【トップが語る】電通グループはデジタルでも一番になれるのか

2017/9/28
2016年7月、電通本体やグループ各社から約800人ものメンバーが集結し、大所帯でスタートアップした電通デジタル。デジタルマーケティングに関するすべての領域を手掛けることを標榜した同社が見据える未来はどのようなものか。刻一刻と変化し、多彩なプレーヤーが入り乱れる現代マーケティングの最前線において、電通ブランドが秘める可能性について、代表取締役社長COOの鈴木禎久氏に聞いた。

デジタルの本質に迫る過渡期

──まず、現在のデジタルマーケティングを取り巻く状況について、どうお考えでしょうか。 
鈴木:デジタルはすでに、我々にとってツールではなく環境です。通勤電車でニュースをチェックし、業務中の隙間時間に週末の天気をチェックし、帰りの電車ではスマホで買い物をするなど、スマホは日常生活を送る上で欠かせないものになっています。
家に忘れると不安にさえなります。年代によっては、テレビよりスマホに触れる時間のほうがはるかに長い、いわばモバイルファーストの時代です。
では、スマホがあたり前の時代における、「デジタルの本質」とは何でしょうか。
これまで最も影響力のあるメディアはテレビでした。短期間により多くの人にリーチできるメディアで、1人当たりの到達コストも安く、商品のローンチや定番ブランドづくりに効果的でした。
しかしそれは、送り手都合になりがちで、また、主に家に届けるメディアです。
それに対してデジタルは本来、ユーザー一人ひとりが求める情報を個別に得られる、インタラクティブなメディアであるべきです。むしろ、インタラクティブでなければ、デジタル環境の中で生き残っていけないと私は考えています。
万人に一斉配信されるダイレクトメールなどは、デジタルの本質を理解した手法とは言えず、そうした手法が残っている現状は、まだ過渡期だと思います。

アドテクの限界とは

──つまり、現在のアドテクノロジーは、まだまだ成熟したものではない?
鈴木:皆さんも経験があると思うのですが、何かのバナーを一度クリックすると、しばらくそれに付随する情報に追っかけられるようなことが珍しくありません。
必ずしも欲しているわけではない情報が自動的に送られ続ける状況は、まだまだデジタルが個々のニーズを正確に読み取れていない証しです。
本当は朝昼晩それぞれで求める情報は異なるはずですし、季節ごとやその時いる場所によっても変わってくるはず。デジタルはこうした個別のニーズに対応すべきですし、電通デジタルはユーザー一人ひとりを考えられる会社でありたいと考えています。
──電通デジタルが掲げる「ピープル・ドリブン・マーケティング」という概念は、まさにそうした姿勢を表したものですね。
鈴木:そうです。データベース、データドリブンといった言葉はこれまでもマーケティングの世界で用いられてきましたが、これから大切なのは、データの先にある人へのインサイト力、人が何を欲しているのか、個々のユーザーをちゃんと理解し想像することです。
そのためには、ユーザーの行動パターンをデータとして把握することはもちろん、将来的にはユーザーがその情報を本当に歓迎しているのかどうか、一人ひとりの感情まで把握し、求めているものを正確に把握するところにまでたどり着かなければと思っています。
──そうした将来に向けて、電通デジタルが今取り組むべきことは何でしょう。 
鈴木:一人ひとりの環境まで把握して、必要な情報を出し分けていくところまではまだ行き着いていません。
そこで我々としては、世の中に何千万というIDをお持ちのプラットフォーマーやデータホルダーの方と積極的に連携し、一歩一歩その理想形に近づいていきたいと考えています。
電通デジタルではすでにいくつかの企業との提携を発表していますが、過去の購買履歴データだけを見ていても意味がありません。
そのデータをいかに読み解くか、そしてそこからどのような仮説を立てるか。暮らしの中の人の意識や行動に着目して、想像力をかき立ててデータを見ることが、意味あるマーケティングにつながっていくと信じています。
そういった先を見据えながら、最も人への眼差しがある会社を目指していきたいですね。

必要なのは人を観察する力

──電通デジタルの船出から1年。振り返られて、あらためて今後の指針とするものは何ですか。  
鈴木:早ければ2018年にもシンギュラリティが来るという説があるほか、5G(第5世代移動通信システム)をはじめ、これからの3年というのは様々なテクノロジーの登場が見込まれています。
電通デジタルはITコンサルやCRM、広告運用、コンテンツ制作、効果測定に至るまで、幅広い領域を手掛けています。こうした情報革命の中で、本当に必要な情報を必要な人に届けられる会社であるかどうかが問われてくると思います。
今後はさらに、イベントやOOH、スポーツ、コンテンツ制作などのリアル領域も含めて、トータルに全体を統合的にマネジメントする力を持っていることが求められてきます。
そのために我々もノウハウを蓄積しながら、「ピープル・ドリブン・マーケティング」という概念自体を少しずつアップデートし、一人ひとりに喜ばれる仕組みを構築していく必要があります。
つまり、我々自身がディープラーニングを重ねていかなければならないのが今の時代です。「People Driven」は、顧客基点という意味ではありますが、電通デジタルのインナーを指す言葉であります。
社員の成長なくして、会社は成長し続けられません。
──これから活躍できるのは、どのような人材でしょうか。 
鈴木:すでに、デジタルスキルがあるとか、デジタル分野に携わってきたキャリアがあるかどうかを問うことではなくなっています。
それよりも重要なのは、世の中に変化を起こしてより人を幸せにしたいという意欲、次のスタンダードを私たちの手で作りたいという気概を持っているかどうかです。
そこで必要なのは、人を観察する力。
今の現状と人々の暮らしを見て、何らかの未充足を感じ取り、新たなアイデアを生み出す力が大切です。変化の激しい世の中において、ついていくのに必死であるよりも、変化そのものを楽しめる人材が活躍できると思います。
その点、電通というブランドには、日本や世界を動かしたいという気概のある方が集まっていると思います。
電通デジタルはさらに、デジタル領域やデジタルだけに閉じずに、“先端”のソリューションで人を幸せにしたいという方が集まってくれることを期待しています。
つまり欲しているのは、専門領域を問わず「大きな仕事」×「最先端」を担っていける人材ということになるでしょう。
──ずばり、デジタルマーケティングは、今後も大きなチャンスに満ちた分野と考えてもよろしいでしょうか。
鈴木:それは間違いないでしょう。今後は、デジタルマーケティングがマーケティングそのものになっていくと思います。
たとえば、あるユーザーがSNSでつぶやいた一言に敏感に反応し、その内容から「このユーザーは今何を欲しているか」「このユーザーは次に何を求めるのか」といったニーズをくみ取り、必要とされる情報を提供していくことが大切。そこには無限大の可能性があるはずです。
実際、人のニーズから商品開発やサービス開発をしていくことは、すでに日常になってきています。人と企業がフラットに新しい価値を作り続けるダイナミズムに関わることは、とても面白いことです。
テクノロジーの進化が、マーケティングを高度化させることは否定できず、我々も積極的に技術を持つ会社と関わっていきたいと思っています。
電通デジタルのスローガンである「ワクワクするデジタルへ」は、社員への言葉であり、ステークホルダーとの合言葉であり、最終的には顧客へ幸せを届ける「デジタルの本質」へ向かおうという目標でもあるのです。
(聞き手:友清哲 編集:久川桃子 撮影:岡村智明)