飲食、美容、結婚、転職など、あらゆるビジネスドメインを持つリクルート。日夜、膨大なユーザデータが蓄積され、日本有数のデータ活用環境があるその中核で、高い技術力を武器にコンサルテーションをする面白さとはどんなものか。「人の意思決定を支える」ためのビッグデータ解析を行い、それを実際の業務フローに組み込んで活用を推進しているというリクルートテクノロジーズの北條健太氏と羽鳥冬星氏に、同社ならではの魅力や醍醐味を伺った。数多くのサービスの進化をけん引するため、その役割は単なるデータ解析にとどまらないという。
——人の意思決定を支えるデータ解析をされていると伺いました。具体的にどのようなことをされているのか、教えてください。
北條:リクルートグループにはメディアを主としたサービスを運営する事業会社が複数あります。各サービスを使うユーザー、広告を掲載するクライアントとその課題解決をお手伝いする営業担当、サービスを企画・運営するメディアプランナーと、あらゆるステークホルダーの意思決定をデータ解析で支えるのが僕たちの役割です。
たとえば、営業担当者はどう行動したら合理化するか、どんな手法を取れば、クライアントの広告効果が上がるかなど、経験と勘でやっていたところをデータで支援しています。
経験の浅い営業担当者が合理的に動けていないようだと事業から相談を受けた際には、営業活動を効率化するソリューションを開発。それを活用して営業活動をした場合とそうでない場合とでABテストをした結果、ソリューションを使った方が合理的に動けることを実証したこともありました。
羽鳥:北條さんはデータをいかに活用するかの企画検討を主にやっていて、僕は実際に手を動かしてデータを分析する部分を担当しています。たとえば、各事業会社に共通する「売上を精緻に予測したい」という課題。
属人的な予測だと、PLのズレもでてしまいますが、事業が持っているデータを収集・加工・モデリングを行い、アウトプットを予測値として渡すことで、積年の事業課題を解決する支援ができています。
羽鳥冬星
大学院で機械学習を研究し、新卒でリクルートテクノロジーズに入社。主に予測案件の分析設計、データ収集、加工、モデリングを担当。特技は精度向上、好きなクラスタリングのアルゴリズムはfuzzy c-means。
——これまでに取り組んだテーマで印象的だったのは何でしょうか?
北條:データ解析というと、サイト内のレコメンド機能や画像検索機能など、サイトの1機能として実装するイメージが強いと思います。
もちろん、そこを強化している部隊もあるのですが、僕らは、リクルートグループやクライアントの意思決定を支えるツールにビッグデータを活用し、業務プロセスそのものを見直していただく、というアプローチを取ることが多いです。
サービスやクライアントの内側から事業成長に貢献している、といったイメージです。ビッグデータ解析の“その先”ですね。
なかでも印象的だったのは、クライアントに直接サービスを提供し始めたこと。
具体的には、「売れやすい自動車」を予測する業務支援システム「D-MATCH」というサービスにおいて、独自AI技術を活用した機能を開発しました。これには、「カーセンサー」が過去に蓄積した小売データを活用しています。
もともとは営業支援システムとして考えていたのですが、業務フローに組み込むのが難しいという課題がありました。どうにかして活用できないかと、さまざまな部署へヒアリングを重ねたところ、クライアントに1サービスとして提供したいという話が出たため商品化したのです。
商品化となると、単なる業務システムよりもはるかに高いサービスレベルが求められます。中古車の業界ルールや実際のクライアント業務をわかっていないと質の高い開発はできないので、データ解析分析や活用とは違う、新しい領域の知識が必要となりました。
これまで経験したことのない新しいチャレンジだったので難しい壁がたくさんあって、なかなかエキサイティングでしたね。
「D-MATCH」により、ビッグデータを解析したアウトプットそのものがクライアントに認められて商品となるという、新たな価値を見出せました。ビッグデータ活用の出口として、新しい一歩を踏み出せたのではないかと思っています。
北條健太(写真左)
ビッグデータの受託分析企業ブレインパッドを経て、2014年にリクルートテクノロジーズに入社。予測分析技術を活用した、主に意思決定に関わる分析でリクルートグループの成長に貢献している。入社の決め手は、技術力の高い会社で、より実務に直結したことを実現したいから。
——さまざまな企業でビッグデータの解析や活用が進められています。その中でも、リクルートテクノロジーズにしかない価値や醍醐味を教えてください。
