【求人掲載】渋谷から「ファッション✕テクノロジー」でムーブメントを起こす

2017/9/28
ファッションは時代を映し、牽引する。
1953年の創業以来、時代とともに業態を変えながら歩んできたファッション企業・アダストリアは、さらなる展開のための場として「アダストリア・イノベーションラボ」を立ち上げた。
AIやIoTがあらゆる産業を変革しつつある今、テクノロジーは、ファッションをどう変えるのか。同社取締役・福田泰己氏と、リオ五輪閉会式での「フラッグハンドオーバーセレモニー」でAR、フィールドの映像ディレクション、テクニカルディレクターを担当し、Perfumeやサカナクションなどとのコラボレーション作品でも知られるメディアアーティスト・真鍋大度氏が語り合った。

ファッションは、アパレルの外へ広がっていく

福田:私たちアダストリアは、1953年に茨城県の水戸で創業しました。
紳士服店からジーンズチェーン、そしてSPAへとビジネスモデルを変革しながら成長し、お客様が求めること、自分たちがやりたいことは何なのかと愚直なまでに試行錯誤を繰り返してきました。その姿勢が一定の評価を得て、今では売上高2000億円の企業に成長しました。
真鍋:2000億円はすごいですね。
福田:でも、たとえばメルカリは、2013年の創業からわずか4年で取扱高が1000億円を超えています。アパレルレンタルのエアクロが創業したのも、たった3年前。
こういった新しいサービスが消費者に与えたインパクトは非常に大きく、C2C市場の拡大にともなって、お店で買わなくてもいい、中古でもいいというマインドが強くなってきています。
真鍋:たしかにそれは僕も同じです。
Grailed、Depopなどアプリで買うことも多いですが、中古でも全然問題ないですね。店や展示会で買うのも好きですが。
福田:ファッションって、真鍋さんのような発信者に限らず、一般の方にとっても自己表現なんですよね。
アダストリアは自分たちを「アパレル企業」と呼ばなくなったんですが、それは、洋服を提供するだけでは、お客様との関係や理想のライフスタイルを表現しきれなくなっているから。
消費者が認識しているかはわかりませんが、少しずつ新しいテクノロジーやサービスが現れて、ファッションを取り巻く状況は変化しています。
アパレル業界は流行とともにあるように見えて、川上から川下までそれぞれの職種に分かれて働いていたので、実は抜本的な変化に対応するスピードが遅かった。ところが、ここ数年の間にIT企業など業界の外からの参入によって、ドラスティックにゲームが変わりつつあるんです。

「無駄」を楽しめるテクノロジーがほしい

真鍋:僕は10代の頃から音楽とファッションが好きで、特に音楽が自分の軸になっています。スケートやヒップホップのカルチャーに憧れていたこともあり、今でもパンクのファッションにはあまり縁がない。そういう趣味って、変わらないんですよね。
時代の変化という点でいえば、昔は検索というシステムがなかったので、足を運んでいろんなものを探さなきゃいけなかった。僕の世代はまだその楽しさを知っているので、わざわざ買い物に出かけたりしますし、それが好きです。
でも、今の若い人たちは検索を前提に、最適化された情報を見て育っているから、僕らの世代とは感覚やスピードが大きく違うんでしょうね。
福田:たしかに検索は便利ですが、おっしゃるとおり、探すこと自体にも楽しさがあります。その楽しさが利便性によって失われてしまうのは残念ですね。
真鍋:そうなんです。
自分が合理的じゃないことやってるなって思うのは、レコード屋で盤をあさっているとき。「Discogsで検索したら一瞬で見つかるのに、なんでこんなことやってるのかな」と思いながらも、やっぱりそういう場所に行って、探すという行為が楽しいんです。
そもそも、レコードというメディア自体が面倒くさいものですよね。レコードを探してプレーヤーに置いて、終わったら針を上げて裏返すわけですから。
僕は、趣味以外ではすべてのものごとを最適化したいと考えています。でも、趣味の領域では、余分な手間を含めてたしなむ余裕がほしい。
ファッションや音楽は特にそのあたりの「余分」が大切だと思うので、無駄をうまく残したほうが楽しみが増えると思います。
福田:私も、この先どれだけeコマースが進化して、必要なものがすべて自宅に届くようになったとしても、リアルな店舗がなくなることはないと考えています。
そのブランドの世界観を体現した空間で、接客されたからこそ得られる選択肢や経験もありますし、いろんな洋服を手に取りながら選ぶという行為にも、自宅では想定しえない気づきがあります。
ファッションの目的は、買うことや着ることではありません。それを着て誰かと会ったり、食事をしたり。そういった経験を含めて、人の生活を豊かにするものです。
AIやIoTを活用するファッションブランドやサービスはこれから増えてくると思いますが、今のところはまだ、成功事例と呼べるほどのものが出てきていません。
ブレークスルーがあるとすれば、テクノロジーがアパレルの垣根を超えて、人々のライフスタイルに影響を与えるような使われ方をするときだと思います。

