【音喜多駿】小池政治に失望。希望の党は崩壊する

2017/10/6
都知事選では小池百合子氏を応援し、勝利に貢献した、都議会議員の音喜多駿氏。都民ファーストの会を代表する議員である音喜多氏が、10月5日、離党を発表した。なぜ彼は、小池氏と小池都政に失望したのか。音喜多氏の事務所で話を聞いた。

許せない「言行不一致」

──音喜多さんは都知事選のときから小池さんの側にいたため、小池さんの人柄もよくわかる立場だったはずです。身近な存在であった小池さんに対する信頼が、なぜ揺らいでいったのですか?
都議選前までは、小池さんと直接連絡をとる機会もわりとありましたし、希望の塾(小池氏の政経塾)の事務局のメンバーとして会うこともありました。
しかし、都議選に勝利し、都民ファーストの会が55人という大所帯になった後に、私は役職から外れました。それからは、小池さんとの距離が遠くなりました。すれ違いが増えていったのです。
──音喜多さんの失望は、小池さん自身に対するものですか?それとも、都民ファーストの会という組織に対するものですか?
両方だと思います。
もしどちらか片方だけに不満ということであれば、離党まではしなかったはずです。組織運営に不満があっても、小池さんがすばらしい人だと思えばついていくと思うし、逆に、小池さんが人間的にどうかと思っても、組織運営がすばらしければ、組織に尽くすでしょう。
その両方がダメだとなれば、党を離れるしかないと思ったわけです。
音喜多駿(おときた・しゅん)
東京都議会議員(北区選出)
1983年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループで勤務。現在東京都議会議員二期目。ブロガー議員としても活躍。
──小池さん個人に対して、いちばん失望した部分はどこですか?
言行不一致です。
小池さんが、選挙時に掲げていた公約に僕は賛成していました。しかし、「情報公開の徹底」「しがらみ政治からの脱却」といった公約を今実現できているかといえば、できていないと思います。
情報公開はブラックボックスになっていて、議員に取材規制や発信規制をかけています。
都議会選挙後、都民ファーストの会が与党になって、僕が初めてやった仕事は、団体予算ヒアリングです。2週間くらいの間、団体に予算要望を聞いて、「これからいい関係を築いていきましょう」というやり取りをやらされました。
これこそ、まさに「しがらみ政治」じゃないですか。
足元では「新しいしがらみ」をつくりながら、外では「しがらみからの脱却」と言い続けている。それはダブルスタンダードです。
──情報公開が不満だったのは具体的にはどの点ですか?
もちろん、何でもかんでも情報をオープンにすればいいわけではありません。
ただ、政治の世界は企業の世界とは異なります。われわれは有権者から信託を受けているわけですから、できるかぎりオープンにするのが大原則だと思います。
それなのに、もっとも大事な代表選挙ですら密室で決めるというのはあり得ないガバナンスです。公約で情報公開や民主的なプロセスを訴えたわけですから、有権者をだましたと言われても仕方ないのではないかと思います。
──都民ファーストの会は新人議員が多いため、情報管理などをある程度トップダウンでやらざるを得ない面もあると思いますが、そこは理解できますか?
新人が39名ですので、ある程度ガイドが必要というのは理解できます。
しかし、「二期生、三期生の議員にも同じことを強いる」「あからさまに活躍の機会を与えない」「派閥づくりを警戒しすぎて飲み会を禁止する」のは、ガバナンスの行きすぎだと思います。
──都議会のドンと呼ばれた、内田茂氏が牛耳っていた自民党時代の都議会も、情報公開は遅れていました。そこから改善していないのですか。
かねてから、内田茂さんが所属する委員会では質問ができなかったので、それを変えるべきだと言っていました。
しかし、警察消防委員会などの委員会では、基本的に質問をしないという方針のままだと聞いています。
さらに議員は文書質問もできず、資料要求もやってはいけないという通達がされています。議員の権限を奪い取っているわけです。「自民党以下」の状況です。

