アドバンテッジに聞く。PEファンドとは何者か

2017/10/27
再生、再編、合併などが活発に行われるようになった日本企業ならびに日本経済。このフィールドで存在感を増しているのが、PEファンドだ。PEファンドとは一体どのような組織で、どんなビジネスを展開しているのか。PEファンドの全体像をおさらいするとともに、国内PEファンドのパイオニア、アドバンテッジパートナーズに、PEファンドのリアルを聞いた。

投資という種をまく

ファンドに対して皆さんは、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
数年前、メディアでPEファンドが特集された際、「ハゲタカから羊に」というくだりがありましたが、この表現は間違っています。
私たちはたとえ草であれ、食べることはありません。
むしろ、その逆。投資という種をまき、経営陣や協業するコンサルティング会社と水やりや草刈りといった作業を行い、あるいは、枯れる寸前にあった作物を再び芽生えさせ、成長させ、大輪を咲かせ、そして実る果実をすべての関係者と分かち合う。このようなビジネスモデルだからです。

社会問題を解決したために成長

そもそも私たちPEファンドが成長した理由は、社会が抱える問題解決、その先にある日本経済の再生、そしてさらなる成長において、機能が求められてきたからです。常に、時代に沿ったサービスを展開してきました。
2000年ごろは、戦略策定が重要な案件が多かったです。当社でいえば高級レストラン「ひらまつ」です。オーナーが事業を拡大したいとのことで経営に参画。マルチブランド化・ブライダル事業への注力など戦略面でのシフトを行い、投資から3年で上場を達成しました。
いわゆるオーナー系高級レストランとしては国内初。その後もさらに事業拡大を続け、現在は東証1部に上場する企業にまで成長しています。
2005年ごろになると、業績の悪化した企業が増え、不良債権の回収や破綻企業の再生案件が増えます。ダイエー、カネボウ(現:クラシエ)などです。
このころは“ハゲタカ”と呼ばれた外資のファンドが日本市場に入ってくるようになり、業績の悪化した企業を半ば強引に買収。
事業再生とは名ばかりの経営改善が見られたため、多くの日本企業から「もっと親身になって経営改善してくれる外部の株主や有識者がほしい」との声が聞かれました。
そこで我々は、戦略面での経営関与からより現場に近寄ったポジションでのサービスにシフト。現場オペレーションの細かな改善を行っていきます。この流れは2008年のリーマンショック以降さらに増します。
アドバンテッジパートナーズ プリンシパル 市川雄介氏

経営陣とは徹底的に話し合う

では実際、私たちはどのような業務を行っているのか。一言で説明すれば、経営改善のプロデューサー、プロジェクトマネジャーのような立ち位置で、ターンアラウンド全体を統括しています。
私たちが経営に参画する多くの場合、経営者は退陣することなく、そのサポートという立ち位置になります。つまり、実際に会社を経営するのは、従来と変わらない経営陣です。ですからまずは、経営陣とコミュニケーションするところからプロジェクトはスタートします。
また、ビジネスに責任を持つという観点から、投資家から資金を集めるだけでなく自ら投資額の一部を出資するのもPEファンドの特徴です。
誤解されるのは、経営陣とのコミュニケーションが私たちからの一方的な提案だということです。
そんなことは決してなく、何を改善すれば経営は再建できるのか。改善した先にはどのようなビジョンがあるか、など、膝を突き合わせて侃侃諤諤(かんかんがくがく)で徹底的に話し合います。
そうしてご納得いただいた上で、初めて投資を行います。ですから我々と経営陣は、パートナーのような関係と言えます。

コンサルティング会社と協業

投資後に重要なのが、実際に現場で業務改善を行うコンサルティング会社の存在です。先ほど申し上げましたように、私たちはあくまでプロジェクト全体を指揮する立場。
自分たちが直接オペレーションの改善をする場合もありますが、専門家と協業として行うケースがほとんどです。
ターンアラウンドの初期では、コストカットに強いコンサルティングが活躍します。
間接材・直接材からエネルギー費、そのほか各種設備に係るファシリティコストなどのコストマネジメントからマーケティング・売上向上まで成果報酬における経営コンサルティングを得意とするプロレドパートナーズは代表的な1社です。
次のフェーズではビジョン作成などを実施、その後は売上増加です。業態や時代によりますが、現在は経営コンサルティング、ウェブマーケティングやITに強いコンサルティング会社と協業することが多いです。
案件の規模や業態にもよりますが、1案件につきコンサルティング会社2~3社と協業し、我々からは2~3名が参画。総勢15~20名ほどのメンバーで経営改善をバックアップしていきます。
アドバンテッジパートナーズ プリンシパル 村上大輔氏

