アドバイザリー事業や投資事業、海外進出支援事業を通じ、企業の経営に深く入り込むYCPは“経営者創出企業”を標榜する。YCPでコンサルタントとして活躍しながら、株式会社SOMOS English Academy の教育事業の経営も行う西村達一朗氏に、そのパラレルキャリアの魅力と、そこから生まれるシナジーについて伺った。

■YCPは“ありそうで、ない会社”

―まずは、西村さんがYCPに入社された経緯からお聞かせください。
学生時代から経営をしてみたいと思ってはいましたが、その一方で、世の中のプラットフォームを作る役所の仕事にも興味を持っていました。経済産業省と民間企業のいずれに進路を定めるべきか、最後まで迷っていました。ただ、 根底には、“世の中に何かを還元したい”という気持ちが強かったので、やはり国の中枢から貢献すべきであろうと考え、経済産業省に入省しました。
徐々に社会経験を積んでいくと、“世の中への還元”の方法にはいくつもの道があることがわかってきます。役所の業務を通じて必要と感じたビジネススキルを学ぶためにMBA留学を経験したり、多くの民間企業のみなさんと働くうちに、今度はプレイヤーとしてチャレンジしてみたいという思いが強くなり、転職を決意しました。
そんなとき、YCPの創業時メンバーに大学からの旧友がいて、彼と話をしている中で、“ありそうで、ない会社”だと感じ、興味を持ちました。いずれは起業をしたいという思いはありましたが、それにはタイミングが大事だということもわかっていました。当時、一緒にやりたい仲間や絶対に実現したい事業もありませんでした。ところが、いずれは…という思いが強かったので、それに向けた経験を積むことができるYCPを選択しました。
西村 達一朗 株式会社YCP Japan ディレクター/株式会社SOMOS English Academy代表取締役
米国カリフォルニア州出身。2006年東大経済学部卒業。経済産業省に入省し、日本企業による油田・ガス田の権益獲得に向けて、外国政府との交渉等の資源外交に従事。2011年よりシカゴ大学 ブース・スクール・オブ・ビジネスに留学し、MBAを取得。2015年よりYCPグループ に合流。コンサルティング業務に従事しながら、株式会社SOMOS English Academy 代表取締役として教育事業を展開する。