イエスマンしかほしくない

──小池さんは発信はうまいけれども、組織のマネジメント能力に乏しいという声があります。
小池さんは人を信頼せず、信頼できなくなると、どんどん人を切ってしまうというか遠ざけてしまう。その結果、お友達内閣のような形になって、似たような能力と思考回路の人ばかりが集まって組織運営をするから、こういうことになるんだろうと思います。
(写真:つのだよしお/アフロ)
たとえば、僕は二期生でうまく使ってほしいと思っていましたが、都議選後に何の役職も与えられませんでした。二期生の中では、私と両角穣さんと上田令子さんの3人だけまったく役職がない。そういう采配をするから、パワーがなくなるのかなと思います。
──音喜多さんは、都知事選から小池さんを支持し、希望の塾運営などでも貢献してきました。何らかの役職を与えられたほうが自然に感じますが、なぜそうならなかったのですか。
理由は先方に聞かないとわかりませんが、やっぱりイエスマンしかほしくなかったのではないかと思います。
われわれは都知事選の前から応援をしていたので、都議選で恩を返してもらい、その後は、ある意味、対等な関係だと思っているわけです。
だからこそ、小池さんの方針がおかしいと思ったら、おかしいと言うし、ブログにも書くし、直接申し上げたこともあります。そういう私のような人間が役職を持って力を持つと、うっとうしいというか、快適ではなかったのかもしれません。
昨年の都知事選では、若狭勝氏とともに初期から小池氏の応援に汗を流した(写真:HIROYUKI OZAWA/アフロ)
──各議員の役職の決定、情報公開の方針などは、すべて小池さんが関与して決めているものなのでしょうか。
それは明確にはわかりません。
ただ、都民ファーストの会の代表が、小池さんの意志を忖度して、「きっと知事は嫌がるだろう」という推測のもと、先回りしてそういう運営をしていたことは大いにありうると思っています。もし小池さんが、そうしたことを知らなかったとすれば、それはそれでひとつの資質なのかなと思います。

小池都政の功罪

──小池都政にポジティブな面はありませんか?
あると思います。なにより、これほど都政にスポットが当たって問題点が見えてきたのは、小池知事にしかできない功績です。
政策面でも、待機児童対策、受動喫煙対策に加えて、クラウドファンディングを支援するという予算付けをしたり、オープンガバメントの一環で一般公募によりアイディアを募集したり、奇抜なことをやったのはすばらしい。
こうした新しいアイディアは、しがらみのある古い政治の中では出てこないやり方です。小池さんの突破力が活きたのだと思います。
また、特別顧問の上山信一さんと都政改革本部をつくり、無駄を削除して、外郭団体のあり方を見直して、かなりメスも入りました。
一方、小池都政の課題は、築地市場・豊洲や、オリンピック・パラリンピックなど目立ったものほど着地できていないことです。
築地市場・豊洲やオリンピック・パラリンピックについては、言っていることとやっていることが違う状況があり、課題を増やしてしまいました。課題を山積みにしたまま、国政に足をかけるのは違うだろうと思います。
小池さんは、堅実に官僚に任せておいたほうがいいところも、ある意味、手を入れてしまって失敗した面もあると思います。
小池さんは多くの顧問を登用しており、しかも顧問の声が大きい。都議としては、「なぜ顧問の声は聞くのに、議員の言うことを聞いてくれないのか」と思ってしまう。
とくに私は、豊洲市場問題に関しては、誰よりも長くかかわってきて、さまざまな委員会でずっと質疑をしてきました。私より詳しい人はいないのではないかと思いますが、ほとんど耳を貸してくださらない。
その一方で、顧問の言うことは通っていくという状況には忸怩たる思いがありました。きっと都庁職員も同じ気持ちだったのではないかと思います。
──音喜多さんをマネジメントするのは、誰でも大変かもしれません。
そうかもしれません(笑)。
ただ、私は都議になる前に7年間、まがりなりにも組織の中にいましたので(LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループで化粧品ブランド「ゲラン」の営業・マーケティングを担当)、意外と組織人です。
私は「情報発信が封じられたら何の価値もない」とも言われますが、事務仕事が自分のパフォーマンスが高いところだと思っています。言われたことはきちっとやりますし、独創性も加えて、クオリティの高いものを出しています。議会質問も会派の代表でよく書いていました。
ですから、組織がうまく使ってくれれば、いくらでも力を発揮しますし、風通しのいいところであれば、ブーブー不満を言いつつも仕事はするんですが。
──音喜多さんが思い描いていた組織とは、まったく違うものになってしまったと。
要は、「都民ファーストはベンチャー企業みたいなところだ」というような応募要項で議員を募集して、有権者の票を集めて、会社を立ち上げた。でも中に入ったら、実態は古臭い大企業だったとなると、これは詐欺なわけです。
外に出てくる氷山の上の部分ではすごく新しいことをやっていて、小池さんはそれをアピールする手法にとても長けている。だから都民は6割以上も小池都政を支持していて、何か新しいことをやってくれると期待しています。
しかし、水面下を見てみれば、団体ヒアリングをやったり、議会で質問しなかったり、自民党時代と同じ構造が残っている。そんな二重構造になっているわけです。

