一流の靴職人と若きCEOが語る「価値の本質」を見極める力

2017/10/20
ビジネスパーソンの運命の転機には、必ず「人と人との出会い」がある。出会いは人を成長させるだけでなく、キャリアの転換点にもなる。各界で活躍するビジネスパーソンが、自らの転機となった運命の人物と、思い出のレストランで和やかに語り合う「会食対談」シリーズ連載。(全3回)
「会話」を通じて生まれるシューズ
──まずはお二人の出会いについて聞かせてください。
福田:迫さんとはじめてお会いしたのは3年ほど前になります。私がイギリスで靴作りを学んでいた頃の仲間に紹介されたのがきっかけですね。
:私が現職に就いてすぐの頃です。ミスターミニットのリペア面のサービスを向上させるために、その方にあれこれ相談に乗ってもらっていたなかで、福田さんを紹介していただくことになって。
恥ずかしい話ですが、私はミスターミニットで働き始める前は、本格的な靴の世界について何も知らなかったんですよ。もともとカジュアルな服装ばかりで、スーツも銀行と商談するとき用の1着を持っていただけ。だから、革靴を履くことにまったく縁がなかった。
ミスターミニットは靴修理のサービスチェーンですから、「靴のことをもっと知らなきゃ、好きにならなきゃ」と猛烈に勉強し始めたのが、その1年ほど前です。
靴関連の本や雑誌を手に入る限り全部読んで、本場を知らなくてはとヨーロッパ各国の老舗メーカーや工房を訪ね歩いたりしていました。
その過程で福田さんのことも知っていました。世界中からオーダーが殺到する超一流のビスポーク・シューメーカーが東京にいると。
福田:私は迫さんがどんな方なのか存じ上げていませんでしたが、とてもお若いけれど、靴に対する情熱がすごい方だなという印象で。それで、すぐに靴を1足オーダーしていただいたんですね。
:福田さんの靴は、“靴の最盛期”といわれる20世紀初頭の職人技に忠実に作られているので、注文してから完成まで、当時で1年半くらいかかりましたね。
その間、何度も店に通っていろいろな話をするわけです。私のビジネスについて話したり、伝統的な靴づくりや職人の歴史について伺ったり。
文字通りの「ビスポーク(Be spoken)」で、顧客とシューメーカーが会話を重ねながらぴったりの一足を作っていくんです。
福田:そうですね。靴は作って終わりではなくて、30年、40年と長く付き合っていただくものです。
もちろん、採寸や仮縫いなども来店していただく理由の一つですが、お客様がどんなものが好きだとか、世間話のような会話を通じて信用関係を築いていかないと、長く満足いただけるものは作れませんから。
迫氏が愛用するドレスシューズ(左)は、福田氏にはじめてビスポーク靴を依頼したときの品。
:前職での経験もあって、職人仕事については以前から興味がありましたが、福田さんとのコミュニケーションを通じて、はじめてその技術と歴史の神髄に触れたという感覚でした。
それをきっかけに、自分自身のスタイルや、ビジネスにおける価値観も変わっていきましたね。
「価値の本質」を捉える目を磨く
──具体的には、どんな変化があったんでしょうか。
:短期的には、まず服装が変わりました(笑)。職人の手仕事で作られるスーツや鞄など、クラシックなものにますます興味がわきました。
ビジネス面では、自社の靴修理サービスの見直し、業務改善に生かすという変化もありましたが、個人的にもっと重要だと思うのは「観察力」の変化です。
僕がビジネスにおいて重視しているのは、物事を見る力と、それを咀嚼(そしゃく)する力。つまり、ひとつの物事に対して、その本質や価値をどれだけ感じ取れるかという力です。
その磨き方は非常に難しいんですが、例えばアートを見て何が美しいのかを考える。美しいと感じたときに、なぜ美しいのか、どういう要素があるから美しいと感じるのかを考える。
そういう目を養っておくことが、新規事業や新サービスの種となるアイデアや、何かの意思決定をするとき、将来のビジョンや戦略を決めるときといった、あらゆる場面で生きてくると思っています。
