空飛ぶクルマは本当に実現できるのか

2017/10/4
手塚治虫の漫画『火の鳥』から映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで、昭和の時代に描かれた未来のクルマは、空を飛んでいた。だが、21世紀に入った現代も、街を行くクルマは相変わらず車輪を使って走っている。EVや自動走行などの新しい技術は出てきているものの、地面を離れるほどのイノベーションは、まだ起こっていないのである。ただし、21世紀も半ばを迎える頃には、クルマは空飛ぶモビリティとして進化しているかもしれない。もちろん課題は山積みだが、イノベーションの種は、各所で芽吹き始めている。
空飛ぶクルマで聖火台に点火できるか
「2050年までに誰もがいつでも空を飛べる時代を創る」
これは、自動車業界や航空業界に身を置く若手社員らが中心となり、業務外の時間を使って新しいモビリティの開発を行う有志団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」が掲げるビジョンだ。
そのためのマイルストーンが、2020年の東京五輪。開発中の空飛ぶクルマ「SkyDrive」を使って、聖火台に火を灯すことを目指している。
東京五輪開会式での聖火点灯デモンストレーションが、3年後の目標
彼らの存在が広く知られるようになったきっかけのひとつは、今年5月、トヨタ自動車をはじめとするグループ15社から総額4250万円の支援を受けると報じられたこと。
海外では、様々なベンチャーがいわゆるフライングカーやエアロモービルと呼ばれる空飛ぶモビリティを開発しており、Google共同創業者のラリー・ペイジ氏などが多額の出資を行っている。
航空大手のエアバス社や、自動車配車サービスのウーバー・テクノロジーズなども、フライングカーを使ったサービスの構想を発表している。こうした流れを受け、いよいよ国内でもフライングカーの開発が本格化するのかと注目されたのだ。
次代のモビリティ開発を担うCARTIVATORとは、どんな団体なのか? その創設にかかわり、現在は事業ディレクションを担当する一般社団法人CARTIVATOR Resource Management 代表理事・福澤知浩氏に聞いた。
どんなクルマになら、ワクワクするか?
──まず、CARTIVATOR設立の経緯を教えてください。
福澤 発起人は、某大手自動車メーカーに勤めているプロジェクトリーダーの中村翼。彼はもともとクルマが大好きで、自分の手でクルマを作りたかった。
ただ、大企業に入ると業務が細分化されており、プロジェクトを率いるような仕事は、40代も後半にならないと回ってきません。
CARTIVATORのメンバーたち。中央で試作機を持つのが、発起人の中村翼氏。その後ろに立つ、もっとも背が高い男が福澤知浩氏
細かい仕事が嫌なわけじゃないけれど、やっぱり自分のアイデアを形にしたいという思いがあり、中村はオーダーメイドカーを提案する社外のビジネスコンテストに応募し、優勝したんです。
そういった流れがあり、自分たちの手で新しいクルマを作ってみたいという有志を募って、2012年にCARTIVATORがスタートしました。
──当初は、空飛ぶクルマを作るプロジェクトではなかったんですか?
中村がビジネスコンテストで提案したのは、表面の意匠をカスタマイズしていろんなデザインにできるようなクルマの企画でした。ただ、それ以外にも、ワクワクするクルマを作れる可能性はあります。
どんなクルマにワクワクするか、自分自身が乗ってみたいと思うモビリティは何かとブレストを重ね、100個くらいのアイデアを出し合ったなかで、「空飛ぶクルマ」が出てきたんです。
正直、当時は実現可能性をそこまで重視していませんでした。コアメンバーは10人程度。みんな仕事とは関係なく、完全にプライベートな時間を使って、ボランティアとして集まったんです。
趣味の延長からのスタートなので、とにかくワクワクするようなことをやろうというのが我々のスタンスでした。
2014年には東京都主催のスタートアップコンテストで優秀賞を受賞。少しずつ支援の輪も広がってきた
決め手になったのは、パラグライダーや小型のヘリコプターで空を飛んだ体験です。飛行機で小さな窓から外を見るだけだと、自分で飛んでいるという感じはしませんよね。
でも、小型の乗り物で、広い視界を持って空を飛ぶと、自分の能力が拡張されたような感覚を味わうんです。みんなが、「ワーオ、俺、飛んでるぜー!!」みたいなテンションになる(笑)。
もちろん、効率的に人や物を運ぶということもモビリティの役割ですが、初めて自動車やバイクを運転したときって、自分の可能性が広がったように感じて興奮したと思うんです。僕らは、その感覚を大事にしたかった。
移動が2次元から3次元に変わるというのは、これまで面積だった移動範囲が、体積になるということ。人間の可能性を拡張する本質的なイノベーションだと思っています。
公道を走れてそこから飛び立つ
──ヘリや飛行機も、空を飛びますよね。あえて、「クルマ」と呼ぶ理由は?