ゾンビになりたくない

──なぜ希望の党からの出馬を依頼されながらも、断ったのですか?政治家としては、大きなチャンスが巡ってきたとも言えます。
(出馬した場合どれくらい票がとれるかについて)調査もかけましたが、かなりいい数字が出ていました。
とくに政治関係が長い人から、「とにかく今、出ろ。不満を持つ気持ちはわかるが、議員のバッジをつけてから反乱を起こせばいいんだ。文句があってもとにかくバッジをつければこちらのもんだ」と言われました。
ただ、都民ファーストの経験を通じて、「都議のバッジをつければ、もっと発言できると思ったけれどもできない。できても同調圧力の前に消される」ということがわかりました。
国政に行ってもきっと同じことになるだろうし、一回バッジをつけると、それを失いたくなくて、小池さんの靴を一生なめて生きていく人生になる。それは私にはできないなと。
──国政に興味がないわけではないのですね。
将来的に、国政進出もないことはないですが、今は都政に責任がありますから、小池知事が間違っているところは間違っていると言いながら、軌道修正していきたいと思います。
それに、希望の党を見ると、右から左まで選挙に勝ちたいだけのゾンビみたいな人が多くいます。自分はそうしたゾンビの一員にはなりたくない。
もちろん、声をかけられたときは、迷いました。しかし、こんな意志の弱さで国政に出ていったら、バッジの魔力にとりつかれて、ゾンビになって殺されると思ったのです。

希望の党は消滅する

──小池旋風のこれからをどう読んでいますか?
都議選のときも、そんなに風は強くなかったと思うのですが、豊田真由子議員の問題などで自民党側に逆風が吹いて、合わせ技一本で勝ちました。ただ、今回は、自民党に逆風が吹かなければ、なぎの状態で投票日を迎える可能性があります。
(写真:アフロ)
それでも希望の党は、一定程度の議席は確保するだろうと思います。
ただ、右から左までバラバラの人たちが集まっているので、上から相当な力で押さえつけていくはずです。ガバナンス長をつくって、組織ガバナンスを強化するという話も出ていますが、そんな役職を置くこと自体どうかと思います。
国会議員は、都議会以上に我が強いので、早晩、組織がバラバラになって、長く持たずに、また政界再編になるような気がしています。希望の党は、(今回の総選挙の)次の選挙までは持たないと思っています。
──希望の党の問題点はどこですか?
民進党を丸呑みしたことです。希望の党は、まだ明確な公約も出していないのに、190人の一次公認候補が、公約を守るサインをして公認されましたが、こんなむちゃくちゃなやり方はありません。
都民ファーストの会も同じようなものではないかと言われるかもしれませんが、少なくとも、僕が事務局をやっていた希望の塾は、半年間講義をやって、面接もして、研修もして、候補を選び出したわけです。理念や政策も半年以上かけてすり合わせていきました。
しかし、希望の党は、1,2週間で190人もの公認候補を集めた。都民ファーストで60人弱を選考するのも大変だったのに、そんなやり方で200人も選別できるわけがない。早晩、組織は崩壊すると思います。
──希望の党の候補は、都民ファーストの議員よりもレベルが低いですか?
低いと思います。
都民ファーストの議員は、新人を中心に優秀な人が多いと感じます。新鮮な視点を持っています。育てる人がいて、成長していけば、立派な議員になる人が多いと思います。

都知事を続けるのは地獄

──小池さんは都知事を辞めると思いますか?
五分五分だと思います。
小池都知事はこのまま都知事を続けても結果を出すのはかなり難しいと思います。とくに築地問題などは着地点が見えなくなってきています。
築地の再開発をやると言って、有識者会議を立ち上げたばかりなのに、そのうちのメンバーの一人である松沢香さんを引っこ抜いて、今回の衆院選の候補にしてしまった。そんなむちゃくちゃなことをやっていて再開発がうまく行くはずがありません。
その意味で、小池さんにとっては都知事を続けても地獄です。残るも地獄なら、国政に出るしかないという気もします。
ただ、たとえ地獄でも小池さんは責任をとるためにも残るべきです。歯を食いしばってでも、都政の問題を解決して正常なラインに戻すのは、都知事の義務であり、私の義務でもあります。
小池知事になって、問題が見えるようになったという声がある一方、情報公開という面では見えなくなってしまった部分もありますので、築地、オリンピック問題はしっかり追及していきます。僕はもともと野良犬ですから、噛みついていきますよ。
──音喜多さんに対しては「若い」「甘い」という批判があります。
その批判は現実として受け止めないといけないと思います。「飛び出ずに与党にいないと、何もできないぞ」と言われますが、僕もそんなことはわかりきっています。
それでも僕は、ここで仕掛けることがのちのち自分の影響力を高めることになると思って勝負に出ているわけです。
結局、大事なのは「どこに筋を通すか」です。
小池さんに筋を通すなら、何をされてもついていくのが筋だと思います。しかし、僕は都民に対して筋を通したいと思ったので、選挙公約に筋を通しました。
どちらが正しかったかは、次の選挙で有権者に判断していただくしかないと思っています。
(撮影:TOBI)