8期連続赤字から黒字化したメガネスーパー

2012年から経営に参画したメガネスーパーの事例でご説明しましょう。
私たちがご依頼を受けた際、同社は5期連続の赤字でした。ターンアラウンドにおいて、以下3つの施策を掲げました。
1つ目はコスト削減です。個々の店舗を閉じずに近隣に売場面積を縮小して移転することで、家賃を3分の2に削減しました。
この施策は、接客サービスの向上という観点からも意味がありました。というのも、それまでのメガネスーパーの店舗は広すぎたからです。
コンビニエンスストアと同じ30坪ぐらいが平均で、顧客が店に入るとがらんとしたマイナスの印象を持つだけでなく、店員と対峙する圧迫感のある店構えでした。店舗をこぢんまりとしたことで、メガネが探しやすくなった、との効果も生まれました。
2つ目は単価のアップです。
ちょうど、JINSのような低価格のメガネ店が急成長をしていた時期であります。価格競争に陥ることを避け、メガネスーパーでは、情報を付加して単価を上げる戦略を取りました。
ポイントはメディカルです。メガネ購入時に行う目の健康チェック情報を顧客に開示するようにしました。現在の視力はどれくらいなのか。目の状態は健康なのか。不具合がある場合にはどう改善すればよいのか。
さらには日常生活を細かくヒアリングし、どのようなメガネであれば快適な毎日を送れるか、など。お客様一人ひとりに寄り添い、オーダーメイド的にメガネを提供するように変え、その内容を情報として提供しました。その結果、単価は1万9000円から3万2000円に上がっています。
3つ目はコンタクトレンズです。コンタクトレンズがなくなる前に、顧客宅まで直接届けるサービスを始めました。
店舗で買うより割高になりますが、コンタクトレンズは消耗品と捉える顧客が多く、買い物に時間をかけるのは無駄と考える顧客から評価され、売上が伸びました。
3つの施策を地道にオペレーションした結果、2015年度、9期ぶりに黒字に転換。以降は現在に至るまで好調な業績を継続しています。

見せかけの改革はしない

私たちが最も大切にしていることは、投資先企業が収益を上げ続ける構造を築けるかどうかです。短期的な改革は行いません。ターンアラウンドの期間は平均5年です。
世間ではファンドと聞くと、人員削減などのリストラをするイメージがあるようですが、実際、人員を削減する企業はまれですし、必要がある際は投資前に必ず伝えています。
短期的な見せかけの改革を行わないことは、ファンドの本質を考えてみれば当然なことでもあります。業績が改善したら、私たちは次の成長ステージを担っていただける株主に売却します。
当然ですが、次の株主はビジネスが成長するかどうかを判断して買収します。つまり、短期的な利益を狙った改善や施策を見逃すわけがない。そのような一時しのぎの愚策は、そもそもするわけがないのです。

事業承継案件が急増

ここ数年は、事業承継の相談も増えています。後継者のいない中小企業だけでなく、次のビジネスにチャレンジしたい起業家や、ファンドの協力を得てさらなる成長を目指したいという経営者もいます。
特に地方では顕著で、うれしいことに地方銀行さんや当社がターンアラウンドを手がけた企業からの紹介などで多くの案件をいただいております。
アドバンテッジアドバイザーズ 取締役/ディレクター 古川徳厚氏
ご存じのように日本企業の99%以上は中小企業ですから、同領域の事業を成長させることは、結果として日本経済全体を元気にさせることにつながります。
また、事業承継は次世代経営者を育てるという社会問題の解決の観点からも、当社のようなPEファンドが果たす役割は大きいと考えています。
一方で、大企業案件も手がけています。国内大企業はコア事業への集中や経営効率を高めることが課題であり、それを解決するための子会社や事業部のバイアウトやMBOといったプロジェクトが増えています。
いずれにせよ、我々は今後も社会から必要とされるサービスを、その時代にあわせた形で提供することで、日本社会が抱える課題に向き合っていきたいと考えています。
(構成:杉山忠義 編集:久川桃子 デザイン:星野美緒 撮影:的野弘路)
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