SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。10月1日は「日本酒の日」として各種イベントが開催されたが、日本酒ファン以外ではあまり話題とはならなかったようだ。今回は日本酒市場について、海外輸出と国内需要の2軸で動向をみていく。

輸出量は7年連続過去最高

日本酒の輸出量は2016年に19,737klとなった。2002年以降リーマンショックの2009年以外は成長しており、2006-2016年の年平均成長率は6.7%と好調で、7年連続過去最高である。なお、輸出量構成比では、ビールに次ぐ2位となっている。

輸出先は米国とアジアが中心

主要輸出先はアメリカで5,107klと輸出量の約4分の1を占める。続いて、韓国、台湾、中国、香港などのアジアが続く。
一方、輸出単価が異なるため、輸出金額では順位が異なる。
輸出単価でみると、最も高い香港と最も低い韓国では3倍以上の差がある。香港やアメリカの日本酒は、中・高価格帯の特定名称酒の割合が高いことが挙げられる(国税庁が清酒製造業者に対して実施したアンケート調査による)。

政府も民間企業も海外展開に注力

日本酒の輸出をさらに加速するために、政府や民間企業は海外展開に注力している。
日本酒の海外展開における政府の取り組みでは、2020年に向けた主な取り組み例として、国内外の情報発信拠点の活用、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)の活用、海外の酒類の専門家や有識者等への啓発、地理的表示制度(GI)の活用促進、酒蔵ツーリズムの推進等が挙げられる。
直近の動向では、日欧経済連携協定(EPA)交渉で、EUが日本産の日本酒にかけている関税を即時撤廃する方向で調整(2017年6月時点)。また政府系ファンドのクールジャパン機構が「日本食のテーマパーク」を欧州中心に海外展開する方針を固め、英国で2018年春1号店を出店、今後はパリなど他の欧州主要都市での出店を目指している。
このように、政府は米国・アジア以外の輸出にも力を入れ始めている。
民間企業においてはどうだろうか。
約40年前に北海道旭川の酒造・男山が海外戦略を実行後、海外展開を行う酒造が増加した。特に和食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されたことが、日本酒の海外展開を後押ししている。
2016年の日本経済新聞の報道では、佐賀県の酒造である基山商店等が欧米やアジアで新たに販路を開拓しているほか、古伊万里酒造等は増産や品質向上へ設備投資を行う。さらに、山形県の酒造である出羽桜酒造は売上高に占める海外比率を5年以内に10%にまで引き上げる目標を掲げる。
なお、観光庁のアンケート調査によると、訪日外国人の旅行における経験で「日本の酒を飲むこと(日本酒・焼酎等)」と回答した人は41.3%、そのうち満足した人の割合は84.9%となっているため、日本酒が海外でも販売されていれば、購入する人も少なくないと考えられ、海外への取り組みは今後も続いていくだろう。

出荷量のうち国内向けが9割以上

とはいえ、日本酒の全出荷量のうち輸出量が占める割合は2016年で3.5%と、年々上昇しているものの、いまだ5%にも満たない。
つまり、日本酒の全出荷量のうち国内需要は9割以上を占めることになる。海外市場の拡大余地が大きいことは確実であり、引き続き輸出の推進は必要だが、まずは国内市場の課題を何とかすることが先決だろう。

日本酒出荷量は大幅減、一方で高価格帯は微増

国内出荷量の推移をみると、1998年に113万klであったが、10年間で大幅に減少し、2008年には66万klとなった。その後も減少はとどまらず、2015年には55万klとなっている。
日本酒が減少している要因として、主力顧客層であった50-70代男性の飲酒人口減少のほか、食事の洋風化、一升瓶・四合瓶等で飲みきれない容器から缶や少量瓶での飲みきりサイズへの変化、健康志向等が挙げられる。

種類別にみると、普通酒や特定名称酒のなかでも低価格帯の本醸造酒は減少する一方で、中・高価格帯は2012年以降徐々に拡大。吟醸酒、純米吟醸酒、純米酒が出荷量、シェアともに増加し、1998年には11%であったシェアは2015年には22%まで上昇した。
2015年時点で68%を占める普通酒は、ワンカップ日本酒(代表例:大関「ワンカップ大関」)や紙パック日本酒(代表例:黄桜「呑」、白鶴酒造「まる」)などで、コンビニで購入可能な手軽な日本酒だ。
ただし、普通酒の小売価格は10年で200円程度減少しており、普通酒は数量・金額ともに縮小基調である。
参考として日本酒の種類を表に整理した。
普通酒(低価格帯)と特定名称酒(中・高価格帯)があり、さらに特定名称酒は精米歩合、アルコール添加の有無によって8種類に分類されている。

