「繊細な指先」で人間をサポートする、ロボットアームのキノヴァ

2017/10/12

車椅子に取り付けて障害者をサポート

ロボットの展示会に行くと、必ずと言っていいほど出展しているロボットアームの会社が、キノヴァ・ロボティクスだ。同社はカナダのモントリオールを拠点にするスタートアップだが、アメリカでの展示会だけではなく、ヨーロッパの展示会でも見かけたことを覚えている。
興味を引かれたのは、同社のアームの形とその使われ方だ。
アームはまるで筋肉が盛り上がったような丸みがあり、3本の指がついたハンドもマニキュアが塗られているのではないかと勘違いするほど指先部分が繊細にできている。
アームとして全体を見ると、ちょっとなまめかしいと思うほどの形状で、展示会に出ている他の産業用ロボットアームとは明らかに一線を画している。動きの範囲もかなり広い。
数年前、そうした展示会の際に同社のテーブルで聞いたのは、このアームは身体障害者が車椅子に取り付けて利用するのが主な市場だということ。かなりの数の人々がこのアームの恩恵を受けているようだった。
車椅子の肘置きの部分にゲームのコントローラーのような装置をつけると、アームが動く。下半身が動かない、あるいは腕の力が弱い、筋肉の障害があるといったさまざまな理由で、自分で歩いていってモノを取ってくることができない人々が、このしくみを利用して日常生活をより自立した方法で送っているのだという。

フォックスコンが投資に加わる狙い

その後、キノヴァは面白い方法でロボット会社として発展してきた。直近のニュースは、2500万ドルの資金調達をしたということだ。
キノヴァが創設されたのは2006年だが、実は今回の資金調達まで大規模の投資は受けてこなかったようなのである。おそらく十数人の社員はアームの開発と障害者市場への販売に努力を傾け、その市場での販売からある程度の売り上げを得ていたものと思われる。
今回調達した2500万ドルは、そうした限られた市場を超えた大きな産業市場へリーチできる投資額だろう。
案の定、投資家にはカナダの産業協会、韓国とカナダのベンチャーキャピタルに並んで、あのフォックスコンが加わっている。キノヴァの技術を製造現場へ利用することももくろんでいるのかもしれない。
ほぼ時を同じくして、キノヴァはモバイルマニピュレーション・プラットフォームの新製品を発表した。
モバイルマニピュレーション・プラットフォームとは、可動ロボットにアームがついたもの。縦長のプラットフォームに2本のアームがついていて、ちょっと見た目には人が貼り付いた壁が動くような奇妙な形である。
他社のモバイルマニピュレーション・プラットフォームが背丈が低くて1本アームであるのが主流なのに比べると、より複雑な作業を行うことも可能なのかもしれないと思わせる。

「ジェイコ叔父さんのプロジェクト」

同社は障害者向けのアシスティブ・ロボットアームから出発して、リハビリや医療市場に進出。そして今や産業市場へ展開しようとしているのはとても興味深いし、また単なる観察者でしかない私から見ても、非常にうれしい。
人とロボットの理想的な関係を知ったロボット会社が、産業やサービス市場、ひいては一般家庭でのロボット開発に関わることになるのだろうと思うからだ。
ちなみに、キノヴァはもともと幼いころに身体障害者の叔父の様子を見ていた大学生が設立した会社だ。
彼の親戚には3人の身体障害者の叔父がいたが、その一人は自分で自動車のワイパーのモーターやランプの部品などを利用してロボットアームを作り、それを利用してグラスに入った水を飲んだりしていたという。
大学生になってから、母親が「ジェイコ叔父さんのプロジェクトを引き継ぐ気はないの?」と尋ねたことがきっかけとなって、友人と会社を設立。最初に作ったアームには「ジェイコ」という名前をつけた。ジェイコは、車椅子のバランスを崩さないように軽量に作られ、操作も直感的に行えるようにしている。
何か非常にいいロボットが、ここから生まれてくるのだろうと感じるのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)