食を起点に、地方と都市をつなぐ、アスラボの「まち活性化事業」。地域が持つ魅力を再発見し、「横丁」という形にするのが、同社の横丁ビジネスだ。地域に継続してお金を生む仕組みの第一弾として、山梨県甲府市のシャッター商店街に「甲府ぐるめ横丁」をつくり、地域に新しい挑戦の場と賑わいを創出した。そして、その第2弾となる横丁が、宮崎県宮崎市にオープン。プロジェクトメンバーの上釜(うえかま)航太氏と、横丁に出店したトマトラーメン「あうわ」の店主にお話を伺った。
2017年9月7日、宮崎市に新名所がオープンした。その名は、「宮崎ひなた横丁」。ひとつの大きな空間に14店舗が出店。一つのテーブルにいながら、全店舗の好きな料理を注文して楽しめるスタイルだ。遊休不動産をアスラボが買い取り、新たな賑わい創出の場所として生まれ変わらせた。
特徴は、いわゆる居酒屋が集まった空間ではなく、地鶏や高千穂牛はもちろん、イタリアンやタイ料理、トマトラーメン、スイーツなど、家族連れや学生も楽しめる食のテーマパークであること。しかし、驚くことに5月の段階では、土地の購入が決まっただけの状態だったと、プロジェクトメンバーの上釜氏は言う。
2017年5月に土地を購入し、工事が始まった。
「私がアスラボに入社したのは2017年3月。きっかけは「地方の起業家を支援し、地域経済の循環を生み出す」というまち活性化事業の理念に共感したことでした。
地域に眠っている魅力ある資源を発掘し、それを武器に地域の人が活躍できる場をつくる。その熱気が連鎖して地域が活気を生み、全国に広がっていく。こうした取り組みを、補助金に頼らず自ら投資して実現していると知り、自分もこの事業に情熱を注ぎたいと感じました。
甲府ぐるめ横丁での成功例を聞き、「日本・世界を変える」という会社のビジョンの具体的なプロセスが、自分の中で明確になったことも大きな決め手でしたね。
5月には宮崎に移住し、地域の人の活躍の場となる横丁立ち上げに奔走しました。ただ、購入したばかりの土地に当然建物はなく、そうなると細かい出店条件を提示できません。だから最初は市役所や県庁を回って、飲食店の人脈を広げるところから始めました。」
上釜氏は鹿児島県出身。大学を卒業後、ファーストリテイリングで国内店舗の店長、上海の商品企画に携わった経験を持つ。アスラボに入社したのは上釜氏のコメントに加えて、裁量を持って、自らの判断で事業づくりをしたかったのが理由だ。
アスラボ 上釜航太
「宮崎入りしてからは、右も左もわからない状態でしたが、希望通り自分の判断で物事を進められました。地元の方も、宮崎にないものを作ることに比較的興味を持ってもらえたので、「この人なら興味をもちそう」「この店なら出店しそう」と、いろんな方を次々と紹介してもらえたのは有り難かったですね。」
ただ、物事は順調に進んだわけではない。オープン準備を進める中で出店を辞退した店舗もあったという。そもそも横丁は、立ち上げこそアスラボ社が指揮を取るが、軌道に乗ったら出店した14店舗が自治組織となり、管理運営する方針をとっている。
各店舗が「いかにして売上を一円でも多くあげるか、無駄なコストをかけずに運営するか、顧客満足を得て、また来たいとお客様に思ってもらうか」を自分ごととして捉えることで、経営者としてのスキルアップを実現するのが狙いだ。
出店者と重ねたミーティングの様子
「理想は、しばらくして落ち着いたら、アスラボの社員は次の土地を開拓しに行くことです。私たちもゼロから横丁を作り、たくさんの失敗を踏みながら、ノウハウをためてきました。反省点や改善点は次の土地で生かせたらおもしろいですね。」
しかし、宮崎駅周辺には巨大なアーケード街がある。シャッター街とは言えない場所に、なぜ横丁を作ったのか。その理由を上釜氏はこう語る。
「横丁がある西橘という場所は、夜のお店のイメージが強い場所でした。だから、家族連れや学生も楽しめるような空間になれば、新たな集客につながります。たしかに商店街のすぐそばにありますが、お客さんを取り合うのではなく、切磋琢磨することで新たな需要が生みだせたらいいですよね。その点で、横丁が新しい風を吹かせられるのではないかと思っています。」
大手企業からベンチャー企業へ転職し、地域の課題解決に取り組む上釜氏。今回、実際にその土地に住んで活動することで分かったこと、そして今後の目標についてこう語ってくれた。