基本的には、陸・空を自由に移動できるモビリティというくらいに考えていて、漢字の「車」は空を飛ぶことを想定していないので、カタカナで「クルマ」としています。やはり、自動車のように公道を走れて、そこから飛び立てるようにしたいんですよね。
初代コンセプトモデル
海外で開発されているフライングカーには、羽を折りたためる飛行機のような形のモデルが多い。でも、日本は狭いですから、道路やコンビニの駐車場くらいのスペースから飛び立てる、世界最小サイズのモビリティにする必要があると考えています。
そうやってサイズが決まると、使えるプロペラの数も限られてきます。プロペラの枚数が増えるほど破損時などの安全性は高まるけれど、飛行効率が悪くなって電池の減りが早い。飛行スペックやデザインを総合的に考えて、4カ所8枚の羽根と、3つの車輪をつけるデザインになりました。
現時点で最新のデザイン。聖火ランナーを同乗させるため、2人乗りになる予定
──ドローンのような形状ですね。
ドローン型の長所は、滑走路がいらず、ヘリコプターと比べてもかなり狭い場所で離発着ができること。それに、傾いたときにプロペラの角度や回転数を変えて姿勢を戻す制御が可能なので、安定したホバリングができます。
ヘリコプターや小型飛行機の場合は、いかに水平を保つかということを考えながら運転しないといけないんですが、ドローンだとそれを自動で制御できます。ドライバーは方向だけを指示すればいいので、圧倒的に操作が簡単になります。
開発拠点は愛知県豊田市。廃校になった小学校を借りている
──電気で制御するということは、自動運転などの技術も取り入れやすそうです。
すでに、ジャンボジェットなどの旅客機はほぼ自動運転ですからね。空の方が障害物が少ないですし、地上での自動運転よりも、普及が早いかもしれません。
少なくとも、自動運転やドローンなどのテクノロジーが普及してきたのは、CARTIVATORにとって追い風になっています。ドローンの制御プログラムって、オープンソースで公開されていたりするんです。
そういうものを参考にできたことも大きいですし、そもそも3Dプリンターやコンピューターチップのような電子機器の価格が下がっているから、僕らは自前の資金で試作機第1号(1/5スケール)を作れました。
そういう意味では、「テクノロジー、もっと早く来て!」っていう感じ(笑)。いろんな先端技術が身近になればなるほど、僕らも恩恵にあずかれますから。
2019年には有人飛行実験
──現在の進捗は?
2014年に1/5スケールの試作機の走行と飛行に成功し、その後、1/1スケールの実験機の浮上にも成功しました。現在は、それを改良した2機目の1/1スケールを開発中。今後、2018年に人と同じだけの重量を載せられる無人機を公開し、2019年には有人飛行実験を行う予定です。
1/5スケールの試作機第1号
僕たちが作ろうとしている空飛ぶクルマ(電動の垂直離着陸機)は、まだ航空法上のカテゴリーがない分野のため、様々な開拓が必要になりますが、理論的にはモーターの出力を上げれば重いものも飛ばせるはずです。
幸い、スポンサードしていただける企業も三十数社に増え、場所や部品の提供も含めると、総額6000万円くらいの規模になっています。航空やドローンなどの業界から参加してくれるメンバーも増え、2020年の東京五輪に向けて、現在のところはオンスケジュールで進んでいます。
2014年末から、Flying Chair開発者の平野功氏、徳島大学工学部の三輪昌史准教授との共同研究も始まった
課題として大きいのは、法律面です。まずは機体を完成させたうえで、特定のエリアでの飛行許可をもらい、そのうえで五輪のパフォーマンスとして採用される必要があります。その後の展開のためにも、まずは東京五輪というイベントで実績を作り、そこから先につなげていきたい。
──その先のゴールは、2050年の「誰もがいつでも空を飛べる時代」ですね。空飛ぶクルマは、どんな使われ方をしているでしょうか?
使われ方については想像の域を出ないんですが、たとえば高速道路やコンビニの駐車場に発着できると、救命救急で助かる命は格段に増えると思います。離島や新興国など、交通インフラが整備されていない地域では、道路や滑走路がいらないローコストな移動手段として使われるでしょう。
2050年には、この絵のようなドライブも可能になるか?
もっと夢のような話としては、ある高校生が、「ベランダから直接学校に行きたい」と言っていて、面白いと思いました。
「今はマンションから下に降りて、電車の駅まで行って、学校に来ている。それって、めちゃくちゃ遠回りじゃん!」って。たしかに、空を飛べば直線距離で結ばれますからね。
今はまだ法律が整備されていなかったり、街中も電線だらけだったりと規制や制約だらけですが、人をワクワクさせるイノベーションが起こったら、世界が変わるスピードは加速するはず。
その点については、楽観的に考えているんです。スマホなんかも、あっという間に普及しましたからね。
(取材・文:宇野浩志 編集:久川桃子 写真提供:CARTIVATOR)