中国で製造されたスニーカーがコロラドの郊外の家に届くまでの「旅」は、30年前の私たちには興味深い。前編に続いて「2036年、あるスニーカーの旅」を追ってみよう。
買物の未来 #1:2036年7月5日、中国・広東省東莞のスニーカー工場
■ 2036年8月5日1時35分
自動運転車の研究は爆発的に進化している。BMWやテスラなど、ほぼすべての自動車メーカーが商品化を目指し、規制に関する協議を進める一方で、グーグルの研究所など他業種も意欲を燃やしている。
大型トラックのメーカーも負けてはいない。テスラのイーロン・マスクCEOも自動運転トラックに強い関心を示している。
自動運転トラックは、技術的には気が遠くなるほど困難な目標というわけではない。ただし、UPSやフェデックスなど大手貨物運送会社にとって、自動運転トラックに荷物を積むことはロジスティックの悪夢だ。
梱包が緩い小包が大半を占めるため、トラックに積み込む作業の大半は現在も人間が行っている。荷台にパレットを積む場合はさらに厄介だ。荷物の形や量に流動的に対応できることは、トラックではコスト面で効率的とされているが、機械には最も不得意な分野だ。
トラックの荷物の積み下ろしを完全自動化する場合、業界全体で荷台を標準化する必要があるだろう。ケージなどで空間を区切り、ロボットが取り扱える一定の形式にしなければならないが、そのコストは運送業者と消費者に転嫁される可能性が高い。
一方で、自動化の大きな強みは安全と省力化だ。アメリカの規制では、トラック運転手の運転時間は1人1日11時間が上限で、1台当たりの生産性が制限される。
自動運転車は一般に、自動ブレーキなど人間の運転をシステムが支援するレベル1から、人間の優秀な運転手に匹敵する高度な自動運転(基本的にすべての操作をシステムが行う)のレベル4、さらには完全な無人運転のレベル5までの段階がある(NP注:運転の自動化レベルは最上位をレベル5と定義することが一般的であるため、記述を追加)。
2017年2月に証券会社コーウェン・アンド・カンパニーのアナリストが発表したリポートによると、レベル3の条件付き自動運転(基本的にシステムが運転するが、いつでも人間が対応できる)のトラックは、1台あたりの収益が最大8%増える。
このような技術が導入されれば、長距離輸送において、トラックは貨物列車と再び互角に渡り合えるようになるだろう。
労働力の効率も変わる。自動運転トラックは、休日も慢性的な症状の治療も必要ない。息抜きと称して酒や薬物に走ることもない。数日、数週間連続の勤務でも、家族に寂しい思いをさせない。
カフェイン、食べ物、トイレ休憩も必要なし。疲れ知らずで、単調な高速道路の運転で集中力を失うことも、カーラジオをいじってよそ見をすることもない。複数の大手鉱業会社はすでに、公道に近い大規模な作業場で無人運転のトラックを使っている。
コーウェンのリポートによると、レベル3の「半自動運転」トラックは、2022~27年には全米の高速道路で「当たり前の」存在になりそうだ。
ただし、レベル3と4の自動運転を可能にするためには、道路輸送のエコシステム全体で99.999%の信頼性を達成しなければならず、実用化は早くても10年先か、もう少しかかりそうだ。
■ 2036年8月12日9時15分
アマゾン・ドットコム時代に、倉庫はオンライン小売業者の新しい「デパート」となり、ハイテク制御ロボットの大部隊が働いている。
オンラインショッピングの成長に伴い、倉庫の建築ブームが起きている。なかでもアマゾンの倉庫は群を抜く規模で、4万5000台のロボット従業員が走り回る。倉庫用ロボットは、巨大な配送センターで働く人間の行動と負傷を最小限に抑えるために役立っている。
ターゲットやウォルマート、メイシーズ、ステープルズなどの大手を含む数千の小売業者も、次々にロボットを投入。ロボットの需要増はロケット級だ。
アマゾンは2012年に、倉庫用ロボットシステムの先駆者キバ・システムズを買収した。マサチューセッツを拠点とする同社は、3年後に「アマゾン・ロボティクス」と社名を変更。アマゾンの配送センターに在庫管理システムを提供している。
オレンジ色の自走式ロボットは、高さ約40センチ、重量約145キロ。大きめの掃除ロボットのようなかたちで、専用の商品棚ごと必要な場所に移動する。業界紙ロバート・レポートによると、アマゾンがこのシステムを導入したことを機に、配送センターで働くロボットの開発に多くの会社が乗り出している。
配送センターとロボットの進化は、小売業界をはるかに超えて広がっている。物流に携わる企業の大半は──つまり、商品を輸入して顧客に届けるプロセスに携わるほぼすべての企業は──サプライチェーンと配送センターでロボットが働く可能性を検討している。
「アメリカ経済において、利便性の影響力ははかりしれない」と、プラスワン・ロボティクスのエリック・ニーブズ創業者兼CEOは2016年のカンファレンスで語っている。
物流の現場でロボット化の効果を考える際のカギは、商品に「触れる回数」だと、ニーブズは言う。「自動化する価値があるだけの労働量があるかどうかだ」
倉庫用ロボットは数年前から勤勉に働いているが、まだ改良が必要だ。たとえば、ロジスティクスを担当するには、視覚と感覚の能力が足りない。周囲の動きを察知し、さまざまなセンサーを読み取って動くが、本当に状況を「見ている」わけではない。
今後は高感度カメラと、視覚情報を処理して「見ながら動く」認知システム(ビジュアルサーボ)が搭載され、ものをつかむ能力や、つかんだものを所定の場所に置く能力(ピック・アンド・プレース)を磨くだろう。
やがてトラックからの積み下ろしができるようになり(現在の最大の難関でもある)、商品の分類と箱詰めでも人間に取って代わるだろう。
■ 2036年10月26日3時45分
米連邦航空局(FAA)の予想によると、アメリカでは2021年までに、現在の10倍にあたる42万台以上の商用ドローンが空を飛び交うようになる。最大で160万台に達する見込みだ。「商用ドローンの分野は成長の初期段階で、活気に満ちている」と、FAAは指摘する。
アマゾン、グーグル、フラーティ、UPSなど多くの企業が、自動運転ドローンは顧客への迅速なアクセスを可能にすると考えている。
ただし、企業がドローンの研究を進める一方で、全米の自治体は「のぞき見」に対する規制を検討している。消費者が監視されているという不安を感じれば、商用ドローン事業の成長に影響を与えかねない分野もあるだろう。
米当局は現在、ドローンの行動範囲を遠隔操縦者の視界内に限定している。自動操縦の飛行体をアメリカの領空管理に組み入れる規制も策定中だ。自動運転ドローンが安全や操作に関する懸念に対処できることは、少しずつ認められるだろう。
ネットで買ったものが瞬時に届く──小さなドローンがあなたの自宅やオフィスに飛んでくる光景も、近いうちに当たり前になりそうだ。