アパレルピッカー・深地雅也さんが信じる「ファッションの力」

2017/9/16
NewsPicksで活躍中のピッカーさんを紹介する本連載、前回に続いて「ファッション」をテーマにお届けします。
27人目に紹介するのは、深地雅也(ふかじ・まさや)さん。アパレル業界で幅広く経験を積まれてきた深地さんは、NewsPicksでもファッションや小売分野の記事にコメントされています。
そんな深地さんが、NewsPicksをリリース初期から使い続けている理由とは? そして、深地さんの「ファッションで幸せを創る」という思いの原点も伺いました。
10月6日(金)に東京・恵比寿で、ファッション・アパレル業界で活躍するピッカーさんの懇親イベントを開催予定です。詳細は本記事の最後をご覧ください。

NPリリース直後に登録

──深地さんがNewsPicksに登録されたのは2013年で、サービスがリリースされて本当に間もない頃ですね。かなりの古株ユーザーさんです。
もともと私は情報収集のためにツイッターを使っていて、堀江貴文さんや津田大介さんをフォローしていました。NewsPicksがローンチしたとき、彼らが紹介しているのを見て「あ、面白そう」と思い登録しました。
──当時はまだ、ニュースをピックして共有する、というシンプルなサービスだったかと思います。
そうですね。コメント機能が実装されてからも、しばらくは「NewsPicksは有名人のコメントを読むサービスだよね」と、受け身でした。
というのも、当時コメントされていたのは堀江さんや佐山展生さんといった著名人ばかりで、一般ユーザーがコメントできる雰囲気じゃなかったんです(笑)。
──そんな深地さんが、コメントを始めたきっかけは?
今もそこまで多くはないですが、当時はアパレル関係の方のコメントを目にすることは皆無でした。
クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)の石川康晴さんが、「イノベーターズ・ライフ」で紹介されたとき、ちまきさんという同じ業界の匿名ピッカーさんがコメントしているのを読んで、すごく共感したんです。
彼女に触発されるような形で、私も自分の専門分野で、ちゃんとコメントしようと思うようになりました。
──NewsPicksでコメントを続ける理由とは?
ひとつは、アウトプットの練習です。書くことを通じて、頭の中が整理されますし、ニュースの内容を記憶に刻むことができると思うからです。
そしてもうひとつは、「アパレル・ファッション業界を知る者として、ちゃんと発信せねばならない」という思いもあります。
ファッション関連でも、私はビジネスの側面に特化した経歴です。
NewsPicksは経済ニュースを求める方々が中心ですから、自分の体験も少しはお役に立てるのではないかと思って書いています。
深地 雅也(ふかじ・まさや)
ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。

「H&M日本上陸」に危機感

──深地さんはずっとアパレル業界に身をおかれてきたそうですね。
大学中退後、ファッションの専門学校に通って勉強し、新卒でイタリアのブランド「Dsquared2」の総代理店に就職しました。
「Dsquared2」はミラノ・コレクションに出展し、マドンナなど海外アーティストの衣装制作にも携わっているブランドです。
このブランドを、日本のセレクトショップで扱ってもらうための営業や、展示会の開催、そして直営店の運営管理を5年ほど経験しました。
転機になったのは、2008年に「H&Mが日本上陸する」というニュースを聞いたときのことです。
まわりは「H&Mが日本に来たからといってハイエンドのブランドには影響ない」と楽観的でしたが、私自身は強い危機感を覚えました。
「おそらくこれからは、圧倒的なラグジュアリーブランドとファストファッションが完全に二極化していくだろう。では、そんな時代に自分は何をすべきか?」
そう自問自答しながら外に目を向けたとき「今は、ECに注力すべきだ」と直感的に思いました。
──具体的には何をなさったのでしょうか。
偶然にもそのとき、Webデザイナーの友人から、「アパレル関係のクライアントがいる。相談に乗って欲しい」と頼まれ、独立しました。
現在はStylePicksという会社を立ち上げて、アパレルブランドのブランディングからECサイト構築や運用・集客をサポートする仕事をしています。
また、自分が現場で培ってきた知識やノウハウを業界の後輩に伝えたいという思いから服飾専門学校の講師として教えはじめました。
深地さんが教える専門学校の授業風景。

ファッションの力

──そもそも、深地さんとファッションの出会いは?
ちょっと恥ずかしい話なんですが……。ずっとファッションが苦手でした。
服といえば「オカンが買ってくるもの」で、高校3年生まで自分で選んだことがなかったぐらいなんです。
でも、おしゃれな友達が私の価値観を変えてくれました。
「お前、その格好やばいよ」と言った彼は私を大阪のアメリカ村に連れて行ってくれ、一緒に古着屋を回って、コーディネートまでしてもらいました。
友だちが選んでくれたものを着たときの気持ちは……言葉にならないですね。

外見だけではない、心の中まで変化したような、これまでにない感覚を覚えたんです。正直言ってそれまでは、自分の身なりに自信が持てませんでした。
それが、服装が変わった瞬間に「ああ、こんなに堂々とした気持ちで、外を歩けるのか」、と。
私にとって身なりだけでなく、世界が変わった瞬間でした。
そこからですね、ファッションにのめり込んだのは。
自分の会社のビジョンに「ファッションで幸せを創る」を掲げたのも、こうした原体験があったからです。

ファストファッション、ダサい?