アダストリアを実験台にイノベーションを起こす

福田:当社が9月に立ち上げた「アダストリア・イノベーションラボ」は、スタートアップが生み出すテクノロジーやビジネスモデルなどを私たちの持つ製販一体のプラットフォームと組み合わせて、「ファッション×テクノロジー」の新たなイノベーションを生み出すことを目指しています。
先日も、ファッションテックに取り組むスタートアップ企業数社にお越しいただいて、社内でピッチイベントを行いました。
真鍋さんは先進的なテクノロジーを次々にご自身の作品や演出に取り入れられていますよね。後学のためにもお聞きしたいのですが、メディアアートに昇華できるようなテクノロジーを、どのような視点でピックアップされているんでしょうか。
真鍋:アーティストのなかには、たとえば蛍光灯を使った作品しか作らない人や映像メディアのみを扱うという人もいますが、僕はよくも悪くも、メディアや表現方法をひとつに絞り切れないんです。
そのとき自分が面白いと思ったものを扱って、すぐに作品になればいいんですが、コラボレーションベースのプロジェクトが多いこともあり、すぐに作品にならないことが多い。
だから、とにかく最初は何でも試して、なるべくトライ・アンド・エラーを増やしていく。表に出ていない失敗も結構多いんですが、後で新しい技術が出てきた際に組み合わせてみたら面白いアイデアが生まれるということもあります。
モーキャプとフォトグラメトリとドローンだったり、ARとフォトクロミックとレーザーだったり、「組み合わせの妙」みたいなところもあるんです。
福田:組織が大きくなるほど、失敗を許容することがなかなか難しい場合もあるんですが、トライ・アンド・エラーは必要ですよね。
今つくっているラボは、失敗してもいいからトライすることを奨励するような場にしたいんです。とにかく走らせて、実行した結果がどうだったのかを評価したい。
ブランド、店舗、そしてそれをつなぐ物流システムを抱えるアダストリアを実験台にして、ファッション業界に新たなイノベーションを起こしてくれる多彩な人材を集めたいと思っています。
真鍋:そういう場所って、すごく大事だと思います。
たとえば、今はドローンが当たり前に使えるようになりましたが、僕が初めてドローンを購入した2010年は、ステージで使うための技術はなくて制御もいまいちだったんです。
ただ、これはそのうちちゃんと制御できるからパフォーマンス表現に使えるだろうという予感があったので、関連する論文などをチェックしていました。その後、スイスのETH Zurichがドローン制御についての技術的なブレークスルーを生み出したので、あ、これでいける、と。
その後はライゾマの石橋をはじめとしたエンジニアを中心に研究開発を行って、今では実際にパフォーマンスにも使用していますし、世界中のドローン関連の会社やエンタメの会社から連絡をいただいてます。

ファッション✕テクノロジーの未来

真鍋:ファッションとテックのコラボレーションはなかなか難しくて、どうしてもガジェットっぽくなってしまうのかなと思います。
デザイナーのフセイン・チャラヤンが自動でチャックが閉まるメカニックな服をショーでお披露目したのをきっかけに、世界中でさまざまな試みが行われるようになって、僕らもアンリアレイジのパリコレの技術パートのお手伝いをしたり、実際にいくつかプロジェクトも行いました。
日常的な服でテックが有効的に使われているものはまだあまりない気がしていますが、最近だとNike HyperAdapt 1.0は、実用的なテクノロジーが搭載しつつも近未来感があって素晴らしいプロダクトだなと思いました。何より、普段のファッションに自然に取り入れられるのがいいですね。
あとは、Ivan PoupyrevがやってるウェアラブルインターフェースJacquard。こちらはどちらかというとガジェットとして興味があります。
機械学習ネタだとZalando Researchが学習用データセット「Fashion-MNIST」を公開したことで話題になりましたが、AIでコーディネートを提案するようなものは今のところ自分のスタイルにはあまり関係ないかもしれないですね。
そこからもう一歩進んで、シェイプやデザインを学習して、状況に応じて服のシェイプやデザインのパターンがその場で変わるというようなもののほうが面白いと思うんですけど……ただ、それが実現したとしても、それをいかにおしゃれに見せるかっていうところに皆さん苦戦されると思います。
福田:そうですね。そういった取り組みは、明日明後日に実現するというわけではありませんが、数年後、数十年後のファッションを変えるためにはトライの積み重ねが必要です。
アダストリアという会社は、半世紀の歴史のなかで、小売り大手からIT企業、管理部門を担う大手金融機関の人間まで、さまざまな業界から人が集まった人種のるつぼみたいな会社です。
いろんな背景を持った人たちが時に喧嘩しながら「豊かな生活」について考えながら成長してきたので、変化にだけは強いという自負があります。
今この転換期にもっと多様な才能を集めて、渋谷から「ファッション」と「テクノロジー」で新しい潮流を生み出したいです。
真鍋:ちなみに完全に僕の趣味ですが、店舗で流す音楽の選曲についてはどうですか。
もっと小規模なストリートの店だと、DJがミックスした音楽を毎週変えながら流していたりします。音楽も含めてブランドの世界観を表現する、というのはあるんじゃないでしょうか。
選曲するのではなく音楽をその場で生成することで、服の売れ方も変わる気がしますよ。
福田:現状は既存のサービスを活用していますが、五感をどう自分たちの小売りのビジネスにつなげるか、という仕組みについては私も興味があります。真鍋さん、ぜひ相談させてください。
(編集:大高志帆 構成:宇野浩志 撮影:片桐圭 デザイン:砂田優花)