【イベント】国境を超える販売力。グローバルECの新潮流とは

2017/9/26
ECは「電子商取引」と訳されることからも、すでにデジタル化された領域である、という印象を受ける。
だが、ECを成立させるプロセスを丁寧に見ていくと、モノを扱うアナログな動きが大きな位置を占めており、さらにその先には消費者、つまり人が存在していることに気づく。
アナログを主軸としたリテールの世界を、どのようにデジタルで置き換えるのか。EC領域の「デジタルトランスフォーメーション」の潮流をひも解く。
グローバル流通市場の環境変化に対応するため、トランスコスモスがどのような支援体制で臨んでいるのか。そして10月10日・11日に開催されるGlobal EC戦略や最新事例を紹介するイベント「EC Forum 2017」について、同社上席常務執行役員の神谷健志氏に聞いた。

Amazonは究極の“自動販売機”

神谷:いまアメリカでは、実店舗型の小売店が相次いで閉店しています。その原因はECの台頭にあると言われていて、小売業全体の取引のうちECが占める割合(EC化率)は8.2%ですが、家電、玩具、アパレル等のカテゴリーでは20%近くに上ります。
しかし、数字をよく見ていくとアメリカのECの大部分はAmazonが牽引している。実際はEC化しているのではなく、Amazon化していると言っていい状況です。
神谷健志(かみや・たけし)
トランスコスモス株式会社 取締役 上席常務執行役員 経営戦略本部長 兼 デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括 グローバルEC・ダイレクトセールス本部長。大学卒業後NTTコミュニケーションズに入社。その後ペンシルバニア大学ウォートンスクールでMBAを取得した後、ベイン・アンド・カンパニーに参画。2015年からトランスコスモスに移り、経営戦略本部長として全社中期事業計画の策定をリードするとともに、グローバルEC事業担当として国内外のEC事業の推進に当たる。
もちろん、既存のリテーラーも手をこまねいているわけではありません。国土が広いため日本のような「当日・翌日配送」は一般的でない事情もあって、例えばウォルマートなどは、オンラインで注文した商品を、実店舗の店頭で受け取るスタイルを打ち出してEC強化を進めています。
一方で、今のところ日本はアメリカほどEC化が進んでいる状況にはありません。
インフラ面では、日本は物流が整っており、同時に実店舗も整っているのが特徴です。実店舗がすぐ近くにあり、買いたい物がそこで買える便利さから、これまではECへのシフトが緩やかだったといえるかと思います。
また、複数の店舗がポータルサイトやシステムを共有する「モール型EC」が主流となっていて、特に実店舗小売事業者が出店している傾向が強く見られます。
新たにメーカーがECに新規参入する、といった事例は少なく、もともと実店舗を運営している小売事業者が、ECにも参入しているケースが多い。したがって、既存の流通構造がECにおいてもそのまま残っている、というのが日本のECの特徴かと思います。
とはいえ、世界の潮流として、スマホ化、デジタル化が進む中で日本のEC化率も今後上がっていくことは間違いないでしょう。
日本においてもAmazonが着実に存在感を増していますが、私はAmazonは自動販売機のような存在だと捉えています。必要なものを、思いついたときすぐに買える。とても便利ですが、本来買い物がもつ“楽しみ”をすべて提供できているとは思いません。
つまり、「モノ」を軸とした「コミュニケーション」という体験です。今後はECにおいて、その両者を消費者までダイレクトに届けることの価値が高まっていくと予想しています。

世界各地のロジスティクス網

私たちトランスコスモスは、ECをITとロジスティクスの両面から支援できる体制をとっています。
端的に言えば、まずわれわれ自身が倉庫を持っています。商品を保管して、注文を受けてから出荷するところまでがトランスコスモスが対象とするECの領域です。
トランスコスモスは国内および海外各国にフルフィルメントサービスを提供する拠点を持つ(写真はイメージ)。
例えば、大手企業からキャンペーンの景品を発送する業務を委託されることも多いのですが、実際に倉庫を持ち、オペレーションのノウハウを蓄積しているからこそ、何万個、何十万個という膨大な処理ができるわけです。
また海外でも、世界各地のロジスティクス会社と提携することで、現地での物流を間違いなく、安全に行える体制を作り上げています。
ここがトランスコスモスの強みであり、ベンチャー企業にできない部分。モノをさばく領域までカバーするには、ロジスティクスが不可欠です。
これは国外企業が日本市場を開拓したいときにも有効で、ECサイトの構築・運営からロジスティクスまで、一貫してサポートしています。