「宮崎に移り住んで知ったのは、地域活性は地域にしっかりと溶け込んで活動をしないと、地域の人は“外から来た人が勝手に何かを始めた”という感覚を持ってしまうことです。僕らは地域に住み込み、実際に建物が建ち、出店者が決まり、雇用が生まれたことで、受け入れてもらえるようになったと思います。地域で活動するには、地域の方と対話を重ねることが必要で、実際に住むことに大きな意味があると実感しましたね。
アスラボはやりたいことを実現できる会社です。裁量とスピード感を持ち、自分たちで判断しながら横丁を作った経験は、とても貴重なものでした。私は、日本の地方で課題解決ができれば、他の地域はもちろん、世界にも通用するのではないかと考えています。いずれ世界で挑戦できるよう、経験を重ねていきたいです。」
宮崎ひなた横丁プロジェクトメンバー
横丁に出店するメリットは、初期費用を最低限に抑えられること。だからこそ、新卒者や新規出店など、新しい挑戦がたくさん生まれる場所として根付いてほしいと上釜氏は語ってくれた。
次の横丁候補地は鹿児島だ。九州全県に横丁ができたら、次は各横丁のいいものを集めた「九州横丁」を博多と東京に作る。九州以外にも全国に候補地があり、各地域で横丁の展開を進めている。
そして、横丁でのコト消費をモノ消費につなげられるよう、その場で飲み食いしたものはネット購入できるようにする構想だ。東京には早ければ2018年に、2019年には全国に横丁を展開し、その後はASEANを中心とした海外進出も目論んでいる。
地方のものが地方だけに留まっている現状を打破し、素晴らしいものが東京や世界に出て行き、代わりにお金と人が地方に入ってくるような循環する社会。それが、アスラボの描く未来だ。

トマトラーメン あうわ 店長

——宮崎ひなた横丁に出店した理由を教えてください。
大きなメリットだと感じたのは、通常の店舗経営と違って、アルバイトは出店者で構成される組合が採用するため各店舗が個別に人材確保をしないでいいことです。
それに、個人でお店を出すときよりも初期費用は圧倒的に抑えられますし、メディア露出の恩恵もある。トマトラーメンをたくさんの人に知ってもらいたい私にとって、横丁出店はチャンスだと思いました。
もともと、この近くで店舗を構えていましたが、約3年前、郊外に移転したんです。郊外に店を持ちたいと思っていたので、中心部での経営は試験的でした。
でも、ありがたいことに、移転後常連さんから「また食べたい」「戻ってきてほしい」という声をたくさんいただいたんですよね。だから今回、西橘に戻ってくる機会が生まれたのは、朗報でもありました。
——出店を決めたのは、いつ頃でしたか?
知り合いから横丁の話を聞いて、アスラボさんにつないでもらったのが6月です。ただ、アスラボさんも初めての挑戦で、決めないといけない細かいことが決まっていなかったんですよね。売り上げはどう計算するのか、メニューはどう制限するのか。
オープンまで時間がないのに決まらないので、実は辞退しようと考えたんです。だけど、改善してほしいことを伝えると、アスラボさんが頑張ってくれて、物事が動き始めたので残る決意をしました。
私たちもリスクを抱えて出店するので、言いたいことははっきりと伝えました(笑)。そうやって一緒に作ってこられたのは良かったです。今後、横丁は全国展開を目指しているそうなので、一緒にトマトラーメンも全国展開していけたらいいなと考えています。実現するかはわかりませんが、夢のある挑戦だと思っています。
宮崎ひなた横丁 出店者のみなさん
——この横丁をどのような場所にしていきたいですか?
宮崎ひなた横丁は、一つのテーブルで14店舗の好きな料理を食べられるのが一番の魅力です。出店者は自分の売り上げだけを考えるのではなく、お客様のことを考えて一丸となれたらいいですね。
私はここで大きな利益を求めていません。求めているのは、自分たちの商売を知ってもらうこと。同じ覚悟で一緒に頑張っていけたら理想です。
オープン当日まで、本当にオープンできるのか不安はたくさんありました。課題はたくさん残っていますが、これからが勝負です。宮崎ひなた横丁を宮崎市の新しい拠点にしていきたいですね。
(取材・文・写真:田村朋美)