SMBCグループが渋谷に創るイノベーションの「輪」。新拠点の狙いは

2017/10/24
三井住友フィナンシャルグループ(以下:SMFG)は、9月1日、渋谷文化村通り沿いに、オープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」を設立した。開設当日のイベントを振り返るとともに、コミュニティマネージャーを務めるITイノベーション推進部の古川剛也氏に、設立の狙いと舞台裏を聞いた。
大手町から離れ、渋谷にこだわる
9月1日、SMFGにとって初となるオープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」が、東京・渋谷に開設された。
メガバンクによる異業種との連携、スタートアップとの連携といったオープンイノベーションのさまざまな試みが行われだしている現在、リアルな“場”を創るというアプローチもまた、新たな潮流となりつつある。
だが、「hoops link tokyo」が特徴的なのは、国内外のあらゆる企業や団体、そして新しいアイデアや技術を持つあらゆる人材に対して、門戸を開け放っていることだ。
この場を訪れるための条件はなく、ベンチャー企業や個人の“飛び入り提案”も常に歓迎する。
そこに対してSMFGのケーパビリティや、提携関係にあるメンターや海外アクセラレーターなどの多様なネットワークを活用した支援を組み合わせ、新たなビジネスを創出することを目指していく。
また、領域はフィンテックなど金融関連に限らず、「社会課題の解決につながる事業」を幅広く手がける。
SMFGの改革を担う部門であり、同拠点を運営するITイノベーション推進部長の中山知章氏は、設立の狙いを次のように語る。
「銀行をはじめ金融機関はこれまで規制が非常に厳しく、それによって守られている部分もありました。しかしながら、他業界の大企業が金融業界に進出してきており、また若さや勢いのあるスタートアップも自由なアイデアや先進的な技術をもって、良いサービスを提供しようと切磋琢磨しています。
こうした流れは古くからある金融機関にとって破壊的だ、金融機関は不要になるのではないか、という声もいただきますが、私はそうは思っていません。むしろこれは我々が転換するチャンスだと。
金融機関に対する規制も緩和され、異業種のIT企業とジョイントベンチャーを作って事業を起こしていくことも可能になってきた。このチャンスを生かして、私たち自身が新しい事業を生み出し、金融業界の変化を率先して主導していきたいと考えています」
ITイノベーション推進部長 中山知章氏
通常、オープンイノベーションといえば、大企業が自社技術をスタートアップに開放することで、新たな技術アイデアを生み出すというようなことを指す。
だが、「hoops link tokyo」は、“場”を提供することで大企業やスタートアップ、自治体、大学、研究機関など、さまざまな立場の人々が自由につながれる“輪”の役割を果たし、イノベーションを生み出すことを目指している。
「hoops link tokyo」という名前の由来はこうだ。hoopsは“輪っか”、linkは“つながり”。組み合わせると、“くぐると何かにつながる輪”という意味になる。
「hoopsから“h”を抜くと、英語で『しまった!』という意味の『oops』になります。新たな事業を生み出す源泉となるのは、失敗を恐れないチャレンジ精神に他ならない。つまり、『失敗(=oops)を許容する場所』であるという意味も含まれています」
そう語るのは、ITイノベーション推進部を統括する取締役 執行役副社長 グループCDIO太田純氏だ。
取締役 執行役副社長 グループCDIO 太田純氏
「イノベーションにつながるアイデアを求め、それを事業として形にするためには、銀行の常識からできるだけ離れなくてはいけない。大手町とは真逆の街である渋谷を選んだのは、そうした理由です。
色々なプレイヤーが集まるこの場所で、われわれは金融機関を“開かれたもの”にしたいと考えています。もちろん出資や融資もすると思いますが、銀行だけでなく、リースやクレジット、証券と言ったさまざまな業態を持っているSMFGを使い倒して頂きたいですね」
この日はニューヨークのアクセラレーター「Work-Bench」、スタンフォード大学のアクセラレーター「StartX」との提携も同時に発表された。
さらにイベント後半には、デロイト トーマツ ベンチャーサポート FinTechリーダー大平貴久氏をモデレーターとしたパネルディスカッションも開催された。
「オープンイノベーションを成功させる条件」をテーマに登壇したのは、Kyash代表取締役社長鷹取真一氏、ストライプジャパン代表取締役ダニエル・ヘフェルナン氏、TOYOTA 未来プロジェクト 室長 鈴木雅穂氏。そしてSMFG ITイノベーション推進部 平手佑季氏。
こうして誕生した「hoops link tokyo」だが、現時点では、まだ“箱”が出来上がっただけに過ぎない。今後、実際にどんな人々が集まり、どんな場所として運営されていくのか。
同拠点の設立のキーマンであり、コミュニティマネージャーを務める古川剛也氏に詳しく話を聞いた。
共にビジネスを創るための“場”
──古川さんは主に総務部や人事部でキャリアを積まれています。なぜ突然、オープンイノベーションに関わることになったのでしょうか。
古川:私は銀行員としてのキャリアが少し特殊で、コンプライアンス、採用、管理会計、不動産管理と本部の中でも様々な部門をまたいできました。
最初は下町の支店の営業として2年間、その後は人事部で採用、次に本店移転プロジェクトチームで働き方改革に関わり、“人の生きる歓び”について考えるようになりました。