福田:たとえば現代の靴の形のベースは100年以上前に完成していて、変わっていないですよね。その靴の本質を捉えることが、私のような職人にはとても大切なことです。
デザインひとつをとっても、過去・現在・未来の「格好いい」や「ダサい」といった価値基準にとらわれると、本質から離れてしまう。
それらを全部無視して、その靴を履く人の足や、その人のライフスタイルを突き詰めて考えていくと、何十年経っても色あせない「これしかない」という形が見えてきます。
:一足の靴を作るプロセスが100年前と現代では様変わりしていて、昔の方が圧倒的に工程が多かったそうですね。
1914年に始まる第1次大戦をきっかけに大量生産の時代に入り、数百もの工程が省略されるようになったと。
福田:そうですね。その個々の工程は、一般の人には認知できないレベルの小さいものですが、そのディテールが大量に集まると、最終的なクオリティがまったく違ってきます。
当時の高級靴には、現代とは比べ物にならないほど膨大な時間と技術が注がれています。100年前とは、職人を取り巻く環境が大きく変わっていますからね。
今回の舞台となったレストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」は、迫氏の推薦。オーナーの松嶋氏は、25歳のとき南仏ニースで独立。外国人として最年少でミシュランの星を獲得した人物。
それを再現することも私の仕事の一つですが、一方で私は、ビスポーク靴はあくまでも履く方が楽しい時間を過ごす手段のひとつだと考えています。
ミリ単位のパターンのずれにもこだわりますが、それ以上に「どういう靴ならより楽しんでいただけるか」を考えることが大切です。
:ほとんどアートに近い領域ですね。だからビスポークにはコミュニケーションが不可欠だし、ロボットやAIが普及しても絶対に自動化できない価値があると感じます。
福田さんと出会って、「ものを見る力」を磨くことが、ビジネスパーソンとしても、一個人としても成長につながるというふうに考えるようになりました。
実は、今回推薦したこのレストランのオーナー・松嶋啓介さんは僕と同郷、同じ中学校出身なんですが、彼の料理からも「伝統の本質」を見極めている人の表現の力を感じるんです。
アート思考とビジネスが影響し合う
──職人の世界では、「ものを見る力」をどうやって鍛えるのでしょうか。
福田:やっぱりマニュアルでは教えられないんですね。なので、伝統的な靴職人は徒弟制で後進を育成します。私も弟子3人とフランス人留学生を1人受け入れていますが、長い時間をかけて一緒に仕事をしています。
職人の技術を次の世代につなげるには、それしかないんですよね。表面的な手法や知識は簡単に教えられますが、それをどう使い、どう発展させるのか。その考え方こそ伝えなくてはいけないので。
:僕もマザーハウス時代は、経営陣と一緒に仕事をしながら、仕事に関係ない話をすることが多かったですね。「今後の消費社会はどうあるべきか」とか「美しいとは何か」とか。
全人格的というか、サイエンスとアートを組み合わせて鍛えられたと感じます。
「フランスの郷土料理という伝統の本質をつかんだうえで、現代的に表現している」(迫)
福田:長年ジョンロブのクリエイティブディレクターを務めていた人物が、昨年65歳で退職して、いま私と一緒に働いてます。
私よりもはるかに年上の大先輩ですが、ビジネスの悩みを相談しても、絶対に答えを教えてくれません。ただ考え方の手順を言うだけ。しかし、私にとっては、それこそが掛け替えのない財産になっています。
──お二人のビジネス領域は正反対のようにも思えますが、影響し合っている部分はあるのでしょうか。
:実はいま、福田さんとわれわれで2つの事業を進めているんです。
ひとつはミスターミニットの新サービスとして、高級靴向けの「ハイエンドシューリペアコース」を立ち上げています。世界中のどこと比べても一番、手間暇をかけて、本当に価値のあるパーソナルな靴修理を提供するサービスです。
