なぜ、再生エネルギーは、「みんな賛成」でも増えないのか

2017/10/20
次の日曜日に投開票を迎える総選挙では、エネルギー政策も大きなテーマの1つだ。
原子力発電に対するスタンスは「原発依存度を可能な限り低減」とする自民党と、「原発ゼロ」を掲げる希望の党や立憲民主党などとの間で差がある。
だが、それを実現するための方策では、各党ともに共通して挙げる政策がある。
再生可能エネルギーの導入拡大だ。
自民党は政権公約で「再生可能エネルギーの最大限の導入」を原発依存度低減のための策の1つとして掲げる。
希望の党は政策パンフレットの中で、「再生可能エネルギーの比率を30%まで向上」と具体的な数値目標を掲げた。
立憲民主党は「再生可能エネルギーや省エネ等の技術開発によって、原発ゼロはリアリズム」と踏み込んでいる。
今回の選挙だけではない。福島第一原子力発電所の事故以来、再生可能エネルギーの導入増はずっとテーマとして挙げられてきた。
固定価格買取制度の導入などで、従来型の水力発電所を含まない再生可能エネルギーの比率は5%程度まで増えたものの、まだ、主要電源といえるまでには拡大していない。
世界で再生可能エネルギーの普及が進む中、国内ではなぜスローガンは踊るのに実態が伴ってきていないのか。
風力発電の連系問題などを中心に、長く再生可能エネルギーについて研究する京都大学の安田陽特任教授に聞いた。

国内でも再エネは主要電源に

ーー総選挙では各党が再生可能エネルギーの導入増を掲げています。しかし、再生可能エネルギーはまだ、国内では主要電源の位置付けにはなっていません。
安田 国内ではまだ、なんとなくのうわさ話に流されている部分が大きい気がしますね。
世界の発電設備の容量を見れば、風力発電の拡大は世界的な傾向です。すでに2014年には原子力を上回っており、さらに成長する勢いです。
こういった世界の流れを見れば、日本でも再生可能エネルギーが主要な電源になっていくと考えない方が不思議だと考えます。
ーー風力などの自然エネルギーは変動が大きく、これ以上の導入は難しいという話も聞きます。
安田 うそではありません。でも、10年前の古い考え方です。
その間に、科学技術は大きく発展しています。
携帯電話を考えてみてください。10年前と比べて姿は大きく変わっていますよね。
なぜ、そんなに古い話をするのかということです。スマートフォンを知らない人が今の携帯電話の市場について評価しているような話になります。
今は再生可能エネルギーの普及が進んでいる欧州でも、20年前にはそのような考え方が中心にありました。
欧州委員会が20年前に出した風力発電の導入予測は、今から見ればとても低いものでした。
その後の実際の伸びと比べると、当時の予測は実際のわずか13%ほどにとどまっていました。
10年前に出された予測もあります。それも、実際に導入されている容量と比べると3分の2程度でしかありませんでした。
過去の予測を大幅に上回って導入が進んでいる。これが欧州の風力をめぐる事実です。
再生可能エネルギーは世界的な成長産業です。これを日本の産業界やマスコミを含めて過小評価しすぎていると感じます。
安田 陽(やすだ・よう)氏
1994年3月、横浜国立大学大学院博士課程後期課程修了、博士(工学)。同年4月、関西大学工学部(現システム理工学部)助手。専任講師、准教授を経て2016年9月より京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座特任教授。専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。
ーーなぜ、欧州ではそれほどの幅で予想を上回る普及が進んだのでしょうか。
安田 技術研究の世界では「柔軟性」がキーワードになっています。
例えば、ある大きさの石を小さなバケツに投げ入れると「ボチャン」となり、非常に大きな波が立ちますね。しかし、同じ大きさの石でも大きなプールの中に入れるとなると全体の中での影響は小さくなります。
風力や太陽光などの電源は確かに、個別では出力が変動します。
それを蓄電池を併用するなどで個別にならそうとすれば、大きなコストがかかってしまいます。電気料金に転嫁したら、再エネで作った電気は当然割高になってしまいます。
しかし、全体の中で見れば、再エネの変動は火力や水力などの調整可能な電源を使うことで、柔軟に受け入れることができます。
全体で管理した方が、コストはかからず、はるかに合理的です。
調整可能なのは火力、水力だけではありません。ビルなどに入っているコージェネレーション(熱電併給)システムなどは小さなガスタービンを素早く操作可能です。
「仮想発電所」(VPP)も全体の中での柔軟性を保つための有効な仕組みです。
全体の供給が逼迫した時に、需要を減らすことで、あたかも大きな発電所があるようにすることができ、電力システムの柔軟性を高めることができます。
VPPは国内ではまだ実証の段階ですが、デンマークではすでに10年前から使われている技術です。
欧州では出力を調整できる既存の設備がどれくらいあるかをカウントし、既存の割安なものから使っていきます。その結果、柔軟性が生まれ、社会コストを低く抑えながら、再生可能エネルギーを導入できています。
加えて、日本には電力を全体のシステムの中に貯蔵しておく仕組みとして、揚水発電所が多くあります。
電気が余剰の時に水を上の池にくみ上げて、電気が不足している時に上の池から下の池に水を落として発電します。
しかし、全国の揚水発電所の利用率はあまり高くありません。使っていない既存の設備があるのに、電力の安定のために新規に割高な蓄電池を入れましょうとなっている。
こんな状態であるのは日本だけです。
あらゆるものがネットにつながる「IoT」の技術も電力市場と融合し始めています。デンマークだけでなく、スペインやポルトガルでも通信技術を利用したVPPが既に実用化しています。
再生可能エネルギーは燃料費がかかりません。メリットを生かすためのシステム作りを、日本では十分にしてこなかったのは残念ですね。
ーー既存の設備を利用するという点で、送電線の利用についても調査をされています。
安田 電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表しているデータを分析して、電力会社間をつなぐ「連系線」と呼ばれる送電線の利用率を割り出しました。
すると、20%以下のところが多く、とても有効に使われているとは言えませんでした。
欧州の国と国を結ぶ連系線は60〜70%ほどの利用率のところが多くあります。
送電線も民間企業が資金を投じて作っています。そのような貴重なアセットを有効に使わないというのは、投資回収を進める上ではありえないことです。
電力会社内の主要な域内送電線の使用状況についても、OCCTOの公表資料を元に調査しました。こちらも、あまり使われていません。
特に風力発電所の有望地が多い、北海道・東北について見てみました。
両地域の電力会社は一部の地域で、送電線に余力がないとして、新たな風力発電所の設置には高いハードルを課しています。
しかし、両地域の電力会社ともに、多くの主要な送電線は利用率が20%以下でした。
この結果には正直驚きました。
インフラ設備の利用率としては明らかに経済効率が悪すぎるのです。
これらの現象は送電線の利用実態が不透明な状況だからこそ起こったのだと思います。
送電線というインフラを、様々な電源がフェアで、差別されることなく利用するには、発送電の分離がしっかりされることが必要になると思います。