北條:なんといっても、ライフイベントといわれる、就職や結婚、出産、住宅、自動車など、いくつもの異なるビジネス領域の膨大なデータを扱えることです。複数の領域にまたがるので、点ではなく面になるんですよね。
それに、テーマが非常に多いうえ、メンバー個々の技術力が高いので、事例や知見として自分の引き出しが増えていく感覚が楽しい。成果が出そうなテーマをそれぞれが独自に見つけて、さまざまなアプローチで取り組み、ダイレクトに成果を感じながらお互いを高め合っていける環境は醍醐味です。
羽鳥:面の広さもそうですが、点の深さもあります。どのサービスも、その領域では非常に強いメディアなので、蓄積してきたデータを見ればその業界の全てがわかるんですよね。市場がどうなっているのか、今後どう動いていきそうなのかなどを予測できるのは、リクルートグループならではの強みだと思います。
世の中に解析者が増えても、企業のデータがいきなり増えることはありません。でもリクルートグループは、長年のデータ蓄積とサービスの強さがあるので、いくらでもやりたいことを思いついてしまう。面の広さと点の深さがある。これがリクルートテクノロジーズでやる醍醐味であり、おもしろさだと思っています。
羽鳥:それから、次々と生まれる新しい技術を学んだときに、リクルートグループ全体を見渡すと、それを必要とするサービスや事業が必ずあり、テクノロジードリブンで、サービスの課題解決を行う機会に溢れています。
実際に、最新の技術を試しに実装してみることはよくあるので、そういうチャレンジングな環境はいいですよね。適用できる場所が大量にあるし、実装することで事業成長に貢献できるのは大きなやりがいです。
北條:羽鳥くんのように、新しい技術に取り組みながら分析を進める役割も必要だし、僕のように意思決定を業務に組み込む役割も必要です。両方を持ち合わせる人は少ないけど、リクルートテクノロジーズには専門性の高いバラエティに富んだ人がたくさんいるから、役割分担できるのが魅力だと感じています。
羽鳥:自分が知らないことを知っている、多様な人が集まっているのは、純粋に楽しいです。掛け合わせて新しいものを生み出せますからね。
北條:それに、どの事業会社も売り上げが大きいので、我々の成果も大きくなるのがうれしいところ。ビッグデータを解析して業務フローに組み込んで、売り上げの数パーセント程度しか変わらなかったとしても、売り上げが大きいので結果的に与えるインパクトは大きいです。
——ビッグデータのグループ内で、大切にしていることやポリシーはありますか?
羽鳥:僕らがやっているのは、人の意思決定を支えること。意思決定に関わる解析は他のそれと少し違うので、特色のあるポリシー通りの解析ができています。
北條:補足すると、意思決定を支える解析は、いかに業務フローに組み込めるかが肝になるんです。そこが他と違うところ。業務フローに組み込めなかったら、どれだけ素晴らしい開発ができたとしても意味がありません。事業成長という成果につなげるためには、解析して終わりではなく、その先を考えることが重要です。
——お二人がこれから取り組みたいテーマはありますか?
北條:僕は、新たな領域にチャレンジしたいと考えています。今、入り込もうとしているのはバックオフィス。その意思決定を支えるために、ロボティック・プロセス・オートメーションに独自の技術を組み込めないかを考えているところです。
人間がやっている業務フローの設計も自動でできたら、さらに良いソリューションになるのではないかと。新しい領域に自分の役割を広げていくことと、分析とは全く違うものとの掛け合わせに取り組みたいです。
羽鳥:僕は、完璧な予測をするのが夢です。誤差を限りなくゼロに近づけるような。季節要因が大きくて予測が難しいといわれている領域や、不可能だといわれている領域に挑戦したいですね。
——今後、どんな方と一緒に高みを目指したいですか?
北條:なんでもいいので、「これをやりたいんだ」という強い意思のある人がいいですね。僕のように、とにかくデータを活用したい人でもいいし、AI技術や世の中の最新の技術を新しい領域にとにかくはめ込みたい人でもいい。そういう人と一緒に新しいことをやっていけたら最高です。
羽鳥:個人的には、僕のように不可能に挑戦したいというような、神のいただきを目指したい人ですかね(笑)
北條:リクルートグループにはこれまでに蓄積された莫大なデータがあり、リクルートテクノロジーズには、それを好きなだけ解析して事業に適応していける環境があります。
解析して終わりではなく、その先までしっかりと考えて業務フローに組み込み、事業会社やクライアントの成長という成果を得たり、商品化までできたりするのは、この会社ならでは。この恵まれた環境は他にないと思いますよ。
(取材・文:田村朋美、写真:岡村大輔)