──私も「ファッションの力」を味方につけたいです。何から始めたらいいでしょうか?
そうですねえ……(しばし考える)。
本来は、誰の目も恐れず、思うがままに、好きな服を着たらいいんですよ。
でも、それって実は難しいことなんです。
そもそも“好きな服”なんて、最初から分からないものですし、まずは「私はダサくない」という安心感がほしかったりしますから。
最初は身近な人や、ショップの店員さんに見てもらい、似合いそうなものをピックアップしてもらう。それが手っ取り早いかもしれません。
──とはいっても、おしゃれにつぎ込めるお金がたくさんあるわけでもなく……。
ファストファッションでも十分おしゃれは楽しめますよ。
業界のなかには、美意識が高くて、服にお金をつぎ込んでいる人以外は「ダサい」と決めつけている人もいますが、むしろ、その発想がファッションの可能性を狭めてしまう。
もともと、王族・貴族や一部のブルジョワにしかできなかった「おしゃれを楽しむ」ということが、プレタポルテやライセンス商法によって中流階級以下の人にも行き渡った、という歴史があります。
つまり、今の私たちがファッションと出会い、楽しめているのは、大量生産・大量消費でファッションが大衆化したおかげなんです。
そういう流れのなかで、ブランド物の服を着ている人が、ファストファッションを楽しむ人を「ダサい」と見る。私に言わせれば、その見方のほうがよっぽどダサいです。

アパレル業界に今、必要なこと

──最後に、深地さんが今、注力されていることを教えてください。
ファッション業界の教育を見直す取り組みをしています。
たとえばファッションの専門学校では、学生を募集する段階では、定員の半数はデザイナーやパタンナーといったクリエイター枠です。みんなそういう仕事に就きたいから、学生が集まりやすい。
でも、彼らが現実に就職活動をするとき、求人の90%は現場の販売員です。
つまり、クリエイターコースを卒業しても、キャリアは販売員からスタートすることになる。そしてそこで成績を上げないと、希望している仕事にはなかなか就けないというのが現状です。
それならば、学校在籍時からしっかり販売員教育をやるべきなのではないか、と考えます。
一方で顧客の購買行動の変化から、これからはEC分野でも人材が必要になりますから、そういった現実を彼らに教えたいですね。販売員として付加価値を高める事ができなければECに置き換えられてしまいますから。
専門学校2校で講師をしていますが、販売員教育を盛り込んだカリキュラムを考えたり、販売のプロとして活躍している方をゲストスピーカーや講師に招いたりして、学生にキャリアを考えるきっかけを作るようにしています。
──学校にいる間に、将来のことをイメージしておきたいですよね。
また、関西のアパレル関連企業と一緒に、販売員の地位向上をめざして「トプセラ(Topseller.Style)」というサイトを運営しています。
販売員の仕事を、「誰にでもできそうな仕事」と思っている方も多いかもしれません。
でも、昨今はお客様の財布のヒモも固いですし、販売員の仕事は決して簡単ではありません。
特に最近は、アパレル会社も多店舗展開するところが増えています。店長レベルのマネジメントができる人材の育成がうまくいかず、現場が疲弊。その結果販売員が定着せず、慢性的な人手不足に悩む企業も多いです。
ブランドの良さを伝えられないと、だれも幸せになりません。まずはそこを解消したい、という思いがあります。
独立して6年になりますが、やりたいことの根本は一緒です。
ファッションで人を喜ばせたい。幸せを創りたい。
ECでも店舗でも、私が感じたあの高揚感を、お客さまにも感じてほしいんです。

深地雅也さんのおすすめピッカー

「流通・小売業界を広くカバーされていて、『チワワ』さんのニックネームでコメントされていた頃から勉強させてもらっています。コメントをコピーしてメモ帳に貼って読みかえすことも多いです。」
「『ロコンド』の代表で、靴とファッションの通販サイトなどEC事業について詳しいTanakaさん。NewsPicksで特集されたこともある方ですが、考察の鋭いコメントが多く、よくメモさせてもらっています。」
「ファッション業界で有名なライターさんで、知識の豊富さは圧倒的。おしゃれのセンスも素敵です。ご自身でもブログで情報発信されているので、この業界に関心のある方にはそちらもおすすめです。」
「オフ会で知り合い、それ以来仲良くしているkimitoさん。福祉関連、特に貧困撲滅に熱く取り組まれていて、非常に尊敬しています。「自分が目立ちたいだけ」っておっしゃるんですが、人を助けることばかり考えている人なんですよ(笑)。」
【イベント告知】
NewsPicksでは、関心領域の近いピッカーさまの仲間探しや発信の場として、交流イベントを企画しています。
今回は「ファッションビジネス」をテーマに、10月6日(金)に東京・恵比寿で開催します。当日は、本連載でご紹介した深地雅也さんもご参加予定で、メガネスーパー デジタルコマースグループGMの川添隆さん、三星グループ代表の岩田真吾さんにご講演いただく予定です。よろしければぜひご参加ください。