希薄な「受益者負担」

ーー技術研究の他に、欧州で再生可能エネルギーの導入を支えたものはありますか。
安田 マインドセットと制度の転換が大きいと思います。
日本ではいまだに「原因者負担」の考え方が中心にあります。これは汚染物質など負の便益(ベネフィット)を出した人がその負担をしてくださいという考え方です。
かつては、世界でも再生可能エネルギーの導入には「原因者負担」の考え方が強くありました。
一見、当然のように見受けられるのですが、一方的な見方でもあります。
再生可能エネルギーの導入による正の便益の部分に目が行っていないからです。
再生可能エネルギーの導入で生じるのは負の便益ばかりではありません。二酸化炭素の排出量を減らすことができますし、燃料は不要になり、再生可能エネルギーが増えた分は火力発電所の燃料を減らすことができます。
再生可能エネルギーの拡大は二酸化炭素の排出量の削減にもつながる(石炭火力発電所の貯炭場)
これらの便益を無視して、マイナスの部分だけを取り出して事業者に負担させるのは公平ではないのではないかということで、生まれたのが「受益者負担」の考え方です。
電力の場合、受益者というのは一般の利用者になります。そのため、再生可能エネルギーを導入するために、利用者に広く薄く負担してもらうことになります。
ーー日本でも再生可能エネルギーで作った電気を割高な価格で買い取る「固定価格買取制度」はすでに制度化されています。「受益者負担」が広がっているとはいえませんか。
安田 その通りですが、日本ではちょっと様子が違うんですよね。
本来の「受益者負担」の制度だったら、「二酸化炭素を削減して、国民の将来のベネフィットのためになることをした」人に補助をしましょうという制度になります。
新規参入のためのハードルを低くして、将来の利用者全体の利益になるものを広げるブースターとしての役割を担うことになります。
でも、日本では無理に割高なものを入れるため、利用者にあえて高い料金を課しているように考えるイメージが先行していないでしょうか。
本来は、現在かけるコストより、将来の利用者へのリターンが大きくなり、良いことがあるからこそ利用者が負担する、というのが「受益者負担」の概念です。しかしその考えは今の日本では希薄だと思います。