普通酒製造大手のある兵庫で大幅減

なお、普通酒の減少は地域別の日本酒生産量にも影響を与えている。
都道府県別でみると、普通酒を製造している白鶴酒造や大関などの拠点がある兵庫県の出荷量の減少が著しい。また、福島県の半減は、東日本大震災による福島原発事故の放射能汚染などが影響していると考えられる。
ちなみに、増加している都道府県もあり、「獺祭」の酒造メーカー旭酒造の拠点がある山口県や「神亀」の酒造メーカー神亀酒造の拠点がある埼玉県などである。
このように日本酒の国内需要は、ボリュームゾーンである低価格帯の需要が減少、特に普通酒が主力であった大手メーカーなどは厳しい状況となっていると見られる。
しかし、同じ状況から巻き返した酒類がある。ウイスキー市場だ。

ウイスキーはハイボールにより巻き返し

ウイスキー市場も1983年のピーク以来縮小傾向にあり、2007年には数量ベースで6分の1へと落ち込んだ。要因として、若者がウイスキーを飲まないこと、他のアルコールに比べて価格やアルコール度数が高いことなどが挙げられた。これらは日本酒と同様である。
しかし、サントリーが仕掛けたハイボールは若者へも浸透、2008年から始まったハイボールブームによって国内需要を巻き返した。また、サントリー「角ハイボール」のCMも一役かったといわれている。それと時を同じくして、海外でも日本国産ウイスキーの認知度が高まり、輸出は増加傾向をたどっている。

日本酒もウィスキーと同じ戦略で巻き返しを図ることは可能だろうか。

若年女性がターゲット

日本酒の年代別購入数量をみると、年代が高くなるほど購入数量が増える。ただし、30-40代は数量が少ないものの、購入価格は高いため、数量が増えれば必然的に出荷額は数量以上に伸びる可能性が高いだろう。
また、日本では女性が消費の主役であり、近年では女性をターゲットにした漫画喫茶やらーめんなどが出てきている。餃子の王将が女性向けにカフェのようなスタイルのGYOZA OHSHOを出店するなど、もともと男性が主なターゲットであった企業が、女性をターゲットにすることも珍しくなくなった。
ちなみに、クロスマーケティングのアンケート調査によると、日本酒は飲まないが、飲んでみたいと思う人は、20-30代の女性の割合が高いとの結果が出ている。
日本酒の裾野を広げるには、20-30歳代の若年女性がターゲットとなりそうだ。

飲み方、イメージの刷新が必要

ただし、日本酒もかつてのウイスキーと同じく、若者が飲まないこと、他のアルコールに比べて価格やアルコール度数が高いことがネックとなっている。
それを打破するためには、1)3-5%の低アルコール、2)「インスタ映え」するパッケージや容器、3)飲みきりサイズ、4)美容効果を押し出す、5)日本酒カクテルなど割り材で割る飲み方の浸透、などが必要である。
たとえば、セブン&アイホールディングスがワインのPBを製造しているように、日本酒のPBも飲みきりサイズ・おしゃれなパッケージ・低価格などの要素が重なれば、女性がお酒を選ぶときに選択肢の一つとして日本酒が入ってくる可能性もあるのではないだろうか。

メーカー努力も大ヒットには至っていない

もちろん、各社この問題については認識している。
宝ホールディングスは、若年女性をターゲットに「松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒」を2011年6月から発売。2012年度は15万ケースであった売上は、2015年度は新商品の発売などもあり、100万ケースと順調に伸ばしているようだ。
とはいえ、日本酒市場の起爆剤となるには程遠い。
宝ホールディングスの種類別売上高推移をみると、2010-2016年度の年平均成長率は清酒が3.0%と堅調であったが、缶チューハイなどのソフトアルコール飲料(同5.6%)や梅酒・リキュールなどのその他酒類(同6.5%)の伸びの方が大きい。女性をターゲットとした日本酒はヒットしていると言われているが、爆発的な新規需要の開拓には至っていない。
なお、一ノ蔵や黄桜、月桂冠、 白鶴酒造などでも発泡清酒を発売しているが、同様の状況だろう。

まとめ

日本酒業界の全体感をみると、事業者や酒蔵の減少、従業員の高齢化、事業承継問題など、今後も縮小は免れないだろう。
そのなかで差別化を図るために、海外への輸出や女性をターゲットにした日本酒など、企業側も努力をしている。新しい取り組みや輸出拡大のニュースなど、明るいニュースが多く出ているが、まだ全体需要を喚起するまでのインパクトには至らず、むしろ需要減少を前提とした、更なる差別化を一段と進めることが、喫緊の課題ではないだろうか。
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