■“経営者を育成するプラットフォーム”の本当の意味

―YCPに入社をし、コンサルティングと同時に、事業会社の経営にも参画するようになったのですね。西村さんが手掛けている「SOMOS English Academy(ソモス)」の事業内容、コンセプト、事業を始めるまでの経緯をお聞かせください。
SOMOSには二つの大きな事業の柱があります。ひとつは英語での認可外保育園、いわゆる“インターナショナル・プリスクール”の運営を通じて、幼児期からの高度な英語教育を提供しています。もうひとつは日本の幼稚園や小学校に通っているお子さんに向けて、放課後に英語の教育を提供するアフタースクールを展開しています。
SOMOSには元々、創業者がいたのですが、スタートから3年目を迎えた段階で、私たちが経営に参画することになりました。
実は、私自身、教育事業というものに強い興味を抱いていました。単一文化、単一言語と言っても過言ではない日本において、真の国際感覚を育むのはとても難しい、けれども乗り越えていかなければならないチャレンジだと実感していました。自分自身の経験を活かしながら、「日本文化への理解をしっかりした上で、日本人として世界に通用する次世代の人材を作る環境を用意したい」という思いがありました。
SOMOSの創業者にも同様の問題意識があり、“大使館訪問”や“こども国際フェスタ”など各国の大使館と連携をはかりながら、様々な交流イベントを開催していました。日本の子どもたちに異文化に触れる機会を作っていたのです。
その創業者が“この思いをより多くの人に届けられるよう事業拡大に協力してくれるパートナーを探している”という情報が弊社に入り、この理念に共感したYCPは、迷いもせずに手を挙げて、事業に参画したいと申し出たのです。
―自らが手を挙げ、積極的に関わっていきたいと思えるほど、魅力的な事業だったのですね。
YCPが大切にしているのは、“オーナーシップ”です。自分のキャリアに対してもそうなのですが、与えられたことに不満を持つのではなく、常に問題意識を持ちながら、“自らが責任を持って道を切り開く”という方針が社内文化として浸透しています。
私自身、企業経営に興味があり、加えて自らの長い海外生活と父親としての経験(SOMOS就任当時は一児、現在二児の父)を通して、日本において必要と考える国際教育とは何か?について自分なりの強い思いがありました。
さらに日本の教育制度には素晴らしい部分が多くある一方で、時代の流れとともに変革が必要な部分も生じてきていると感じていたので、自ら積極的に取り組みたいと判断しました。
SOMOSにジョインしてからも、私自身が魅力を感じていた既存事業はそのまま継続しています。コンサルタントとしてのノウハウを生かしながら、既存事業を拡大するためのマーケティングや戦略立案に加えて、新しい価値を提供するための新規事業の立ち上げにも取り組んでいます。
―自分で一から事業を立ち上げるのとは、ずいぶん勝手が違うように思えますが。メリット・デメリットはありませんでしたか。
認可外保育園設立に関するノウハウや、生徒を集めるだけのネームバリューがないため、まったくのゼロから始めていたとしたら、相当な困難に直面していたと思います。その苦労を創業者が乗り越えた段階でYCPが参画することになったので、まさに“時間を買いながら勉強していく”という意味で、大きなメリットはあったかと思います。
逆に、ゼロから始めていないため、自分たちが理想とする教育を最初から全て打ち出せないというデメリットは確かに生じます。ただし、それは創業者の理想とそれに対する既存のお客さんの期待を理解した上で既存事業を運営しつつ、同時に既存のお客様の意見を聞き、ご理解を得ながら、新しい方針や事業を準備していくことで徐々に解決できる問題です。
―西村さんご自身としては、すべて自分一人で立ち上げたいと思いはしなかったのですか。
正直言って、学生時代から起業や経営者ってかっこいいなって思っていましたしMBA留学中に、そういった昔からの興味もあり、友達とビジネスの立ち上げやそのために必要なプログラミング教室に通ったりしながら自分の可能性を探っていました。
ところが徐々に、必ずしも起業が目的ではなく、「経営判断を下す、事業を動かす、顧客に貢献する」ことが面白いのだと気づき、“焦ってベンチャーを立ち上げる必要はない”と考えるようになりました。
“経営者”と一言で表現しても、各々が思い描いている姿は少しずつ違っていると思っています。会社の成長フェーズによって求められる能力も違ってきますし、そもそもの経営者の定義も変わると思います。それはコンサルティング業務を通じ、経営者と一体になることで、よりリアルに、深く理解することができます。
例えば、資金的に余裕がある事業会社に対しては、戦略やファイナンス、マーケティングに関する提案を行います。いわゆる大企業を動かしているボードメンバーと対話を重ねながら 、会社の大きな中長期戦略を共に立案し、大局的な話と具体的な施策を実行します。その両方の力が必要となります。
一方の中堅企業を担当するコンサルタントに求められるのは、従業員と近い位置で、泥臭いところまで入り込んで事業を前に進めていく力です。まさに“オールラウンダー”である必要があります。
YCPが標榜する“経営者を育成するプラットフォーム”の本当の意味は、このようにコンサルタントと事業会社経営の両方を経験することで、自分の強みや能力、自分にあった経営スタイルを探ることが可能だという点に集約されると思います。
そしてゼロからの起業であろうと、途中から経営に参画しようと、あらゆるフェーズにおいて必要となる“経営者としての能力”を獲得していくことができます。私も、入社当初に漠然としていた経営者像が少しずつ絞られて、実体を帯びてきたように思えます。