今年7月から福田さんにアドバイザーとして協力していただき、リペアラーの技術指導やトレーニング、サービスへのフィードバックをいただいています。
もうひとつは今年から開始した「ミニット職人インキュベーションプログラム」の第1弾として、福田さんが「世界一の既製靴」を作るプロジェクトの支援をしています。
私たちはプロジェクトを実現するための資金協力や、ビジネス・ファイナンス・マーケティングなどのアドバイスをさせてもらっています。
福田:いま東京には40軒以上ものビスポーク靴の工房があります。ロンドンでも7軒ほどですから、これは世界一です。そして職人の技術も高い。海外では「日本の靴が一番いい」とおっしゃる靴好きの方もいます。
しかし、日本の靴の輸出入の割合について調べてみると、輸出はわずか1パーセント未満。つまり、グローバルではまったく知られていない。40もの工房も、ビジネス的に成立しているのは数軒しかありません。
そんななかで、われわれが世界一の既製靴を作れば、グローバルから見た日本靴のブランドイメージや、市場の環境を少しは変えられるのではないか。
靴職人として伝統をつなぐこと、スキルを次世代に渡すことは私たちの使命ですから、そのために新しい挑戦をしていかなければならないと考えているんです。
:ファッション業界では、「伊勢丹で売りたい」とか「表参道に出店したい」とか、そういう話は結構多いんですが、最初からグローバルを見ている人はあまりいないですよね。
福田:世界に「日本の靴」を知ってもらいたいというのがスタートなので、数を作って日本で安く売ろうとは思っていません。
なので、販路もスウェーデンで1社と、香港とNYにあるアーモリーという世界的な影響力の大きいセレクトショップ、この3カ所で初年度は回してみる予定です。
本音で語り合う時間が価値を生む
──お二人の出会いは、お互いにとって大きな転機になった。
福田:私にはやりたいこと、大きな夢と目標がありますが、それを現実的に進めていく方法について、迫さんは力を持ってらっしゃるので。本当にいいパートナーと巡りあえたと思っています。
:でも、僕個人ができることって正直、コモディティなんですよ。例えばファイナンスとか、ビジネスモデルを作る力とか、個々のスキルで言えば僕以外にもたくさんの人が持っている。
いま世の中に一番求められているのは、社会にどういう価値を提供するのかを主観でもって提示して、それを実現していく人です。そう考えると、現代の起業家はアーティスト的であることが当然なのかもしれません。
日本の職人技には、まだ大きな可能性が眠っています。日本発の商品やサービスを世界に広く伝えていくチャンスがある。ビジネスを通じてサポートし合いながら、福田さんの描く世界観を実現していきたいですね。
──最後に、お二人にとって会食という場を共有する意味とは。
福田:新しい挑戦のきっかけとか、転機みたいなものって、人間同士が本音で話すことからしか生まれないんですよね。タイプの違う同士が本音でぶつかって、お互いの情熱が共鳴することで盛り上がって、絆が生まれる。
立場とか年齢に関係なく、「これが好きなんだ」と言い合える場を作ることが必要。昼のオフィスではなかなか難しいから、会食はその手段です。特に日本人同士の場合、一緒にお酒を飲むことが、本音で語れるスイッチになるので。
:出会いのチャンスをつかむことも大事ですね。そのためには、自分自身が情熱を持って取り組んでいる“何か”が必要。それがあれば、興味を持った方といい形で知り合ったり、紹介につながっていったりする。
僕は日本とか海外とか関係なしに、最高のものを求めて自分の情熱に従って進んでいく人にすごく共感するんですよ。福田さんもそうだし、僕もそうありたい。そういう人たちに出会って本音で話し合える時間が、自分を成長させてくれると思っています。
(取材・文:呉 琢磨、撮影:岡村大輔)