大手町の旧本店から新本店に移った時、行員が新しくて明るい環境に感化されて、どんどんオープンになっていくのを感じたんです。
──場の力を感じた。
そもそも銀行員になった理由は、「新しい事業が育つ支援をしたい」という思いがあったから。その思いにプラスして、“場の力”について考えるようになりました。
その後、2014年にアメリカのロースクールへ留学を命じられ、ロサンゼルスに行きました。ちょうど当時は、いま日本でも注目されている大手シェアオフィスが現地で広がり始めた時期。
“場”の力が人と人をつなぎあわせ、新しいビジネスを生み出していく。その醍醐味をまさに実感したのは、このときの経験からです。
──ロースクールに留学したのに、場のビジネスにチャンスを感じたのが面白いですね。
留学生ってみなオープンマインドなイメージですが、実は人間関係が閉じている場合が多い。
そこで毎月我が家を開放して、遊びに来ていいよと声かけたんです。すると初めは8人だったのが、私が滞在した2年間で200人くらい集まる規模に成長しました。
学生から社会人まで、それぞれコンフォートゾーンを出ない多種多様な人たちが場を作ることでつながったのは、1つの成功体験になっています。
──2016年7月に帰国後、ITイノベーション推進部に配属されます。どのように受け止めましたか。
これまでのキャリアで培ってきた知識とロサンゼルスで芽生えた「場の力」を実現できるチャンスだと感じました。
当時、ITイノベーション推進部は外部から参加者を募る「ミライハッカソン」に取り組んでいました。金融APIを活用したオープンイノベーションの試みで、決勝で発表されたサービスのなかには、現在ビジネス化を検討しているものもあります。
ただ、このような試みを一回限りで終わらせるのはもったいない。プログラムベースではなく、継続していくには“場”を持つべきだと考え企画書を作り上げました。
“YOU AND WE”の関係性を作る
──コミュニティマネージャーとして、「hoops link tokyo」をどんな場所にして行く予定でしょうか?
「hoops link tokyo」の狙いはコミュニティを形成し、共に事業を作ること。
既存のCVCは、可能性のあるベンチャー企業と一対一で会う“YOU AND I”の関係性です。もちろんそれも重要ですが、私たちは、さまざまな企業と“WE”の関係になりたくて渋谷に拠点を置きました。
大企業やスタートアップの方々が、この場所を通じて新しい“輪”を作っていただきたい。企業規模の大小には拘らないし、海外企業も歓迎です。また、官学やNPOとの連携も見据えています。
われわれとしては、まずコミュニティそのものが財産。そのうえで、一緒にビジネスを創っていきたいと思っています。
──「hoops link tokyo」はメンターやアクセラレーターなど、多くの提携先とつながっていますが、SMFGとしては具体的に何を提供するのでしょうか?
SMFGの有するリソース・ネットワークを活用頂けるのはもちろん、企業が自由に使える金融APIやブロックチェーンの基盤も用意していきたいと考えています。
また、SMFGのネットワークを通じて、さまざまな企業を紹介できることも“WE”にとって大きな価値になるはずです。
コミュニティ作りのアプローチとしては、まず毎月数多くのイベントや交流が生まれる企画を開催していきます。常駐のスタッフを置くので、この施設に来ればSMFGの適切な部署に必ずつながる、というブランドを確立していきたいですね。
それらを通じて新しいコミュニティが生まれ、その輪のなかで情報やノウハウを共有することで、新しいビジネスの可能性が開けるはずです。
一方で、積極的に事業を作るための仕掛けとしては、来年から新たなアクセラレータプログラムの募集も開始する予定です。
また、スタートアップにスピーディーな実証実験・プロダクト開発をしてもらうための研究開発費枠を確保することも検討しています。
“イノベーションごっこ”でも、続ける
──これから「hoops link tokyo」が成功するには、何が必要だと思っていますか?
先日、話題になったオープンイノベーション関連のブログ記事で、NewsPicksのコメント欄に「大企業のオープンイノベーションは、“イノベーションごっこ”だ」と書かれた方がいらして。まさにおっしゃる通りだと感じました。
でも、“ごっこ”だからやる意味がないと言うなら、大企業は一生イノベーションを起こせない。であれば、“イノベーションごっこ”から始めて、やり続けるしかないじゃないですか。やり続けて、最終的に成功まで持っていくしかない。
まだ営業して間もないですが、手応えを感じていることがあります。三井住友銀行では約9万社の法人貸出先のお客様がいますが、全国各地の営業担当が「hoops link tokyo」に可能性を感じて、お客様に話をしてくれているんです。
お客様も「輪」を使って解決したい課題か、拡げたいコンテンツのどちらかを持って来られますから、新しいビジネスの可能性が拡がりやすいですよね。
金融機関がオープンイノベーションの場を持つ意味は、自分たちのネットワークを駆使して、本来であれば出会わなかった人同士をつなげること、そしてビジネスの可能性を広げられること。
SMFGのネットワークに「hoops link tokyo」の存在が広まって、最終的に全国から人やアイデアが集結する場所になる。
その輪を通じて、多種多様な方々とわれわれが手を組むことで、一緒に新しい事業を創り上げていくことができる。
この想いを共有できる人が、このドアを開けに来てくれることがものすごく楽しみです。
(編集:呉 琢磨、構成:横山由希路、撮影:岡村大輔)