■目指すはニューヨーク&ロンドン拠点の開設

―西村さんが経営に参画するようになって、SOMOSをどのように経営していったのでしょうか。
英語力と国際感覚の向上をベースにしながら、従来の“詰め込み型教育”に変わる“総合教育”の必要性を実感し、英語プラスαの教育をアフタースクールで展開しています。
ロボットを使ったプログラミング教室を全国70店舗のフランチャイズで実施する「ロボ団」と提携し、全国で初めて英語でプログラミングを行うカリキュラムを用意しています。
また、ニューヨーク大学のダンス教育修士号を取得した先生による本格的な英語ダンス教室や、今冬からは、放課後に東大生などの有名大学生が学校の宿題サポートを受けながら、英語の情操教育も受講できる学童など、英語力、国際感覚に加え、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリングといった“21世紀型教育”にも力を入れています。
たとえばプログラミングの基本言語は英語がベースとなっており、ソースもほぼ英語ですから、学習を進めるうちに、自然に英語の必要性が実感できるようになります。このように、大人が子供たちに“強いる”教育から、子供たちが“好き”を通して自ら学ぶ、伸びていく教育を目指しています。
―積極的に、海外展開も進めていらっしゃるようですね。
現在は、アジア圏を中心に進めていて、本年5月にはSOMOS香港校をオープンしました。「ロボ団」のコンテンツを香港でも展開させていただいたところ、反響が大きかったため、現在は、ロボ団のカリキュラムに加えて、小さなお子さまでも学べるようなプログラミングのカリキュラムもSOMOS独自で開発し、提供しています。
今年の秋から年末にかけてシンガポールへの進出が決まっています。シンガポールは日本以上に苛烈な受験大国ですから、週に一度、必ず通わなくてはならない“習い事”はけっこう敬遠されがちです。
そこで私たちは不定期参加も可能な、週末のアクティビティを用意しました。そこに、私たちが重要視しているSTEM教育(Science, Technology, Engineering, and Mathematics) やアントレプレナー教室など、子どもたちに起業家精神やビジネスの楽しさが学べるプログラムを加えています。
“理数脳”や“ビジネスを考える能力”といった、これからの時代を生き抜くために必要な力を、楽しみながら鍛えてもらっています。
―海外展開も含め、すべて西村さんがひとりで進めているのですか?
アジア諸国で日本と同じようなビジネスニーズがあるということは、YCPがオフィスを展開する香港、上海、シンガポール、バンコクそれぞれのメンバーとの対話の中で確認しました。私と同じような問題意識を持っているプロフェッショナルと連携しながら、各リージョンで自主的にローカルワークを進めています。
現在は、私もコンサル事業と平行しながらジャパンの責任者としての役割を果たしており、各リージョンでの施策をグローバルでとりまとめるポジションは存在していません。
このままビジネスが拡大を続ければ、誰かが全体を統括する必要が生じます。これは、YCPの成長課程とよく似ていると思っています。元々は、ひとりのプロフェッショナルが現地に飛び、案件を回しながら採用を重ね、オフィスを立ち上げていったと聞いております。いくつもの海外オフィスが生まれる中で、採用や教育でグループシナジーを出すため、石田がGroup CEOとして全オフィスを統率するようになりました。
それと同様に、SOMOSも各リージョンがそれぞれのローカルにあったカタチで成長を続け、どこかのタイミングでグループとしてまとまっていくことができればと思います。
次はYCPのオフィスがあるタイ・バンコク、さらに、ニューヨークとロンドンにもSOMOSを展開したいと考えています。そして、それらのネットワークを横断的に繋ぎ、国籍の違う子どもたちが行き来できるような、国際的な教育機関へと進化させていきたいと思っています。

■コンサルと経営の両立がもたらすもの

―SOMOSの経営と同時に、今でも並行してコンサルタント職にも従事しているのですか。その両方を同時に進めることで、どのようなシナジーが生まれているように感じますか。 
はい、今でも並行しております。実は、コンサルタントとしてお付き合いしてきたクライアントの中には教育関連企業はありません。入社以来、エネルギー業界、不動産、通信、一般消費財など業種も様々な企業に対して、会計、M&A、マーケティング、戦略、物流の見直しなど、様々な提案を行ってきました。
業種も売上も組織の規模もバラバラ、フェーズもファンクションも違います。但し、YCPにおけるコンサルティングとは、デスクトップでのリサーチよりも、クライアントの事業の最前線に立つ機会が多いことが特長です。 これらの経験を通じ、経営の最前線に立ちながら、実地で学んできたせいか、SOMOSの経営も非常にスムーズにスタートすることができました。
また、SOMOSの運営で経験したものを、コンサルティング業務の中で、お客様にフィードバックできます。結局、経営者の立場とコンサルの立場の両方を理解していることが、今の自分の最大の強みとなっているのです。
“両方やろう!”と、スローガンを掲げてはいるものの、拡大するフェーズでどちらかを絞ってしまう企業は多く、完全に両立ができている会社としてYCPは珍しいと思っています。
コンサルティングという世界における成功だけでは飽き足らず、経営者になりたい、経営をしてみたいという人にとって、YCPが提供する経験は、大きな力になることと考えています。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)