デジタルネイティブのECブランドも

なぜトランスコスモスが、ECのノウハウを蓄積できているのか。それは私たち自身がEC専門ブランドのオーナーとして、実際に事業を展開してきたからです。
モノを売ることを実体験で理解していないと、お客様企業のサポートを適切に行うことはできません。
グローバルにおけるECの新しい潮流のひとつに、EC専門ブランドの登場があります。例えばアパレルで、オーダーメイドのスーツをオンライン限定で販売する、といった事業が流行しつつあります。
トランスコスモスでも、「日本」をテーマに逸品のみを取り扱う「藤巻百貨店」、アメリカのカスタムオーダーシャツブランド「テイラー・スティッチ」といったEC専門のショップを買収、運営しています。
「テイラー・スティッチ」は、EC化率90%超の米発アパレルブランド。カスタムオーダー、クラウドファンディングによる受注生産を主としている。日本では今年7月、鎌倉市に旗艦店がオープン。
なかでも藤巻百貨店は、ECサービスの中でももっとも個性的なサービスのひとつです。2012年、故・藤巻幸大氏プロデュースによって立ち上がって以来、Facebookを活用したソーシャルコマースで急成長しています。
また、昨年3月には東京・銀座の「東急プラザ銀座」に初のリアル店舗を構えると、多くの藤巻ファンが訪れ、実物を確認しながら買い物を楽しんでいます。必要に応じて店舗・オンラインどちらでも購入できるオムニチャネル化が顧客活性化につながっています。
「価格魅力」ではなく「商品魅力」で商品紹介するスタイルはSNSとの相性がよく、ユーザーの心をつかむことに成功している。
このように、われわれ自身がブランドを持ち、「モノを売る」ための全工程を経験していることは、企業のグローバルECを支援するうえでも極めて有用だと感じます。

越境ECには「土地勘」が要る

また、今後の拡大が見込まれる日本発の越境ECにおいても、支援体制を整えています。
市場は中国が活発で、ASEAN地域も増大しているところです。中国では紙おむつや粉ミルクなど、いわゆる「爆買い」商品や、化粧品、そしてお菓子などの食品が中心となっています。
越境ECでは、単に売れる商品を知っているだけでは不十分。その地域ならではの売り方、メディア戦略、商習慣、消費者行動をよく理解することが欠かせません。
例えば中国のEC市場は、ECモールを中心に成り立っています。トランスコスモスが現地のモールを熟知しているからこそできる支援がありますし、さらに強固な支援ができるよう、現地のパートナーと提携しています。
越境ECでは、各国の主力ECモールへの出店の中心となる。
ECを展開しようとすれば、複数のシステムを使い分け、多くの取引相手とやりとりし、サポートも行う必要があります。
これらをすべて自前で賄える企業はほとんどありません。だからこそ、ワンストップで支援できる企業が本当に求められています。
地方発の小さくても光る商品があったとしても、世界どころか、国内でも届けるためには高いハードルを越えなければなりません。
なかには国内だけではビジネスとして成立しないニッチな商品もあります。しかし、世界に目を向ければ、グローバル市場では十分に成り立つ可能性があります。
トランスコスモスは資本提携、業務提携を通じて、世界のほとんどの地域に根を張ってワンストップサービスを提供できる状態になっています。
海外に通用する商品を発信する支援をし、ビジネスとして成功させるのが私たちの目指すところです。

「EC Forum 2017」に向けて

さまざまな商品を扱うストアやモールを経由すると、ブランドの価値が毀損されてしまいます。流通チャネルまで考慮し、ブランドの形が分かるECを実現できるのがトランスコスモスの価値です。
顧客接点全体を見ていくと、ECは最初のタッチポイントです。IoTが進展することも影響して、これまでのように売って終わりの関係でなく、顧客との関係は長くなっていくでしょう。
そして高級車を買うのと同じように、製品を買うところからサポートまでがブランドとして認識されるようになります。顧客とよりよい関係を築けるかわりに、逃げることもできません。
さらに大企業にとっては、ダイレクトに顧客接点を持てることに意義があります。そこから得られるデータは量・速さともに変わってくるので、PDCAが変わり、結果として経営のスピードにも影響してきます。
そもそもECが抱えているわかりやすい課題として、価格を簡単に比較されることで、店舗間の価格競争が過熱し儲かりにくいという性質がある。
消費者の手元に届くまでのプロセスが細かく分かれていると、苦しくなるのです。そこで最善の手を考えていくと、一気通貫で届けることの価値が見えてきます。
一気通貫にすることで得られるメリットはさまざまですが、シンプルに言えば、結果として「売れます」。その「売る力」を世界各地で持っているのが、トランスコスモスの強みです。
その具体例については、今年のECフォーラムでお話ししたいと思っています。
(構成:加藤学宏、編集:呉 琢磨、デザイン:九喜洋介)