[12日 ロイター] - トランプ米大統領が現行の医療保険制度改革(オバマケア)を骨抜きにするために打ち出した計画は、各州から連邦法違反を問われて裁判での争いになるのはほぼ確実と見られている。
12日にトランプ氏が署名した大統領令は、中小企業が全国的な組合を結成してオバマケアよりも安価で要件の少ない保険プランを購入できるようにすることを狙ったものだ。
しかし医療や雇用に関する複数の法律専門家によると、トランプ氏がこの計画を推進すれば、各州が従業員退職所得保障法(エリサ法)で彼らに認められている権限を連邦政府が侵害したと異議を申し立てる可能性がある。
今回の大統領令は、労働省に対してより多くの雇用主が組合方式の保険購入に参加できるようにするための規則策定を指示した。法律専門家は、実際に訴訟が起こされるのは、こうした施行規則が発表されてからになるかもしれないとみている。
ジョージタウン大学の医療保険改革センターで助教を務めるダニア・パランカー氏は、エリサ法は州政府に医療保険プランを規制する権利を与えていると指摘する。トランプ政権が最終的に州をまたぐような保険購入を容認すれば、連邦政府による行き過ぎた権限の行使で州ごとの規制という体系が崩れる、と州側が主張してもおかしくない。
パランカー氏は「州を越える組合方式の保険購入を可能にする試みは、エリサ法違反や州の権限を侵しているかどうかについて法的な審査の対象になるだろう」と述べた。
<共通利益>
ホワイトハウスのある高官は、各省庁が訴訟リスクを最小限に抑えるように規則策定を進めていると説明した。この高官の話では、労働省は、エリサ法を大統領令と矛盾しないように見直すだろうという。
しかし民主党に属する何人かの州司法長官は12日、オバマケア弱体化の動きには断固抵抗すると宣言。カリフォルニア州のハビエル・ベセラ司法長官は「わが州が住民のために法廷で闘う準備をしていることには何の不思議もないはずだ」と語った。
法律専門家によると、エリサ法で規定された保険購入のための組合は雇用主を想定しているわけではないとの論陣を、州側が展開する可能性もある。
ペンシルベニア大法科大学院のアリソン・ホフマン教授は、確かにエリサ法の下でも雇用主に組合を結成する資格はあるとはいえ、一般的には組合員の間に保険購入だけでない大きな共通の利益が存在することが求められている、と解説している。
この点について大統領令は、エリサ法の執行責任者である労働長官に、共通利益に関する基準を修正して組合方式の保険購入により広範に参加できるようにすることを求めた。
<短期プラン>
組合が州をまたいで保険を購入できるという考えは、長らく共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)が提唱してきたものだ。
ポール氏は、組合を巡るエリサ法の定義があまりに厳しすぎるので、法改正が必要だと訴えていた。
さらに大統領令は、財務省と厚生省にオバマケアの要件を満たさないような、より安価で簡素、かつ期間が短い保険商品も加入対象に加えることを検討するよう促している。
ワシントン・アンド・リー法科大学院のティモシー・ジョスト教授は、こうした取り組みは、組合による保険購入の枠を広げるよりも法的なハードルが低くて済むとの見方を示した。
(Brendan Pierson、Nate Raymond記者)