高野連に提案したい、米アメフト流リクルーティング・ビジネス

2017/10/1
2カ月強空いてしまったが、NCAA(全米大学体育協会)の、特にフットボールにおけるリクルーティングの話に戻らせていただきたい。
まずは前々回、皆様に投げかけた、質問と答え、および簡単な解説を以下にまとめてみた。
【問題1】高校生のリクルーティングにおいて、オフィシャル・ビジット(高校生とその家族が大学を公式に訪問する)は生徒一人あたり、(各大学へ)何回まで許されるか?
A. 高校在学中に1回まで
どんなに有名な、全米に名を轟かせている選手でも、オフィシャルな訪問は一度まで。彼や、その家族に与えられるベネフィット(利益 = 食事・宿泊・飛行機代など)や条件も細かく規定されている。
【問題2】NCAAのイリジビリティー・センターにレポートする、テストスコア(ACT、SATと呼ばれる共通テストで、大学入学の際の大きな指標の一つ)は、次のうちのどこから、どのようなレポートであることが必要要件か?
A. テストを運営する団体からのレポート
通学中である高校の成績とは別の評価基準で、入学及び、Student Athleteとしての活動が可能かを判断するためである。入学テストがないアメリカの大学では、高校側が、自分の学校の生徒を良い大学に行かせたいがための不正もあり得るため、オフィシャルなテストスコアは大事である。
【問題3】春のリクルーティング活動期間は、何日間か?
A. 158日
これには、特殊な積算の方法がある。
まず大前提として、コーチ陣が春にリクルーティング活動をできる日、つまり高校を訪問して良い期間は4月15日〜5月31日までである。この期間中、NCAAでフルタイムと規定されている10人のコーチは、何校でも高校を訪問できる。このルールでは、1校行っても、10校行っても、1日とカウントされる。つまり、この場合の158日とは、10人のフルタイムコーチの活動日数の総和である。
言い方を変えるなら、この47日の期間中に、一人当たりのコーチが訪問できる高校の数は15.8校である。スタンフォードのように全米の高校から生徒をリクルーティングする学校には、少々少ないのかもしれない。
【問題4】オペレーション・スタッフなどフットボールのコーチでない者なら、母校のイベントに参加した際に、高校生のフットボールプレイヤーとフットボールに関する話をすることが許されるか?
A. フットボールに関するいかなる会話も許されない
決められた時期や、シチュエーション以外でのリクルーティング活動は許されない。
【問題5】高校生フットボールプレイヤーのアンオフィシャル・ビジット(非公式の学校訪問)で、学校が供給するものとして許されるのは?
A. 5枚までのホームゲームチケット
問題1に関連して、どれだけ家族が多くても、提供できるベネフィットは事細かく決まっている。
前々回の記事の繰り返しになるが、この100倍以上の設問が用意されているリクルーティングに関するテスト。内規ではあるが、これの8割以上をクリアしなければ、リクルーティング活動をサポートすることすら許されない。
テストの定義は、要点を問うものであろうから、常識とされるものを含めれば、星の数ほどの規定があることは容易に想像できる。果たして、どうしてここまでのルールが必要なのであろうか。
その答えのうちの一つを以下に紹介させていただきたい。

高校生選手のランキングサイト

まずは、私が勝手に命名した“四大ランキングサイト”をチェックしていただきたい。
これらは、全米の高校生フットボールプレイヤーのランキングサイトである。
全米各地のフットボールプレイヤーが、州ごとに、ポジション別に、タイプ別に、数年先まで、大学に入学してくる年別にランキングされている。
そこに並んでいる本人の名前をクリックすれば、身長・体重、寸評、足の速さ、どこの学校からリクルーティングされている(誘われている)のか、また、どこの学校からスカラシップ(奨学金)のオファーがあって、どこに興味を持っているのかなど、ありとあらゆる情報が閲覧できるようになっている。
また、ここ数年では、そのプレイヤーのハイライトビデオがリンクされていることが当たり前となってきている。高校のコーチの評価基準の一つとして、ハイライトビデオの編集が重視されているという話もあるくらいだ。
この高校生フットボールプレイヤーをランキングするサイト。どんなメリットとデメリットが存在するだろうか。
【メリット】
・大学、つまりスカウトする側の手間が大きく省ける
・高校生側にもアピールのチャンスとなる
・リクルーティング活動がビジネスになる
【デメリット】
・評価が正しくされているとは限らない
・高校生がビジネスに巻き込まれてしまう可能性がある
私の連載を幾度か読んでいただいている方なら、もう、おわかりだろう。NCAAは、上記のデメリットのうちの一つである“高校生がビジネスに巻き込まれる”ことを防ぐために、前述のような、異常とも言えるくらい細かい規定を設けている。
もちろん各州の高校生側から、つまりリクルーティングされる側からの規定も多く存在するが、NCAAはそれを遥かに超える規定を、リクルーティングする側に設けている。
NCAAは大学生のための組織ではあるが、未来の大学生のためにも厳しい規定を設け、彼らが“大人のビジネス”に巻き込まれないよう、監視をしているのである。

高野連への“豪速球”

さて、このランキング・ウェブサイト、日本で運営してみたら、日本の高校野球向けにビジネスにしてみたら、どうなるだろうか。
世間にこれだけの高校野球ファンがいる中で、このマーケットのポテンシャルは計り知れないと私は思う。プロ野球、社会人、大学のチームは、それぞれの情報が喉から手が出るほど欲しいはずである。
今秋のドラフト会議で複数球団の1位指名が予想される清宮幸太郎(早稲田実業)。ドラフト候補をランク付けしたら、何位になるだろうか
もちろん時間はかかるだろうが、しっかりと規定を設けた上で運営できるならば、リスクよりもメリットの方が大きいはずである。また、そこには今、日本のスポーツにとって必要な、“産業”が生まれることになる。
ただし、二つの反対派が出てくることが想像できる。
まずは、「高野連」(日本高校野球連盟)が異を唱えるであろう。
ナンセンスな規定や裁定、時代錯誤も甚だしいマーケティングで、人気スポーツを、ただやりすごしている団体は、なによりも変革を嫌う。しかし、細かすぎるぐらいの規定を設けて運用すれば、今、現存する高校野球界のグレイなビジネスも、一掃もしくは、クリーンなビジネスにできる可能性さえある。
次は「世間」、つまり世論である。
日本人は、この爽やかな高校球児がビジネスの、つまり商材になってしまうことに嫌悪感を持つであろう。たとえそれが合理的で、素晴らしいビジネスモデルであったとしても、なかなか賛成派には回ってもらえないような気がしてならない。
今回、紹介させていただいた、リクルーティングを取り巻くビジネスが、そっくりそのまま日本に、または日本人にフィットするとは思っていない。
ただ、変革のチャンスにはなるであろうと思っている。
元部員の不祥事に対してナンセンスな団体責任の裁定はできるのに、投球制限の規定は設けられない、そして、それをタイブレークというこれまたナンセンスな“目くらまし”でごまかすような団体に、リクルーティング・ビジネスという100マイルを超える豪速球を投げ込んでみたいものである。
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)