うお客様へのインタビューと、第二創業期の変化する環境を武器に、現在のサービスを進化させるとともに、新たな事業開発も実現させたいと思っています。
(取材:田村朋美、文:田中瑠子、デザイン:砂田優花、写真:岡村大輔)