#新 フェイスブックを超える世界共通語。「インスタ」が生み出す一大エコノミー

2017/10/23
2017年10月、米ハリウッドを揺るがした、大物プロデューサーのセクハラ事件。
『恋におちたシェイクスピア』『英国王のスピーチ』などの名作を世に送り出してきたハーヴェイ・ワインスタイン氏が、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリー氏やグウィネス・パルトロウ氏など、若手女優に性的嫌がらせを繰り返していた──。
10月5日、米『ニューヨーク・タイムズ』が報じた渾身のニュースだ。
しかしその1週間後、新たな事実を明らかにしたのは、報道機関ではなかった。
女優のケイト・ベッキンセイル氏や、女優・モデルのカーラ・デルヴィーニュ氏が、相次いで自分が過去に受けた被害について、写真SNS「インスタグラム」を通じて告白したのだ。
彼女たちは10月12日、インスタ上に、それぞれ1枚の「印象的な」写真をアップ。
例えばケイト・ベッキンセイル氏は、「17歳の自分の写真」を突如シェアし、17歳のときにワインスタイン氏にホテルの部屋に呼ばれた経験を、コメント欄に付け加えた。
また、カーラ・デルヴィーニュ氏は、「あなたの体験談を恥だと思わないで。それは他の人を勇気づけるから」と一言書かれた画像を投稿。同じくワインスタイン氏から過去に受けたセクハラ行為について、コメント欄で明らかにしている。
これらの動きには、インスタの共同創業者ケビン・シストロムCEOも反応。
「彼女たちが投稿にインスタグラムを使ったことにも驚いたが、人々がインスタグラムで人生の一部をシェアしてくれることに誇りと希望を感じている」と、登壇したトークイベントで本音を明かしている。
世界を席巻する「インスタ経済圏」
インスタが世界を席巻している。世界の月間ユーザー数(MAU)ではフェイスブック(20億人)、YouTube(15億人)などに次ぐ、8億人にまで成長を遂げている。
驚くべきはそのスピードだ。フェイスブックの創業が2004年、YouTubeが2005年なのに対し、インスタの創業は2010年。今や世界的女優が数百万、数千万のフォロワーを抱え、自身の「経験」を世界中にシェアするまでなったサービスは、わずか7年前にはこの世に存在しなかったのだ。
これに早くから目をつけたのが、SNSの王者フェイスブックだ。
なぜ、写真を共有するだけのアプリに、これほどの大金を投じるのか──。
2012年に10億ドル(約810億円)で買収した当時は、誰もが首をかしげるか、戸惑いを隠せずにいたはずだ。
しかし現時点では、フェイスブックの目に狂いはなかったと言える。インスタの収益は個別には開示されていないが、米シティ予想によれば、2019年には100億ドルと買収金額の10倍の売上高を見込む。
そして、そうしたインスタの「波」は、ここ日本にも押し寄せている。
「インスタ映え」「フォトジェニック」なる流行語を生み出し、若い女性を中心に利用が拡大。今年10月時点で国内2000万人の月間ユーザー数(MAU)にまで成長を遂げ、来年末にはフェイスブックのそれを上回るペースだ。
なぜ、インスタの勢いは止まらないのか。
日本で断トツのフォロワー数を誇る、お笑い芸人の渡辺直美さんは、「インスタは、トレンドを取り込むスピードがとにかく速い」と舌を巻く。
#インスタ女王 渡辺直美が初めて語る、「お笑い・女性・世界進出」論
そのスピード感が表れた最たるものが、2016年8月に発表された「インスタグラム ストーリーズ」だろう。インスタを最も脅かしてきたライバル・スナップチャットの“お家芸”だった、「24時間で消える」機能を搭載したのだ。
これにより、インスタは成長を「第二ステージ」に飛躍させることに成功したと言える。
#秘話 インスタ飛躍の理由。2億5000万人を魅了する「ストーリーズ」を作った男
取材を通して見えてきた、インスタの人気を読み解くキーワードは3つある。
まず、「写真」であること。
当たり前に聞こえるかもしれないが、ひと目で「何を伝えたいか」が分かり、しかもテキストを書く必要がない「写真」の威力に改めて気付かせてくれるのがインスタだ。
ある調査によると、文字に比べ、視覚中心の写真は実に7倍もの情報を瞬時に伝えられるという。
ときに文章力が求められるツイッターやフェイスブックに投稿するよりも、圧倒的にハードルが低く、言語の壁がない「世界共通語」が写真なのだ。
2つ目が、「お洒落」な世界観。
インスタが最初に登場した際にイノベーティブだったのは、そのお洒落な写真の「フィルター」機能にあっただろう。これにより、「誰もが人にシェアしたいと思えるようなクオリティの写真を撮れるようになった」(ケビン・ウェイル最高製品責任者)といえる。
そして3つ目が、「趣味」でつながるネットワークだ。
フェイスブックはリアルな人間関係でつながっており、日本ではとかく公式的なコメントに終始しがちだ。
これに対してインスタは、「自分の好きなもの」をシェアするのに使うのが圧倒的。それが食べ物であれば、その食べ物を「好きな人」が見てくれるため、より共感を得やすいのかもしれない。
こうした食事から旅行、ファッション、そして日常生活まで。いまやインスタは、人々の消費スタイルの変化とあいまって、人々の消費行動にも大きく影響を与えている。
#消費 ステマ相場は1フォロワー1円。撮ったら次「インスタ消費」の全貌
#経営者 ファストファッション終焉。僕らは「ワンショット消費」を制す
「お洒落な写真を撮る」ために、次々と消費をしていくだけではない。ある調査結果によれば、若者を中心に、インスタはいまやグーグルに次ぐ「検索ツール」としても活用されているという。
電通メディアイノベーションラボの天野彬・副主任研究員の指摘は興味深い。いわく、「ハッシュタグ」をユーザー同士でつけてシェアしたコンテンツを、「手繰(たぐ)る」ように探していく、こうした検索行動の変化を、「ググるからタグるへ」と表現する。
#検索 ググるかタグるか。食べログvsインスタ、どちらが美味いのか?
インスタ自身、人々がそうした使い方をしていることを、重々理解している。
だからこそインスタは今、食べログのようなレストランの「予約」や、アマゾンのように「買い物」までできる、一大プラットフォーム構想を描いているのだ。
#予約も買い物も アマゾンを超える「インスタ経済圏」構想の全てを語ろう
もっとも、人々がインスタに夢中になる「光」の裏側には「影」も潜む。
例えば、友達とわいわい盛り上がっている写真をインスタに上げて「リア充」感をアピールしたいがために、「レンタル友達」なるサービスまで登場。これが大盛況というのである。
#闇 レンタル友達大盛況。平成女子が「リア充代行サービス」を使う理由
これほど人々が熱狂するインスタの勢いは、果たしてどこまで続くのか。その知られざる威力と、インスタをめぐるエコシステムの全貌を解明していこう。
(構成:池田光史、デザイン:砂田優花)