送電会社の中立性確保を

ーーだいぶ、制度についての話にもつながってきました。固定価格買取制度以外に、欧州で再生可能エネルギーの拡大を進めた制度はあるのですか。
安田 電力自由化、発送電分離と再生可能エネルギーの推進は車の両輪のような役割を果たすものです。
再生可能エネルギーをより多く入れるためには、新規参入者に対しても透明性が高く、差別的ではない制度が求められます。
自由化に目が行きがちですが、発送電分離は重要です。送電線を利用する送電部門は自由化の対象にならず、独占が残るからです。
送電分野は独占が残るだけに、発送電の分離が必要だ(Aryut/iStock)
独占を許すためには、代わりに中立で、差別的な扱いをしていないことを厳しくチェックする必要があります。
欧州ではしっかりと会社の所有権が分離され、送電会社の中立性が確保されました。
日本ではここが曖昧です。今は電力自由化をしていますが、発送電分離は2020年になっています。しかも、法的分離だけで、送電会社がホールディングスなどの中にあってもいいことになっています。
中途半端だと思います。所有権分離まで進めなくては非差別的とは言えなくなります。
中立性の確保には、規制機関の強化も大切です。
欧米には権限の強化された規制機関があります。
日本でいえば公正取引委員会のような強い権限で、電力市場の番人として機能しています。
一方、日本の「電力・ガス取引等監視委員会」は設立時に独立性の強い3条委員会にするという議論もありましたが、最終的に経済産業省の傘下で権限が限定された8条委員会になってしまいました。
電力市場はフェアな試合をするためのリングであるべきです。
リングの上で凶器を使ってもOK、場外乱闘もOKというアンフェアなルールでは、とばっちりを受けるのは立場の弱い新参者です。
もう一度、フェアなリングを作る制度設計を考えないといけないと思います。

2030年度、22〜24%では低すぎる

ーー再生可能エネルギーを拡大していくために、産業界や政府の役割についてはどのように考えますか。
安田 再生可能エネルギーを過小評価している企業は明らかに情報収集不足ではないでしょうか。
事実として、世界中で拡大していて儲かるビジネスになっています。そこに目をつむるというのは、産業トレンドに逆行することになります。
もっとも、これらの産業界の動きの鈍さは、政府の再生可能エネルギーへの目標の低さに起因しているような気もしています。
政府は長期エネルギー需給見通しの中の、2030年度の電源構成で、再生可能エネルギーの割合を22〜24%としています。
電力供給に占める再生可能エネルギーの割合はドイツや英国などでは20年にも3割程度になります。日本では10%ほどが水力発電であることを考え合わせれば、22〜24%という数字は全く高くありません。
なかでも、風力発電はわずか1.7%という位置付けです。
海外の研究者からは「17%の間違いなのでは」との問い合わせがあったほどです。
これらの低すぎる目標は産業界の冷水になっているとも思っています。目標というよりも事実上の「キャップ」として働いてしまい、国際レベルとの乖離を生んでしまっているように感じます。
ーー原子力発電や石炭発電などはこれからどうなっていくのでしょうか。
安田 今後、世界の主要電源は再生可能エネルギーになっていくのが世界的なトレンドです。
ですから、今後主要でなくなる電源について、あまり議論しても未来的ではないと考えます。
欧州では再生可能エネルギーの普及に、環境NPOなどが果たした役割はとても大きいものがありました。
それは、未来の主要電源である再生可能エネルギーの普及の運動をしたからです。もし、「反〇〇」という運動だけだったとしたら、あまり多くのものを生み出せなかったと思います。
国内の再生可能エネルギーの普及に「夜明け」は訪れるか
様々な電源に対して賛否はあってもいいと思いますが、十分な論拠なしにふわっとした賛否では戦略的ではありません。
世界の動向や事実に基づいた理論武装が必要だと思いますね。
(デザイン:砂田優花)